第9話 9わ
きつねのきょんでありまする。
続きをお読みくださりませ。よろしくお願い申し上げまする。
「きょん!!ほら、海が見えるよ!!」
友ぱいろんがわたくしめにそう言って、港のかなたを指さしまする。
港ではございませぬ。蒼空とつながる先に、平らな、白く、わずか青くつづく広がりを目にしたのでありまする。
そこには、ぽつりぽつりと小さなものが浮かび、
あれがほんとうの船だということでございまする。
はからずも、海を、そして船を見ることができ、いたく感激しておりまする。
やがて旅立ちの時間が近づいてきたとのことでございまする。
人びとのざわめき。
それらがやがて静まり、遠方で白煙がばくはつのごとき広がりを見せ、最初の光が上がりまする。
人びとの歓声と、そして、それをかき消すかのごとき、迫りくる
光は白き雲の柱を作りつつ、それは蒼空へと上がってゆきまする。
そのあとを追うように光と、白き柱が、いくつもつづきまする。
轟音とともに、
雲を吐き、次々と空に登る光。
しばしのあいだ、その光景がくり返されるのでありまする。
それはこの世のものでない、
どれくらいの時がすぎたのでございましょう。
音が遠のき、
頂に光を灯す白き雲の柱が、やがて風に散らされて消え。
蒼空を見上げていた人の群れは、
旅立ちの祭りが終わったことに気づき、
ため息とともに、やがて人群れも家路へと向かうのでございまする。
ねえさまはまだ蒼空を見上げたまま、
その手を、そっと包むかのごとく、わたくしめの背へと当てて、
「きょんちゃん。
いつか、きょんちゃんや
あの空に上がるときがくるのかな?」
「先に上がったかずまくんや、はるちゃんみたいに…」
ねえさまは、そんなふうに申したのでありまする。
けれどもわたくしめには、そのことに応える
わたくしめは稲荷の社の
なんなれば、
ねえさまの、今の主さまと結ばれているごとき
社よりおおくはなれがたき身であることは存じておりまする。
ゆえに、わたくしめは社とともに在り、社とともに消えるのでございましょう。
そういったあやかしも、いるのでございまする。
ねえさまも、たまさまも、そうはならぬよう、はたらきかけていることは存じておりまする。
あやかしは、かたわらなどと申すとおり、
人とともに、人の営みの中にあるもの。
わたくしめは人のかたわらにあり、人とともに歩みとうぞんじまする。
人の少なくなりし世界。
人のいなくなりし世界で、あやかしはどのような営みをしていくことでありましょうか。
エンドロール -蒼弓の
こどものきょん みなはら @minahara
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