第3話 『えがおのゆくえ』


 登場人物

ともえ(ヒト)

イエイヌ


レッサーパンダ

パンダ


????



※今回は変則的に、アニメ脚本風でなく、舞台脚本風です。


「え?作者の演劇経験ですか?寺山修司しか見たことないです」



 ●


場面:暗転中

 

イエイヌ:「宝探しですか?」

レッサー:「はい。絶対的アイドルパンダちゃんが遺した、大量の食糧。それを探す偉大な旅です」

イエイヌ:「はぁ。で、そのすごいアイドルだかの、パンダさんの地図を、どうしてあなたが持ってるんですか?」

レッサー:「それは私が、パンダちゃんの相棒だったからです!」


場面:演出は劇場。そこに手を広げたレッサーと、それを見ているイエイヌ。その後ろで俯いて黙っているともえ。


場面:暗転



 ●


スポットライトがつく。

パンダが下を見ている。

ゆっくり顔を上げると、笑顔を浮かべる。

音楽が始まる(OPの代わり)

パンダが躍り出す。



『白黒させないで』


ミツメテル ミテイナイ ミツメテル ミテイナイ


転がって落ちるもの それは恋というけど

些細なものだって  楽しんでいたいのよ


ミツメテル ミテイナイ ミツメテル ミテイナイ


あなたはここにいる 私は隣いる

下らないことだって 覚えていたいのよ


ミツメテル ミテイナイ ミツメテル ミテイナイ


それは雨の夜 いいえ朝焼けの たぶん放課後の 

きっと何気ない


その瞬間(とき)はあいまいっ☆


白黒させないで あなたから言わないで

今を引き延ばして 思い出にさせないで

この時は一つだけ ずっと変わらないで


二人特別な今 甘酸っぱいドキドキを


あと少しもう少し 味わっていたいのよ


ミツメテル ミテイナイ ミツメテル ミテイナイ

ミツメテル ミテイナイ ミツメテル ミテイナイ





舞台の端にレッサーが立っている。

レッサー:「それは一目ぼれでした。いいえ私だけでなく誰もが好きになる絶対的アイドル。それがパンダちゃんでした」

レッサー:「見て下さい。あの円らな瞳を。愛らしい笑顔を。心を甘くとろかせる歌声を。目で追わずにはいられない魅了する踊りを」

レッサー:「誰もが彼女を好きにならずにはいられませんでした。ネコ科もイヌ科も鳥科のフレンズも、身体の大きな象や、恐ろしいライオンのフレンズだって彼女のことが大好きでした」

レッサー:「そして勿論、この私も」

レッサーが踊ってるパンダの方に手を伸ばすが、諦めて戻る。

レッサー:「でも、私は彼女を愛せませんでした。彼女に憧れて、かわいいアイドルになることもできませんでした。何故なら私は」

レッサー:「道化だったからです」


場面:暗転


場面:何か揉めてる舞台。レッサー含め多数のフレンズがいる



フレンズ1:「おい、お前舐めてんのかい」

フレンズ2:「なめてへんなめてへん。つうか、お前の方がつっかかってきたんやないんか」

フレンズ3:「ふん。そうやってシラを切ってられんのも、今のうちやで」

フレンズ2:「何があるって言うんや」

フレンズ3:「うちのレッサーさん怒らせたら、どないなるかわかってんやろうな」

フレンズ2:「どないなるんや」

フレンズ1:「ほな、先生。よろしくたのんます」

レッサー:「ん」

レッサーが肩をいからせて歩いてくる。相手のフレンズ2がビビってる。

レッサーがフレンズ2を近くで睨んでから止まる。

そしてバッと、身体を前屈姿勢に。

前屈から戻そうとして、戻さないフェイント。ちらりと見る。フレンズ2がビビってる。

もう一回フェイント。フレンズ2がビビる。

そこからレッサーパンダの威嚇のポーズ。


フレンズ全員「「「かわいいやないかーい!」」」で転がる。



レッサー:「それは私が求めていた、かわいいではありませんでした。私もパンダちゃんみたいに歌って踊って、それでかわいいねってみんなに言って欲しかったんです」

レッサー:「だけど、私にできることはこれだけで、みんなを笑わせるしか力がなくて」

レッサー:「でも、それでも、私は必要とされてると思っていたんです」

レッサー:「思い込もうと、していたんです」


場面:暗転


 ●


場面:雪降る草原の舞台。


イエイヌが草原の臭いを嗅いでいる。

レッサーが地図を見てうなりながら、横にしたり逆さにしたりしている。

ともえは俯いて付いていく。

イエイヌはまだ匂いを嗅いでいる

レッサーは首を傾げながら地図を見ていたら、傾げすぎてそのまま転がってしまう。

イエイヌが立ち上がり、駆け寄ってきたら、地面に落ちた地図を見て驚いたように指を差す。

それを見て驚いたレッサーは慌てて地図を拾い、ドタドタと駆けて舞台袖に消える。

それをイエイヌも追いかける。

ともえは、俯きながら歩いて消える。


 ●


場面:暗転


イエイヌ:「これは何ですか?」

レッサー:「マイクというものです。遠くまで声を届かせることができる道具です」

イエイヌ:「なんでこれが埋まってるんですか?これが宝なんですか?食べられそうにもないですが」

レッサー:「いいえ。これは厳密には宝ではないです。でもおそらく、宝探しが正しい方向に向かっている証拠みたいなものだと私は思います」

イエイヌ:「それが、どうしてわかるんですか?」

レッサー:「だって、これは」

レッサー:「私とパンダちゃんの、思い出の品だからです」 


場面:暗転


 ●



場面:舞台の上。


フレンズ1:「お前、いい加減にしろ!」

フレンズ1と2:「「ありがとうございましたー」」



レッサー:「それは、まばらな拍手でした」

レッサー:「いいえ、彼らが面白くなかったわけではありません。彼らに人気がなかったわけでもありません」

レッサー:「そもそもフレンズ達はみんな、大して面白いものでなくても、楽しく笑うそんな方々ばかりで、お笑いライブを開いたらたくさん来て、楽しんでくれるものでした」

レッサー:「それが更に大人気のアイドルライブと一緒にやってもこれだけしか来ない上に、笑えない暗い顔をしてるのは、あの事件のせいでした」

レッサー:「そうです。食糧が足りない為に、多くのフレンズが自ら死を選ばされた、あのことがあったからです」

レッサー:「だからここにいるのは死ねなかったフレンズ達なんです。自力で食糧を得る力もないまま、何となく死ねないと生き延びてしまった、迷惑なフレンズ達でした」

レッサー:「だから、この舞台の最後に、あんなことになってしまうのは、当然のことだったのかも知れません」



蝶ネクタイしたレッサーが、ジャパリメイトの袋を入れた滅茶苦茶長いシルクハットを持って舞台に現れる。

レッサー:「やーやーやー。今日は皆さん、こんなにたくさんの方に集まっていただいて、感謝感激アミメキリンってところですね。あなたはヤギね!なんちゃって」

客に反応なし。

レッサーがでかい帽子に比べて三分の一しか埋まってない食糧を、じっと見る。

レッサー:「いやいや何でもないですよ。いやー本当に素晴らしい。こんなご時世の中、わざわざここまで足を運んでいただいて、こんなにたくさんのものを貰えて、パンダちゃんも笹を食ってる場合じゃないのかもしれないです」

パンダが舞台の端から出て、くるりと回って一礼をして去る。

袖からレッサーに向かって、拳をぐっとさせる頑張ってのポーズをする。

レッサーは頷く。

レッサー:「いやはや、パンダちゃんは本当に魅力的です。あんなに歌えて踊れるアイドルは、パークの歴史を、人類の歴史を探したってないでしょう。でもね」

レッサーは長いシルクハットを頭に被る。

レッサー:「きっとあなたにだってパンダちゃんに負けない魅力はいっぱいあるんです。だから」

レッサーは観客を指差すポーズをした。

レッサー:「あなたもアイドルをしてみませんか?私達はあなたを必要としています」



レッサー:「それは、特に意味のない挨拶でした」

レッサー:「ヒトの中に昔、そういう舞台をしてた人がいたというのを偶々聞いたので、それを真似ただけのものでした」

レッサー:「それがきっかけでアイドルになった子もいるので、完全に無駄とまでは言いませんが、食糧が減り、数を抱えるのに大変な事情になった今、増やすわけにはいかないものでした」

レッサー:「あ、ちなみにその時私は、芸人とアイドルの舞台を率いる座長をやっていたんですよ」

レッサー:「すみません。関係ない話ですよね。で、そうして昔からの習慣で思わずやってしまった挨拶の後、それが起きてしまったんです」



レッサー:「やーやーどうも。じゃあこれにて『絶対アイドルパンダちゃんと愉快なレッサー一座』の公演はお開きということで。ん、どうしました?」

一匹のフレンズが、舞台に向かって歩いてくる。

そのフレンズは舞台の段に上がる。

レッサー:「いやはやどうしました?もしかして、私のサインかな?んなわけないよね。でもパンダちゃんのサインはさすがに。ってあれ?」

他のフレンズも、少しずつ舞台に歩いて、上がってくる。

レッサー:「ちょっと、こんなにたくさん。どうしたの?だから困るって。いやー人気者は辛いなーははは」

レッサーが上がってくるフレンズを押しとどめようとするが、できずにフレンズがどんどんと舞台に上がる。

そして観客のフレンズ達が全員、舞台にあがった。

レッサー:「えーと。君達、どうしたの?」

フレンズ1:「私達、あなたに言われたから、ここに上がってきたんです」

レッサー:「え。私が言ったことってなんだっけ?パンダちゃんがかわいいって話だっけ」

フレンズ2:「違います!最後の話です!」

レッサー:「最後?」

フレンズ3:「私達みんな、アイドルになりたいんです!」

大勢のフレンズ:「「「「なりたいんです!」」」」


レッサーがこちらへと振り返る。


レッサー:「えーーーーーーーーーーーーーー」



場面:暗転


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場面:雪降る草原の舞台。


イエイヌが地図を持ちながら、木を登ってるレッサーに指示を出してる。

レッサーが落ちそうになりながら、木を登っている。

ともえは俯いている。

レッサーがわたわたと木をさらに登り、舞台の上に消える。

イエイヌがはらはらしながら上を見てる。

イエイヌが驚いて、顔を覆う。

突然、足にロープを繋いだレッサーが、ビヨンビヨンと落ちてくる。



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場面:暗転


イエイヌ:「これは何ですか?」

レッサー:「ロープですね。身体の一部を繋いでしっかりしたものに引っ掛けておくと、落ちても大丈夫なんです」

イエイヌ:「なるほど。これも思い出の品なんですか?」

レッサー:「そうですね。これは正確にはパンダちゃんの思い出ではないんですが、まぁあの日々の思い出ですね」

イエイヌ:「あの日々?」

レッサー:「えぇ」

レッサー:「無理矢理入ってきた、アイドル達に振り回される日々です」



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場面:舞台の上を三分割で分けて、それぞれにフレンズと背景がある。


フレンズ1が泳いでいる。その背中にレッサー乗せている。

レッサー:「まったくもう!泳ぎながらライブって、できるんですばばば」

水の中に沈む。浮き上がる

レッサー:「ぺっぺ。いくら後ろから衣装抑える人が必要だからって、私がべべべ」

水の中に沈む。浮き上がる。

レッサー:「いやだから、これ無理ぶぶぶ」

水の中に沈む。浮き上がる。

レッサー:「うぇうぇ。死んじゃばばば」

水の中に沈む。暫く出てこない。

レッサーがぷかんと浮かんでくる。



フレンズ2が身体にタオルを巻きながら、温泉の隣で踊る。

後ろでマイクのコードを、レッサーが持っている。

フレンズ2が躍ると、だんだんレッサーに近づいてくる。

レッサー:「こんな湿気の高いところで、マイクは使いたくないんですけど」

レッサー:「それに、そんな恰好で踊るというのも。脱ぐとせくしーだからって言われましたが、別にフレンズはそういうもの求めてないような。ってうわ」

フレンズ2のお尻に押されて、レッサーが頭から温泉に飛び込む。熱さのあまり、すぐに上がってくる

レッサー:「アチチ! まったく!何をするんです!」

踊って戻ってきたフレンズ2のお尻に押されて、レッサーはまた落ちる。上がってきて、のたうち回る。

レッサー:「ふぅふぅ。身体が!身体が!」

フレンズ2のお尻に押されて、また落ちる。

レッサー:「アチャチャ。チャチャチャ、チャチャチャ、ウ!」

レッサーがポーズを決める。



フレンズ3が橋の上で踊ってる。

レッサーが橋にしがみ付いている。

レッサー:「も、もう。どうしてこんな風の強いところでアイドルライブなんか」

強い風が吹く。看板が飛ぶ

レッサー:「うわ、看板が!」

強い風が吹く。フレンズが落ちていく。

レッサー:「あ!お客様が!」

強い風が吹く。レッサーも落ちる。

レッサー:「って、私もうわー!」

足にロープが付いててビヨンビヨンと、レッサーがなる。

レッサー:「アイドルのプロデュースって、ほんと大変!」



場面:暗転


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場面:雪降る草原の舞台。


ソリでレッサーが、ともえとイエイヌを追いかけている。

舞台の端に消えたら、逆からまた追いかける。

そのたびにパンダは、毎回違ったアイドルポーズを決める。

イエイヌは両手を挙げて逃げる。

ともえは下を向きながら走ってる。

途中でともえは、ソリが通らない舞台の前側に来て、膝を抱えて座る。




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場面:暗転


イエイヌ:「これは服ですよね」

レッサーは無言。

イエイヌ:「ヒトのものですか?」

レッサー:「・・・違います」

イエイヌ:「じゃあ、アイドル用に作った衣装とかですか?」

レッサー:「それも違います」

イエイヌ:「じゃじゃあ。もしかして、これはフレンズの……」


 ●


場面:たくさんのアイドルが躍るが観客は一人。それを陰からパンダが見ている。


踊りが終わり、皆で手を繋いで一礼をする。

よろよろと客のフレンズがこちらに来て、封が開いたジャパリメイトの袋を渡すと、両手を合わせて拝み、にこりと笑って、サンドスターをきらきらさせて消える。

消えるのをアイドル達は笑顔のまま見送る。

光が終わったら真顔に戻り、袋からジャパリメイトを出す。

一本しか入ってないので、それを手で砕いた後で、その欠片をアイドル達は一人ずつ貰い、一斉に口に入れる。

皆で上を見上げた後、それぞれが気怠いポーズを取る。

フレンズ1:「少ないわね」

フレンズ2:「そうね。とても足りないわ」

フレンズ3:「もっと、たくさん食糧を持ってるフレンズがいればいいんだけど。でも持ってることで有名なあの子達は、私達なんて興味がないしね」

皆が溜息をする。

突然一人のフレンズが倒れ、そのままサンドスターに消える。

誰もそちらを見ようとしない。

フレンズ1:「やっぱりアイドルが多すぎるんだわ。みんな舞台にあがっちゃって、ファンは誰がやるのよ」

フレンズ2だけがそちらを見る。

フレンズ2:「(皮肉気に)代わりばんこでやるのはどう?それで、今まで貰った袋を渡すの」

フレンズ3だけがそちらを見る

フレンズ3:「そんなの嘘よ。それに、袋を皆で回しっこしたって、全体の量が増えるわけでもないわ。虚しくなるだけよ」

皆が無言になる。

影から見ていた、パンダが飛び出す。

パンダ:「もう、こんなのやめよう」

全員がそちらを見る。

パンダ:「こんな無暗に傷つけあうのは良くない。とても辛いだけだよ。アイドルなんてどうでもいいでしょ?」

パンダが懐から大量のジャパリメイトの袋を出す。

パンダ:「それに食糧なら私が分けてあげるから。ね。だからみんなで笑っていようよ。ね?」

床に横になってたフレンズが目を開けて、ふらふらとパンダに近づいていく。

パンダに近くなったところで、フレンズ2がそいつを捕まえ、殴り、吹っ飛ばす。

フレンズ2:「餌を分けて貰ったら、アイドルは終わり。だからこいつはアイドルじゃない」

フレンズ3:「そうね。だから餌を貰える限り、どんなに辞めたくてもアイドルは終わらない」

フレンズ1がパンダの前に来て睨む。

フレンズ1:「だから私達は、たくさん貰えるあなたがアイドルを名乗らないことを許さない。そしてあなたが私達に施しをすることを許さない」

フレンズ1がパンダの持っていたジャパリメイトの袋を叩き落とす。

さっき殴られたフレンズが、サンドスターになって消える。

フレンズ1:「そうだわ。呼び込むのではなく、直接会いに行きましょう」

フレンズ3:「いいわね。直接乗り込むアイドルも新しいと思うわ」

フレンズ2:「なら行きましょう。まだ見ぬファンが、私達を待ってるわ」

アイドル達が皆、決めポーズを取る。



場面:薄く暗転


歩いていくフレンズ達の前に、レッサーが現れ前を見ている。

レッサーは、スポットライトの場所から、アイドル達の動きを見てる。



アイドル服を着たフレンズ達が、雪の中を行軍している。

見つけたフレンズに頭を下げるが、断られる。


アイドル服を着たフレンズ達が、雪の中を行軍している。

見つけたフレンズにポーズを取るが、逃げられる。


アイドル服を着たフレンズ達が、雪の中を行軍している。

見つけたフレンズに断られたので、そいつの首根っこを掴むが、皆が止める。


アイドル服を着たフレンズ達が、雪の中を行軍している。

歩いていたフレンズが倒れ、皆がその周りに立ち、じっと見つめている。


アイドル服を着たフレンズ達が、雪の中を行軍している。

見つけたフレンズを集団で追いかけ、羽交い締めで身体の自由を奪いながら踊りと歌を見せる。

捕まえたフレンズから袋を奪い、それをフレンズ同士で奪い合おうとする。

レッサーが間に入って、変顔をしたり、変な踊りをして笑わせようとするが、吹き飛ばされて、雪に頭から突っ込む。



場面:暗転


レッサーは俯いている(アイドルの場面が終わったら、レッサーへとスポットライトが切り替わる)


アイドル達がマネキンのある右の方に歩いて通りすがると、そのマネキンは倒れていく

アイドル達が何もない左の方に歩いていくと、今度はアイドルが倒れて置いていかれる。


レッサーは膝をつき、頭を抱える。


どじょうすくいの動きをしたアイドルが、ジャパリメイトの袋を貰う。それを別のアイドルが目撃する。

別のアイドルが同じようにどじょうすくいの動きをする。

それを先にしてたアイドルに見つかり、殴りかかって二人が倒れ込む。


レッサーは膝をつき、頭を抱えている。


回ってポーズを皆で決める。

回ってポーズを皆で決める。

回ってポーズを皆で決める。

アイドルが一匹、前へとふらふら出てきて、声なく嘆く。

回ってポーズを残りの皆だけでやる。

それを繰り返すたびに一匹一匹と無言で嘆くのが増えていく。

皆嘆いたら、全員で一回ふらふらと回って、崩れたポーズを決める。


レッサーは顔を手で覆っている。


踊って倒れたアイドルが、他のアイドルに置いていかれる。

そのアイドルは倒れながら、手を伸ばしている。

後ろにいたアイドルが立ち止まり、そいつに手を差し出し、支えられて立ち上がる。


レッサーは覆った顔の隙間から、こちらを見る。


アイドルが整列している。

ジャパリメイトの袋を幾つか持っているアイドルの前に立ち、その数を確認してる刀を持ったアイドルがいる。

最後にいるアイドルが、自分の番が来るのを怯えている。

その番が来た時に、数えていたアイドルがそいつが何も持ってないのを見て、そいつを刀で切ろうとして、怯えてたアイドルが床に崩れる。

隣にいたアイドルが、崩れたそいつを支え、自分の持っていた袋をさも、その子が持っていたかのように取り出す。

それを見て、切ろうとしたアイドルは引き下がる。

呆然と、崩れていたアイドルがその子を見る。

その子は笑顔で頷く。


レッサーは手を下ろし、呆然とこちらを見ている。


汚い恰好をして、汚い袋を持っていたフレンズが、アイドル達の踊りを見ている。

踊りが終わると、そのフレンズが、アイドル達に向かって袋を差し出す。


レッサーは立ち上がって、こちらを見ている。


受け取ったアイドル達が、中を見て大量のジャパリメイトの袋があることに喜ぶ。

嬉しそうに飛び跳ねるアイドル達の一人を、そのフレンズが呼びつける。


レッサーは手を伸ばす。


そのフレンズは、そのアイドルの耳元に何かを話して、アイドルは目を見開く。

言われたアイドルは、他のアイドルも呼んで耳打ちをする。その伝達ゲームは、驚きを連鎖させていく。

全員に伝達が終わる。


こちらを一斉に見たアイドルの笑顔が一瞬、全員真顔になる。

突然、全てのスポットライトが赤くなる。


レッサーは、伸ばした手をゆっくりと回し、拳に握る。


場面:薄暗い舞台の後ろで、規律正しく笑顔で足踏み行進してるアイドル達。歩くごとに風景が流れる。


レッサーは狂気の顔で、拳を何度も振り上げている。

どこからか、手拍子とアンコールの声がする。


後ろの風景が遊園地の絵になった時に行進は止まり、アイドルは一斉に後ろの方向を向く。

アイドルがそちらの方向に駆け出した瞬間、レッサーや後ろの音は拍手と歓声を上げる。


場面:暗転


金色の眼をしたアイドルが、朽ちたメリーゴーランドに殴りかかって壊す。

別のアイドルは踊り、その手の振り付けごとに動かないゲームセンターにある機械を壊す。

他のアイドルは細い建物の飾りに次々と握手をして、その握力で飾りを握りつぶす。


破片が上がり、傷ついた血の中でアイドルが笑い、

柱が崩れ、落ちていく建物の中に笑顔のアイドルが呑まれ、

崩れていく光景の前に、パンダは頭を抱え崩れ落ちる。


最後にでかい観覧車の前へと残りのアイドルが集まる。

何をするかに気づいたパンダが、アイドル達の元へと急ぐ。

まだレッサーは拳を振り上げている。

金色の眼のアイドル達も、拳を振り上げる。


アイドル達が構えた後、全力で振り上げた拳で、観覧車は徐々にアイドル側に傾く。

その前にくるりとアイドル全員がこちらに笑顔で振り返り、互いに手を握って、一礼をした。


観覧車がアイドル全員を押し潰した。

その砂埃を浴びて、レッサーは正気に戻り、ただ立っていた。




場面:暗転


 ●


場面:遊園地の廃墟の前。雪が降っている


レッサーは大きな石の前で手を合わせていて、立ち上がり、後ろのともえとイエイヌに振り返る。

イエイヌ:「これがお墓というものなんですね」

レッサー:「そうですね。ヒトはここに骨を入れるそうですが、みんなはサンドスターで消えてしまったから、何もないんですけどね」

イエイヌ:「やっぱり、何も残らないんですね」

イエイヌはちらりとともえを見つめる。

レッサー:「えぇ。そうですね。残すとしたらやはり、生き残った側になってしまいますね」

レッサーは笑みを浮かべる。

イエイヌ:「ん?それはどういう?」

ともえ:「宝探しを仕込んだのは、パンダちゃんじゃなくてレッサーちゃんってことだよ」

イエイヌが目を見開き、ともえを見て、レッサーを見る。

レッサー:「そうですね。この宝探しは全部、私が仕込んだものです」

イエイヌ:「でも、どうしてそんなことを」

レッサー:「私は、私の罪を誰かに知って欲しかったからです」

レッサーは完全に崩れた遊園地の方を見る。

レッサー:「私はアイドルのみなさんを止めることができませんでした。彼女らに振り回され、彼女らに呑まれて、彼女らの狂気を止めることができませんでした」

レッサー:「だから、その責任を取ろうとしたんです。まぁ罰してくれる存在がいないので、せめて誰かに私がしたことを知って欲しかったんです」

イエイヌが笑顔のレッサーを見ている。

ともえは自分のマフラーを握った後で、レッサーを睨んだ。

ともえ:「レッサーちゃんの言ってることは嘘だよ」

イエイヌ:「嘘?それはどういうことですか」

ともえ:「あたしはずっと考えていた。あたしには何となく、この宝探しはレッサーちゃんの仕込みだと、早い段階で気づいていた。だから、なぜ自分で仕掛けた宝探しを、私達に解かせるのか考えていたの。そこにあたしが求める答えがある気がしたから。そしてようやくわかったの」

ともえ:「百科事典にあったの。あなたのような存在の呼び名を」

ともえは、笑顔のままでいるレッサーに指を差す。

ともえ:「あなたはただのファンじゃない。あなたはプロデューサーでしょ。あなたはアイドルに振り回されたんじゃなくて、あなたがアイドル達を振り回したの。これは全部あなたが仕込んだことでしょ」


レッサーは真顔に戻った後で、口だけでアハハと笑う。

レッサー:「何を言ってるんですか、ともえさん。あなたは全然わかってませんね。プロデューサーが全部を仕込めるわけがないじゃないですか。だってみんな生きてるんですよ?」

イエイヌ:「どういうことですか?」

レッサー:「プロデューサーにできることは、試練をアイドルに与えることだけです。相手が育つ困難な環境を作り、それを乗り越えることを期待することだけが、プロデューサーにできることなんです。まぁ試練である以上、そこで脱落する相手がいることは想定するものですけど。だけどまさか、全員消えてしまうとは思いませんでした。がっくりもしますよ」

イエイヌ:「そんな勝手な!フレンズは試すものじゃないですよ!」

レッサー:「フレンズはそうでしょう。でもアイドルは試すものなんですよ、イエイヌさん」

レッサーは石の上に登り、手を広げた。

レッサー:「あなたは笑いたくもないのに、自動的に笑みを浮かべてしまうことはありませんか?」

レッサー:「救いたい相手を前に、手に抱えたものでは何もできないと嘆いたことはありませんか?」

レッサー:「皆が笑顔になって欲しいくせに、本当の自分は見られたくないと、閉じたことはありませんか?」

レッサー:「それが道化なのです」

レッサー:「笑うしかない道化は自分で何もできず、周りをプロデュースすることしかできないのです」

レッサー:「そしてそんなものはいつだって上手くいかず、こんな光景を招いてしまうことしかできないのです」

レッサーは変な踊りを踊るが、途中で石からズレ落ち、頭を打った。

レッサーは動かず、天を仰ぐ。

レッサー:「あぁ。いつだって、私はこんな感じなんですよ」

レッサー:「一人だけ取り残されて、どいつもこいつも幸せそうに逝ってしまうんですよ」

レッサーは石を撫でると、二人に背を向けた。

レッサー:「これを墓石に選んだのは、前にパンダちゃんがいた竹林に似たものがあったからです。パンダちゃんは暇な日はこんなふうにここで寝転がっていました。話しかけられない私は、遠くからその寝顔を見ていることが好きでした」

レッサー:「私は私の罪を誰かに知ってもらって、そしてできれば糾弾されて終わろうとしていました」

レッサー:「だからもう終わりです。あなた達の非難は中途半端なもので、罪悪感で消えもできませんでしたが、これも私に相応しい末路です。私にもう語ることはありません」

レッサーが近くにあった木を後ろ手に差す。

レッサー:「宝探しも終わりです。景品の食糧は後ろの木を掘れば一カ月くらいはありますから、それを好きに持ってって下さい。それでもういいでしょ」

ともえは無言になる。

イエイヌがそこを掘ると、中から密閉袋に入った大きなジャパリメイトの袋が出てくる。

イエイヌはその袋を嗅いだ。

イエイヌ:「匂いがしない。この分厚い袋のせいですかね。なるほど。だから気づかなかったんですね」

イエイヌはともえの腕を持つ。

イエイヌ:「さぁ。行きましょう。いろいろありましたが、食糧は手に入ったんです。もうここにいる用はありません。こんな勝手で頭のおかしいフレンズは放っておいて、旅を続けましょう」

ともえは無言で、レッサーの背中を睨んでいる。

イエイヌ:「ともえさん?」

ともえ:「それで、レッサーちゃんはどうするつもりなの?」

レッサー:「どうもしません。私はもう消えるのみです」

ともえ:「なら、どうして消えてないの?」

ともえ:「あたしはまだ少ないけど、フレンズが一気に消える瞬間を見たことがあるの。フレンズちゃん達は絶望しきった瞬間に消えるものだし、まだ見てないけど望みが叶った瞬間にも消えるものらしいの。そうでしょ?イエイヌちゃん」

イエイヌ:「え、えぇ。そうです」

ともえ:「じゃああなたはどうして消えないの?非難された絶望も、非難されたかった望みも得たはずなのに、どうして消えてしまわないの?」

ともえは、マフラーを握りしめながらレッサーへと歩いた。

ともえ:「それは、あなたに生きたい理由があるからじゃないの?」

ともえはレッサーの肩を掴み、振り向かせようとした。

ともえ:「この」

レッサーは抵抗したので、ともえには振り向かせられなかった。

さらに力を入れようとする前に、レッサーが反応した。

レッサー:「生きたい理由?そうですね。それはあるかも知れないです」

レッサー:「非難を望みにして消えようとしましたが、それではダメだったようです」

レッサーが鼻で笑う。

レッサー:「あぁ。どうやら私が本当に欲しかったのは、皆が笑っていられる世界だったようです」

レッサー:「皆が楽しく生きていて、幸せそうで。そこで私がつまらない冗談や悪ふざけをして、それで少しでも笑ってくれれば、私はただそれだけで満足なフレンズだったんです」

レッサー:「私はパンダちゃんに笑える世界を託したのでしょうか、それともパンダちゃんが平凡で暮らしても皆が笑えてる世界を期待したんでしょうか」

レッサー:「きっと昔のジャパリパークはそんなところだったんでしょう。そこで生きる日々はどんなに楽しかったんでしょう」

レッサーはふふと笑った。

レッサー:「違いました。少しだけどそんな日々に元々私達だけはいたんでした。すっかり忘れてしまいましたが。あぁすると」

レッサーは、ともえへと振り向いた。

レッサー:「あなたは羨ましいんですね、楽しい世界にいられた私達のことが。こちらからすれば私の方が羨ましいんですけど。昔のジャパリパークを知らないあなたは、何にも焦がれず期待しなくていいでしょうし」

ともえは拳を握りしめる。

ともえ:「違う!あたしは焦がれてるし、期待してもいる!」

ともえは、手を横に払う。

ともえ:「世界はこんなんじゃないって!もっと楽しくて素敵な世界が待ってるって!食べ物に苦しまなくて、辛くても喧嘩をせず、傷つけ合わなくて済む、そんな楽しい世界がどこかにあって、作れるって!もし、そうじゃないのなら!」

ともえ:「あたしは、何の為に生まれてきたの!」

イエイヌが、目を見開いた。


 ●


場面:二話の回想


イエイヌ:「わかりましたよね、ともえさん。これが今のフレンズなんです。食糧の為に傷つけて奪い合って、自分の欲望の為に勝手に他者を閉じ込めて、狂って死ぬ。そんなフレンズしか、ここにはいないんです。そんなやつらの為にともえさんが傷つく必要なんてありません。私はともえさんが心配なんです」

ともえは首をさっきより強く横に振る。

イエイヌ:「だから、ともえさん。もう他のフレンズのことなんて考えないで、生き延びることだけ考えましょう。それでもういいじゃないですか」


 ●


場面:戻る


イエイヌは息を呑む。

ともえ:「だから、あたしが見せてあげる!あなたが望む、皆が笑える世界を!」

ともえはイエイヌが持ってた密閉袋を奪う。

イエイヌ:「いったい何を」

手こずりながら密閉袋を開けて、半分くらいのジャパリメイトの袋を取り出し鞄にしまう。残りが入った密閉袋を持って、寝転がるレッサーの元に戻ってくる。

ともえは、レッサーの顔の前に、その袋を置いた。

ともえ:「だからそれまで、これで生き延びて。あたし達も必要だから半分貰ってくけど、残りはまだあなたが持ってて。それでレッサーちゃんは生き延びてよ」

レッサーは返事をせず、つまらなそうに背を向ける。

ともえも背を向け、歩き出す。

ともえ:「絶対見つけて戻ってくるから。それまでに消えたら許さないんだから」

イエイヌ:「あっ、ともえさん」

イエイヌはともえを追いかける。

横たわるレッサーの上には、早くも雪が降り積もっていた。


レッサーは口を開いたが、再び閉じた。





(ED 祝詞兄貴のやつ)





イエイヌがいた家がある。


突然爆発が起き、火柱があがる。


中から紫の瞳をし、千切れた鎖を巻いたフレンズが歩いてくる。


それは、アムールトラだった。






(四話に続く)

















…………………………………………………………………………


――そう。これは私が覗いた異世界のけものフレンズ。


希望が見たい――それは、皆がこの作品に想うこと


希望が見たい――それは、たつき監督へ制作チームが想うこと


希望が見たい――それは、この現実に誰もが想うこと



お笑いとアイドルという、その時代における最大コンテンツが語られたこと、そして最後のともえの叫び。


この回を通して、この作品は動物社会よりも、人間社会を書ききることに挑んだのだと、皆がわかってきました。


前回に乗れなかった人々も、ここで一体彼らが何を語るのかと思うようになり、その裏に病状があまり良くないとの噂されるたつき監督のこともあると見抜いた人々は、腰を据える選択をしました。


それは、途中で切らず最後までとりあえず見てくれるという制作側にしては望ましい状態ではありましたが、

同時に平凡な結論を許さないと、通常のアニメ以上に突き付けられた形になったと、当時SNSを追っていた人がブログに書いていました。



――この三話の時、たつき監督はどうだったかって?


前回の小康状態が改善し、一度だけ車椅子で外を回ることもできたそうです。

そこに付き添った彼の盟友は、たつき監督が何を作りたいかという話ばかりして、この入院も何か作品に活かせないかと冗談含めて語るもので、まるで病気の前に時間が戻ったようだと、


――そう、後で語っています。


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