赤き勇者よ荒野へ進め。聖なる呪いを打ち壊し、愛しきひとを救うために。

 冒険の途中で勇者が死んでしまったら教会で蘇生してもらう――という、RPGによくあるセオリーを逆手に取った、超個性的な冒険ファンタジーです。
 シリアスな筋がユーモアあふれる筆致と賑やかなキャラで描かれていて、飽きずにぐいぐい読めちゃうのが魅力。

 物語は、「勇者」の称号を持つ主人公エッドが魔物の凶刃に倒れ、天の国へ召されるシーンから始まります。ブラック企業さながらの過剰労働に疲弊しきっていたエッドは、未練なく天界へ向かうつもり、だったのですが。そこに待ったをかけたのは、仲間の「聖術師」メリエールによる強力な蘇生術でした。
 天界へ逝きたいエッド、逝かせたくないメリエール。両者の魔力で綱引き状態のところに、天使は告げます。

「……当局と致しましては、“未練”がおありになるお方は、天界へとお連れできません」

 こうして、すんなり成仏できなかった上に、うっかり蘇生術に抵抗してしまったエッドは、正常な蘇生をすることができず、亡者(魔物)として棺桶からコンニチハする羽目になってしまいます。

 実はエッドの未練とは、心から想う女性に告白することで、その女性というのが聖術師であるメリエール。信仰心が深く生真面目な彼女に、魔物と化したエッドが近づくこと自体が命懸け(死んでるとはいえ)なのですが。
 幼馴染みで親友である闇術師ログレスの協力を得て、勇者であり亡者である勇亡者エッドは、聖術師メリエールと「お話し」をするため、彼女を拐おうと計画するのでした。

 自身の死という絶望的な始まりながら、根がポジティブなエッドと淡白ながら仲間想いのログレス、愛情深いヒロインズや脇を固めるユーモラスな住人たちのお陰で、とても味わい深い冒険譚を楽しむことができます。
 シリアスを増すストーリーの中できらめく救済のすべは、優しさと献身によって導かれた、万感の終幕でした。
 どっぷり浸かれる物語、ぜひご一読ください。

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