第二章『原理主義者達』1

 木々が爆ぜ、炎を吐き出し続けている。方々からの熱が肺を焼き、呼吸が重苦しくなっていく。

 赤い赤い森。およそ地獄と呼べる、修羅の捨て場。逃げ道など分からぬ恐怖が、逃走する脚を鈍らせる。

「うわ!」

 近くで爆発が起き、地面が揺れた。

 横殴りの衝撃で、床に叩きつけられる。

「うく……大丈夫?ゴロー」

 体を起こしながら、隣を走っていたゴローを呼ぶ。しかし、返事はない。

 見るとゴローの体は燃え、息は絶えていた。

「うそ…だ……」

 感情に頭を殴られた様だった。しかし、ゴローの死を悲しんでいる暇などない。

 既に周りを銀の鬼に取り囲まれていたのだ。奴らは炎を吐き出す口をこちらに向け、ジリジリと距離を詰めてくる。

「……『止まれ!』」

 腹に力を入れ、強く念じる。第二の脳に血が通い、念波が周囲を走る。超能力の効果があったのか、銀の鬼の動きが止まった。

「あ……」

 しかし、腹の中の不完全な器官は、僅かな行使で壊れてしまった。腹部で血がドロリと動く感覚と、半身の失われた虚脱感に卒倒しそうになった。

「走るんだ、イチロー!」

 地面に倒れ伏す、その一瞬前。誰かに腕を取られ、俺は再び走り出していた。

 銀の鬼達は念波から回復で来ていないのか、まだ追ってこない。

「無事だったの?」

「無事なんかじゃないさ、でも生きてる。僕と君の二人だけがね!」

「他の皆は?」

「殺された」

「そんな……いや。俺達も、皆みたいに殺されるのかな?」

「イチロー……」

 俺達は力なく走る。誰も答えられない恐れを零しながら。

 住処は失われた。仲間は殺された。存在意義など始まりから、在りはしない。

 俺達はこの先、どうしたらいいのか?

 俺達は…………どうしたらいいのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る