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「はあ…はあ…はあ……イインチョウ、大丈夫?」
「ええ。テンと違って、息も切れてないわ」
「凄いね……肺が強いとか?」
「心臓が2つあるのよ」
「そりゃ……便利だ……」
テンとミナは、逃げ込んだ部屋で息を潜めていた。両手両足以外生身のテンは、心臓が2つあるミナよりも、疲労の色が濃いようだ。
「まさか、ミナがフルーツだったとはね」
「あら、もっと気味悪がると思った」
「半身機械の俺が、君を気持ち悪いなんて言えると思うかい?」
「沢山いるわよ。自分を棚に上げて、人をおちょくる人って」
『フルーツ』とは、ドラクマから臓器移植を受けた人間である。しかし、コウタ達と違うのは、ミナ達フルーツが選び抜かれた健康体である事だ。
フルーツの移植理由は生きる為ではなく、金のためである。いや、生活に必要な金と考えれば、生きる為という理由に相違はないか。
ドラクマの欠点は、寿命が短いために子供に適応する程度の臓器しか作れないことである。
しかし、臓器移植をしたいと願うのは子どもばかりではない。むしろ、健康な金持ち程、もしもの時の為に、自分が臓器移植を受けられる手段を用意しておきたいと考えるモノである。
そんな彼らの考えた方法が、健康な子供にドラクマの臓器を組み込み、成長と共に育てさせる事だった。そして、必要になった時に成長したフルーツの臓器を貰い受けるのだ。
勿論、移植するのはフルーツが本来持つ自前の臓器である。フルーツには慣れ親しんだドラクマの臓器が残り、曲がりなりにも生きてはいけるという訳である。
尤も、本来の臓器を切り取られたフルーツの健康寿命は短いが。
「しっかし、ウインターオブサマーが出張ってきてるとはね。この騒動の発端はあいつ等って事でいいのかな?」
「報告書への記載はそういう方向で行くわ」
「何のために来てるのかな?」
「『爪』って個体を手に入れる為でしょ」
「『爪』ねー」
『爪』とは、テトラドラクマのコードネームなのだろう。
研究所側が付けた名前なら、パソコンを探せば詳細が見付かるかもしれない。だが、ウインターオブサマー側が付けた名前なら、情報を探すだけ時間の無駄であろう。
「その『爪』って奴を手に入れて、どうするつもりなのかな?量産する気なのか、不老不死の秘密を探りたいのか、超能力って奴に興味があるのか」
「全部でしょ。『爪』って呼称の意味分かる?」
「爪のドラクマ?じゃないよな。爪の多いテトラドラクマだったとかじゃない?」
「『爪』が鋭くて、武器になってたとか?」
「それは怖いな。近付かない様にしよう」
テンが少しふざけだす。
ミナも情報が無いまま話し合っても得るモノは無いと判断して、話題を変えた。
「ところで、あの対ドラクマ兵器は、私達が手に入れれば使えるの?遠隔操作で銃を暴発させた時に解析したんでしょ?」
「普通に引き金を引けばいい代物だ。液化した燃料を気化した瞬間に圧縮して、強い電磁波を発生。それを利用して対象の温度を上げる、遠距離電子レンジみたいなものだよ」
「どうにかして手に入れたいわね。作れそう?」
「気化と同時に圧縮する制御装置がどうにもならない。それなりの機材と時間が必要だ」
「奪う以外に手はないって事ね」
「その通り。でも、あれは対ドラクマ兵器とか言ってるけど、普通に人間も死ぬよ。撃たれたら、脳が焼け焦げて消失する」
「ドラクマと人間の臓器は、殆ど同じだものね」
ミナが何の気にしに言うと、テンは無意識にミナの心臓の辺りを見た。
「なんで人の胸見るのよ、スケベね」
「いや、ごめん」
申し訳なさそうなテンの表情に釈然としないモノを感じながらも、ミナはこの後どうするかの確認をしようとした。
その時、2人は闇を劈く怒号を聞いた。
「キンニクの声だ!行ってくるから、待っててくれ」
「待っててって……もう!私も行くわよ!」
タンツルの声は別の怒号と重なっていって、やがて銃声にかき消されていった。
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