魔術師の小指

作者 坂水

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★★★ Excellent!!!

きっと事実としてはお義父さんの言うことが正しいのです。

「せいぜい『世界びっくり人間』か『一発屋芸人』ぐらいのものだ」

しかし、絵里子はその一つきりの能力で、多彩な効果を生んできました。まるで彼女が思いのままにいくつもの魔術を行使する魔術師であるかのように。いいえ、その限られた力が限られていることを(抜けているとか言われるけれど、あまり)感じさせず、周囲を魅せたという点において彼女はまさしく彼女の名乗る通り魔術師でした。

その彼女が電話をかけてくるときの様子は、描写が巧いという以上に、そして圭一のことを愛しているのだろうというのが分かる以上に、どこか独特の空気感を持っていて、物語を最後まで読んでしまった後読み返せば、ああそういうことだったのかと分かります。

小指との生活もそう。恋人の一部とのどこかツンツンした可愛らしい生活かと思えば、実際のところは――(それでも可愛らしいのですけど)。

三月中旬に彼が受け取った知らせも、圭一たちや読者にとっては衝撃的でしたが、読み返せば彼女が編んだ魔術の糸が集まる結節点であり、また違った意味でのターニングポイントです。

つまるところ、物語を読み終わって、その魔術の正体を知るまで、読者も魔術師絵里子の掌の上にあります。

余談ですが、終盤、圭一と知子が語るシーン、圭一の誤解と執着は男性的であり、知子の縋り方は女性的であるように思われました。こういう場面できちんと性差を描くのだなと思いつつ、そのことによって彼等がまだ生きている人であることが浮かび上がっているような気がして感嘆しました。

これはやはり魔術師であった彼女の物語。どうぞ幻惑されてください。

★★★ Excellent!!!

どこからどこまでが、『仕掛けた魔法』だったのだろうと思いまして。

絵里子は、自らがそうなることを予知した上で、圭一と彼女が打ち解けるように──圭一が自棄になったとき彼女が救いとなるよう仕向けたのではないかと。小指が描いた文字のすれ違いさえも。圭一が、そっと頭をなでずにはいられなかった、魔術の"抜け"さえも。全ては──計算高い魔術師の手のうちで。

けれど、絵里子にできたのは『予め知る』ことだけだった。

「私は魔術師なのよ」

不明瞭が犇めくただなかで。青空と虹を背負った魔術師でありたいという気持ちは本物だったのでしょう。

無様さを目の当たりにすることで乾きが癒された。私たちは、ときに傷ついた者同士寄りそうでもなく、ただ同じ空間を共有するだけでいい。ひとりとひとゆび。のこされた人たちが好きなあなたへ。

余談。谷崎潤一郎先生の『魔術師』が好きで。思えば、人の姿を自在に変えられるのが魔術師というより、軽々しく本当の姿を明かさないのが魔術師なのかもしれません。

★★★ Excellent!!!

雲をつかむような存在の姉。

恋人、家族を悲しませ、胸をかきむしる思いをさせた姉。

ある日、小指という不可思議なものが、わずかな女の象徴として表れます。
それが、心を支えてくれるほどの大きな象徴になった日。
すべてのミステリーがあきらかになりました。

魔術を使う恋人を慕っていたのは、僕だけじゃなかった。すがりつきたいと願う、その絆も愛しいです。

謎が解ける快感を味わうだけ?
いいえ。このミステリは文学的に優れたファンタジー。

美しい比喩表現や言葉ひとつひとつ丁寧に紡がれたその世界観を、皆さんに感じて頂きたいです。

唯一無二の想像力と圧倒的な筆力で書かれた物語を、どうか一度味わってみてください。
決して損はさせません。


☆レビュータイトルは、姉妹の印象的な言葉でした。