【カーテンコール】ミリア・デルティア × ナツミ・イワナミ


 弓張り月が夜空を照らす時間。

 2人は再び教会を見上げていた。ふと足の向いた先がそこだった。


ミリア:「ここに来るの、すごく久々に思えちゃうな」

ナツミ:「そうだね。ステラバトルが終わって、まだ数日も経っていないのに、すごい時間が経ったような気がするよ」気の抜けたような表情で、教会を眺める。

ミリア:「まさか、ロボットと殴り合わないといけないとは思わなかったなあ」教会のてっぺんを見上げて言う。

ナツミ:「そうだね。まさか子供がロボットに乗り込む瞬間を生で見られる日がくるとは想像もしていなかったよ」教会の階段を登りながら2人は話し続ける。登るたびに陶器が小さくかちゃかちゃと音を立てている。「しかし、あれだね。いくらステラバトルに勝利したとはいえ、そのご褒美に外出許可をくれるなんて、学園長は粋な計らいをするじゃないか」

ミリア:「そうだねえ。なんか知り合いがいるような雰囲気だったけど……」


 もしかして、あの堅そうな学園長先生もきらびやかな装いに身を包むのかしらと笑った。ともかく、自分は自由への第一歩を手にしたのだ。世界を救うなんていまだに想像はついていないけれど、ナツミと歩き出す道のりが拓けたという実感だけはあった。


ナツミ:「さあ、到着だ。今日は星は流れないけれど、街の灯りも十分見応えがあると思うよ」ナツミは例のごとくパンパンに膨らんだカバンの中から、座るための敷物や、紅茶を淹れる一式、ハチミツ、お茶請けなどを手早く準備する。「今日は自分たちへのご褒美としてとっときのハチミツを用意してきたよ」気に入るといいけれど。とナツミはハチミツの瓶の蓋を開けた。甘い香りが鼻をくすぐる。

ミリア:「いつも全部やってもらっちゃって、ごめんね」手際よく並べられた品々を見ながら言う。蜂蜜の甘くやさしい香りを感じながら、まだ日常に浸りきれない自分の気持ちを思う。丘の上にある教会からは街並みがよく見える。家々に灯った明かりが人々の営みを映す。いつまでも煌々と輝くように思えるそれは、不意に消えてしまうほど儚いと、もう知っている。

ナツミ:紅茶が陶器のカップに注がれると、爽やかな香りが広がった。普段から飲み慣れたこの紅茶の香りはどこか懐かしさすら感じさせてくれる。

「さあ、好きなだけハチミツを入れて。温かいうちに」ナツミは微笑みながらカップをそっとミリアに手渡した。

ミリア:「ありがとう」カップを受け取り、多めに蜂蜜を入れる。スプーンを動かすたびににじんだ赤色の中に蜂蜜が溶けていくのを見つめながら、穏やかな日々の意味を考える。

冒険するってこういうことの繰り返しなのかもしれない、と思い直す。外に出て、自分や誰かと戦おうとするなら、やさしい日々に浸り続けるわけにはいかないだろうと。

ナツミ:真剣な表情でカップの底をじっと見つめるミリアを眺めながら、ナツミは考えていた。

 

 なぜ我々がステラナイツとして選ばれたのか。叶えたい強い願いを持つ者が選ばれるという噂は聞いたが、それにミリアや自分が当てはまるかと言われるとそこまででもないと思っていた。しかし、自分が想像していた以上に強くミリアは自由に憧れていたし、自分もそれ望んでいたようだ。今ここにいる幸福が必ずしもステラバトルの勝利の余韻だけではないことにナツミは気がついていた。ステラバトルはたしかに彼女が羽ばたくための舞台であったのだ。根拠がないことには納得できない質だが、彼女は選ばれるべくして選ばれたのだという事実は案外あっさりと腹の中に収まった。これから彼女は自由であるが故にその進路に迷うこともあるだろう。……共に在ろう、彼女と。たっぷりと甘いハチミツを入れ、ナツミは満足そうに笑うのであった。


ミリア:結局のところまだ自分が何をしたいのかはわからないままで、漠然と自由を欲した先はまだ見えていない。


 自分が納得できる自分になれるかはわからない。けれど、世界を守ることは最低限できる私なんだし、ナツミもいるし、なんとかなるでしょう。と楽観的に構えることにした。今度は外泊を申し出てみよう。きっとナツミとならどこに出かけたって面白いはずだ。雑誌で見かけた紅茶の専門店にも行ってみたいし、ちょっと豪華なホテルに泊まってみるのもいい。こんなにも不安定な世界だけど、私たちの未来はきっと明るい。そう思いながら紅茶を飲みほして、目を閉じた。

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