第5話 『ほてるのばけもの』


 登場人物

ともえ(ヒト)

イエイヌ


オオミミギツネ

ハブ


オオセンザンコウ

オオアルマジロ

(※長いので、オオの部分は基本省略)


アムールトラ


カンザシフウチョウ

カタカケフウチョウ


??????



(作者コメント:今回は思ったより早かったけど、次は本当に時間かかる内容なので二、三か月かかると思う)



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場面:パイプが大量にある、どこかの地下通路


水滴が垂れる。何度も垂れる。

水滴が垂れた先の床は濡れていて、そこの近くにマンホールがある。

少しの間、マンホールだけが写る。

突然、マンホールが鳴る。

続いて、マンホールががたがた揺れ出す。

マンホールが弾け飛ぶ。

マンホールの穴には暗闇がある。

そこから獣の手が出てくる。

そこからボロボロの服、千切れた鎖、乱れた髪と続く。

瞳を紫へと光らせたアムールトラが這い出る。

立ち上がると、首を振らせながら、ふらふらと左の方の道を歩む。

アムールトラが通った通路の看板には、この先けものニューホテルと書いてある。


 ●


場面:湖の水面から僅かに出てるホテル。屋上の所に二人は立っている


ともえは、派手な扉の隣にあるインターホンを押す。

ともえ:「反応がないね」

イエイヌ:「私が壊しましょうか?」

ともえ:「うーん。いきなりそれはまずいかも」

イエイヌ:「でも、無理矢理入ろうとでもしないと、この相手はきっと開こうとしないですよ」

ともえ:「イエイヌちゃんは、自分の家に無理矢理入ろうとしてくる相手と仲良くできるの?」

イエイヌは立てた耳を萎らせる。

ともえ:「こんな場所に住んでいるだもん。何か問題がないはずがないよ」

ともえは湖を見やる。

視点は水の中に入り、岩の間を縫い、魚の群れを払い、大量の水草を抜けると建物の全容がわかる。


それは湖の底に作られた、威容を誇るホテルである。




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(OP 祝兄貴作成の『足跡』)(※変更点:カルガモとロバのシーン→木のタイルの家の中。カウンターに手をついて笑うアリツカゲラの上半身と、膝を抱えて座るアードウルフ。パンダとレッサーパンダ→廃墟ホテルの部屋の前でお辞儀をするハブとオオミミギツネ)



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場面:ホテルの屋上


ともえが湖の方を見てる。

ガチャリと音がする。

イエイヌの耳が動く。

イエイヌ:「あれっ。なんか音がしましたよ」

イエイヌがノブを引っ張ると、ぎぃとドアが開く。

中は暗闇が続いている。

青地に白い花の壁紙は所々破れ、足元の板は砕けて下のコンクリートを覗かせている。

イエイヌが息を呑む。

ともえがマフラーをぎゅっと握る。


突然、一番近くの蛍光灯が点滅させながら点く。


その後、幾つか飛ばしながらも、どんどん点いていく。

ともえとイエイヌが、呆けた顔をする。

二人は近くの点滅する蛍光灯を見て、辺りを見渡して、顔を強張らせていく。

イエイヌ:「入って来いってことなのでしょうか?」

ともえ:「たぶん、そうかな」

ともえはマフラーを握りしめながら、中に入る。

イエイヌも、中に入るともえを見て、真面目な顔をして入っていく。


垂れる水滴。取れかけの扉。荒れた部屋を二人は通る。

蛍光灯が点滅する。二人は歩く。

イエイヌ:「なんか不気味ですねぇ、ともえさん。それに」

イエイヌは鼻を動かす。

イエイヌ:「空気が淀んでいるのか、何か変な匂いがずっとしてて、鼻がうまく効かないんです。まぁともえさんの匂いは何とかわかるんですが」

虫が動く音。

イエイヌ:「ヒャッ。……なんだ虫ですか。驚かせないで欲しいものです」

ともえは歩きながら無言で辺りを見回す。

イエイヌ:「どうしたんですか、ともえさん。何か気になることでもありますか」

ともえ:「う、ぅん。そうじゃないの」

ともえは立ち止まって、灯りが点いてない通路の先を見つめる。

真っ暗で、悪魔でも吸い込めそうな程先がない。

ともえ「こんな荒れた所にずっと住んでるって、どんな気持ちなのかなぁって。あたし、そんなこと考えてた」

イエイヌは平然とした顔をしている。

イエイヌ:「でも、今のパークじゃこんなの珍しくはないですよ」

ともえ:「……そう、なんだけど。でも、やっぱり考えるんだ、あたしは」

ともえ:「こんな所に住んでいられるのって、どんなフレンズなのかなって」



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場面;わりときれいな応接室。豪華な絨毯が一面敷いてある。


センザンコウ「これはようこそいらっしゃいました。私が探偵のオオセンザンコウです。以後お見知りおきを」

アルマジロ「それと私が助手のオオアルマジロです!二人合わせてダブルスフィア。――ってなんで、センちゃんやってくれないんですか!?」

アルマジロはポーズを取るが、オオセンザンコウは余所見をしている。

センザンコウ:「私がそれを許可した覚えはないからです」

アルマジロ:「もう、センちゃんったら固いんだから。そんな調子だと、依頼人さんも離れてしまうんだからね」

センザンコウ:「それは私ではなく、あなたのテンションの高さのせいでしょう」

アルマジロ:「なにをぅ」

イエイヌがともえに耳打ちする。

イエイヌ:「まさか、こんな二人が住んでいるとは」

ともえは頷く。

センザンコウは口に手を当てる。

センザンコウ:「ふむ。もしかして二人は、ここに私達が住んでると、そう思ってないかい?」

イエイヌ:「なんだ、聞こえてたんですか」

センザンコウ:「いや、聞こえてはいないよ。でも、探偵だから何となく相手の思っていることはわかるんだ。そうだね例えば」

イエイヌ:「そんなことはどうでもいいんです。ここに住んでいるのではないのでは、あなた達は何者なのですか?どうしてここにいるんですか?」

アルマジロ:「あなたこそ何ですか!せっかくセンちゃんの名探偵っぷりが見える機会なのに!それを邪魔するって小説ならあり得ない展開ですよ!」

イエイヌ:「そっちこそなんなんですか!そのしょうせつというやつは!」

アルマジロ:「小説というのはですね!」

センザンコウが手でアルマジロを遮る。

センザンコウ:「話を戻そう。確かに私達はここに住んでない。私達はここの住人から呼ばれているだけだからね」

イエイヌ:「なら、早く会わせて下さい。私達はあなた方に用はないんです」

センザンコウ:「そういうわけにもいかないだろうね」

イエイヌ:「どうしてですか?」

センザンコウは後ろにあるカウンターの高い椅子に座り、組んだ両手に顔を置く。

センザンコウ:「私達が主人にあなた方を招き入れるように言ったからさ。だからあなた方はここで何かをしたいなら、まず私達を通してもらわないといけないのさ」

イエイヌが驚いて、センザンコウの顔を眺める。

センザンコウは不敵に笑う。


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センザンコウ:「それで、君達の目的はなんだい?」

イエイヌとともえは顔を見合わせる。

センザンコウ:「どうしたんだい?」

イエイヌ:「それが」



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センザンコウ:「なるほど。二人とも意見が割れているわけだ」

ともえ:「そうです」

ともえは頷く。イエイヌは何度も頷く。

センザンコウは口に手を当てる。

口の端を吊り上げる。

センザンコウが手を下ろすと、そこには自然な笑みを浮かべたセンザンコウがいる。

センザンコウは手を差し出す。

センザンコウ:「なら、私達の助手をしないかい?それなら困ったフレンズも助けられるし、食糧も手に入る。二人とも万々歳の結果というわけだ」

ともえ:「本当!?」

イエイヌも笑みを浮かべるが、真面目な顔に戻す。

イエイヌ:「内容を聞くまで喜ぶわけにはいかないです。それで今まで酷い目にあってきたのですから」

イエイヌは尻尾を振っている。

二人を見やった後、センザンコウは身体を乗り出す。

そこでアルマジロが身体を掴む。

アルマジロ:「ねぇねぇ!二人に助手させるって本当なの?センちゃんの助手は私だけだよね?ねぇねぇ」

身体を揺さぶるのを、睨みつけて大人しくさせる。

コホンと咳をしてから、また身体を乗り出す。

センザンコウ:「二人にして欲しいこと。それは」

センザンコウ:「怪物退治さ」

イエイヌが息を呑む。


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場面;応接室をともえとイエイヌが出ようとしている所。


イエイヌ:「だから、私はそんな危ないことは反対――」

二人が話している所に、センザンコウが呼びかける。

センザンコウ:「ともえさんと言ったかな」

ともえが振り返る。

センザンコウが近づいてくる。

ともえも話題を打ち切りたくて、センザンコウに近づく。

イエイヌは怒って、他を向く。

そのイエイヌをセンザンコウはちらりと見てから、ともえの方に顔を向ける。

センザンコウ:「一つ言い忘れてたことがある。もし、引き受けてくれるのなら、ホテルからの報酬に加えて、私からも報酬をあげようじゃないか」

ともえ:「報酬?」

センザンコウが耳に口を近づける。

センザンコウ:「夢に現れるという、黒い鳥達のことを君は知ってるかい?」

ともえが、センザンコウの顔を見つめる。

センザンコウは満足して頷く。

センザンコウ:「もし、君が引き受けてくれるなら」

センザンコウはともえの耳元にさらに顔を近づける。

センザンコウ:「彼らの情報を君にあげようじゃないか」

ともえがセンザンコウの顔をまじまじと見る。

センザンコウはフッと笑った後、アルマジロの方へと歩き出す。

二匹は別の扉から出ていく。ともえは探偵達を見送る。


後ろからイエイヌが呼びかけている声がしていた。

ともえのカバンから、いつの間にか丸めた紙束が覗いている。


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場所:食糧庫へ向かう通路。探偵二匹とオオミミギツネとハブが歩いている。ハブが灯りを持って先導している。



センザンコウ:「確か、次の次の通路を右に曲がったところだったかな」

オオミミギツネ:「あれ。私達、探偵さんに食糧庫の場所をお教えしましたっけ」

センザンコウ:「記憶力は良いものでね。以前来た時に見せてもらった図面を覚えてるだけのことさ」

ハブ:「さすが探偵さんだ。無駄に何でもかんでも覚えているんだな」

アルマジロ:「何が無駄ですか!センちゃんはどんなことからでも推理できるんです!無駄なんてものは存在しないんです!」

ハブ:「はは。そりゃまた疲れそうな生き方だな。ご苦労さん」

アルマジロ:「なにをぅ」

ハブ:「こりゃ失礼。根がハブなもので毒を吐いてしまうもの……おっと」

ハブは通り過ぎそうだった、その通路を右に曲がる。

歩いてすぐに大きな両開きの扉の前に出る。

ハブ:「じゃあ今から開けますので、ちょっとそこにアホみたいに突っ立ちながら、お待ち下さい」

ハブは両手を擦りあわせる。

その両手に唾を吐いた後、それをパーカーの腰あたりで拭く。

ハブは左側の扉の方に行く。

扉を少し持ちながら、前後にがたがた揺らす。

次に右側の扉の方に行き、似たように前後にがたがた揺らす。

アルマジロ:「あれは何をしてるんですか」

オオミミギツネ:「この扉何故か普通に開けられなくて。あぁいうふうにしないと開けられないんです」

アルマジロ:「へぇー、そうなんだ」

ハブ:「そうだぜ。それでそれができるのはこの俺一匹だけってことで……ほら、開いたぜ」

ハブが両扉を横にスライドさせて、スイッチをつけると、中にはジャパリメイトの袋が山のように積んである。

アルマジロ:「すごい!ジャパリメイトがこんなに!食べ放題じゃないですか!」

センザンコウ:「ふむ。配給されなくなってからかなり経つのに、まだこれだけあるのですか」

オオミミギツネ:「ここは保管庫ですから」

ハブ:「ははは。さすがの海と森のあいつらでも、これだけのものは持っていないだろうよ」

豪快に笑うハブと、ハブをうかがうように笑うオオミミギツネを探偵は見る。

それから配管がある天井や壁を見上げる。

センザンコウ:「わかりました。これでここは大丈夫です。あと幾つか見ましたら、始める準備を致しましょう」

オオミミギツネ:「わかりました。お願いします」

オオミミギツネは強張った顔をする。ハブはわざとらしく他所を見ている。

皆が外に出ようとすると、アルマジロはジャパリメイトの山をよだれを垂らしながら見ている。

センザンコウ:「なにしてるんですか。行きますよ助手」

アルマジロ:「いやー、勿体ないなぁって思って」

センザンコウ:「既定の報酬以上は貰わないのが私達ですよ。それが嫌だというのなら」

センザンコウが目を金色にさせる。

アルマジロはビビッて、速足で部屋の外に出る。

ハブ:「じゃあ閉めますぜ。中に忘れ物しても、ここを開けられる俺のものになってしまうから宜しくってことでな」

はははと笑いながら、ハブは両扉をスライドさせて閉じ、両手をパーカーに突っ込む。

センザンコウはハブの様子をじっと見てる。

ハブ:「じゃあ、戻りましょうぜ」

皆が歩き出す。

ハブ:「ちょっとお前。これ持って先歩いてくれ」

オオミミギツネ:「えっ、あはい。わかりました」

灯りを受け取り、オオミミギツネが先頭を歩く。

ハブが後ろを歩くセンザンコウの隣に行く。

ハブ:「(ひそひそ声で)先生。あの件って、今どうなってますかね」

センザンコウ:「大丈夫です。今私の優秀な助手が対応してますからね」

ハブ:「あの、雪にも負けそうな弱っちい奴らで、どうにかできるんですかね」

センザンコウはプッと笑う。

ハブ:「先生?」

センザンコウ:「失礼。いや、私の推理が正しければ彼らに任せれば大丈夫ですよ。それに準備はほとんどできてますから、時間は十分間に合います」

ハブは異様に疲れた顔で下を向く。

ハブ:「そうですかぃ。まぁあんな高い報酬を払った先生方が言うのであれば、いいですけどね」

センザンコウは真顔でハブを見てから、他所の方を向いた。


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場面:ホテル下層のどこかの通路。


壊れた通路と部屋。蛍光灯が点滅している通路。

そこを強張った顔をしたイエイヌが歩き、ともえは真剣な顔で周囲を見ている。

イエイヌ:「そろそろ聞かせて下さい、ともえさん。どうして危険な怪物退治を引き受けたのかを」

ともえはイエイヌに振り返る。

ともえ:「あたしは怪物退治が、そのままの意味でないと思ってるの」

イエイヌ:「それは、どういうことですか?」

ともえ:「怪物は、このホテル自体ってこと」

イエイヌは困惑した顔をする。

ともえ:「建物というのはね。どんなに立派に見えていても、年月が経てばどこかガタが来るものなの。それが仮に致命的なものでなくても、細かいのが積み重なれば使えなくなる。それが人の建物なの。特にこれくらいでかくて複雑な建物なら、十分あり得ることだと思うの」

イエイヌ:「なるほど。しかしそれと怪物とどう関係が」

ともえ:「本で読んだんだけど。ガタが来るのはいきなり来るものじゃないの。異臭とか見た目が変化してるとか、そういう予兆があるの。そして特に大事なのが異音」

イエイヌ:「異音?」

ともえ:「それは時に、化物が声を出してるように聞こえるものになるの」

イエイヌは驚く。

ともえ:「それが化物の正体。だからあたし達への依頼は、それが起きてる場所を見つけること。探偵さん達がいつの間にかくれた図面や機械の解説も、それを後付けしてるの」

ともえはカバンから束を取り出してイエイヌに見せる。そこには何かの機械の図と文字が書いてある。

イエイヌ:「まったく。あんな脅かすようなこと言って」

ともえは怒ってるイエイヌを見て微笑む。

ともえ:「まぁ、イエイヌちゃんの家でそういう物語を読んでたから、わかったことだけどね」

イエイヌ:「えっ、うちにそんな本があったんですか」

イエイヌは腕を組む。

イエイヌ:「なるほど。だから今、あちこち歩き回ってるんですね。それでそれをともえさんが修理するわけですか」

ともえ:「さすがにそれは無理。だけど、ここはサンドスターを燃料にして動いてる建物らしいから、その場所さえ見つければ機械を上手く使って修復することはできると思う。操作の仕方もここに書いてあるし」

イエイヌ:「なるほど。これなら楽な依頼ですね」

ともえは首を横に振る。

ともえ:「危険はあるよ。だってこんな水の中にある建物なんだから、何か間違いがあれば、水が入り込んできて全部沈むことになるんだし」

ともえは水に沈んでる窓の方を見る。しかしイエイヌは嬉しそうである。

イエイヌ:「でも、ともえさんなら見つけますよ。よし、なら私も張り切ってこの自慢の鼻で」

イエイヌは元気に嗅ごうとして、急に萎らせる。

イエイヌ:「そうでした。ここ鼻が利きづらいんでした」

ともえ:「大丈夫。他にもやれることはあるから。ね」

イエイヌ:「はい」

通路を曲がると、蛍光灯がゆっくり点滅してる。

ほんのり見える向こうは、瓦礫の山で塞がれてる。

イエイヌ:「あっ、さっそく私の出番ですね」

尻尾を揺らしながら、山へと向かってく。

山を登り、上から瓦礫を急いで取り除いていく。

イエイヌ:「思ったより、たくさんありますね」

その光景を微笑みながら見つめ、ゆっくりともえは歩いてくる。

蛍光灯は点滅してる。

窓の外に水が見える。その前をともえが歩く。

蛍光灯は点滅してる。

ともえは立ち止まり、ちらりとイエイヌの働きを見た後で、沈んだ湖の綺麗さに気づく。

そこに暫く見惚れてる。

蛍光灯は点滅してる。

イエイヌが瓦礫を取り除く音が続く。

蛍光灯の点滅と、その音はさっきより増してくる。

その音のうるささにイエイヌが振り返ると同時、蛍光灯がふっと消える。

一旦景色が暗くなった後、再び蛍光灯の点滅が始まる。

そこでイエイヌは、廊下の向こうに立つアムールトラの姿を目撃する。

イエイヌの全身の毛が逆立つ。

イエイヌがともえの名を叫ぶ。

ともえがイエイヌの方を向く。次にイエイヌの視線が向く、廊下の方に目を向け、アムールトラがいることに気づく。

ともえは驚き、身体を強張らせ、尻餅をつく。

ふらふらしながら、アムールトラが近づいてくる。

イエイヌは両者に目を向けながら、逃げ場所がどこかにないかあちこち視線を向ける。

舌打ちをして、瓦礫の山に目を向ける。

イエイヌは、猛スピードで瓦礫の山を掘る。板や鉄くずや壊れた電化製品などが、ともえがいない方に落ちていく。

ともえは首を振りながら、後ずさる。

アムールトラは近づいてくる。偶然足にぶつかった小石がともえの方に向かい、その頬に血の跡を走らせる。

ともえは声なき悲鳴をあげる。

イエイヌは振り返ると、目を金色にさせ、叫びながら更なるスピードで掘り進める。

穴が突き抜け、身体一つ通れる道ができる。

イエイヌは後ろに這いながら戻り、振り返る。

イエイヌ:「ともえさん!」

もうすぐそこまで近づいているアムールトラの前で固まっていたともえは、その声で金縛りが解ける。

地面を手で掴むようにして走り、必死にともえは瓦礫の山を登る。

追ってきてはこないと少し安心したイエイヌの前で、アムールトラはともえへと急に顔を向ける。

イエイヌ:「早くこちらに!」

足元を崩しながらも、ともえは何とか瓦礫の山を登る。

アムールトラも瓦礫の山へと向かう。

ふらふらしているので、最初はゆっくり上る。

ともえが瓦礫の後半に差し掛かる頃には、ふらふらが減り、着実に登れるようになってくる。

ともえが後ろを見て、近づいてくるアムールトラを見て、さらにスピードをあげる。

アムールトラも速度を上げてくる。

ともえは唇を噛み締めながら、急いで登る。

ともえの足元の板がズレ落ちる。

ともえは頭からアムールトラへと落ちていく。

それをぎりぎりで、手を伸ばしたイエイヌが掴み、無理矢理引き寄せる。

イエイヌはそのまま穴へとともえを突っ込ませる。

イエイヌ:「急いでください!」

ともえは這いながら、瓦礫の穴を通る。

針金が膝のタイツと足へと掛け、血の跡が走る。別の板の端が服の一部を切る。

アムールトラがあと二歩でイエイヌに触れる位置まで来る。

イエイヌが、瓦礫の穴へと身体を入り込ませる。

アムールトラの爪が、イエイヌがさっきまでいた場所に走る。

二人はどんどん這っていく。

アムールトラは紫の瞳で穴の二人を覗き、その場所から手を突っ込む。

もうすぐともえが抜けるところで、マフラーがコンクリート瓦礫に引っかかる。

イエイヌ:「どうしました!ともえさん!」

ともえ:「マフラーが!大事なマフラーが引っ掛かっちゃったの!」

イエイヌ:「首から解いて下さい!それで早く出ましょう!」

ともえ:「嫌だよ!それ、ここに置いていくってことだよね。あたしはちゃんと持ってくの!」

ともえは何とかして、その引っ掛かりを取ろうとする。

イエイヌ:「マフラーより、ともえちゃんの方が大事です!だから早く!」

ともえを後ろからイエイヌが押してくる。

ともえ:「押さないで!あたしはこれを持ってくの!」

イエイヌは舌打ちをして、後ろを振り返る。

アムールトラは手を伸ばすのをやめて、紫の瞳でこちらをじっと見ている。

ともえはマフラーの引っ掛かりを取ろうとするが、狭いのと暗いのとで上手くいかない。

アムールトラが穴に身体を入れてくる。

イエイヌは声にならない叫びをあげて、さらにともえを後ろから押す。

それでさらにともえが焦って、解こうとする。

後ろから来るアムールトラに怯えたイエイヌがさらに強く押す。

すると、マフラーの引っ掛かりが取れる。

ともえ:「取れた!今から出るよ!」

イエイヌ:「早くして下さい!」

ともえが身体を這い出し、外に出る。

イエイヌも急いで出ようとする。

ともえ:「あと少しだよ!」

イエイヌ:「あぁぁぁああぁ」

イエイヌが叫びを挙げながら、あと少しで出ようとする所で、アムールトラに足首を掴まれる。

イエイヌ:「あっ、脚がっ!」

ともえ:「イエイヌちゃん!」

イエイヌは目を金色にさせて、アムールトラの顔をおもいきり蹴る。

アムールトラは手を離す。

そこから急いでイエイヌは這い出る。

ともえ:「ごめんね!」

這い出た直後に、ともえはその穴に瓦礫を入れ始める。

その意図に気づいたイエイヌも、急いで瓦礫を入れ、ある程度埋まる。

イエイヌ:「行きましょう!ともえさん」

ともえ:「うん!イエイヌちゃん」

イエイヌは目を金色に光らせて、ともえを背負い、僅かな瓦礫の足場を跳び跳びで降りる。

イエイヌは地に着き、長い廊下を全力で走る。

あと少しで角を曲がる時に、後ろで瓦礫の山が吹っ飛ぶ音がする。

ともえがそちらを見ると、紫の瞳を強く輝かせたアムールトラが崩れた瓦礫の上に立っている。

アムールトラが雄叫びをあげる。

ともえが身体を強張らせる。

イエイヌが角を曲がる時、ともえの眼にはこちらへと走り始めたアムールトラの姿が見える。

ともえは身体を震わせる。

イエイヌはともえをちらりと見て、唇を噛み締める。

イエイヌ:「くそ。ガチの怪物退治じゃないですか」

ともえ:「ごめんなさい。あたし、あたし」

イエイヌ:「話は後です。とにかくここから逃げましょう」


 ●


イエイヌは壊れた通路を走る。階段を五段飛ばしで駆け上がる。開いた穴から下階へと跳ぶ。

一つの部屋にイエイヌは駆け込み、扉を閉める。

ともえはイエイヌの背から降り、イエイヌは瞳の色を戻し、床へと倒れ込む。

イエイヌ:「はぁはぁ」

アムールトラの雄叫びが聞こえる。

イエイヌ:「くそ。あんだけ走って、まだ付いてくるなんて」

イエイヌはむせる。

ともえ:「大丈夫?イエイヌちゃん」

イエイヌ:「なんとか、大丈夫です。それよりともえちゃんは、あいつを倒す方法を考えて下さい」

ともえ:「……イエイヌちゃん」

イエイヌ:「嘘ですよ。幾らともえちゃんでも、あいつを倒すなんて無理なのはわかってます。でも、私達がこの建物を出るまで足止めする方法は真剣に――」

ともえ:「イエイヌちゃん!」

イエイヌは倒れたまま、ともえの方を見る。

ともえ:「あたし、フレンズちゃんを傷つけたくない」

イエイヌは疲れを忘れて起き上がり、ともえを揺さぶる。

イエイヌ:「何を言ってるんですか!ともえさん!」

ともえ:「だって」

イエイヌ:「だってじゃないですよ!こっちがやらなければ、こっちが消えてしまうんですよ!」

ともえ:「でも」

イエイヌ:「でもでもないです!ともえさんは私達が消えてしまっても良いと言うんですか」

ともえ:「そうじゃない、けど」

イエイヌ:「けどでも、でもでもないですって!そもそもあいつはフレンズじゃないんです!フレンズの出来損ないなんです」

ともえ:「だからって、消してしまっても良いの?あたし達が消えてしまいたくないと思うように、アムールトラちゃんも消えたくないと思ってるんじゃないの?」

イエイヌ:「そんなわけないじゃないですか。だって、話が通じないんですよ!何も考えてないに決まってるじゃないですか!」

ともえ:「話が通じないなら消してしまってもいいの?それなら人間が話が通じなかった動物を消してしまうことも、正しいと言うことになるんじゃないの?」

イエイヌ:「確かに、昔はそうだったらしいですが、でも今それとこれとは」

ともえ:「違わないよ。あたしにとっては同じ。あたしはフレンズちゃんを消したくはない」

ともえは真剣な顔をイエイヌに向ける。

その顔にイエイヌはただただ驚く。

イエイヌが我に返る。

イエイヌ:「しかしそれではこの状況は」

アムールトラの雄叫びが響く。

イエイヌ:「静かに!」

イエイヌはともえの口を手で塞ぐ。

アムールトラの歩く音が聞こえる。二人は部屋の片隅へと這うように進み、イエイヌはともえを腕の中に入れる。

イエイヌは壁に耳を当てる。

アムールトラの歩く音と、唸り声が聞こえてくる。それは段々と近づいてくる。

ともえは身体を震わせる。イエイヌはともえを強く抱きしめる。

音は段々と二人の壁の手前、壁、そこを通り、ドアの前に。

イエイヌは息を呑む。

コツコツと扉の前から離れる音がして、イエイヌが息を吐く。

突然、大きな音がして、扉の木片が宙を舞う。

二人が扉の方に目を向けると、扉には斜めの爪痕の穴が開いている。

そこから紫の瞳のアムールトラが二人を覗く。

イエイヌは叫び、金色の瞳をさせ、思いきり扉へと体当たりをする。

扉が吹き飛び、向こうにいたアムールトラは床へと倒される。

イエイヌはアムールトラの手足を掴み、取り押さえる。

ともえ:「イエイヌちゃん!」

イエイヌ:「逃げて下さい!私が抑えているうちに早く!」

ともえ:「アムールトラちゃん!やめて!聞こえてるんでしょう!あたしの話を聞いて!」

アムールトラは抗い、跳ね除けようとする。イエイヌは金色の輝きを強くさせる。

イエイヌ:「無駄です!ともえさん!そんなことせずに逃げて下さい!」

ともえ:「でも、イエイヌちゃんは!アムールトラちゃんは!」

イエイヌ:「走って!」

ともえが身体をびくんとさせた後、廊下へと走る。


ともえが逃げるのを見送った後で、イエイヌは微笑む。


 ●


場面:どこかの機械室。


ともえが泣いている。

暗闇の中、一人で泣いている。

近くに、カンザシフウチョウと、カタカケフウチョウが立っている。

カンザシ:「どうして泣いてるのだ、ヒトよ」

カタカケ:「どうして悲しんでるのだ、ヒトよ」

ともえ:「だって、あたしのせいでイエイヌちゃんが」

カンザシ:「生き物は全て死ぬものだ、ヒトよ」

カタカケ:「当たり前のことだ、ヒトよ」

ともえ:「イエイヌちゃんは消えてなんかない!必ず戻ってくる!」

カンザシ:「アムールトラから上手く逃げ切り、ここに来たところでどうするというのだ」

カタカケ:「お前達が、このホテルから逃げるには、ここはあまりに遠すぎるのではないのか。お前はアムールトラと戦わなくてはいけないのではないか」

ともえ:「でも、それでもあたしは傷つけたくないの!フレンズちゃんを見捨てたくはないの!」

ともえは、泣きながら立ち上がる。

ともえ:「あたしは読んだの!イエイヌちゃんの家にある本で、アードウルフちゃんがいた村の本で、いかに人が動物達を傷つけてきたか読んだの!」

撃ち落とした大量の鳥の上で勝ち誇る大人の絵。銃を突きつけながら眠っている象の象牙を切り落としている大人の絵。檻の中でガスを浴びながら悲痛な叫び声をあげている犬と、それを無言でモニター越しで見ている大人の絵。

ともえはマフラーを握る。

ともえ:「あたしは、あんなふうになりたくないの!フレンズちゃんもあたしと同じ生き物だもん!あたしは同じ生き物を傷つけたくないの!」

カンザシとカタカケは無言になる。

カンザシ:「なるほど。そういうことですか」

カタカケ:「ならば、仕方ありません」

様子の変わった二羽を、ともえは怪訝そうに見る。

ともえ:「――んっ。あぁぁ」

ともえの身体は震えだす。身体を抱きしめ、膝は折れ、顔を地に付ける。

ともえ:「うわぁぁぁぁあああぁ」

カンザシフウチョウとカタカケフウチョウは叫ぶともえを見下ろしている。

カンザシ:「緊急事態ですので、使わせていただきます」

カタカケ:「おそらく一度きりのこれを使いたくはありませんでしたが、ここで死なれるよりましですからね」

ともえ:「うわぁぁぁぁあああぁ」


二人:「「亡霊の我々が、あなたをお守りしましょう」」


ともえの叫びが暗闇に響く。



 ●


場面:どこかの機械室。


イエイヌはふらふらで扉を開ける。

向こうに立っているともえを見つける。

イエイヌ:「あぁ、良かった。ともえさん。よくご無事で。あいつ大変だったんですよ。あの時あいつの気が逸れなければ」

イエイヌが歩いて、ともえの後ろに立つ。ともえは振り向かずに上の方を見てる。イエイヌは言葉を失う。

イエイヌ:「・・・ともえ、さん」

ともえは向こうを見てる。

ともえ:「あたしに、考えがあるの」

イエイヌ:「考えとは、なんですか?まさか、アムールトラを説得するとか言いませんよね!」

ともえはイエイヌの方に無表情で振り向く。

イエイヌはその顔に驚く。

ともえ:「アムールトラを殺す方法だよ、イエイヌちゃん」

イエイヌは目を見開く。


無表情でいるともえの赤眼が、黄色と青色に光る。

その後ろの闇に、大きな機械が威容を誇っている。



 ●


場面:どこかの廊下


オオセンザンコウが歩いている。

とある部屋の前に止まる。

オオセンザンコウがノックをする。

反応がないので、鍵を取り出し、そこの扉を開ける。

中は暗闇で何も見えないが、何かの影がある。


センザンコウ:「あのハブというのは、面倒を一応は見るのだけど、食べ物を独占したがってる。それで相手に対して優位に立とうとしている」

中にいる影が呼吸で上下に動いているのがわかる。。

センザンコウ:「おまけに口が悪く、余計な一言を言っては、周りを傷つけてくようなフレンズだ。そこから離れたくても、食べ物を持っている以上、他は我慢せざるを得ない。だからずっと心は傷つき続けて、とうとう病んでしまうというわけだ」

中にいる影が、びくりと反応する。

センザンコウ:「一つ、君が知りたいことを教えてあげようか。あの食糧庫の開け方なんだけどね」

中にいる影が大きく動く。呼吸でさらに上下する。

センザンコウ:「あれは何もハブだけが持つ技術によって、開くようになってるわけじゃない。観察すればよくわかるのだけど、ハブは開ける前に不要とも言える動きをし、開けた後にはとある場所に手を入れてるのがわかる」

センザンコウ:「そうすれば後は予測と知識の問題だ」

センザンコウ:「電子キー。それがあの場所を開ける鍵となっていて、それはあのパーカーのポケットに入ってる」

中にいる影が呼吸でさらに上下する。

センザンコウが開いた手を閉じる。再び開くと、中には電子キーが入ってる。

センザンコウ:「そして、その鍵はここにある。これがあればあの場所はキミの物になるというわけだ」

センザンコウ:「なぁ、これをあげるからこの部屋から出てはくれないか?――怪物ちゃん」



 ●


アムールトラが歩いている。

ふらふらと歩いている。監視カメラの前を通る。

扉の前に立つ。がつがつと何度も前に出た後で、うるさそうに手を強く払うと扉が破壊される。

扉を踏みしめ、アムールトラは中に入る。

アムールトラは横に突然やってきたフォークリフトの、そこだけ開いた木箱の中に突っ込まれる。

猛烈な勢いのまま、壁際にある扉が開いた鉄箱へと向かう。

ぶつかる直前、運転席にいた何者かが飛び降りる。

別の壁に位置にいた何者かが、スイッチをあげる。

鉄の箱にぶつかり、木箱が砕け、中のアムールトラが飛び出すと、その身体が鉄の箱へと吸い寄せられる。

吸い寄せられた身体が鉄の箱に接触すると、電流が走り、でかい火花が散った。

アムールトラの身体は、接触したまま痙攣を繰り返している。

ランプを持った、誰かが歩いてくる。

ともえ:「大きな電力は、生物の身体を引き寄せる力がある。そして勿論そこにぶつかると感電し、筋肉が痙攣し、自力では脱出できないようになる。そしてそこに長い間いると、当然死んでしまう」

ともえ:「これで、あの、アムールトラも終わりですか」

イエイヌが、怯えた顔でともえを見る。

ともえ:「こうなる前に、情けをかけてやるべきでしたね」

イエイヌが口を開こうとした瞬間、糸が切れたようにともえが崩れる。

イエイヌ:「ともえさん!ともえさん!」

部屋のあちこちで、爆発と火花が散る。

ジリジリジリジリと、警報が鳴る。

スピーカーがガガガとひび割れた音を出す。

スピーカー:「緊急警報緊急警報。ただいま下層のサンドスター発生装置が壊れました。これにより自動修復と、ポンプ機能は止まり、下層は水没の危険があります。下層にいる方は、係員の指示に従い、速やかに中層高層へと上がって下さい。繰り返します」

イエイヌ:「まじですか!ともえさんが大変だという時に!でも、とにかく早く上にいかないといけません!」

イエイヌはともえを抱え、急いで部屋を出た。

階段へと辿り着くと、下の階が水に沈んでいる。

イエイヌ:「これは本気でヤバいです。とにかく急がないとダメです」

イエイヌは階段を急いで登る。

その振動で、ともえが目覚める。

イエイヌはともえを見る。

ともえ:「あたしは何を……。あっ」

ともえがイエイヌの腕の中で暴れる。

イエイヌ:「やめて下さい!落ちたら危ないです!それに水がそこまで迫ってきてるんです!」

ともえ:「でも、助けないと!アムールトラちゃんを助けないと!」

イエイヌ:「何を言ってるんですか!ともえちゃんがさっき倒したばかりじゃないですか」

ともえはびくりと強く反応して、ぐったりとする。

ともえ:「(小さい声で)あれは、夢じゃなかったんだ。あたしはなんてことを」

ともえは帽子を掴み、顔を覆い隠す。

イエイヌは怪訝な顔をする。

後ろで水の大きな泡がボコッと鳴る音がする。

イエイヌは慌てる。

イエイヌ:「とにかくもう助けるのは無理です!早く上に行きますよ!」

ともえはぐったりとしたまま動かなくなる。

イエイヌはそんなともえを気遣わし気に見た後、眉を上げて階段をさらに駆けあがる。


あの電気室で、アムールトラの身体が沈んでいた。



 ●


場面:食糧庫の前


中にある怪物が食糧を貪っている。大きな手で袋を開き、二つごと口の中に放り込む。それを噛んで飲み込むより早く、手は次の袋へと手を伸ばし、開くことを続ける。


カチンと、音が鳴り、火が点く。

その火が移動すると、それは煙草に火をつける。

煙草の煙が吐かれる。

怪物が振り向くと、入口の扉に、オオセンザンコウが寄りかかっている。

センザンコウ:「そんなにいっぱい食べて元気なものだね。君の心は食べることによってしか、埋まらなかったというわけだ」

センザンコウは床に大量に落ちた袋を見る。

センザンコウ:「ただ、その穴は大きすぎて底なしで、幾ら食べても埋まらなかったようだがね」

センザンコウは鼻で笑う。怪物の唸りが聞こえる。

センザンコウ:「ここで一つ質問をしよう。なに、簡単なものだ。食べたままで聞いてても構わないくらいの問題だ」

センザンコウが真顔になる。

センザンコウ:「君は、その食糧をどうする?」

怪物の動きが止まる。

センザンコウはもう一度煙草を吸い、煙を吐く。

センザンコウ:「君には君を苦しめはしたが世話にもなった、ハブやオオミミギツネがいる。そしてこのホテルの外には食糧がなく苦しんで、今にも消えそうなフレンズ達が大勢いる」

センザンコウ:「それを知りながら、君はその食糧をどうしたいと思う?」

中から唸る音がする。

センザンコウ:「ん?なんだい?はっきり言ってもらわないとわからないじゃないか」

中から、より唸る音がする。

怪物:「こ、これは」

センザンコウは答えを待つ。

怪物:「こ、これは、この食糧は」

センザンコウは答えを待つ。

怪物:「全部、私のものだぁあ!」


怪物は、周りの食糧を手あたり次第全部寄せようとする。

その様子をセンザンコウは見ている。

煙草の灰が落ちる。

センザンコウ:「そうか」

センザンコウはポケットに手を入れると、中からトランシーバーを出す。

センザンコウ:「やってくれ」

ざざ、と音が鳴る。

アルマジロ:「はいよー。センちゃん」

食糧庫の天井のスプリンクラーが作動して、液体がまかれる。

怪物:「な、なんだこれは。あ、なんか臭い。これはなんだ!いったいお前は何をした!」

センザンコウ:「あぁ、これ?これはだね」

センザンコウは鼻で笑う。

センザンコウ:「君の答えに対する、世界からの返答さ」

センザンコウは手元にある煙草を、怪物の方へと飛ばす。

それが床にある液体に付くと、火が強く燃え上がる。

その火は巻かれ、怪物にも火がつく。

怪物:「うわあぁぁっぁぁ。熱い!熱いよ!」

火に呑まれる怪物を見ずに、センザンコウは廊下へと出る。

廊下にはハブとオオミミギツネがいる。

二匹を一瞥すると、ハブはオオミミギツネを促す。

びくりと反応したオオミミギツネは、ナップサックを二つ探偵へと渡す。

センザンコウは頷いて受け取る。

渡すと、二匹はセンザンコウに目を止めず、炎で燃える部屋の中を見る。

そこには火で暴れまわる、ブタのシルエットがある。

それは少しの間動くと床へと倒れ、そこでさらに動き回ってる気配がする。

二匹は目を細める。

二匹は手を繋いで、燃え盛る部屋へと入る。

二匹はセンザンコウへと振り返ると、今まで何万回もしてきたような、綺麗で丁寧なお辞儀をする。

そして顔をあげると、二匹はそれぞれ扉を閉める。


廊下には、センザンコウだけが立っている。


 ●


ともえ:「待って!」

センザンコウは声のした方に顔を向ける。

息切れしたイエイヌの前で、ともえがセンザンコウを睨んでる。

ともえ:「今、何をしてたの?燃える部屋の中にフレンズちゃんが入っていったように見えたけど」

センザンコウ:「その通りですよ」

ともえ:「それじゃあ、止めないと!」

ともえは歩こうとするが、疲れてて崩れてしまう。

センザンコウ:「何を言ってるんですか、あなた達は。これは依頼通りの内容です」

イエイヌ:「依頼?そうです!どうして私達を騙したんですか!怪物退治とかなんとか言って!」

倒れながらも、イエイヌは声を張り上げる。

センザンコウは皮肉な笑みを見せる。

センザンコウ:「ふん。そう考えてしまうのは、あなた達の責任です。あなた達が馬鹿であるせいですよ。もしくはヒトであるせいかも知れませんね」

イエイヌ:「くそっ!なんてやつなんですか!そんなわけないじゃないですか!ともえちゃんは」

ともえ:「私が馬鹿なせい……私が人間であるせい……」

イエイヌ:「ともえさん!あんなやつのことを真に受けてはダメですよ!あんなやつは私の爪で」

イエイヌが立ち上がり、目を金色に光らせて駆け出す。

ともえ:「ダメ!イエイヌちゃん!」

イエイヌは手を振りかぶり、オオセンザンコウに当たる直前で、糸が切れたかのように地へと倒れる。

イエイヌが床に倒れ、耳を強く抑える。

ともえ:「イエイヌちゃん!」

イエイヌを見下ろすセンザンコウの後ろから、アルマジロがやってくる。

アルマジロ:「私特製の、必殺犬殺し効いてくれたかなぁ?」

睨みつけるイエイヌを見て、アルマジロは笑い、その顔の前にトランシーバーのような機械を見せつけるように出す。

それを掴もうとするイエイヌを避けて、機械のつまみを回す。

イエイヌ:「うわぁぁぁぁあああぁ」

ともえ:「イエイヌちゃん!」

ともえが駆け寄る。

アルマジロ:「すごいでしょ、この機械。これは犬の耳と鼻の力をスイッチ入れた間弱くする上に、ほんの少しだけ動けなくする道具だよん」

センザンコウ:「しかし、動けなくするほどの強力な効果は10mくらいしかない代物ですけどね」

アルマジロ:「もう!それを言っちゃダメだよ、センちゃん。でも、弱い効果なら200mくらいは通用するんだから、十分すごいと思わない?褒めていいんだよ?センちゃん」

センザンコウ:「はいはい。すごいですね助手は」

アルマジロ:「もう!ちゃんと褒めてよ!」

ともえ:「もしかして、ここに入った時にイエイヌちゃんの鼻の効きが悪かったのは」

二匹はともえの方に顔を向ける。

アルマジロ:「そうでーす。私でーす。あんまり好き勝手動かれると困るからねぇ。そして」

センザンコウ:「あなた方は、もう用済みです」

センザンコウも、いつの間にか出したスイッチを押す。

どこかで爆発する音がする。

ともえ:「いったい、何をしたの!」

センザンコウ:「あなた達と同じことです。中層のサンドスター変換装置を壊しただけです」

ともえ:「それなら!このホテルは!」

センザンコウ:「えぇ沈みますね。それも依頼でしたので」

アルマジロ:「そして、あなた方はもう用済みでーす。それが私達のシナリオでーす。ズバン」

手をピストルの形にしながら、アルマジロが言う。

ともえ:「どうして、あたし達まで」

アルマジロ:「だってー、探偵が去った後は全員死んでるってのが華だって、ある探偵小説で言ってたんだもん♪」

センザンコウ:「私は別にどうでもいいんですけどね」

アルマジロ:「えぇ。だって私殺したいもん。いいじゃん」

センザンコウ:「まったく。私が彼らを助手って言ったことを結構根に持ってますね。探偵は被害者だけでなく、ライバルポジションも必要ではなかったのですか?」

アルマジロ:「うーん。じゃあこっから脱出できたら、そういうことにしてあげようかな」

ともえは、二匹の会話の前で戸惑う。

その様子を見て、アルマジロは笑う。

アルマジロ:「じゃあ、そんなとこだから。あとよろしくね。私達は脱出するから」

センザンコウ:「まぁ、そうしましょうか」

二匹は廊下を駆けていく。

ともえは、走った二匹と下で苦しんでいるイエイヌを何度も見る。

イエイヌ:「(苦しそうに)今すぐ、追いかけて下さい。ともえさん。あいつらを追えば、安全に出れるはずです」

ともえ:「ダメ!今度は逃げない!」

ともえは倒れてるイエイヌに抱き着く。

ともえは涙を浮かべている。

イエイヌ:「それでも!」

ともえ:「言ったよね、前に!あたしは弱くて、一人で外を歩いたら簡単に死んじゃうって!だから助けてって!」

イエイヌ:「……それは」

ともえ:「だから、ずっと一緒だよ!最後まで私を守ってよ!」

ともえはイエイヌをさらに強く抱きしめる。

イエイヌ:「……ともえさん」

イエイヌは膝に震える手を置きながら、立ち上がろうとする。そんなイエイヌをともえは支える。

ともえ:「大丈夫?イエイヌちゃん」

イエイヌ:「大丈夫ではありません。ですが」

イエイヌが何とか立つ。

イエイヌ:「泣いてる子を前に、倒れてる場合でもありませんから」



 ●


場面:ホテルの上層のあたりの廊下。


二人は息切れしている。

床に水が来てる。上からも水が流れる音が聞こえる。

イエイヌ:「くっ。水がもうここまで」

ともえ:「ごめんね。あたしが来た道を覚えきれなかったばっかりに」

イエイヌ:「そんなことはないです。ともえさんがホテルの構造を理解してたから、ここまであまり迷わずに来れたんです」

ともえ:「それでも、もうちょっと覚えてれば、沈む前にあの道を通れたのに。そうすれば」

ともえは泣きそうになる。

イエイヌはともえの両肩に手を置く。

イエイヌ:「終わったことを嘆いても仕方ありません。あそこはあぁするしかなかったんです」

ともえ:「でも、でも」

イエイヌはともえを抱きしめる。

イエイヌ:「大丈夫です。例えどんなことになっても、私はともえさんを責めたりしません」

ともえはぼろぼろと涙をこぼす。

イエイヌはともえと目を合わせる

イエイヌ:「それにともえさんは賢いですから、きっと地上への道を見つけますよ」

ともえ:「……うん」

ともえは力強く、頷いた。

二人の足元の水嵩が増していく。

ぶぅんと、どこかで蛍光灯が点滅する音がする。

その方向にともえが目をやると、目の前を青と黄色の蝶が舞い、どこかへと消える。

その消えた先を見て、ともえの目は驚愕に開かれる。



 ●


場面:ホテルの湖。探偵二匹が岸に立って見てる。アルマジロの隣の地面には、ナップサックが二つ置いてある。


センザンコウは黙って見てる。アルマジロは頭の後ろで腕を組んでふんふんと、楽しそうに見てる。

二人が見ている前で、開かれた屋上のドアから水が出てくる。

アルマジロ:「これでもうホテルは水に沈んじゃったねー。結局、二人は間に合わなかったかー」

アルマジロは、つまみがあるトランシーバー型機械(必殺、犬殺し)を湖に捨てる。

センザンコウ:「所詮、それだけの相手だったということです。行きますよ助手」

センザンコウは背を向ける。

アルマジロ:「はいよー。センちゃん」

センザンコウ:「だからセンちゃんはやめなさいと――」

センザンコウが急にホテルへと振り向く。

センザンコウは怪訝な顔をする。それを見て、アルマジロも振り返る。

湖から大きな泡が出る。それが段々と増えてくる。

大きな丸い機械がザバンと浮かび上がる。

アルマジロは口を開ける。センザンコウは驚愕に眼を開く。

プシュとドアが開く。

ともえに肩を支えられ、息を切らせたイエイヌが出る。

ともえ:「来たよ、探偵さん達」

ともえは屋上にイエイヌを下ろし、二人がいる岸の方へと向く。

アルマジロ:「おぉ、戻ってきたねぇ。これでもう私達のライバル認定かな。ね、センちゃん。……センちゃん?」

センザンコウはぶつぶつ言ってる。

センザンコウ:「おかしいそんなはずは。あれらは確か全部捨てたはずでどこにも残ってなどいないはず。するとやはりこれはあいつの、あのフレンズの――」

アルマジロ:「センちゃん?」

センザンコウは我に返る。

ともえは屋上の端の、すぐ近くまで来てる。

センザンコウは唇を笑みに吊りあげながら、胸に手を置く挨拶をする。

センザンコウ:「これはこれは失礼しました。私はこのパークにおいて探偵を名乗らせていただいております、オオセンザンコウと申します」

ともえ:「知ってるよ。嘘つきでろくでなしの探偵ってことは」

センザンコウ:「嘘つき?何を言ってるのでしょう」

ともえ:「忘れたの?あたし達をアムールトラちゃんの囮に使った癖に!」

センザンコウ:「何をおっしゃいますやら。あなたが勝手にそう勘違いしただけのことでしょう」

ともえ:「勘違いしただけ?」

ともえは鞄から紙束を取り出す。

ともえ:「これだけの図面を渡して、そう誤解するようにしたのは、あなただよね!」

ともえは紙束を床にたたきつける。

紙束のクリップが外れ、紙がバラバラになる。

センザンコウ:「それでも勘違いしたのはあなたですよ。あなたが強ければ、アムールトラを止めることもできたし、賢ければ嘘だと推理して、私の所にいることもできた。まぁそれだと燃えるフレンズを眺めただけでしょうけどもね」

ともえ:「どうして!どうしてあなたはフレンズちゃんを救わなかったの?そんなに頭が良いのにどうして!」

水に沈むアムールトラ。

火に燃えるブタ。

センザンコウの口の端が上がる。

センザンコウ:「そんなの決まってることですよ」

風が強く吹き、紙束が二人の間で舞う。

センザンコウ:「壊れたものは、排除するしかないからです」

ともえ:「あたしは、そうは思わない」

二人が睨み合う。舞った紙が水の上に落ちる。

センザンコウが背を向ける。

センザンコウ:「なら示してみることです。あなたの力で」

ともえ:「あたしはそうする」

鼻で笑ったセンザンコウが去ろうとしたところで振り返る。

センザンコウ:「そうそう言い忘れてました。報酬の件ですね。フウチョウ達の情報なんですけどね」

センザンコウは笑う。

センザンコウ:「そんなフレンズは、どこにもいません」

ともえ:「えっ」

センザンコウ:「私が調べた限りでは、フレンズが大量に誕生した30年前の時も、それ以前の記録でも」

センザンコウ:「そんなフレンズが、ここにいた記録はありません」

ともえはセンザンコウを見つめる。

センザンコウはともえを見返す。

センザンコウは口元を吊り上げる。

センザンコウ:「生まれなかった存在は、君をどこに導くんでしょうね」

センザンコウが去る。

ともえ:「オオセンザンコウちゃん!」

センザンコウは指を鳴らす。

アルマジロが、床に置いた袋をともえへと投げる。

ともえが手で防ごうとする。

ぶつかる直前で、いつの間にか来てたイエイヌが、その袋を後ろへと叩き飛ばす。

その袋が屋上へと落ちる。

イエイヌが岸を睨みつけるも、既に二人はいない。

イエイヌが袋をちらりと見ると、中からジャパリメイトの袋が零れる。

イエイヌ:「約束の報酬ってところですか。あれだけのことをしといて、こんなもので済ます気ですか」

イエイヌは牙を剥いて、唸る。

ともえ:「これで済ませないよ」

イエイヌが驚いて、ともえに顔を向ける。

ともえが一歩、前に出る。

ともえ:「次は、絶対に負けないから」


並び立った二人が、誰もいない岸を見ている。



 ●


(ED 祝詞兄貴のやつ)



 ●


場面:センザンコウとアルマジロが雪降る森を歩いてる


アルマジロ:「ねぇねぇ、センちゃん。センちゃん」

センザンコウがうるさそうに振り返る。

アルマジロ:「結局、目的のものって見つかったの?ブタがいた部屋の隣にあったんでしょ?」

センザンコウが懐から、古びた一枚の紙を取り出す。

センザンコウ:「これです。これが手掛かりになります」

アルマジロ:「えぇ!ホテルを沈めて、ビーストまで殺したのに、まだ答えじゃないのー」

センザンコウ:「何を言ってるんですか。答えに近づいてるのですから立派な進歩ですよ。それに」

センザンコウはアルマジロを見る。

センザンコウ:「ビーストはあのくらいで死んだりしません」

アルマジロ:「うげ。あいつまだ生きてんの」

センザンコウ:「あれくらいで死なないことは、何度も戦ってる私達がよく知ってることではないですか」

アルマジロ:「いやー。さすがにもういい加減に死んでくれないかなぁって。さすがに私の機械もネタ切れだし、もう会いたくないよぉ」

センザンコウ:「そんなこと言っても必ず会いますよ。ビーストにも、ともえさん達にも」

うんざりした顔をするオオアルマジロの前で、オオセンザンコウは手にした一枚の紙を見て、呟く。

センザンコウ:「そう。ここを目指せば、二人にも会いますし、私の目的も叶うでしょう」

手にした紙に風が吹いて、音を立てて揺れる。

センザンコウ:「パークができた理由。つまりはフレンズが生まれた意味がわかるのです」

センザンコウは紙を握りつぶす。


センザンコウ:「待ってて下さい。――博士」


















…………………………………………………………………………


――そう。これは私が覗いた異世界のけものフレンズ。


探偵達の存在は、皆に衝撃を与えました。

結果として危害を加えることがあっても、積極的に相手を殺そうとしたフレンズはいなかったからです。

これは今までのたのしー世界とは違うとわかってたはずだが、まだ気分として驚きを与えられるとはと、その自分に驚いたという人が結構な数いたとの話です。

まぁ、それより多くの驚きがこれから待ち受けているわけなのですがね。


――この五話の時、たつき監督はどうだったかって?


ほぼ動きはなかったので、特に語ることはありません。

それより、たつき監督のことを話していた公式ツイッターが何も言わなかったことの方が話題になってました。


もしかしたらたつき監督に何かあったのでは?の話題の中、

彼らは、たつき監督に何かあった時は発信はどうするのか?について話し合ったと聞いています。


本来ならもっと早く話し合っておくべきことを、ようやく行ったのは、今まで背を向けてきたことに、本気で向き合わなければならない時が近づいたと、スタジオの皆が悟ったからだと



――そう、後で語っています。


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