《死》を嫌おうと死を愛そうと

死生観。生と死は、人類の永遠の命題だと想います。
日本では古事記や日本書紀に綴られた伊邪那美伊弉諾の神話からも窺えるように、死は穢れであり遠ざけるべきものであるという意識が根づいてきました。輪廻転生が強く信じられる地域もあれば、古代エジプトのように新たな人生の幕開けとして言い伝えられた地域もあります。

こちらの小説のなかでは、25歳になると死の権利があたえられ、みなに祝福されながら自殺します。長寿ほど恐ろしく絶望的なことはありません。

ひとはかならず、死に至ります。如何なる職につき、幾何の名声を得、富を築きあげて、歴史に名を遺す偉業をなそうとも、その結末だけは平等です。
如何に死を恐れ、遠ざけようと。如何に死を愛し、その幸福を語ろうと。
《死》という事実にはなんの影響ももたらさないのです。

なればこそ。
我々は死に邁進しながら、なにを残し、なにに抗うべきなのか。

非常に重い題材を取り扱った小説ですが、読後のきもちはむしろさわやかです。
情事の描写がありますが、これは生と死の仮想体験の比喩ともいえると思います。この小説になくてはならない要素ですし、描写も美しく素晴らしいです。

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