死ぬことと生きること。そして愛することの美しさを教えてくれる作品です

最高の読書体験でした。自信をもっておすすめできる作品です。

序盤から主人公のエッド・アーテルが魔物によって死亡するという衝撃的なシーンから始まる本作。でも安心してください。エッド本人が明るい性格で、迎えに来た天使がコミカルなのでコメディチックに読めるシーンです。
勇者としての激務に疲れたエッドはこのまま天に召されることを望みますが、聖術師であるメリエールの手によって蘇生術を施され、両者の力が拮抗した結果、半端者の「亡者」となって蘇ってしまいます。
成仏するには彼の未練をはらさなければいけないらしいのですが、その未練とは聖術師であるメリエールに想いを告げること。だけど聖者と亡者(魔物)では聖なる気に阻まれ触れることすら許されない。メリエールに想いを告げる為に彼のラストクエストが始まる。というお話なのですが。

ところで皆様がエンタメ作品に求めるものは何でしょう。笑いあり涙あり、燃えるものあり面白さもあり…こちらの作品にはそのエンタメ要素がギュギュッと全部詰まっています。まずはとりあえず3話ほど読んでみてください。
軽快でコミカルな筆致とテンポの良い場面展開。恐ろしいほどにかっこいい詠唱と共に展開される魔法バトルは手に汗握る程熱く、召喚術は脳内アニメで中二心が騒いでしまうほどにカッコいい。肉体的なバトルシーンだけではなく、巧妙な駆け引きやどんでん返しも細かく仕込んであり、私は闇術師ログレスと魔人によって行われる「奴隷問答(お互いに謎掛けをしあい、負けた方が奴隷になる)」がお気に入りです。魔法や魔術のことを知らないはずなのに、読んでいて両者の知識の深さと機転が本当に面白かったです。

熱いバトル、魔術の知識による頭脳戦、コミカルで時には爆笑してしまう文体でテンポよく進んでいきながら物語は後半へ。前半も面白いですが、後半はさらに面白く、同じテンポのまま最後まで一気に駆け抜けてくれます。
後半は特に生死について考えさせられることが多くなります。聖術師と亡者という相容れない二人。エッドは間違いなく死んでいて、魔法によって万事解決なんてご都合主義には頼りません。死とは何か。生きるというのはどういうことか。エッドの生前や亡者となってからの記憶が語られ、メリエールとエッド、両者のセリフに重みが増します。物語の中で徐々に明かされていく「死と救済」の意味を知った時、涙が止まらなくなりました。
最後は読者の期待を裏切ることなく万感の終幕。ここまで読んだ方には文句のない良いラストでした。

ここで忠告です。この作品を読む時、ラストを先に読んではいけません。オチを知っただけではこの感動は得られない。エッドや仲間達と共に苦楽を共にして最後まで旅を続けてきたからこそ、そしてこの物語における救済の意味を知ってこそのカタルシスです。つまらない好奇心でそのチャンスを無駄にしてしまうなんてこと、読書好きの方はもちろんやりませんよね?
オチが気になる方はどうぞ、時間を取ってどっぷり浸かりながら読んでください。45万字ありますが、テンポが良いのでスルスル読めてしまいます。

死ぬことは何か。生きることは何か。
そして人を愛するのはどういうことなのか。

読者の問いに真正面から答えをぶつけてくれる作品です。
ぜひ多くの人に届いてほしい素晴らしい物語でした。

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