まず本作は非常に長い。戦闘描写など物語の大筋には関係しない部分は所々飛ばし読みだったが読了まで通読で30時間は見ておいたほうがよい。(434話投稿時点)
内容は非常に王道であり万人受けする物語だ。初めは未熟な主人公が己の失敗で親しい人を亡くしながら成長し、争いをなくすため天下の太平を目指す話だ。
戦記物なので読者も覚悟していると思うが、前任悪人問わず人はかなり死ぬ。主人公の行いは最終的にはよい結果になることがほとんどだが、完璧な結果にはならず教訓めいた話が残ることも多い。お気楽作品を読みたい方にはお勧めしないが、物語の世界にどっぷりつかって楽しみたい方にはとてもおすすめだ。
特に兵法と人間心理に詳しく書かれている。兵法については古代から近代にかけての戦はどのように展開されたかを詳しく描いている。人間心理については朝廷の政治模様や王に従う各諸侯の思惑などが詳しく描かれている。もちろん、主人公がなぜ大志を抱くようになったのか、そして志をどうして失わずに前へ進み続けたかもよく描かれている。(普通の人なら途中でくじけそうだが…)
個人的には、今まで読んだどのweb作品よりも君子とはなにか、世の中を良くするため人の身で何ができるかについて考えさせられた。多くの人々が私心はあれど、正しいと信じた道を進んでいるものである。そして、一人の力ではだれ一人何も成し遂げられないということを考えさせられる。
本作は、ライトな文体ながら、重厚な内容の異世界戦記物である。
主人公は突如異世界に転移し、国難を救ってくれと懇願されて王となる。
後宮に務める美女・美少女がちやほやしてくれて、何もしてないのにハーレム成立。
技術レベルは黒色火薬すらない程度で、思う存分知識チートできるぞ!
まぁ異世界転移ものとしてはありふれた設定だ。
ところが、テンプレの導入部を打ち砕くように、1章をまるごと使って主人公の"やらかし"が描かれる。
1章末の主人公は、恋人に売春で養ってもらった挙句、彼女を見捨てて1人で逃げ出す、正に外道。
結果だけ見ると人間のクズといって過言ではない主人公だが、それでも善良かつ誠実な個人なのだ。
ここに、本作の魅力がある。
主要な登場人物は、時代の常識、所属集団の力学、個人の経験といった背景事情に基づいて、最適と思われる行動をとる。
2章以降、主人公に討たれていく敵たちは、奸臣にせよ、大諸侯にせよ、各々が自分にできる精一杯をやり切り、他を選びようのない流れの中で散っていく。チープなやられ役では決してない。
強力で魅力的な敵役は良い物語の必須要素だが、本作にはそれがある。
背景となる異世界は、かなりシンプルに設定されている。
日本語が通じるのは、蛮族だった現地人に高度な統治機構をもたらした初代王が日本人だったから。
人名は古代ローマ、官僚機構は中世の中華、軍事技術は三国志、後宮は平安日本あたりがモデルで、魔法や幻想生物、超科学は出てこない。
官名で分からない用語が出てきても、ググれば大抵解決できる。
チート能力も、超自然的なものは一切出てこない。精々、部下の事務処理・諜報能力ぐらいだ。
背景設定がシンプルであることは、本作において非常に重要である。
というのも、非常に多くのキャラクターが登場し、前述のように全力で動くので、話の筋を追うのにかなりの読解力が要求されるからだ。
小難しい設定の説明を省略することで、人間ドラマや戦闘機動といった動きに集中できる作りになっている。
知識チートがないのも好感触だ。
描写されたのは公教育と水道事業で、どちらも官僚集団の理解を得られず、主人公の生前には成果が出なかった。
基礎技術や社会的背景をすっ飛ばした未来技術の導入は白けるし、本作のテーマには合わない。
黒色火薬やノーフォーク農法など、色々誘惑はあったと思うが、切り捨てて正解である。
難点は、書籍化が難しいだろうことだ。
250万字を超えており、これは文庫形式のラノベ20冊以上に相当する。
吉川英治の『三国志』が新潮文庫10冊であることを考えると、本作がいかに長いか分かるだろう。
また、いくつかの章が後味の悪い結末になっている。
特に第1章は、最終章に至るまで主人公の精神性に重要な影響を与えるのだが、商業的には厳しい。
この物語は、本物の戦記物語です。
緻密に練りあがられた世界観、設定。
圧倒的な戦闘描写。政治の駆け引き。
魅力的な登場人物達。
それがファンタジーではなく、本当にあるかのように
現実的に描かれています。
主人公はよくある転生者ですが
特別な能力があるわけでもない、人の良い事が取り柄のただの少年です。
唯一のメリットはその世界の常識にとらわれていない事だけです。
その主人公が戦乱を治めるために、さまざまな出会いや別れ・経験を通し
成長する姿も見どころの一つです。
ここまで完成度の高い作品がカクヨムに掲載されているのに驚きました。
こんな事があるからカクヨム小説探しはやめられません。
とくかく「紅旭の虹」は一級品の小説です。
この物語が、本物の戦記物語です。