亡国の元女王が挑む、権謀術数の復讐劇

本作は、緻密な陰謀劇を楽しめる長編である。

昨今のライトノベルとしては非常にシンプルな文体で、それは短めなタイトルからも良く分かる。
流行りの「あらすじ代わりのタイトル」を、敢えて避けているのだ。
読者数を稼ぐには厳しいが、正しい決断である。
読めば納得する、シンプルながら美しいタイトルは、内容にぴったりマッチする。
本文でも、余計な修飾はそぎ落とされ、必要十分なだけの描写が続く。
熾烈な権力闘争を描くのに相応しいスタイルだ。

ストーリーのメインである権謀術数は、多数の利害関係者が参加する非常に複雑なものになっている。
恐らく、1人称では全貌が理解できず、かといって3人称ではキャラクターの動機が深掘りできなかっただろう。
1話ごとに視点が変わる群像劇にしたことで、1人称の心理描写を活用しつつ、陰謀の全体像が理解できるよう工夫されている。

また、主要登場人物が徐々に変化していくのが非常に良い。
元女王は、美貌と教養は優れているが、スタート時点では「坊やだからさ」と鼻で笑われるレベルの頭でっかちな小娘。
パートナーとなる仇の国の王も、英邁ではあるものの女性心理は無視しがち。
仇の国の王妃は、初登場時は幼稚といっていいほど。
こうした未熟な登場人物たちが、物語が進むにつれて変化していく様は、読んでいて飽きさせない。
なろう版で200万字オーバーの長編である以上、この種の変化で読者をひきつけることは重要で、それがしっかりできている。

陰謀と比べて、戦争の描写や地理・歴史の設定は余り力が入っていないようだ。
14章11話までで主要な戦争は3回あったが、戦闘の基本的な要素、例えば兵数や装備すらあいまいである。
とは言え、本作は陰謀劇なので、戦争はおまけ。
この辺りは読者が割り切るべきだろう。

少し気になるのは、カテゴリー設定だ。
「異世界ファンタジー」は、転生者が様々なチートで現地人を蹂躙する作品が主流である。
必然、主人公の圧勝を期待する読者が多い。
本作の内容は、異世界ファンタジーであるのは確かだが、「歴史・時代・伝奇」の方が読者層とマッチするのではないだろうか?