第4話 『いちばんの、たいせつ』
登場人物
ともえ(ヒト)
イエイヌ
アードウルフ
アリツカゲラ
アムールトラ
カンザシフウチョウ
カタカケフウチョウ
??????
??????
(コメント:次回からは内容調査や技量的難しさから、一話完成に2、3か月かかると思います)
●
場面:雪降る雪原。近くにはかまくら
スープを持ちながら、ともえは固まっている。
イエイヌは見ている。
ともえはマフラーをいじっている。
イエイヌ:「ともえさん。冷めちゃいますよ」
ともえ:「あぁ、うん」
スプーンを持ち上げるが、眉間にしわを寄せて下ろす。
イエイヌ:「フレンズさんを助けたい気持ちはわかりますが、それでも食糧は貴重なんです。だから」
ともえ:「わかってるよ」
スプーンを持ち上げて、先程より近くに行くが、また下ろす。
イエイヌ:「わかってないじゃないですか。もう食糧がなくなってきてるん」
ともえ:「だから、わかってるってば!」
ともえは食器を下に置き、立ち上がる。
ともえ:「時間がないことは、あたしにもわかってるよ!そんなことイエイヌちゃんに言われなくったって、わかってるってば!どうしてそんなことばかり言うの?肝心なことは何も言わないのに!」
イエイヌ:「肝心なことって何ですか?」
ともえ:「あたしがフレンズちゃんを助けたいってことにだよ!イエイヌちゃんはそれをどう思うか、あたしに何も言ってないよね?」
イエイヌ:「それは」
ともえ:「でも、さっきからのことを聞いてると食糧食糧、食糧のことばかりじゃない!」
イエイヌ:「だって、食糧は大事で」
ともえ:「そんなことわかってるよ!それも含めて考えてるんだから、邪魔しないでよ!」
イエイヌ:「でも、ともえちゃんのことが心配で」
ともえ:「あたしのことは放っておいてよ!イエイヌちゃんの馬鹿!こんなもの!」
火のついた鍋を、ともえは蹴飛ばして引っ繰り返す。
イエイヌ:「あっ!貴重な食糧になんてことするんです!ともえさん!」
ともえ:「あたしは食べない!そんなに食糧が大事なら、イエイヌちゃんが一人占めでもすればいいじゃない!」
ともえは、かまくらの中に向かう。
イエイヌは肩をあげ、怒りを抑えられずにいる。
ともえが、かまくらの中に入り、少し経つとイエイヌは肩を落とす。
イエイヌ:「そんなこと言わないで下さい。ともえさん」
イエイヌは俯く。
イエイヌ:「それだと今度は、私の生きてる意味がなくなるんですから」
イエイヌは鍋を拾い、片付けを始める。
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(OP 祝兄貴作成の『足跡』)(※変更点:カルガモとロバのシーン→木のタイルの家の中。カウンターに手をついて笑うアリツカゲラの上半身と、膝を抱えて座るアードウルフ。パンダとレッサーパンダ→廃墟ホテルの部屋の前でお辞儀をするハブとオオミミギツネ)
●
場面:文字が書かれたでかい木の門が入口にある、街のような場所。ログハウスが多い。
イエイヌ:「街ですね、ともえさん」
ともえ:「うん。街だね。イエイヌちゃん」
二人は互いへと向き合う
イエイヌ:「私は食糧を探します」
ともえ:「あたしは困ってるフレンズちゃんを探す」
ともえは口をへの字にする。イエイヌは溜息をつく。
イエイヌ:「なら、どちらかを見つけたら声を出すことにしましょう。それでいいですね?」
ともえ:「わかった」
ともえは、左側に歩いていき、ログハウスの中を覗き出す。
イエイヌは、そのともえの後ろ姿を見た後、右側にあるログハウスを覗き始める。
辛うじてカフェと読めるログハウスにイエイヌが入る。
カウンターがあるだけで、中には何もない。
次に棚がたくさんあるログハウスにイエイヌが入るが、そこも何もない。
今度は錆びてる金属で両替所と書かれたログハウスの入口から中を覗くが、そこにも何もない。
またログハウスへと歩くと、向こうからともえがやってくる。
ともえ:「何かあった?」
イエイヌ:「いえ、何もないです」
ともえ:「ここが最後のようですね」
イエイヌ:「えぇ」
大量の洋服の絵が描かれた壁があるログハウスに、二人が入る。
イエイヌが先に中を覗く。
イエイヌ:「む」
ともえ:「どうしたの?イエイヌちゃん」
イエイヌは溜息をつく。
イエイヌ:「どうやら、賭けはともえさんの勝ちですね」
ともえは首を傾げる。
イエイヌは手を後ろに示す。
イエイヌ:「どうぞ。ともえさんが待っていた、困ってるフレンズですよ」
そこには、膝を抱えたアードウルフがいた。
●
場面:ログハウスの中
イエイヌは不満顔で鍋を長い箸で回してから、絵がついている板を火へとくべる。
ともえ:「それで、何があったの?アードウルフちゃん」
アード:「隣の島に行くのに集めていた食糧が、ないんです」
ともえ:「どこかになくしちゃったってこと?」
イエイヌ:「どこかの野蛮なフレンズに奪われたのかもしれませんよ。フレンズは狂暴ですからね」
ともえはイエイヌをジト目で見る。
アード:「いえ。自分から別のフレンズに渡したんです」
ともえ:「渡した?どういうこと?倒れそうなフレンズがいたってこと?」
イエイヌ:「素晴らしい犠牲精神じゃないですか。なら後は、あなたのすることは倒れるだけですよ。私達には関係のないことです」
ともえはイエイヌを睨む。
イエイヌは手をひらひらさせる。
アード:「いえ、別に倒れそうなフレンズに渡したわけでもありません」
ともえ:「なら、どうして」
アード:「これをアリツカゲラさんの店で買ったんです」
アードは懐から、ドーム型のプラスチックの物を出す。
ともえが近づいて、イエイヌも近くにきて見る。
それはスノードームで、中に人形があり、雪が舞っていた。
アード:「見て下さい!これすごくないですか!これ傾けると、中にある白いのが舞って、本当に雪が降ってるように見えるんですよ!しかも中の『にんぎょう』というのが本当に小さくてかわいいんです!こんなすごいものは私は始めて見たんです!なら、こんなすごいものを手に入れられるなら食糧なんて全部渡したっていいと思いませんか!」
アードウルフがすごい勢いで、二人へと振り返る。
ともえは口を開ける。イエイヌは首を横に何度も振った。
イエイヌ:「で、ともえさんはこんなバカなフレンズを助けるのが、生き甲斐なんですか?」
固まるともえの後ろで、イエイヌが立ち上がる。
イエイヌ:「なら、今回のフレンズ助けは簡単ですよ。これをアリツカゲラに返して、食糧も返してもらえばいいだけですから」
イエイヌがアードウルフが持っていたスノードームを取ろうとする。
アード:「やめてください!」
アードウルフは、スノードームを守るように抱え込んだ。
アード:「これは私なんです!これは雪の世界に閉じ込められた私で、隣にフレンズがいるのは私の希望なんです!私はひとりぼっちじゃないと!いつかかばんとサーバルのような旅ができると!こんなふうに最後まで誰かと笑っていられると!これを持っていると、そういう楽しい夢を抱いたまま、最後を迎えることができると思うんです!私は一人で寂しく消えてしまいたくないんです!」
ともえとイエイヌはただ顔を見合わせる。
●
場面:街の外れたところにあるアリツカゲラの店。手前に物があり、奥の小さな窓口からアリツカゲラが見ている。二人がカウンターの所にいて、後ろにアードウルフが立っている。
アリツカゲラ:「あー。それは私のせいですね。アードさんは私が言ったことを真に受けたのでしょう」
ともえ:「どういうことなの?どうしてあんなことを言ったの?あなたはフレンズちゃんを、こんな嘘の夢を抱かせたまま死なせていいとは思わないの?」
イエイヌは悲し気に、ちらりとともえの方を見るが、ともえは気づいていない。
アリツカゲラはへらへらと笑う
アリツカゲラ:「えー、だって私は商人なんですよ。相手の心の隙間を見つけて、あなたの心の隙間に合う商品はこれだと売りつける。それが私の仕事なんですよ」
ともえ:「でも、全部食糧奪うはやりすぎじゃないの?アードウルフちゃんはそれで死んじゃうかも知れないんだよ」
アリツカゲラ:「そんなの買うフレンズの勝手ですよ。私は値段にあったものを売るだけで、欲しくないのなら買わなければいいだけです。買った先で、相手が生きようが死のうが私の知ったことではないですよ」
ともえ:「でも!それじゃ悲しくないの?売りつけた相手みんながいなくなって、独りぼっち生き残ってそれでいいの?それだと誰にも売れなくて、商人ができなくなるんじゃないの?」
アリツカゲラ:「確かに私は自分のことを商人と言いましたが、私の本当の望みは、少しでも長く生き残ることですよ。だってこんな世界じゃ、皆より良い暮らしを自分だけでもしたいとそうは思いませんか」
ともえ:「私はそうは思わないよ!」
アリツカゲラ:「そうですか。しかし何と言われようが、私は変わりません。そんなに食糧が欲しいのなら価値のあるものと交換です。まぁもっとも、今のパークで食糧以上に価値のあるものなんて、私はないと思うんですけどね。だからその商品の返品も不可です」
イエイヌ:「なら、どうして価値のないものを売りつけたんですか?」
アリツカゲラ:「誤解があるようですね。あくまで私には価値がないと言っただけです。特定のフレンズにとっては、食糧を渡すほどの価値があるものを渡しているのですから、それはちゃんとした商売なんです」
ともえ:「うぅ」
アリツカゲラ:「さぁ早く、一番価値のあるものを私に売って下さい。まぁそんなのがあればですけどね」
アリツカゲラはへらへらと笑う。
ともえは自分を見る。
ともえは自分のマフラーをじっと見ている。
イエイヌはその視線に気づく。
イエイヌ:「ともえさん!それは大事な!」
ともえは弱い笑みをイエイヌに向ける。
ともえ:「でも、あたしにとって、一番価値あるものはこれなの。大事な思い出の品で、イエイヌちゃんがくれたものなの」
イエイヌ:「そんな大事なものを、こんな見も知らぬフレンズの為に渡していいんですか?私よりそいつの方が大事なんですか?」
ともえ:「そうじゃない!そうじゃないよ!でも!」
ともえは下を向き、イエイヌはともえを睨んでいる。
アリツカゲラ:「あのー。盛り上がっているところ申し訳ないのですが」
二人はアリツカゲラを向く。
アリツカゲラ:「私は、そんなゴミいりませんよ」
二人が固まる。
ともえ:「……ゴミ」
イエイヌ:「ゴミってどういうことですか!ともえさんの一番大事なものなんですよ!」
アリツカゲラ:「いやー、なんといわれようともゴミはゴミなんですよ。今生きているフレンズって寒さに強いか、寒さに耐えられる場所にいるかで防寒具なんて必要ないです。それに他人が一度使ったものなんて基本、価値が下がるものですよ」
イエイヌ:「でも、大事なものなんです!それをゴミって酷いです!」
アリツカゲラ:「なんと言われようとも、商人にとって売れないものはゴミですよ。どんなに思い出があろうとも、こっちは知ったことじゃありません。だから、そんなゴミと、大事な食糧の交換は絶対にありえません」
ともえ:「……ゴミ」
ともえはふらつく。イエイヌはふらついたともえを支える。
イエイヌ:「大丈夫ですか?ともえさん」
ともえは答えない
ともえ:「ゴミ」
呟くと、涙を流し始め、うわーんと泣く。
おろおろするイエイヌの前で、ともえはイエイヌから離れ、店の外へと走り出す。
イエイヌ:「ともえさん!」
イエイヌも走り出す。
アードウルフは困ったように、外とアリツカゲラをおろおろと見てから、同じように外へと走り出す。
アリツカゲラ:「ありがとうございました」
アリツカゲラはカウンターで笑みを浮かべている。
●
場面:雪原
足を雪に踏み入れながら、走るともえ。それを追いかけるイエイヌ。
イエイヌ:「待ってください!ともえさん!」
ともえの足は止まらないが、ふらついている。
イエイヌ:「危ないですから、止まって下さい!ともえさん!」
ともえは何度も首を振り、唇を噛み締めて、止まろうとしないが、転ぶ。
イエイヌ:「ともえさん!」
イエイヌは追いかけて、倒れたともえを起こす。
ともえは涙顔を手で隠す。
ともえ:「ゴミって言われたの。あたしの大事なマフラーをゴミって言われたの」
イエイヌはただ頷く。
ともえ:「渡すの嫌だったのに。とっても大事なマフラーだったのに、ゴミって言われたの」
イエイヌは頷く。
ともえ:「あたしは許せないの。あたしの大事なマフラーをゴミって言った、あのフレンズちゃんを許せないの」
それ以上は言葉にならず、ともえは泣く。
イエイヌは、黙ってともえを抱きしめる。
離れたところから、切なげにアードウルフが見ている。
●
場面:辺り一面真っ黒な中に、ともえが一人いる。夢の中
ともえが泣いている。
目の前に、青と黄色の模様が光る。
そこから、二つの姿が浮かび上がる。(カンザシフウチョウとカタカケフウチョウ)
カンザシ:「ようこそヒトよ」
カタカケ:「さよならヒトよ」
カンザシ:「再び、ここに来たヒトよ」
カタカケ:「そして、また去るヒトよ」
ともえは泣いている
カンザシ:「なぜ泣くヒトよ」
カタカケ:「なぜ笑わないのだ、ヒトよ」
ともえは二人の方を見る。
ともえ:「だって、悔しくて仕方がないの。誰だって自分の大切なものを、あんなふうに言われたら、泣くよ」
カンザシ:「誰だって泣く?」
カタカケ:「泣かないのもいるだろう、ヒトよ」
ともえ:「それは、大切じゃないからだよ。大切なものを否定されるのは誰だって悲しいよ」
カンザシ:「幼いな、ヒトは」
カタカケ:「まだ育ってないからな、ヒトは」
ともえ:「どういうこと?」
カンザシ:「簡単なこと」
カタカケ:「容易なこと」
二人:「「泣きたくないのなら、怒ればいい」」
ともえ:「怒る?」
カンザシ:「そうだ。これは大切だって叫べばいい」
カタカケ:「そして、相手にわからせてあげればいい」
二人:「「それが、大切ということだろう」」
ともえが呆然と二人を見る。
次に手元にあるマフラーを見て、また二人を見る。
ともえ:「……そう、だね。うん、そうだよ。あたし、怒ってみるよ!」
ともえが元気に消える。
二人の姿も消え、胸の模様だけが残る。
カンザシ:「これでいいのだ、ヒトよ」
カタカケ:「これから始めるのだ、ヒトよ」
二人:「「間違うことが、ヒトなのだから」」
カンザシ:「正義を知らぬものよ」
カタカケ:「悪を始めるものよ」
二人「「しかし、我々はお前を許そう」」
二人「「なぜならば」」
二人「「パークは最早、お前のものなのだから」」
●
場面:前にいたログハウスの中。夜
ともえはイエイヌの膝の上で眠っている。
隣にアードウルフがいる。
アード:「何か私のことで、こんなふうになって申し訳ありません」
イエイヌ:「まったくですよ」
イエイヌはそっぽを向いている。
アードウルフは頭を掻いて、曖昧な笑みを浮かべる。
イエイヌは振り返り、そんなアードウルフを見て溜息をつく。
イエイヌはそこから真面目な表情をし、寝ているともえを確認した後、アードウルフを見る。
アードウルフもそんなイエイヌを見て、表情を引き締める。
イエイヌ:「あなたは、その、『すのーどーむ』でしたっけ。
その商品のことで、嘘の二人旅を押し付けるなと、ともえさんがアリツカゲラに言ったことを覚えていますか?」
アードウルフは切なげな顔になる。
アード:「まぁ後ろにいましたし。嘘の旅と言われるとそうですし、自分も理解はしてるんですけど、それでもいざコレと離れるとなると、自分を止められなくなるんです」
イエイヌは少し申し訳なさげな表情をした後で、強いて怒る顔になる。
イエイヌ:「そんなこと聞いてないですよ。私がしたいのはともえさんの話です」
アード:「そうでしたか。すみません」
えへへと、アードが笑う。
イエイヌは、アードウルフを見た後で、雪が降る窓へと向く。
イエイヌ:「私達、ヒトであるともえさんと一緒に旅をしてるんですよ」
アード:「ヒト?それは確か、このパークを作ったフレンズのことですよね」
イエイヌ:「厳密にはフレンズじゃないんですよ、ヒトは。でも、そうですね。そう、そのともえさんがフレンズでないことが私には心配なんです」
イエイヌは手を組み、自身の顔を埋める。その表情がアードウルフには見えない。
イエイヌ:「フレンズとヒト、どんなに一緒にいたくても、二つは違うものなんです。だから私達は、いつか離れてしまうのではないかと、ともえさんが私を置いてヒトの世界に行ってしまうのではと、とても不安なんです」
アード:「そっか。なるほど。うーん」
アードウルフは、真面目に悩んでいる。
イエイヌは、その姿に他人の為に悩むともえの姿を重ねて、無言になる。
突然、アードウルフのお腹が鳴る。イエイヌはジト目を向ける。
あははと、アードウルフは頭を掻いて曖昧な笑みを浮かべる。
イエイヌは溜息をつく。
イエイヌ:「ご飯を作ってあげますよ」
アード:「え。いいんですか」
イエイヌ:「別にあなたのことを助けたいわけではないです。でももう、ともえさんの目の前で誰かに倒れられるのだけは御免なんです」
アード:「イエイヌさん」
イエイヌ:「勘違いしないで下さい。私達がいなくなった時に倒れて欲しいから、食べさせるだけですからね。ったく、これだから他の方って邪魔なんですよ」
アードはあははと曖昧に笑い、頷く。
アード:「わかりました。それで大丈夫です。そうだ、何か手伝いましょう。えーと、隣の家の床を壊して持ってくれば、火ってものができるんですよね」
イエイヌ:「そうです。早く行って下さい」
アード:「わかりました。行ってきます」
アードウルフはログハウスを出ていく。
それを見送った後、イエイヌは膝の上で眠る、ともえの頭を撫でる。
イエイヌ:「嫌なんですよ、もう。一人、取り残されるのだけは」
●
場面:ログハウスの中。朝。正座で眠るイエイヌの近くに、鍋とプラスチック食器。
イエイヌが目覚めると、膝の上にともえはいない。
慌てて辺りを見渡す。
窓際の固定されたテーブルの上で、幾つも本を広げたともえが、考え事をしている。
イエイヌは安心した顔になるが、真剣に考えるともえの様子を見ていて次第に不安な顔になる。
ふと、ともえの口元が動いているのに気づく。
イエイヌが耳を立てる。
ともえ:「なるほど。あたしは売れるのは物だけだと思ってたけど、昔はヒト自体も売り物になってたんだ。あたしもヒトだし、それが何か価値になる方法を」
語られる内容に、イエイヌの耳が強く立つ。
物音に気付き、ともえがこちらを見る。
ともえ:「あっ、イエイヌちゃん。おはよう」
イエイヌ:「……おはようございます。ともえさん」
ともえ:「うん。昨日はごめんね。あんなに泣いちゃって」
イエイヌ:「いえ、別に大丈夫です。あれくらい」
ともえ:「そう?でもね、あたしは悔しかったの。だけど今度は負けないよ。今度こそ食糧を越える一番価値のあるものを考えて、あの子に、たくさんの食糧と交換してもらうからね」
イエイヌ:「……そうですか」
ともえ:「そうだよ。ふふふ。あたしのマフラーを馬鹿にしたあの子に、ヒトがいかに怖い存在か教えてあげるんだから」
ともえは悪い顔をする。
イエイヌはびくりとする。そして何か言おうとする、その前に。
アード:「ともえさーん。おそらくこれで全部です」
アードウルフが入り、本を床に落とすと、へたりつく。
ともえ:「ありがとう。アードウルフちゃん」
アード:「いえいえ。食糧を取り戻せるのでしたら、これくらい当然のことですよ!」
ともえ:「うん。一緒にあの子を見返そう」
笑うともえを、イエイヌが心配そうに見ている。
ともえ:「イエイヌちゃん!」
ともえがイエイヌに顔を向ける。
ともえ:「あたし、頑張るからね!」
イエイヌはただ頷くしかなかった。
●
場面:街から外れた雪原。晴れている。
ともえは、街の周囲の地図を持って、見ている。
ともえ:「えーと、ここまで来たから。そっちかな」
ともえとアードウルフは指差した方に歩く。イエイヌは二人より前の方を歩いて、地面の匂いを嗅ぎながら、普段以上に警戒した動きをしている。
ともえは、そんなイエイヌに首を傾げるが、アードの方を向いて話し始める。
アード:「なるほど。こっちに食糧以上に価値のあるものがあるんですね」
ともえ:「そうだよ。本当は騙すようで良くないんだけど、でもあたしのマフラーを侮辱した相手に、容赦するつもりはないんだから」
ともえはマフラーを掴む。
アード:「よくわからないですが、頼もしいです。取り戻せた分の幾らかは、ちゃんと渡しますからね」
ともえ:「うん、お願い。本当はアードウルフちゃんのを減らしたくはないんだけど、あたし達もいっぱいいっぱいだから」
アード:「いいんですいいんです。お二人に会わなければ、お腹を減らしたまま、あそこで倒れるところだったんですから。それと比べれば、少しくらい減っても全然大丈夫ですよ」
ともえ:「そう言ってくれて、助かるよ」
イエイヌが、すくりと急に立ち上がり、手で二人を止める。
イエイヌが見たことがない程怖い顔で、鼻と耳を動かしている
ともえ:「イエイヌ……ちゃん?」
イエイヌ:「臭いからして何かおかしいと思っていましたが、まさかあいつがいるとは」
イエイヌはある方向に顔を急いで動かし、雪原の遠くを見る。
遥か遠くに、ぐるぐるとその辺りをうろついている、アムールトラの姿がある。
イエイヌは、全身の毛を立たせる。
イエイヌ:「二人とも!逃げますよ!」
イエイヌは目を金色に光らせ、ともえの身体を掴み、背中に乗せ、反対方向へ全力で走る。
アードウルフも、一瞬びっくりしたが、さっきイエイヌが見ていた方角を振り返ると、慌てて同じく全力で付いてくる。
背中で揺られながら、ともえが声を張り上げる。
ともえ:「どうしたのイエイヌちゃん!あっちに行かないとアレが手に入らないんだけど!」
イエイヌ:「どんなものであっても、命あってこそですよ!あいつからは全力で逃げないとダメなんです!」
ともえ:「あいつって誰!何かフレンズちゃんっぽいのが見えたけど」
アードが隣に並ぶ。
アード:「あいつはフレンズじゃありません!ビーストです!ヤバイやつです!あいつに殺されるとただ倒れるより苦しみながら死ぬって噂の、最悪な相手です」
イエイヌ:「なんで、こんなところにいるんですか!それこそ役立たずのあいつらのところに出ればいいのに!」
ともえ:「え!イエイヌちゃん!今なんて言ったの!」
イエイヌ:「何でもないです!とにかく話は後です!今は全力で逃げますよ!」
イエイヌがさらにスピードアップすると、ともえは声を出せなくなって、必死にしがみつくだけになる。
●
場面:雪原のどこか。夜
イエイヌとアードウルフは雪原に倒れ込んでる。ともえは隣で地図と夜空を見ている。
イエイヌ:「はぁはぁ。今日ばかりは雪が気持ちいいです」
アード:「私もそう思います」
イエイヌ:「ともえさん。ここがどこかわかりますか?」
ともえ:「うん。大体この辺りかなってのがわかるから、迷ってはいないよ」
ともえは地図を仕舞う。
落ち着いた二人は、身体を起こす。
アード:「でも、目的からは遠くなってしまいましたね。ビーストがいるなら、しばらくあっちには近づけませんし」
ともえは、その言葉に反応する。
ともえ:「その、ビーストって何?」
アード:「フレンズの出来損ないだと言われてます。会話が通じなくて、ただ暴れまくるだけの狂暴なやつです。それで、今まで多くのフレンズが、あいつの被害にあって消えました」
ともえ:「フレンズちゃんが、消えたの?」
イエイヌ:「そうです。しかも滅茶苦茶強いそうですよ、ともえさん。だから私は前も逃げました。昔、うちの近くに来たので。そのせいでしばらく家に帰れませんでした」
アード:「そうですね。出会ったら全力で逃げるのが一番です。運が良ければこちらに気づかないですからね」
怖がる二人の前で、ともえが考え込む。
ともえ:「ビースト……ビーストね」
イエイヌ:「どうかしたんですか?ともえさん」
ともえ:「ううん。何でもないよ」
ともえは腕を組む。
ともえ:「そっか。そんな恐ろしいフレンズちゃんがいるなら、そっちは無理かなぁ」
ともえは地図を取り出して、広げる。
ともえ:「仕方ないか。ちょっと遠いけど、反対側の方に行こうよ。アレは重いから遠くなるの嫌だったけど、仕方ないよね」
イエイヌ:「えぇ。ビーストと戦う羽目になるくらいなら、重いものを遠くまで運んだ方がずっとましですよ」
アードウルフも何度も頷く。
ともえ:「じゃあ、気を取り直して行こうよ」
イエイヌ:「はい」
勢いよく立ち上げるイエイヌと、勢いよく寝転がるアードウルフ
。
アード:「いやー、私はもうちょっと休みたいですよー」
イエイヌ:「お・ま・え・は」
怒るイエイヌに、ともえは微笑む。
ともえ:「そうだね。さすがにちょっと焦りすぎたかな。もうちょっと休んでからにしようよ」
●
場所:ソレがある、どこかの家
アードウルフとイエイヌが、黄色い目をさせて、頑丈な扉を破壊する。
向こう側からは、中のものが見える(こちらからは見えない)
イエイヌ:「? これが、ともえさんが言ってたものですか?何か弱そうな物ですね」
アード:「これが本当に、食糧以上の価値があるものなのですか?」
ともえ:「そのままじゃ難しいかもね。でもこれと私があれば、食糧をちゃんと取り戻せると思う。パークは実は私のものって嘘もつけば完璧かな」
イエイヌが無言で、不安そうにともえを見る。
ともえはその視線に気づかないが、アードウルフがその意味に気づく。
アードウルフはイエイヌを小突くが、イエイヌは首を振り、アードウルフを睨む。
ともえ:「ん?どうかしたの」
イエイヌ:「いえ、何でもないですよ。ともえさん」
ともえ:「そう?じゃあ運んじゃおう。んー、でも、その前に運ぶものを作らないとダメかなぁ」
ともえが腕を組んでいる後ろで、アードウルフがイエイヌをつつき、外に連れていく。
アード:「聞かないんですか?ともえさんが何をしようとしてるか」
イエイヌ:「聞かないですよ」
イエイヌがうるさそうに、連れてきたアードウルフの手を払う。
アード:「でも、ともえさんが自分と引き換えに食糧を交換しようとしていないか、イエイヌさんは疑ってないですか?ヒトって貴重なものですから、パークで一番価値があるかも知れないですよね?」
イエイヌは耳を立たせ、振り返る
イエイヌ:「それを知ってるのなら!」
アードウルフは首を横に振る。
アード:「イエイヌさんがそう思ってるのは知ってます。でも私はともえさんはそういうことをしなそうだとも思ってますので、任せているんです。だからこれはイエイヌさんの問題です」
アードウルフが指を突き付ける。
アード:「ちゃんと聞かなくて、いいんですか?」
イエイヌは無言になる。少しだけ歩き、木に寄りかかる。
イエイヌ:「私達は、来る前に喧嘩してたんです」
アード:「それなら、どちらかが謝って仲直りすれば良いんじゃないですか?」
イエイヌ:「そういう喧嘩じゃないんですよ。旅の方針の根本となる喧嘩なんです。私はフレンズに関わらず食糧だけを見つけて生き延びる旅で良いと思ってます。ですがともえさんは困ってるフレンズを助けたいと言ってます。伝説のかばんとサーバルの旅のように」
アードウルフは聞いている。
イエイヌ:「ただ生き延びるだけじゃ、生きている理由がないって。ともえさんはそう言ったんです」
アードウルフは曖昧な笑みを浮かべる。
アード:「あー。助けて貰ってる私が言うのもアレですが、難儀ですね、ともえさん」
アードウルフは頭を掻く。
アード:「なるほど。それでは確かに噛み合わないです。それこそ仲良しの二人が別れるくらいの理由ですよ」
イエイヌ:「そうです。だから、できるなら聞きたくないんです。深く聞いてしまったら、今度ばかりは離れてしまうかも知れないですから。実際、そんなに食糧が大事なら私が独り占めすればいいんじゃないのとまで、言われてしまいました」
アード:「それは辛いですね。しかしそれだと、ともえさんが本当に別れる決断をしていたら、イエイヌさんはどうするんですか?」
イエイヌ:「その時は全力で止めます。止めるつもりです。でもともえさんが本気で決めたら、私は折れてしまう気がするんです。だからそれまでは、この時間がずっと続くという気持ちを、少しでも長く味わっていたいんです。だから、黙ってるんです」
イエイヌは空を見上げる。
イエイヌ:「本当は私だって、かばんとサーバルのような……」
イエイヌは首を横に振る。
アードは思わず口を開く。しかし何も言わずに閉じて、頭をただ下げる。
アード:「失礼しました。私の余計なお世話でしたね」
イエイヌ:「そうですよ。放っておいて下さいよ。所詮違うフレンズ同士なのですから」
アードはあははと笑いながら言う。
アード:「それでも私は、お世話になったら、少しでも返したいなぁと思ってるんですよ」
イエイヌは鼻で笑う。
イエイヌ:「なら、その『すのーどーむ』とか言うのを、少しでも食糧と交換してもらうように、アリツカゲラに頼んだらどうですか?」
アード:「それは絶対に嫌でーす」
イエイヌ:「こいつは」
あははと、少し嬉しそうにアードは笑った後、真面目な顔になる。
アード:「でも、本当に必要な時は、やっぱり話し合わないとダメだと思います」
イエイヌは他を向く。
イエイヌ:「……わかってますよ」
アード:「そうですか」
ともえ:「イエイヌちゃん、アードウルフちゃん何してるのー!手伝ってよー」
家の中から、ともえの大声が聞こえる。
アード:「じゃあ、行きましょうか」
イエイヌ:「……はい」
●
場所:アリツカゲラの店
アリツカゲラが窓口から顔を向けている
アリツ:「また来たんですか。あなた達は」
ともえとイエイヌとアードウルフが真剣な顔で歩いてくる。
アリツ:「どんなに言われても、そのゴミと食糧なんて交換しませんよ。もっと価値のあるものを持ってきてください。まぁ今のパークに食糧以上のものなんてないと思いますが」
ともえが奥歯を噛み締めながら、マフラーを握る。
イエイヌがともえを見ると、ともえは落ち着いて、顔を真面目に戻す。
ともえ:「今日は、本当に価値のあるものを持ってきたよ」
アリツ:「へー、どこにあるんですか?」
ともえ:「それは」
ともえは自分を指さす。
ともえ:「あたしです」
アリツは鼻で笑う。
アリツ:「あなた、確かヒトって言いましたっけ?フレンズでなく、このパークを作ったのと同じ種という話ですか。確かに今、パークにヒトはいませんから貴重といえば貴重だと思います」
アリツ:「しかし、どんな貴重なものも欲しがる相手がいなければ、ゴミ同然。あなたの誰が、他のフレンズに必要とされてるんですか?」
イエイヌの組んだ腕に力が入るが、何も言わない。
ともえ:「それはあなたです。アリツカゲラさん」
アリツは眉を寄せる。
ともえ:「前にあなたは、少しでも長く生き残ること。皆より良い暮らしをすることが望みと言ったよね」
アリツ:「えぇ言いましたが、それが何か」
ともえ:「あたしがそれをあげる。あなたの将来をあたしが保証してあげる。あなたに良い暮らしをさせてあげるものを、あたしがあなたにあげる。これでどう?」
アリツ:「どういうことですか?あなたのどこにそんな力があるんですか?そんな食糧も探せなそうな、小さな身体に」
ともえの身体を半笑いのアリツはじろじろ眺める。
ともえ:「あたしには無理だよ。でもね。あたしの両親ならどうかな?」
アリツ:「どういうことですか?」
ともえ:「このパークはあたしの両親が作ったものなの」
アリツ:「なんですって?」
ともえ:「だから、ここにあるものは全部あたしのもの同然なの」
ともえは両手を挙げる。
眉を寄せるアリツカゲラは、何かを思いつくと笑う。
アリツ:「ははは。わかりましたよ。このパークは私のもの。だからそこにあるものは全て私の物。それで食糧を寄こせと言うんですか。どうせ、何の証拠も示せないんですよね」
ともえ:「はい」
アリツ:「なら、この話は終わりです。確かヒトの子供は商売じゃろくに契約できない存在とされているんですよね。じゃあ話になりませんよ。その両親とかいう大人を連れてきて下さい」
ともえはニヤリと笑う。
ともえ:「――もうすぐ来るよ。あたしの両親は」
アリツは目を開く。
アリツ:「そんなわけありません!パークにヒトが来なくなってからどんだけ経っていると思うんですか!どうしてあなたは、あなたの両親が来ると言えるんですか!」
ともえ:「あたしが目覚めたからだよ、アリツさん」
アリツの口が止まる。
ともえ:「あたしは昔ここで怪我して、動けなくなって治療の為のカプセルに入れられたの。その治療が終わった頃に、両親がこっちに来てくれることになってるの」
アリツは一瞬、上を見上げたが、すぐに視線をともえに戻した。
アリツ:「その割にはまだ来てないように思うのですが」
ともえ:「このパークの状態を見ればわかるよね。ヒトの世界も今結構大変なことになっているらしくて、すぐには来られないって連絡があったの」
アリツ:「連絡があった?ヒトから?」
ともえ:「そう。だからそれまでの間あたしは生き延びなければいけないの」
アリツ:「なるほど。話はわかりました。ヒトが来ることも、食糧が欲しい理由も。しかし、それと私の何の関係があるというのですか?あなたは私を保証してくれるという。それはつまりこの場所から助け出してくれるというということなのでしょう。しかし、あなたが裏切ったら、どうするというのですか?その保証ができますか?」
ともえ:「できるよ。例えあたしやあたしの両親があなたを裏切ったとしても、あなたを裏切らないものをこれから渡すよ」
アリツ:「それは?」
ともえが懐から何かを出す。
アリツの前の窓口に、日本のお札が置かれる。
ともえ:「お金ってやつだよ。これはあたしやあたしの両親よりずっと上の、国という組織が保証してくれるものなの。これさえあればどんな豊かな暮らしでもできるの」
アリツ:「確かに、そんなものがあるとは聞いたことがあります。パークにもあったと聞きました。しかし私は騙されませんよ。私は知ってるんです。たった一枚だけでは、そんなに多くのものが買えないということは」
ともえ:「勿論だよ。だから――お願い」
イエイヌとアードウルフが外に出て、お札の入った箱を幾つも中に入れる。アリツは驚きの顔を浮かべる。
ともえ:「ほら、これでどう?」
アリツの頭が動く。しかし窓口から身体を乗り出してこない。
アリツ:「ちょっとこっちまで持ってきてください!」
イエイヌは不思議そうに、箱を窓口に置く。アリツカゲラはそれを目を細めて見る。
アリツ:「……確かに、本物のようですね」
ともえ:「なら、アードウルフちゃんの食糧を持っていってもいいですか?」
アリツ:「待って下さい。一つ解らないことがあります」
ともえ:「……なんですか?」
アリツ:「お金というのは、とても貴重なものなのでしょう。それなのに、どうして今、こんなやつの、僅かな食糧の為に、一番大切なものを使うのですか?」
ともえは鼻で笑う。
ともえ:「あたしとあなたでは、一番が違うからだよ」
アリツ:「それは?」
ともえ:「あなたは将来豊かな暮らしをする為に一人生き残る。あたしは今大切な人と生き残るために食糧を買う」
アリツ:「他の相手なんて信用できません。裏切るし、主張が違えば喧嘩して別れもするでしょう」
アリツカゲラはイエイヌを見る。イエイヌは下を俯く。
ともえ:「あたしはそうじゃない!あたしは裏切らないし、主張が違ってもずっと一緒にいる!」
イエイヌは驚き、アードウルフの方を見る。
アードウルフは頷く。
アリツはそんなともえとイエイヌとアードウルフの光景を、見渡す。
アリツ:「なるほど――愚かしいですね」
アリツは軽蔑したような笑みを浮かべる。
ともえも軽蔑したような笑みを返す。
アリツは営業の笑みに戻る。
アリツ:「それでは取引成立ですね。あなた達はお金を全てその壁の所に置いて下さい。それであなたが持ってきた食糧は置いた場所そのままにあるので、そこから持ってって下さって構いませんよ」
ともえ:「わかりました。そうします」
ともえはアリツカゲラに背中を向ける。
他の二匹も背を向ける。
イエイヌは箱を少しずらして、壁の所につける。
アードウルフは食糧の袋を持ってきて、はしゃいでいる。
ともえはそんな二人を見て、笑っている。
その様子を営業の笑みのまま、アリツカゲラは見ている。
それは三名が出ていくときも、そのままだった。
店の外から三人の声が店内に響く
アード:「本当に、本当にありがとうございました!お礼と言ってはなんですが、半分こにしましょう!」
ともえ:「それだと、さすがに悪いよ」
イエイヌ:「ともえさん。くれるというのですから、貰っておきましょうよ。これから何かあるかわからないのですから」
ともえ:「でも」
そこから声は聞こえなくなる。
アリツ:「彼らは最後まで気づきませんでしたね。私が、お金という存在をよく知っていることを」
アリツは営業の笑みから、満面の笑みになる。
アリツ:「あぁ。本当に馬鹿なフレンズとヒトですね!あんなちっぽけな食糧と、大切なお金を交換するなんて!お金は幾らあってもいいのに!そうすれば何でもできるというのに!」
アリツの身体がある店内側には、床一面に大量のお札がある。
アリツ:「まったく!お金を知らないふりをするのも疲れましたよ!相手を煽って誘導して、お金を持ってこさせるやり取りにも疲れました!でも、それも豊かな暮らしの為と思えば、乗り越えられるものですよ!」
場面:アリツ回想
アリツカゲラがどこかの研究所で、お札と「いつか助けに行くから」と書かれた紙を拾う。博士にそれを見せて、博士が答えてアリツカゲラは驚く。
場面:店内
アリツ:「あれ以来、私はいつかヒトが助けに来てくれると信じてました!だってそうですよね?こんなすごいパークを作るようなヒトが、滅ぶはずがないんです。それは、私達に価値がないと見捨てられただけなんです。こんなクソみたいなフレンズばかりでは、ヒトがそうするのも当たり前のことですよ。だから私は、彼らにとって価値のあるお金を集めれば、私はここから出られると思ったんです!」
アリツの身体が揺れる。
アリツ:「そしてようやく今日、もうすぐヒトが来るという話が来ました。しかも私の価値を高めてくれるお金をたくさん連れて!おまけに私に豊かな暮らしをさせてくれる保証までつけれくれると言う!これが、喜ばずにいられるでしょうか!」
アリツの身体がさらに揺れる。
アリツ:「素晴らしきヒト!素晴らしき文明よ!私は、あなた達と共に――」
アリツの身体がさらに揺れて、そして。
アリツの首がごろんと、床に顔から落ちる。
無音無音。
アリツの首が転がり、顔がこちらを見る。
アリツ:「あいたたぁ。落ちちゃいましたか。やっぱりアレはやりすぎでしたかね。ハゲワシさんに私の身体を食べさせてあげたのは。まぁ部屋一面のお札が手に入ったから、良い取引だとは思ってるんですけどね。まぁ、食糧少なくても生きていけるようになったので便利ですし、それにヒトはすごいですから、私も元通りにしてくれることでしょう」
アリツがアハハとしきりに笑い、夢見るように言う。
アリツ:「はぁ。早く来ないかなぁ?――人間様は」
●
場面:晴れた雪原。ともえとイエイヌが大きな地図看板の前で、言い争う。
イエイヌ:「だから食糧がないと、何にもならないと言ってるじゃないですか!」
ともえ:「あたしは嫌なの!フレンズちゃんを助けないと、私に意味なんてないの!」
イエイヌ:「意味なんて後で大丈夫です!生きてこそ意味が出てくるんですよ!だからまず食糧がありそうな所に行くんです!」
ともえ:「嫌!困ってるフレンズちゃんがいそうなところにあたしは行きたいの!」
唸り、睨みつけるイエイヌ。
真剣な目をするともえ。
そんなともえに押されて少し悲しそうな顔になり、地図へと目を逸らすイエイヌ。
イエイヌ:「あっ」
イエイヌが棒立ちになる。
ともえ:「どうしたの?イエイヌちゃん。譲る気になった?」
ともえは表情を崩さない。
イエイヌ:「いや、譲る気はないんですが、ここを見て下さい」
イエイヌが指さした辺りを、ともえが見る。
そこには家がたくさんある街のような場所がある。
ともえ:「それってさっきまでいた所だよね。そこがどうかしたの?確かに食糧があった場所ではあるけど」
イエイヌ:「えぇ、それに困ってるフレンズもいましたよね」
ともえも棒立ちになる。
イエイヌ:「今生きているフレンズって、つまり食糧があるところにいるフレンズってことですから、そこに行けばまぁ困ってるフレンズがいたり、どちらの情報が聞けたりすると思うんです」
ともえがイエイヌの顔を、下から伺うように見る。
イエイヌ:「いや、主張を譲る気はないですよ。でも場所が同じなら喧嘩する必要はないのかなぁーと」
ともえ:「イエイヌちゃん!」
ともえがイエイヌに抱き着く。
ともえ:「ごめんね。あたしフレンズちゃんを助けないとという気持ちでいっぱいいっぱいになってた。レッサーパンダちゃんとの約束もあるし、早くしないと早くしないとと焦るばかりで、全然イエイヌちゃんのことを考えてなかった。だからこんな簡単なことにも気づけなかった」
ともえがイエイヌの顔を見る。
ともえ:「一番大切な、イエイヌちゃんのことなのにね」
イエイヌが微笑みながら強く抱きしめ返すと、イエイヌのふわふわな身体にともえが埋まる。
ともえ:「わわ。痛いよ、イエイヌちゃん」
イエイヌは緩めず、抱きしめながら、空を見る。
イエイヌ:「それは私も一緒ですよ。ともえさんを助けないとという気持ちでいっぱいいっぱいで、全然ともえさんがどう思ってるか考えてこなかったんですから」
ともえは息を吐く。
ともえ:「なぁんだ。二人とも、初めからちゃんと話せばよかったんだね」
イエイヌ:「えぇ」
ともえは顔を埋めたまま、少し無言になる。
ともえ:「この前は食糧を台無しにしてごめんね」
イエイヌは口を綻ばせる。
イエイヌ:「いいですよ。ともえさんに怪我がなくて、なによりです」
ともえは顔をあげて、にこりと笑う。
ともえは身体に埋めながら、地図の方を見る。
ともえ:「ねぇねぇイエイヌちゃん」
イエイヌ:「何ですか?ともえさん」
ともえ:「食糧がありそうな場所ってどこ?」
イエイヌは地図をじっと見て、苦い顔をする。
ともえ:「どうかしたの?イエイヌちゃん」
イエイヌ:「うーん。あるにはあるのですが」
ともえ:「えっ、どこ?」
イエイヌは一度、右下のジャングルの方を指さそうとするが止めて、地図の真ん中のホテルを指す。
イエイヌ:「ここが、まぁ一つですね」
ともえ:「それで、もう一つはどこ?」
イエイヌは、ゆっくりと右上の広い水辺の建物を指す。
イエイヌ:「後も、……まぁここですね」
ともえ:「なるほどなるほど。じゃあその二つに行こう」
イエイヌ:「えー」
ともえ:「ん?何かあるの?」
イエイヌ:「どちらのフレンズも強情で頑固って聞いてるんですよ。そもそも周りが食糧足りない中で自分達だけ溜め込んでるような奴らなんですよ。絶対ろくなフレンズじゃないですよ」
ともえ:「なら、困ってることも絶対あるかもしれないでしょ。ほら、行こっ。二つとも」
イエイヌ:「えっ、どっちも行くんですか」
ともえ:「勿論!ほら、イエイヌちゃん着いてきて!」
ともえが雪原を走り出す。
イエイヌは呆れたように見ている。
ともえが振り返り、笑い返す。その姿が雪の下で煌めいたようにイエイヌには見える。
イエイヌは呆れから、深い笑みを口に浮かべる。
イエイヌは小さく呟く。
イエイヌ:「私にとって、一番の大切は……」
笑顔で、こちらに手を振るともえがいる。
イエイヌ:「待ってください!」
イエイヌは、ともえに向かって走り出す。
(ED 祝詞兄貴のやつ)
場面:崩落した建物。周りに大量の土
瓦礫で崩れた奥の中に、二匹のフレンズがいる。
片方のフレンズはへばって座っている。
もう片方のフレンズは、瓦礫をどかしながら考えこんでいる。
????「ここが、そのヒトというフレンズが出てきた建物なんだよね」
????「そうさ。どうやらそこにいたヒトが回復したら、自動的に出てきて、また埋まる仕組みになっていたらしい」
????「もう!出てきたならずっと外にいてくれればよかったのに!そうすればこんなに掘り出す苦労もしなかったのに」
????「それだけ、大事なものがあるってことさ」
そのフレンズが瓦礫をどかすと、下に紙の束があった。
それを拾い、パラパラめくると、そのフレンズはにやりと笑った。
????「ほら。確かに一番大切なものがあった」
片方のフレンズが上に登ってくる。
????「ん?何か見つけたの?」
もう片方のフレンズに、束を見せつける。
????「我々が求める答えのヒントが、ホテルにあるってことが書いてあるのさ」
????「えー。また歩くのー。もう少し休もうよー」
????「何を言ってるんですか。謎があるなら足でも頭でも他のフレンズでも動かして見つけるべきですよ、助手」
????「わかってるよ。それが探偵ってことなんでしょ、センちゃん」
????「センちゃんはやめろと何度も言ってるでしょう。助手」
瓦礫で探し物をする、フレンズの正体は
オオセンザンコウと、オオアルマジロだった。
…………………………………………………………………………
――そう。これは私が覗いた異世界のけものフレンズ。
第三話のフレンズが観覧車に潰されるシーンと続いて、
第四話のフレンズの首が取れるシーン。
内容の暗さもあいまって、子供が酷く泣いてしまい、これは子供に見せるべきでないと、禁止する親もいたという話も聞きます。
しかし泣く一方、その親の禁止を越えて、それでも何とか見ようとする子供もいたと聞いています。
その子供達はおそらく、大人が全力で何かを伝えようとしているのを察して、どういう結果になろうとも見たいと、そう思ったのでしょう。
――この四話の時、たつき監督はどうだったかって?
リアルタイムで情報は流れてきませんでした。
それはこのアニメ制作が大詰めで修羅場すぎたのもあるでしょうし、
たつき監督の病状が悪化し、それがどうなるか予測もつかず、下手に心配させまいと流しづらかったのもあるでしょう。
――これ以降、好転することはなかったんですけれどもね。
…………………………………………………………………………
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