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石崎卓矢は、同期の佐伯と共に一年生の練習に付き合っていた。彼らももう入会して半年。一年生だけでもある程度形になってきており、成長を感じる日々である。
石崎の直属の後輩は五人いる。中でも熱心なのが坂本祐樹だった。こういう機会にいないのは珍しいと思いながらも、他の子たちに目をやる。
佐伯は相変わらず宮沢ひまりを見ていた。ひまりは佐伯の班の後輩で、石崎の班で一番が祐樹なら、佐伯の班ではひまりというような、いわゆる優等生だった。石崎もひまりと話すことはあるが、絵に描いたような良い子だと思う。
佐伯は頭の良い子が好きだった。昔からそうだった。自分もそうだからかもしれないが、理論的で冷静な人に惹かれるらしい。
それにしても、最近の彼はどこかおかしい。どこがと言われると説明はできないが、どこか……。
最近彼は、知りもしないゲームイベントに行ってきたらしい。理由を訊いても「秘密」としか言わず、「恥ずかしいから絶対人には言わないで」と言う。
それから、最近彼は画像編集を始めた。サークルが代替わりしてすぐに仕事に取りかかれるよう、チラシを作る練習だと言って色んな画像を作っているらしい。試しに見せてもらったことがあるが、なかなかの腕前だった。去年の文化祭でやむなく欠席した会員を、空いている場所にあたかも存在しているかのように合成していた。「プロになれるよ」と石崎が言うと、佐伯は「そんなに社会は甘くないよ」と笑っていた。
一年生の練習が終わり、ちらほら夕飯の話が出始めた。今年の一年生は仲が良い。石崎は、佐伯と割り勘で一年生たちに夕飯を奢るつもりでいた。しかし、大学を出るとき、佐伯が言った。
「じゃあ、僕とひまりちゃんはこれで帰るよ。ちょっと用事があってね」
思わず言葉に詰まった。佐伯の笑顔とひまりの困ったような顔を交互に見る。
「……おう、また来週な」
――他にかける言葉がなかった。なにか不穏なものがまとわりつくような感覚……。
佐伯は軽く手を振って、ひまりと共に先に歩いて行った。残された一年生たちがざわついている。
「ひまりって、祐樹と付き合ってたよね。何かあったのかな」
「祐樹って結構佐伯さんと仲良いじゃん? 何かそういう相談とかじゃない?」
いや――違う。佐伯はそんなことをする奴じゃない。そもそもあいつはひまりを狙っている。俺にはわかる。それから祐樹のことも良く思っていない。あいつは嫌いな奴の前だと一層笑みが増すんだ。祐樹と話すときのあいつは見たことないほど笑顔なんだ――。
石崎は、鳥居の中に消えていく二人の背中を見つめた。通学路にあるあの神社は、縁結びの神社だったか。たまに佐伯が一人でお参りしているのを見かけることがあった。通学路だし特別気に留めることもなかったが、もしかすると彼は、あいつは、何かとんでもないことを企んでいるのではないか。――いや、もう遅いのか。
何にせよ、石崎には現状をどうする手もなかった。――そもそも何も起きていないのだ。特別何もなく、平穏な日常が流れている。
一年生の一人が肩を叩いた。
「石崎さん、飯行きましょうよ。俺いつものラーメンがいいっす」
「あ……ああ。今日は何人だ? 一、二、三、四、五……すまん、さすがに半額負担にしてくれ」
「自分で払いますよ。石崎さん無料トッピング券持ってましたよね」
「なんだそれが目的か。じゃあ、行くか」
石崎は後輩七人を引き連れて、大学裏手の坂を下って行った。あえて神社は通らなかった。何となく、行ってはいけない気がしていたから。
後ろに騒がしい話し声を聞きながら、石崎は祐樹のことを考えていた。本来ここに居るはずの彼。日中のサークルだって、無断欠席なんてするはずもないのに。
――石崎が祐樹から退会の旨を聞かされたのは、その夜のことだった。
ひだまりの中で 睦月衣 @mutsuki_kinu
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