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「さあさ、皆さんご注目。私、ウインターオブサマーのリーダー、フェニックスでございます。イカシタ帽子のイカシタ兄さんとお覚え下さい」

 手を縛られて座らされているテン達の3人を前に、6人が陣取っている。その内の4人が銃を構えている。銃を構えていない者の内1人はタンツルで、もう1人がフェニックスと名乗るシルクハットを被った男だ。

 フェニックスはイカレタ雰囲気をしており、他の4人もサーカスみたいな格好をしている。

「ウインターオブサマー。確か人間原理主義者のいかれた集団だったっけ?」

「私達の事を知っているのは光栄。でも、異端者と口をきく気はありません」

「ぐあ!」

 フェニックスが指示すると部下が、銃艇でテンを殴った。

「痛いですか?機械野郎でも、痛みを感じるとは、大発見です!それとも痛そうな動作をするように、プログラムされているだけですか?」

「言ってろ、時代遅れの原理主義者め」

「ほら、機械が痛みを所望してますよ」

 テンは再度殴られて地面に伏せる。

 ウインターオブサマーとは、人間原理主義者の集団だ。テンの様に体に利便性の高い機械を埋め込むことは愚か、ペースメーカーや薬や手術も拒絶するし、メガネやコンタクトすら悪と断ずる。人間は生まれたままに生きるべきだ、という信念の下、日々文明を後退させている。

「機械に頼るなんて、退廃ですよ!あるがままに生き、あるがままに死んでいく。本当に価値ある人生を生きるには、定められた運命に、何かを足しても引いてもいけないのですよ!」

「偉そうに言うよ。自分達は銃を使ってるくせに」

「異端者達に対抗するために、仕方なく使っているだけです。ウインターオブサマーの中では、勿論銃も禁止です。私だって、触れたくもない。けれど、信者達を守るために、私達が自己犠牲の精神から、手を汚しているだけなのです」

 フェニックスはテンの髪を掴んで引き上げると、声を潜めて聞いた。

「紫雨博士の息子でしょ、お前」

「なんでそのことを?」

「私達の情報網は広いとだけ言っておきましょう。聞きたいことは1つだけです。『爪』はどこに居る?」

「何のことだ?」

「恍けないで欲しいですね。現在生存しているテトラドラクマが2体なのは確認しています。しかし、私達を襲っているのは、№1と呼ばれる個体だけ。私達の探している『爪』と呼ばれる個体ではない」

「……高寿命なアイツか」

 テンは、父親の研究のことなど殆ど知らなかった。

 しかし、情報を持っているふりをして、お喋りなフェニックスに喋らせておけば、何かを引き出せる。そう踏んだテンは、適当なワードを口にした。

 テンの読みは当たりだったらしく、フェニックスは饒舌に語り出した。

「高寿命なんて、生易しい言葉を使う!不老不死でしょ、あいつは!

 ドラクマの低寿命な生態を克服すべく開発されたテトラドラクマは、そもそも高寿命です。しかし、人間の2倍の器官を持つテトラドラクマには欠陥があった。手も目も、内蔵も骨も人間の2倍の数があるが、唯一脳だけは人間と同じでしかなかった。人間と同じエンジンで2倍の重さの車体を動かそうとするため、彼らの寿命は精々5、60年であり、常に容量不足である脳の発達は未熟だと言われています。

 しかし!ある時、問題が発覚した。『爪』と呼ばれる個体は、脳味噌も2つあったのです。正常な成長を獲得したあれは、少なく見積もっても寿命が2,300年あると言われます。下手をすれば死なないとまで言われています!

 その上、奴は不思議な力を使うと言う。幻覚、サイコキネシス、サイトレーリング。脳の性能の高さ故、超能力と呼ばれる力まで獲得しているのですよ!恐ろしいと思いませんか?」

「思わないね。それを手に入れて利用してやろうっていう、お前達の方が恐ろしい」

「あ?」

 テンは髪を掴んで机の角に頭をぶつけられ、額から赤い血を流す。

「まあ、良いです。こっちには対ドラクマ兵器がありますから。倒すだけなら、簡単なんです。しかし、手に入れるとなれば、難しい。だから、奴らの生態を教えろと言っているのです」

「対ドラクマ兵器って何?」

 動かなくなったテンの代わりに、ミナが問いかけた。

「これですよ」

 フェニックスは、手に持った有機的な銃を見せた。50センチほどの銃で、鳶色のカバーに覆われている。弾倉の部分に紫色の硝子が付いており、中に液体が見える。

「プラズマを吐き出し、ドラクマの脳を焼く兵器です。奴らに非常に有効ですが、油断すると殺してしまうリスクがあります。共闘するのは、そちらにもメリットはあるでしょう?だから、情報をよこしなさい」

 正直、ウインターオブサマーの持つ情報も、人数も、兵器も垂涎モノだ。しかし、こいつらが勝手にテトラドラクマと戦うのなら、好きにしてくれればいい話である。

 本部にウインターオブサマーの動向の報告が出来れば、人事考課も多少のプラスに振れる筈だし、この騒動の責任を転嫁することだってできる。

 いや、寧ろ、この騒動の原因は、ウインターオブサマ―なのではなかろうか?

 ミナはテンの状態を横目で見ながら、逃走のタイミングを図る。

「僕は、君達に協力したい」

 けれど、意外な人物からフェニックスの提案への賛同が出てしまった。

「メガネ?」

「僕は、自分自身が気持ち悪いんだよ。中でドラクマの生きるこの体が。運命を自分で選べなかった幼さが歯痒い。そんな苦しみを世界から消せるなら、僕は彼らと共に戦いたい」

 コウタは言って、自身のメガネを地面に置いた。

「いいですね。お嬢さんはどうしますか?」

「女性に手錠を掛けたまま選択を迫る非紳士的な集団に、従えと言うの?」

「これは気が付かずに、申し訳ありません。手錠を外してあげなさい」

 フェニックスが指示を出すと、部下の一人がミナの手錠を外した。

「ありがとう」

「それで、私達と共闘しますか?」

 ミナは手首を擦りながら、気絶したフリをしていたテンに目配せをした。

「共闘?それは貴方達から、願い下げなんじゃない?私は『フルーツ』なのよ?」

 ミナが告白すると、ウインターオブサマーの面々にどよめきが走った。フェニックスが感情の無い顔で腕を上げると、部下達は汚らわしい命を散らそうと、凶弾を撃ち放つ。

「なんだ、なんだ!?」

 いや、部下達の銃から弾丸が吐き出される前に、フェニックスの持っていた銃が暴発した。炎のようなプラズマが壁に向けて打ち出され、部屋を轟音が揺るがす。

「テン!」

「分かってる!」

 腕力で手錠を引き千切ったテンは、両手両足の機構を稼働させて走る。ミナも常人を遥かに超える速度で、部屋の外へ向かった。

「ついでだ!」

「うわ!今度はなんですか!」

 テンの電磁パルスによって天井の電球が割れ、部屋の明かりが失われた。

「異端者め……やはり奴らは人類にとっての害悪でしかないですね」

 フェニックスは帽子を被り直して、悪態を付く。暴発した銃を部下に預け、代わりに突撃銃を受け取った。

 しかし、部下がライトを付けた時には、テンとミナは既に部屋の外に消えていた。フェニックスは舌打ちをし、タンツルとコウタに向き直る。

「汚らわしい異端者はいいでしょう。貴方達は、私達と共に戦うという訳でいいですね?」

「ああ。さっき言った通りだ」

「僕も。君達に従う」

 フェニックスの視線に、タンツルとコウタが頷く。

「歓迎します。2人共。しかし、問題があります。それを取り除きましょう」

 フェニックスは微塵の悪意も無い顔で、部下に指示を出す。部下はコウタの腕を掴むと、テーブルの上に寝かせた。

「一体何をする気ですか!?」

 押さえ付けられて身動きの取れないコウタは、状況が呑み込めず混乱する。

 部下を止めようとしたタンツルは、後頭部を殴られて気を失った。

「コウタさんでしたっけ?貴方は自身の体の中でドラクマが生きていると言いましたね?つまり、ドラクマから臓器移植を受けている」

「う……それはそうだけど」

「大丈夫です。ドラクマから移植した臓器は、人間のそれとは外見からして違うんです。それはそれはおぞましい。やり慣れた処置ですから、取る臓器を間違えたりはしません」

 コイツラハナニヲイッテイルンダ?

 発された思想の意味に、コウタは声を失った。

 茫然自失とする彼に見せ付ける様に、電子メスのスイッチが入れられた。

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