のこされた人たちが好きなあなたへ

どこからどこまでが、『仕掛けた魔法』だったのだろうと思いまして。

絵里子は、自らがそうなることを予知した上で、圭一と彼女が打ち解けるように──圭一が自棄になったとき彼女が救いとなるよう仕向けたのではないかと。小指が描いた文字のすれ違いさえも。圭一が、そっと頭をなでずにはいられなかった、魔術の"抜け"さえも。全ては──計算高い魔術師の手のうちで。

けれど、絵里子にできたのは『予め知る』ことだけだった。

「私は魔術師なのよ」

不明瞭が犇めくただなかで。青空と虹を背負った魔術師でありたいという気持ちは本物だったのでしょう。

無様さを目の当たりにすることで乾きが癒された。私たちは、ときに傷ついた者同士寄りそうでもなく、ただ同じ空間を共有するだけでいい。ひとりとひとゆび。のこされた人たちが好きなあなたへ。

余談。谷崎潤一郎先生の『魔術師』が好きで。思えば、人の姿を自在に変えられるのが魔術師というより、軽々しく本当の姿を明かさないのが魔術師なのかもしれません。

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