第9話『たたかいのはじまり』


 登場人物

ともえ(ヒト)

イエイヌ


ゴリラ


イリエワニ

メガネカイマン

ヒョウ

クロヒョウ

チーター

プロングホーン

G・ロードランナー


アムールトラ


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 ●


場面:前回からの続き。全員集合で林向こうの遠くから、アムールトラがやってくるのを見てる。


アムールトラがふらふらこちらに歩く。

ゴリラが腕を組んでいる。

ヒョウ:「ほな、行かせてもらうで」

ヒョウがゴリラの横を通る。

後ろからフレンズ達やゴリラを見るアングルになると、そこにはもうヒョウはいない。

イエイヌ:「速い!全然見えませんでした。ヒョウさんは足が速いんですね!」

チーター:「いや、違うわ。樹の上に登っただけよ」

ヒョウが木の枝の上を、次から次へと跳んでいる。

メガネカイマン:「元々ヒョウはジャンプ力が高く、登った木の上から隠れて獲物を狙う動物だったそうですね」

チーター:「だけど、あの子はそれじゃつまらなくなったらしく、堂々と殴りかかるようになったそうよ。それでずっと生きてこれたのだから、とんでもない能力よね」

チーター:「動物の限界を超えるフレンズ化。それが最も顕著に表れたのが、あの子なのかも知れないわね」

クロヒョウ:「そう、お姉ちゃんは狩りの天才」

ゴリラが腕を組んでいる。

ゴリラ:「移動する」


 ●


林の中をふらふらとアムールトラが歩いている。

ヒョウが木の幹から下へ向けて蹴り、上から勢いつけてアムールトラへと跳ぶ。

ヒョウ:「挨拶代わりや」

跳んできたヒョウが、アムールトラを殴る。

アムールトラが沈み、拳の風圧で周りにあった雪が吹き飛ぶ。

(※スローモーション始まり)

地面からバウンドしたアムールトラの身体が浮いて、斜め上へと動いている。

動いた先に、拳を振りかぶったヒョウがいる。

ヒョウが振りかぶった拳を前に突き出し、アムールトラの身体に当てる。

(※スローモーション終わり)

上空から木が音を立て、何本か倒れる映像になる。

雪の地面をえぐったアムールトラの身体が、投げ出されている。

そこに笑ったヒョウが拳を振りかぶりながら跳んでくる。

ヒョウがアムールトラを殴り、身体がまた宙に浮く。

ヒョウの両の拳が何度も振るわれる。あまりに拳の勢いが早すぎて、バウンドして宙に浮く暇もない。

アムールトラが虚ろな表情のまま、殴られるままに身体を凹ます。

また殴ろうとヒョウが思い切り振りかぶる。


黒い画面の中を、白く輝く線が縦横無尽に素早く走る。


アムールトラの眼が濃い紫になる。

紫のオーラが全身を包み、殴ろうとしたヒョウが吹き飛ぶ。

ヒョウが雪を飛ばしながら地面を足で滑って止まると、紫の大きなオーラの中から筋肉が増して一回りでかくなったアムールトラが現れる。

ヒョウ:「はん。えらく、でかくなったもんやの」

ヒョウの前でアムールトラが立ち止まる。

ヒョウはアムールトラを見上げている。

ヒョウ:「やが、力で振り回すだけなら興ざめやで」

アムールトラがファイティングポーズを取る。

ヒョウ:「はん」

ヒョウの口が獰猛な笑みを浮かべる。

ヒョウ:「やっぱ戦いは、そうでないとの!」


 ●


場面:ジャングルにある少し小高い建物の上。遠くでどかどか殴る音や破壊する音が聞こえる。


イリエワニ:「――あれが、ビーストモード」

ゴリラ:「そうだ。アムールの『力』の形態だ」

周りのフレンズが腕組するゴリラの方を見る。

ゴリラ:「殴って逃げるを繰り返す戦略は、攻略側にとって楽ではあるが、相手の底が見えず、回復する時間をも与えてしまうキリがないものだ」

ゴリラ:「だが、コレがあるからこそ、そういう戦い方をジャスティスでは取らざるを得なくなった」

メガネカイマンが眼鏡をくいと持ち上げる。

メガネカイマン:「短時間に大きな攻撃を連続で加えると、あのモードに変わってしまうからですね」

ゴリラ:「そうだ。あぁなると大振りだった攻撃の精度があがる上に、攻撃の威力が増す。並のフレンズなら一発で消えてしまう威力がある」

ロードランナーが震える。

ゴリラ:「だが、今回の我々は、あえてその形態にさせなければならない理由がある」

ゴリラが後ろを振り向く。

ともえが座って、スケッチブックに書こうとしている。その為に、目をつぶり、何かを感じ取ろうとしている。

ペンが紙に近づくが、何も書かれずペンはまた離れていく。

その様子をゴリラがじっと見ている。

ゴリラ:「方針は間違ってない。しかし、この形態の変化では探るには足りない。そんなところか」

ゴリラは目線を前に戻す。

ジャングルの木が倒れたり、壊す音が響く。

ゴリラ:「そろそろ移動だ。次に備えろ」

イリエワニ・メガネカイマン・ロードランナー・プロングホーン「「「「はい」」」」

イエイヌ:「ともえさん」

眉根を寄せて、真剣な顔をしているともえがいる。

ゴリラ:「ともえ、移動だ」

ともえが顔を挙げる

ともえ:「でも、まだ!」

ゴリラ:「こっちは計算で何とかしろ。次の位置ははっきりわかるはずだから、それを参考にして候補を減らせ」

ともえは悔しそうな顔をして、スケッチブックをカバンの中に突っ込む。


ともえを背負ったイエイヌと、ロードランナーを背負ったプロングホーンが去っていく。

イリエワニと、メガネカイマンも後から続いていく。


ゴリラは腕組みしながら、ジャングルの方を見ている。


 ●


場面:アムールトラとヒョウの戦い。


ぜいぜいとヒョウが息を切らしている。


アムールトラの拳が鋭く唸る。

木を背にしたヒョウが、間一髪でその攻撃を避ける。

幹がアムールトラの右拳でえぐられる。

ヒョウ:「とんでもない拳や」

アムールトラが拳を戻す間に、ヒョウがアムールトラを殴る。だが、身体は凹まない。

ヒョウ「そして、とんでもなく固い身体」

アムールトラが右拳を戻す勢いで左足が持ち上げられ、それが拳を身体に打ち込んだヒョウの頭へと向かう。かかと落としだ。

ヒョウ:「おまけに、技術もあるなんて、とんでもないのオンパレードやで」

ヒョウは身体を左にずらし、上から来る足を避ける。

体が伸びて動きづらくなったヒョウに、地に左足を下ろしたと同時に身体を沈ませ右足に力を貯めたアムールトラから、連撃の左足攻撃が上斜めへと向かう。

その攻撃を、左足のバランスをわざと崩したヒョウが、クロスさせた両手で受け止める。

アムールトラの拳が入るが、力は逃げるので、ヒョウが雪の地面をごろごろ転がるだけで済む。


ヒョウが何とか立ち上がるが、ぜいぜいと息を切らしている。

ヒョウ「痛ぅ」

ヒョウ「力を逃がしたってのに、無茶苦茶やな。腕が折れるかと思たで」


アムールトラが無言でこちらを歩いてくる。


ヒョウ:「認めとうないが、いくら最強のわいでも、あんさんには勝てなかったやろうな」


アムールトラが歩いてくる。地面に薄く影がある。

アムールトラが立ち止まり、思い切り振りかぶる。

それを疲れた顔で見上げるヒョウ。


ヒョウ:「ただまぁ」

ヒョウ:「今回のわいは、1人で戦ってるわけやないんやで」


地面に浮かぶ影が濃くなる。


アムールトラの視点から、ヒョウに向かって拳が振るわれる。

拳がヒョウにぶつかる。その直前でヒョウの姿が消える。

同時に振るわれた右拳が、肘から切断され落ちる。


クロヒョウ:「秘技、影落とし」

地面に膝をついたクロヒョウが、刀を鞘に納める。


アムールトラが悲鳴のような唸り声をあげる。


ヒョウ:「どうや、わいの力は。アムールはん」

チーター「やったのは、あんたの妹でしょうに」

ヒョウ:「何を言うとる。姉妹は一心同体なんやで」

チーター:「はぁ、まぁそうね」

チーターは抱えていたヒョウを下ろす。


アムールトラが叫んでいるのを、隣に移動してきたクロヒョウ含めてヒョウとチーターが見上げ、それぞれの構えを取る。


ヒョウ:「さぁ、二回戦の始まりや」


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ヒョウが拳を振るい、アムールトラの身体にめり込む。ヒョウの方をアムールトラが見る。

その隙にクロヒョウが刀を振るう。アムールトラに傷が入り、アムールは反射的に後ろ足でクロヒョウの方に蹴りを入れる。

クロヒョウがそれをジャンプでかわすが、そこにアムールトラの左裏拳の追撃が入る。が、高速移動してぶつかってきたチーターに軸足を乱され、裏拳がクロヒョウには届かない。

その拳がクロヒョウの前を通る時、クロヒョウは刀を中指に突き立てる。その痛みと崩れた軸足でアムールトラは床へと倒れる。

クロヒョウの体重と、アムールトラの重さで、刀に力が入り、拳の指が一つ切断される。

痛みで全身を震わすアムールトラから、ジャンプで皆が距離を取って、同じ位置へ。アムールトラが無茶苦茶に全身を振り回している。

三匹が頷き、また攻撃に入る。

三匹がそれぞれ走るが、アムールトラの視線は指を切断した右側のクロヒョウへと向いている。

アムールトラが体勢を低くして、地面すれすれを走るアッパーカットを向かってくるクロヒョウに出す。

咄嗟にガードをしたが、クロヒョウはアッパーに叩かれ、木の向こう側の草むらへと吹き飛ぶ。

そこに振りかぶったヒョウが、後ろ側から思い切りアムールトラを殴り、アムールトラが倒れる。

顔に付いた雪を首振りで払ったアムールトラが、じろりとヒョウの方を見る。

ヒョウは片手を挑発するように動かす。

ヒョウ:「かかって来いや、子猫ちゃん」


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アムールトラが全力でヒョウの方へと走ってくる。

ヒョウは挑発した格好のままニヤニヤしている。

アムールトラが、走る勢いのままヒョウに殴りかかる。が、そこにはヒョウはいない。

ヒョウ:「こっちや」

少し離れた左の位置に、ヒョウは仁王立ちしている。

そっちに向かって走りながら、アムールトラはヒョウに殴りかかる。が、そこにはヒョウははいない。

ヒョウ:「だから、こっちやで」

今度は少し離れた右の位置で、ヒョウは頭の後ろで腕を組んで立っている。

そっちに向かって走りながら、アムールトラはヒョウに殴りかかる。が、そこにはヒョウはいない。

ヒョウ:「のろまやな。子猫ちゃんは」

また離れた木と木の間で、ヒョウはただ立っている。

アムールトラの視点になり、そっちに向かって走りながら、アムールトラはヒョウに殴りかかる。

ヒョウの姿が消える。

ヒョウ:「こっちや」

ヒョウが体勢を低くしてアムールトラの下にいる。

ヒョウが飛び掛かり、殴ってきた左拳へとしがみつく。

アムールトラが拳からヒョウを離そうと振り回す。地面へと叩きつけようともするが、ヒョウは腕を回って地面へとぶつからない位置へと移動する。

中々ヒョウが剥がれないので、さらに力を入れて振り回す。だがアムールトラの片手がなくバランスが取れないので、振り回されて足元があちこちへと動く。


そして、とある地面を踏む。


すると、その地面が崩れて、大穴が現れる。

アムールトラはその大穴へと身体を傾けていく。

アムールトラは手を振り回して穴の端を掴もうとするが、片手しかなく、その残った片方もヒョウに抱えられ、うまく動かせない。

だから後はアムールトラは大穴へと傾き、落ちていくだけ。

と思われたが、アムールトラは片足の甲を、穴の縁へと引っ掛け落下を防いだ。

ヒョウ:「んな、アホな」

アムールが穴に落ちる前にジャンプして、木の枝にいるヒョウが言う。

アムールトラが足の甲に力を入れ、上半身を持ち上げて、片手で穴の縁を掴もうとする。

ヒョウ:「でも、あんさん。それは叶わへんで」

全力で走る何者かが、アムールトラの引っ掛けていた足を蹴飛ばす。

アムールトラが穴へと落ちていく。

ヒョウ:「うちの乗り物が、頑張っとるからな」

チーターがぜいぜいと、肩で息をしてる。


チーター:「だ、誰が、乗り物よ」


   ●


アムールトラが穴に落ちていく。

足と手を振り回してもがくが、穴が広すぎてどこにもぶつからない。

落ちる穴は暗い。どこまでも黒い闇のままだ。

いや、そこに金色の目が光る。

クロヒョウ:「姉妹奥義――天空割り」


上へと走らせた刃が、アムールトラの身体を両断した。


  ●


クロヒョウが穴から飛び出てくる。

クロヒョウがこちらを見ると、真面目にしていた顔が、いきなり笑みで崩れる。

クロヒョウ:「お姉ちゃん。やったよ」

嬉しそうに跳ねながら、クロヒョウがヒョウへと抱き着く。

ヒョウ:「そうか。ようやったな。クロヒョウ」

クロヒョウ:「えへへ」

チーターは二匹を呆れた目で見ている。

チーター:「それはいいけど、どうなの?あんた達。あいつは?」

クロヒョウがチーターの方を見る。

クロヒョウ:「んー。あの隊長の言うとおり。消した手応えはなかったよ」

チーター:「……なるほどね」

チーターは溜息を吐く。

ヒョウ:「つうことは、ゴリラはんの言うとった通りか。わいらで倒したかったけどな」

穴の中から強い紫色の光が出る。


ヒョウ:「ほな。逃げる準備しよか」


どこかの暗闇に白く太く輝く線が走る。


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ともえが目を見開き、スケッチブックに何か書いていく。

メガネカイマン:「あっ。あれは!」

メガネカイマンが指を差す。

隣でプロングホーンは驚いた顔をし、ロードランナーはあわあわしてる。

ゴリラ:「来たか」。

ゴリラは目を閉じている。

ジャングルの広い領域に、紫色のオーラが広がっている。

ゴリラが目を開く。


ゴリラ:「移動する」


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何もない空間からサンドスターが集まってくる。

足下からサンドスターは、フレンズの足を構成し、その姿が徐々にアムールトラの形を取る。

その後ろで五体のアムールトラが形作られていく。

それより後ろの方では、大小様々なアムールトラが大量に作られていく。


一匹のアムールトラの目が、紫色になる。


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場面:ヒョウ側。


ヒョウ達が複数のアムールトラから逃げている。

チーター:「これが隊長が言ってた、『数』の形態!」

チーターが目の前にいたアムールトラを避ける。

ヒョウ:「一体一体は無茶苦茶弱いで。でも数があるのが厄介やな」

ヒョウがチーターが避けたアムールトラを、軽く殴った拳で消す。

クロヒョウ:「うん。弱いフレンズなら、数に押されて消えちゃうね」

クロヒョウが走りながら一匹のアムールトラを腹で両断し、上から襲ってきた別のアムールトラを振り上げる刀で真っ二つにし、後ろから追いつきそうな二匹のアムールトラには、後ろ手に刀で突いて消す。

ヒョウ:「まぁでも、うちら姉妹なら大したことあらへん、な!」

ヒョウが加速し、目の前に固まっていたアムールトラ達に突っ込み、爪で全て吹き飛ばす。

チーターはそれらを見て、呆れた顔をする。

チーター:「まったく。そんなあんた達に付き合わされる、私の身にもなってよ。元々スタミナないフレンズなんだからね」

チーターは高速移動で、あちこちにいるアムールトラを吹き飛ばして消す。

ヒョウが今ので距離が離れたチーターをちらりと見て、呟く。

ヒョウ:「それを何とかする為に、あんたは毎日のように走り込んで種族の限界超えたんや。他のフレンズは好かんけど、あんたのそれはすごいと思とるんやで」

チーター:「ヒョウ。何か言った?」

ヒョウ:「何でもあらへん!」

チーター:「そう」

ヒョウは思い切り走って跳び、目の前にいた大きなアムールトラ二体を両手で引き裂く。サンドスターが後ろでキラキラ舞う。

ヒョウが着地して、後ろに振り向く。


ヒョウ:「ほな、急ごか」


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場面:あちこちに電気の線が繋がれた建物の中。さっきとは違う建物。


赤い点が大量に移動しているパネルの前に、ロードランナーがいる。

ロードランナー:「またアムールトラの大軍が、Aの66を通過したぜ!!」

イリエワニ:「予定時間より早いです!!確認はどうなってますか!」

紙束をバインダーに挟んだともえが、機械と紙束を交互に見て、指差し確認をしている。

ともえ:「今、71番のあたりだよ!」

イリエワニ:「もう少し急いでください!間に合わなくなります!」

イリエワニ:「修理はどうですか!メガネカイマン!」

一つの機械の前で、大量の配線を引き出しながら、メガネカイマンがじっと観察してる。

メガネカイマン:「ここがこうだから、この線は生きてて大丈夫だから、つうことはここか? 違うか。じゃあどうやって」

イリエワニ:「メガネカイマン!!」

メガネカイマン:「あぁ!今考えてるんだから気が散る!邪魔しないでよ!」

ともえ:「103番がランプ赤になってるよ!ここの修理もお願い!」

外への穴から身を乗り出していたイエイヌが、こちらを見る。

イエイヌ:「第一陣の姿が見えてきました!そろそろ仕掛けの準備段階終了しないと!」


メガネカイマン:「あぁ! 時間が足りない!」


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場面:ヒョウ側。雪の林


雪の林の中を、ヒョウとクロヒョウとチーターが並んで走っている。

チーター:「アムールトラが出なくなってきたわね」

ヒョウ:「せやな」

三匹が赤い印の入った木の隣を通る。

クロヒョウ:「これで、24個目」

ヒョウ:「仕掛けの地点も深うなってきたし、通り抜けたら湖のあたりで、一休みしよか」

クロヒョウ:「うん」

チーター:「こっから遠くない!?もうちょっと手前で何とかならないの!」

ヒョウ「そやな」

ヒョウがふと天を見ると、遠くに黒い煙が見える。

ヒョウ:「プロングホーンか……つうことは休憩はなしやな」

チーター:「えっ、ということはまさか!」

三匹が走る勢いを止め、立ち止まる。

ヒョウ:「せやな。時間稼ぎをする必要があるっちゅうわけやな。向こうさん、『そうち』ってやつが、全然ダメらしいで」

チーター:「ったく、何をやってんのよ、向こうは。もっと私を休ませなさいよ」

チーターがしゃがみ込む。

クロヒョウ:「それなら、そこでじっとしてていいよ。私とお姉ちゃんで全部倒しちゃうから」

ヒョウ:「そやで、のんびり寝ててもかまへんで」

ヒョウがにやにやしながら、チーターを見てる。

チーター:「あぁ、もう!」

チーターが立ち上がり、懐からジャパリメイトを取り出し、バリバリもぐもぐ食べる。その中身を金色の液体が入った瓶で流し込む。

チーター:「行けばいいんでしょ! 行けば!」


チーターの瞳が金色になる。


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場面:小さな高台。広めの道がそこに続いている。プロングホーンは道を上がってすぐの、高台入口で戦っている。高台中心には黒の煙を出す筒が固定台の上にある。


プロングホーンがアムールトラを中段蹴りで倒す。

プロングホーンがぜいぜいと息を吐いている。

次から次へと広めの道を登り、アムールトラが来る。

プロングホーンは歩いて、登ってくるアムールトラの軌道上に立ち、構えをし、息を整える。

拳を振り抜くと、やってきたアムールトラは倒され、消える。

プロングホーンが構えを解くと、疲れが来て、膝に手を置いてぜいぜいしてしまう。

プロングホーンがちらりと道の方を見ると、まだアムールトラは上がってきている。

アムールトラは深いため息を吐き、目を閉じる。

プロングホーン:「私が頑張らないと、他の皆が消えてしまうんだ。私が頑張らないと、他の皆が消えてしまうんだ。私が頑張らないと、他の皆が消えてしまうんだ」

プロングホーンはふらつきながら後ろに歩き、高台の真ん中あたりに移動する。

プロングホーンが大きな石の置物の後ろに隠れる。そこで休んでいる。

そこに次々と、アムールトラがあがってくる。アムールトラ達は左右へと顔を向け、プロングホーンを探している。

プロングホーンが焦りの顔を浮かべて、目を閉じて呟く。

プロングホーン:「私が頑張らないと、他の皆が消えてしまうんだ。私が頑張らないと、他の皆が消えてしまうんだ。私が頑張らないと、他の皆が消えてしまうんだ」

プロングホーンが息を整えようとする。複数のアムールトラが近づいている足音がする。

プロングホーンが目を開き、アムールトラへと走り、殴りかかろうとする。

最初のアムールトラは殴ったら消える。

次のアムールトラも蹴り飛ばしたら消える。

ただ後ろのアムールトラからは攻撃される。

それを身体をひねって何とか避けるが、別の方からきた蹴りは当たってしまい、プロングホーンの身体が歪む。

そのプロングホーンへと別のアムールトラが殴りかかり、そちらは何とか手でガードするが、バランスを崩し地面に倒れる。

地面のプロングホーンに、アムールトラが追い打ちの足を振り下ろすが、身体を捻って避ける。が、その背中を思い切り蹴飛ばされ、プロングホーンは地面を転がる。

仰向けになったプロングホーンが少し体を起こし、痛みに耐えながら視線をアムールトラに向けたら、彼らがこちらを見ている。

その後ろの道からも、アムールトラが次々と登ってくる。

崖から石が落ちる音がして、そちらにも目を向けると、アムールトラが登ってくる。

プロングホーンが痛みに耐えながら、身体を起こして立ち上がる。その周辺へとアムールトラが次々と歩みを進めて、プロングホーンは囲まれる。

プロングホーンが、ぜいぜい息を吐いている。

プロングホーン:「さすがに、これはヤバいなぁ」

アムールトラが一歩一歩近づいてくる。

プロングホーンがポケットに手を突っ込む。そこから金色の液体が入った瓶を出す。

その瓶をプロングホーンはじっと見る。

プロングホーン:「私が頑張らないと、他の皆が消えてしまうんだ。私が頑張らないと、他の皆が消えてしまうんだ」

プロングホーンが瓶の蓋を開ける。

プロングホーンが決意の顔になる。

ゴリラ:「――言ったはずだ。ここは重要だが、飲む事態までになったら捨てて良い場所だと」

崖近くのアムールトラ二体の足が掴まれる。

その二体が崖向こうに落ちると引き換えに、ゴリラが崖の上へと登る。

プロングホーンが驚く。

ゴリラがちらりと横を見ると、崖の近くをずらりとアムールトラが並んでいる。

ゴリラが一つ頷く。

ゴリラは左腕をラリアットの形にしたまま崖近くを走り、そこにいたアムールトラを全部崖下に吹き飛ばす。彼らは地面に落ちて消える。

道側のアムールトラ達の前まで来ると、左手を戻しアムールトラへと振り抜く。一列になっていたアムールトラが連鎖で吹き飛ばされ、消える。

一帯にサンドスターのキラキラが舞う中、ゆっくりとゴリラがプロングホーンへと歩く。

プロングホーンが驚いた顔から、安心して疲れた顔になる。

プロングホーン:「さすが、隊長さんだぁ」

ゴリラがプロングホーンの前に来る。

プロングホーンは疲れながら、反射的に敬礼の構えを取る。

プロングホーン:「まさか、隊長が来てくれるとは。ありがとうございます」

ゴリラは疲れでぜいぜいさせている、プロングホーンの身体を見る。

ゴリラ:「この一帯を守らなければ、あいつらが帰れないからな。ここで戦うのは、道の敵を薄くするのにちょうど良い誘導地点だからだ」

プロングホーンは笑う。

プロングホーン:「相変わらずだなぁ。お礼を素直に受け取らない所は」

ゴリラは無言でいる。

プロングホーンはより笑顔になる。

ゴリラが道の方へと視線を向け、プロングホーンもそちらに目を向ける。

さっきより大量のアムールトラが、こちらへと登ってくる。

崖の下からもアムールトラは登ってきていて、崖の上にも一体ずつ上がり始める。

プロングホーンとゴリラは歩き、背中合わせで並び立つ。

ゴリラは無表情だが、プロングホーンは笑ってる。

プロングホーン:「さぁ。かかって来い!今ならいくらでも倒せそうだからな!」

プロングホーンが構えを取る。


ゴリラはふっと笑い、無言で構える。


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場面:前線で戦うヒョウ側


ヒョウとクロヒョウが走ったり、木を駆けて登ったりしながら、アムールトラ達を殴ったり切ったりして消していく。

チーターが高速で走り、ぶつかったアムールトラの一部が削れ、そのまま全身が消えていく。

クロヒョウは前から来たアムールトラを刺して、後ろに身体ごと放り投げる。

その軌道にいたヒョウが左拳で払うと、アムールトラは飛散する。

輝くサンドスターを浴びながら、チーターは駆け、アムールトラが固まっている所へと突っ込み、吹き飛ばす。


ヒョウが降りて木の合間を行き、すれ違うアムールトラを左右の拳で交互に消していく。

ヒョウが膝姿勢で雪地面を滑りつつ、木の半分くらいのサイズの、大きなアムールトラの股下をくぐり、両手爪を上へと走らせる。

膝姿勢で滑らせていたヒョウが立ち上がり、また走り出した瞬間、大きなアムールトラがサンドスターに飛散する。


クロヒョウに大量のアムールトラが殺到する。

クロヒョウは両手の刀を振り回して、次から次へと切る。

クロヒョウへとアムールトラが、後ろから殴りかかる。

拳がクロヒョウへと近づく辺りで、下からクロヒョウの刀が走り、アムールトラの腕が両断される。そのアムールトラへと振り返ったクロヒョウは腹を蹴飛ばすと、何匹か巻き込んで吹っ飛ぶ。

クロヒョウはその群れの中へと、身を突っ込ませる。


チーターが止まってはまた走り、アムールトラにぶつかり消していく。

チーターが走る視点では、左側奥にアムールトラが見える。

チーターは木の合間を縫い、目の前にきた木を強引に避け、倒れた大木を軽いジャンプで越え、着地で足を滑らせながら、右足を持ち上げ、そのまま木を蹴って左斜め上へと急な角度で方向転換のジャンプをする。そこから回転しながら落ちたチーターはアムールトラへとかかと落としをする。

チーターが立ち止まる。ぜいぜいと息を吐きながら、左右を見て、見つけたアムールトラの方向へとまた駆け出す。


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場面:高台。ゴリラとプロングホーン側。


ゴリラが高台入口側に立って、アムールトラを右手で殴りつける。それだけでアムールトラは吹き飛び、後ろのアムールトラ達を巻き込む。そこの横からアムールトラはどんどんやってきて、消えなかったが倒れたアムールトラを、後ろから来たアムールトラは踏みつけて前に出る。

そのアムールトラ達もゴリラは右手を引いては前へ、引いては前へと何度も殴りつけて倒していく。


プロングホーンは目をつぶっていて、息をしている。

遠くでじゃりと音がする。

暗闇のプロングホーン視点がその方向へと高速で動き、何かを殴りつける音がする。暗闇の一部が一瞬光で輝くが、すぐに消える。

プロングホーンを見る視点では、崖の近くで目をつぶっているプロングホーンが走って、登ってきたアムールトラの前に立ち、殴ったり蹴ったりして、消している。

離れていても、数が多くても、目をつぶって高速で動き、プロングホーンはアムールトラを倒していく。


ゴリラはプロングホーンを横目で見ている。

プロングホーンはアムールトラを殴ってはふぅふぅと息を整え少し休む。間が空く。軽く駆けて移動して殴る。間が空く。


ゴリラはそれを見て、溜息を吐く。

ゴリラ:「問題がなさすぎて、勿体ない」

ゴリラ:「相性があるから仕方ないが、あの二匹は逆に置きたかったな」


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場面:雪の林の中にいるチーター。


ぜいぜいと限界に息を切らせながら、ヒョウがふらふら歩いている。

金色の瞳が点滅を繰り返して、元の瞳の色に戻る。

チーターは、木に手を付き、ぜいぜいと休んでいる。

チーターは震える手をポケットへと伸ばし、中から金色の液体が入った小瓶を取り出す。

慣れた手つきで瓶の蓋を外した後、瓶を疲れた目でじっと見る。

一つ頷いた後で、その液体を飲み込む。

ふぅと溜息をチーターは吐く。

そこにアムールトラが走ってきて、チーターは疲れた目でそちらに向く。

チーターは走りだし、アムールトラへとぶつかるが、ぶつかったアムールトラは倒れただけで消えない。

チーターは倒れたアムールトラを見て、愕然とする。

チーター:「また金色の雫を飲んだのに?どうして」

チーターの瞳がアップになるが、金色にはなってない。

アムールトラがゆっくりと立ち上がる。

チーターはアムールトラの紫色の瞳を見て、後ずさる。

チーターはアムールトラから逃げ出す。アムールトラはチーターを追いかける。

チーターの速度は速くなく、アムールトラは距離を段々と縮める。

アムールトラから追われたチーターが、足をふらつかせ、地面に倒れ込む。

倒れたチーターにアムールトラが殴りかかる。

チーターは腕で防ぐ。アムールトラは何度も殴る。チーターのガードが段々と弱くなっていく。

チーターの口が開く。

しかし何も言えず、口が閉じられる。

その口をアムールトラが殴る。

チーターはアムールトラに何度も殴られる。顔胸腹腕腹と殴られて、ボロボロになり、今にも消えそうな表情になる。

アムールトラの腕が、強く振りかぶられる。


そのアムールトラの腕に刀が突き刺さる。

続いて飛んできた大量の小さな刃物が身体に刺さり、アムールトラは消える。

きらめくサンドスターの向こうに、クロヒョウが立っている。

クロヒョウ:「ったく、私達の邪魔をしないでよね」

ボロボロなチーターは口を開くが、何も聞こえない。

クロヒョウはその様子をじっと見ている。

クロヒョウ:「・・・まだ、大丈夫そうだね」

クロヒョウは、チーターを背中に抱える。チーターの力はなく背中から落ちそうになる。

クロヒョウ:「世話のかかる」

クロヒョウはチーターの両手を自分の首に回し、そこを紐で縛る。足も自分の胴体に回し、紐で縛って固定する。

クロヒョウ:「これでよし」

クロヒョウは駆け出す。

少し走ると、ヒョウのいる所に辿り着く。

ヒョウ:「おう。べっぴんさんになったやん」

チーターは何も言えないが、恨めしそうな目でヒョウを見る。

ヒョウ:「は。にらむ元気があるっちゅうなら、まだ大丈夫やろ」

ヒョウ:「ほな。頼むで」

ヒョウが一つの木を指差す。その木はピンク塗料で×印が書かれてる。

クロヒョウ:「わかったよ。お姉ちゃん」

クロヒョウがそちらの方へとヒョウと一緒に歩く。

クロヒョウがその木の中を覗くと、下へと続く扉がある。

クロヒョウがその扉を開けると、中はすぐコンクリートの床になっていて、そこから階段になっている。

クロヒョウはそこにチーターを下ろしてから、跳んで上へと戻る。

ヒョウが閉める扉に、手を掛ける。

チーターは呆然とヒョウとクロヒョウを見上げている。

ヒョウ:「今度は、ちゃんと助けを呼ぶんやで。チーターはん」

チーターが何かを言おうとする。

ヒョウが扉から手を離し、扉は閉まっていく。

ヒョウ:「ほなな」


扉が閉まり、そこは暗闇に閉ざされる。


 ●


木の前でヒョウとクロヒョウが、立っている。

クロヒョウ:「まったく、お姉ちゃんは甘いんだから。あんな馬鹿な子、放っておけばいいのに」

ヒョウ:「そう言うなや。あれで結構かわいい所あるんやからな。それが見えなくなるのは残念やしな」

クロヒョウが、ヒョウに抱き着く。

ヒョウ:「うん?どないしたん?クロヒョウ」

クロヒョウ:「お姉ちゃんの一番はわたし」

ヒョウ:「そうやで。お前が一番やで」

ヒョウはクロヒョウの頭を撫でる。クロヒョウは嬉しそうにする。

ヒョウは空を見上げる。

ヒョウ:「しかしなぁ。いくらなんでも遅ぅないか?その仕掛けってやつに、どんだけ時間掛けとんねん」

クロヒョウ:「あんな連中だから、無能なのは当然」

ヒョウ:「それはそうなんやけど、さすがに自分の仕事をしてもらわんと。そうやないと最強のわいらでも――うん?」

ヒョウが空を見上げて、怖い顔をする。

クロヒョウ:「どうしたの?お姉ちゃん」

ヒョウ:「見てみい、あの煙。緊急招集の奴や」


空に赤い煙がたなびいていた。


 ●


場面:建物側。チーター以外全員集合してる。


深刻な顔をしているフレンズ達。

イリエワニ:「・・・もう一度、説明してください」

メガネカイマン:「・・・・はい」

メガネカイマン:「私は、アムールトラの数の形態を倒す為、この大規模装置の仕掛けを準備してきました。これを作動すれば、皆さんが仕掛けた様々なものが作動し、一気にアムールトラを倒すことが可能です」

ゴリラ:「そんなことはわかってる。で、何が問題なんだ?」

メガネカイマン:「ここの装置は何度も点検し、修理もしました。その結果、わかったことは、何も問題がないということです」

ヒョウ:「問題がないやて?で、何でそいつが動かんねん」

メガネカイマン:「ここの装置は問題ないです。でも、外のケーブルのどこかに問題が起きてる。たぶん抜けているとかでしょう。だから、動かないんです」

ヒョウ:「なるほどな。そういうことか」

ゴリラ:「どのケーブルかわからないのか?」

メガネカイマン:「すみません」

皆が沈黙する。

目をつぶっていたゴリラが目を開ける。

ゴリラ:「班を分ける」

ゴリラ:「一つは、ケーブルのどこに問題があるか探しに行く班。もう一つは、ここを防衛する班だ」

ゴリラ:「探しに行く班は、メガネカイマン、イリエワニ、イエイヌ。敵とは戦わず、逃げることに専念して探せ」

メガネカイマン・イリエワニ・イエイヌ:「「「はい」」」

ヒョウ:「どうして、その面子なん?隠密には向いてるけど、足が速いプロングホーンはんとか混ぜた方が、探せるんやないかい?」

ゴリラ:「ケーブルを主に設置してたのが、こいつらだからな。場所がわからなければ、いくら足が速くても話にならない。それにケーブルに抜けた以外の問題があった場合、修理できるのはこいつらしかいない」

ヒョウ:「なるほど。そりゃそうや」

ゴリラ:「もう一つが、ここを防衛する班だ。この建物に来る一本道を、ヒョウ姉妹が守る。違う場所から無理矢理アムールトラが来る可能性も考えて、建物近くには私とプロングホーンが控えて、装置を守る。残るロードランナーとともえは、直った後で、装置を動かしてくれ」

ともえ:「はい」。ロードランナー:「わかったぜ」

ヒョウがわざとらしく、ヤンキー座りをする。

ヒョウ:「はぁ。よう戦わすなぁ。こらぁ、後でねぎらってもらわんとあかんなぁ」

ヒョウがゴリラをチラチラ見る。

ゴリラ:「できることなら、何でもしよう」

ヒョウ:「言うたな!なら、命を懸けた決闘をしてもらうで。どっちが強いか決着をつかんと、消えても消えきれんからな」

ゴリラ:「いいだろう。あいつを倒した後でなら、幾らでも相手してやる」

ヒョウ:「ほんまか!約束やで!」

立ち上がったヒョウは、喜んでドアから出ていく。

クロヒョウ:「待ってよ!お姉ちゃん!」

クロヒョウも一緒に出ていく。

そこからそれぞれのフレンズが役割で分かれ、会話に入る。


ともえは周りを見ている。


イリエワニとメガネカイマンとイエイヌが地図を見ながら、話をしている。

メガネカイマン:「たぶん、こことこことこことここが怪しいと思います」

イエイヌ:「……だいぶありますね」

イリエワニ:「最初は手分けしてこっちを探しましょう。こっちのアムールトラが集まりそうな場所は後で一緒に探すということで」

メガネカイマン:「まぁ、そうなりますよね」


ともえは周りを見ている。


ロードランナーはプロングホーンを前に、はしゃいでいる。

ロードランナー:「やった。プロングホーン様が近くにいるぜ。プロングホーン様が近くにいるなら、俺は絶対安心だぜ」

プロングホーン:「そうだな。私達も頑張ろう!」

ロードランナー:「はい!」


ともえがマフラーをいじりながら、周りを見ている。


ゴリラ:「ともえ」


ともえが振り向くと、ゴリラがいる。

ゴリラ:「どうだ?あの計画は」

ともえがマフラーを握り、首を横に振る。

ゴリラ:「……そうか」

ともえ:「やっぱり、最初のが薄くて見えなくて、数の時は大きいから線が引けたんだ。交わる場所を何とか計算して、それっぽい場所を探そうとはしてるんだけど。でも」

ゴリラはうつむくともえを、じっと見ている。

ゴリラは無言で背を向ける。

ともえはその背中に何か声をかけようとするが、何も言えないまま、マフラーを握って俯く。


イエイヌは気づかずに、地図の前で他と話をしている。


 ●


場所:建物の外。雪積もる枯れた木がちらほら


ゴリラ:「作戦開始だ」


ヒョウとクロヒョウが一緒に走っていく。

イリエワニとメガネカイマンとイエイヌも走って出ていく。

プロングホーンはゴリラの隣で腕組みをしている。

ロードランナー:「じゃあ、中で待ってますので。俺を守って下さい、プロングホーン様」

ロードランナーは建物の扉から、プロングホーンを見ている。

プロングホーンは振り返り、笑顔で親指を立てる。

ロードランナー:「きゃあ」

黄色い悲鳴を上げて、ロードランナーは扉を閉める。

ゴリラが建物の方をちらりと見る。


地図が敷かれた建物の床で、ともえは必死で計算式を書き、定規で線を引いている。


 ●


場面:イリエワニやイエイヌ側。


水辺がある。近くをアムールトラが見まわしている。

アムールトラが去っていく。

水辺からイリエワニが顔を出す。

イリエワニの視線の先には、無事なケーブルがある。

ケーブルを確認したら、すっとイリエワニが水の中に潜る。



高い崖があり、そこにメガネカイマンがいる。

メガネカイマンはメガネをくいとさせると、そのメガネが青色に光る。

そのメガネの視界の向こうには、無事なケーブルがあって、近くをアムールトラがうろうろしている。

メガネカイマンは懐から出した地図に、赤いペンでチェックを入れていく。



イエイヌが這って、地面の臭いと、空気の匂いを嗅いでいる。

イエイヌは音を立てないようにそっと走り、たまに木を登り、その上でアムールトラをやり過ごす。

その木の上から、ケーブルの方に顔を向ける。

イエイヌ:「Gの7問題なしですね」

イエイヌは懐から取り出した紙を見る。そこには簡単な地図と確認地点が書いてある。

イエイヌ:「次はあっちですか」

イエイヌが匂いを嗅ぐ。イエイヌは嫌そうな顔をする。

イエイヌ:「たくさんいますね。うまくやり過ごせると良いんですが」

イエイヌは木を降りると、音を立てずに走り出す。


 ●


場面:ヒョウ側。建物へと続く道の入口で、少し広場になっている。建物への道の両側はコンクリートの崖になってる。


ヒョウとクロヒョウが腕組みをして、道の真ん中にいる。

風が吹いて、木の上に積もった雪がちらちら舞う。

ヒョウが目をつぶっている。クロヒョウも目をつぶっている。

ヒョウ:「来たか」

二匹が両目を開く。

雪を踏みしめて、大小アムールトラが何匹かやってくる。

ヒョウは獰猛な笑みを浮かべる。クロヒョウも真似て獰猛な笑みを浮かべる。

ヒョウ:「あんたらには、あたしら姉妹の、最強への礎になってもらうで!」

クロヒョウ:「そうやで!」


ヒョウは爪をとがらせた構えを取る。

クロヒョウは両刀に手をかける。


ヒョウ:「さぁ! ここは、誰も通さへんで!」


 ●


ヒョウとクロヒョウが次々来るアムールトラと戦っている。

ヒョウが上からアムールトラを殴り、雪の地面を擦らせつつ消える。下から殴ったものは、高い木まで吹き飛んでぶつかって消える。

クロヒョウは、胴体を横に両断し、斜めに両断し、縦に両断し、どんどんアムールトラを消す。

ヒョウがアムールトラを連続で殴る。アムールトラが吹き飛ばされ、別のアムールトラを大量に巻き込んで消す。

クロヒョウが軽く歩きながら、次々走ってくるアムールトラを切りまくる。両断されたアムールトラの身体が、サンドスターになるより早く後ろへと貯まる。切ってサンドスターに変化したものも多い為、クロヒョウの斜め後ろがサンドスターの道を作っている。


ヒョウが走る。

クロヒョウも走る。

ヒョウとクロヒョウがすれ違い、互いに構えを取り、向こうにいる敵を一撃で倒す。二匹の口は、獰猛な笑みを浮かべる。


互いに何度もアムールトラを殴り、切った後で、二人が背中合わせに並ぶ。

ヒョウ:「はん。大したことないな。案外、『そうち』ってやつを使う前に、向こうさん全滅かもしれんで」

クロヒョウ:「うん。お姉ちゃんなら可能だと思う。でも次、でかいの来るよ」

ヒョウ:「あぁ、あれな」


雪を舞わせながら、どしどしと何かが走ってくる。

ヒョウとクロヒョウがその何かに目を向けている。

木を抱えた、20m級のでかいアムールトラが、ヒョウ達のいる広場に現れて、止まる。

アムールトラ:「がぁぁあああああああああああああああ」

周りを威嚇するような叫びが、辺りの木をびりびりと揺らす。

大きなアムールトラが、下にいる小さいヒョウとクロヒョウに目線を向け、怒りの形相を浮かべる。

それをヒョウとクロヒョウは、真顔で見ている。


ヒョウは、つまらなそうな顔をする。


ヒョウ:「でかいだけで、大したことあらへんな。お前に任すわ」

クロヒョウ:「わかった。お姉ちゃん」

クロヒョウがアムールトラへ向かって歩き出すと、でかいアムールトラは持ってた丸太を二匹に振り回す。別のアムールトラが巻き込まれて、吹き飛ばされる中、ヒョウとクロヒョウはジャンプで避ける。丸太の勢いで雪が辺りに強く舞う。

悪かった視界が徐々に開けた中には、ヒョウしかいない。アムールトラが辺りを見回してもクロヒョウはいない。

振り上げた丸太の上から駆け降りる影。両刀を抜いたその影が巨大なアムールトラへと落ちていく。

クロヒョウ:「奥義――滝の流れ」

刀を引き抜きながら体を回転させ、球体についた刺のようにして落ちたクロヒョウは、アムールの全身を切り傷塗れにする。

クロヒョウが着地し、歩き出す。巨大なアムールトラに刀傷の一線が大量に入った後で、その姿が大量のサンドスターとして舞う。


大量のサンドスターがキラキラと輝く下を歩き、クロヒョウが刀を仕舞う。


 ●


場面:探索するイエイヌ達


地図を見ていたイリエワニが顔をあげる。メガネカイマンとイエイヌが小走りでやってくる。

イリエワニ:「見つかりましたか?」

メガネカイマンとイエイヌが横に首を降る。

イリエワニが険しい顔になる。

イリエワニ:「なら、この三匹で危険地帯に行くしかありませんね。なるべく戦わない方針は継続で」

イリエワニが溜息を吐く。

イリエワニ:「時間がかかりすぎました。さすがの彼らでも、危険な頃です。急ぎましょう」


メガネカイマンとイエイヌが頷く。


 ●


場面:ヒョウとクロヒョウ側。建物まで続く道にいる。


アムールトラがこちらに殺到しているが、両側がコンクリートの崖の道は狭く、詰まって動けないでいる。

ヒョウとクロヒョウがそれを見て、互いに構えを解き、ぜいぜいと膝に手を付いて休む。

ヒョウ:「ったくいつまでかかっとんねん! あいつら、絶対殺したる!」

ヒョウが、金色の雫を取り出し、それを一気に飲む。

クロヒョウ:「お姉ちゃん!?」

ヒョウ「あぁ。こんなんに頼るは屈辱的やが、消えてしまっては意味ないからな」

クロヒョウはじっとヒョウを見ると、自分も金色の雫を取り出し、それを飲む。

ヒョウ:「それでええ」


後ろから押されたアムールトラが弾けるようにして前に出て、それで詰まりが解消したアムールトラが二匹へと殺到する。

ヒョウとクロヒョウが同時に攻撃し、一気にアムールトラ達が吹き飛ぶ。両獣の瞳が金色に輝く。


ヒョウ:「いっちょ、やったるで!」


 ●


場面:ゴリラ。装置の建物の近く。


ゴリラが高い木に登り、古い双眼鏡でヒョウとクロヒョウが通路で滅茶苦茶に殴りまくり、切りまくっているのを見ている。

ゴリラ:「そろそろ限界か」

ゴリラは高い木から跳び降り、ずしんと音を立て、雪を舞わせる。

ゴリラは建物へと歩いていき、扉を開ける。

ゴリラ:「ともえ、時間だ」

大量の線と消し跡が残る地図の前で、頭を抱えていたともえが、ゴリラの方をバッと見る。

何か言いたげなともえを見て、ゴリラは察する。

ゴリラ:「急げ」

ともえは悔しそうな顔をするが、動かない。

ゴリラ:「急げ!!」

弾かれるように動いたともえは、鞄の中に地図と色鉛筆を苛立ち気に突っ込んでいく。

建物の外に出たゴリラとともえは、道の近くの、入口が開いてる木の所までやってくる。ともえは項垂れて、付いてきている。

ゴリラ:「そこに隠れてろ」

ともえは、その木の穴へと入る。そんなともえをゴリラは無言で見ている。

ゴリラ:「あの計画の入口はここだ」

ともえがバッと足元を見て、その上にあった土や砂を手で払っていく。

そこから出た金属製の小さな扉を見つけて、バッとともえは顔をあげる。

ともえはマフラーを握りしめながら、口を開けたり閉じたりして何か言い出そうとしている。

ゴリラ:「お前があの場所を見つけてないのはわかっている」

ともえは驚いた顔をする。

ゴリラ:「でも、最後まで何が起きるかはわからないからな」

返事を持たず、ゴリラは去る。

残されたともえは、打ちひしがれる。


ともえが鉄の小さな扉に、ガンと拳を打ち付ける。


 ●


場所:ヒョウ側


ヒョウが一団となっていたアムールトラを力で抑えている所を、ゴリラが走り様で殴り飛ばす。空中に吹き飛んだアムールトラは一瞬で、サンドスターになる。

ゴリラがヒョウの隣に立つ。

ゴリラ:「待たせたな」

ヒョウが肩で息をしながら、ゴリラを見ずに言う。

ヒョウ:「はん。もうちょっと遅れてもろうてよかったんやで。あんさんの出番がなくなる前に終われば、隊長に相応しいのは誰かわかるってもんやろ」

ヒョウの金色の瞳が点滅している。ゴリラはそれを見ている。

ゴリラ:「それだけ強がりが言えるなら大丈夫そうだ」

ヒョウは舌打ちをし、懐から取り出した金色の雫を飲む。

クロヒョウが二匹の元へとふらふらと歩きながら、懐から取り出した金色の雫を飲む。

金色の瞳のヒョウとクロヒョウに、間を挟まれたゴリラがいる。三匹が、それぞれの構えを取る。

広場や森から大量のアムールトラが流れてきて、それが通路へと殺到してきている。


ゴリラ:「最終ラインだ。ここを守るぞ」


 ●


場所:イリエワニとイエイヌ側。


メガネカイマンとイリエワニとイエイヌは、別々の木から違う方向を見てる。

メガネカイマン:「見つけた」

イリエワニとイエイヌは、メガネカイマンが指差した方を見る。

そこには多くのアムールトラが密集している。

イエイヌが目を凝らすと、その隙間から一瞬大きなケーブルが外れているのが見える。

イエイヌ:「ありました。あれですね」

イリエワニ:「おそらく、大きなアムールトラが偶々引っ掛かりでもして、掘り起こしたんでしょうね」

イエイヌ:「でも、どうしてアムールトラが集まってるんですか?」

メガネカイマン:「本来、アムールトラは電気が苦手なんですけど、発電機の修復にサンドスターを使ったせいかな。少量だけど、サンドスターを辺りに結構ばら撒くようになってます」

イリエワニ:「それにアムールトラが集まったってわけですか。あんな化物でも、サンドスターを求めるはフレンズの本能ですか」

イエイヌ:「で、どうします?アムールトラのいる場所を通らずに、あのケーブルを直すことはできません。でも通れば必ず戦闘になってしまいます」

イリエワニは苛立たし気に頭を掻く。メガネカイマンは俯いている。

イリエワニ:「くそっ。自分達じゃあれだけ倒すのは無理です。他の奴らを呼んでくるしかありません」

イエイヌ:「でも、それだと間に合わないかも知れません。それに向こうだってギリギリの戦いをしてるはずです。一匹でも連れだしたら、戦線が崩壊して装置が壊されるかも知れません。そうなったら終わりじゃないですか!」

イリエワニ:「だったら、どうすればいいんですか!!」

メガネカイマンが、俯いていた顔をあげる。

メガネカイマン:「私が囮になります」

イエイヌ:「えっ」イリエワニ:「なっ」

メガネカイマン:「私が大量に引き付けているので、その間に手薄になった所を何とかしてください」

イエイヌ:「でも、それだとあなたが!!」

メガネカイマン:「危険なのはどっちも同じです。それにケーブルをあんな浅く埋めさせたのは私のミスですしね」

イエイヌ:「でもそれは、皆納得して」

メガネカイマン:「それでもですよ。私は私が提案したことの責任を取らないと、気が済まないんです」

驚いたイエイヌは、イリエワニの方を向く。

イエイヌ:「イリエワニさんからも止めるよう、なんとか言ってください。……イリエワニさん?」

イリエワニ:「……やるんですか?」

メガネカイマン:「もちろん」

イリエワニ:「そうか。行ってくれますか」

イエイヌ:「イリエワニさん!!」

イリエワニ:「うるさい!何も知らない癖に邪魔しないで下さい!!所詮、外部のフレンズでしょう!!あなたは!!」

イエイヌが黙り込んでしまう。

そちらを見ずに、メガネカイマンが頷き、イリエワニも頷いた。


イエイヌはギリっと歯を噛み締める。


 ●


メガネカイマンが大量のアムールトラに向かって走る。

メガネカイマン:「おい!アムールトラ!」

アムールトラが一斉にメガネカイマンの方を見る。

メガネカイマンが金色の雫を飲む。

メガネカイマン:「こっちに来い!そんなものより上質なサンドスターがこっちにあるぞ!」

メガネカイマンの目が金色に光る。

大量のアムールトラが一斉に、メガネカイマンの方へ走り出す。

それを確認したメガネカイマンは、全力で横道へと走り出す。多くのアムールトラが列のようになり、そちらの方へ付いていく。

その走り出す列が切れた向こうから、イエイヌとイリエワニが金色の瞳をさせ、全力でケーブルに向け走ってくる。

イエイヌ・イリエワニ:「うぁああああああああ」

残っていたアムールトラが反応して、イエイヌとイリエワニの方を見る。



二匹がアムールトラに近づく(※ここから画面がスローモーションになり、攻撃と防御の物理の音だけ響くのが、場面の終わりまでずっと続く)


イリエワニが目の前の敵にまず殴りかかり、イエイヌは敵の攻撃を避けて前に進むが、アムールトラ二匹の前で立ち止まる。だが、イリエワニが殴り飛ばした相手が吹き飛んできてその二匹を吹き飛ばす。イリエワニが走ってイエイヌを追い抜かして、それを見てイエイヌも駆け出す。


メガネカイマンが全力で雪の林の中を走っている。


走ってるイリエワニが目の前にいる敵を手でどかして転ばせ、イエイヌは敵が殴りかかってくるのを跳び越え、着地点のアムールトラを踏みつけ地面へと沈ませて進む。アムールトラ二体の前で宙返りしたイリエワニは、両足で二体の頭にかかとを落としてサンドスターを舞わせる。

そこから走り出すイリエワニは、苦しそうな表情を浮かべる。


疲れたメガネカイマンが雪に足を取られ転びそうになりつつ、まだ走る。追いついてきたアムールトラが画面に少し入っては出ていく。


大量にアムールトラが固まってた場所にイリエワニが体当たりして、その後ろからイリエワニを踏み台にしたイエイヌが跳躍をし、ケーブルの近くまで落ち、そのまま奥にある、最後のアムールトラの固まりに向けて突っ込む。


メガネカイマンが、アムールトラに追いつかれそうになる。必死に逃げている。


イエイヌは殴られながらも、手で掻き分けて進み、ケーブルへと手を伸ばすが、アムールトラの肉の壁で届かない。そのまま肉の中に吞まれそうになる。


メガネカイマンがアムールトラ達に追いつかれ、その姿が一団の中に呑まれていく。


イエイヌが叫び声をあげ、手を伸ばし、外れたケーブルを掴む。それを強引に差し込む。

(※スローモーション終わり)


  ●


場面:装置側。


目の前の大量の赤いランプが一斉に緑色に変わる。

プロングホーン:「来たぞ!!」

ロードランナー:「いっけぇええええええ」

ロードランナーが手を、赤いボタンに叩きつける。


  ●


あちこちで火薬の爆発が起きる。崖が崩れたり、でかい穴が開いたり、電撃が一帯に流れたりすると、多くのアムールトラが岩に呑まれたり、下に落ちたり、感電したりして、大量のサンドスターと雪が周囲に舞う。


上空視点になり、ジャングルのあちこちで、木が倒れたり爆発したり岩が落ちた音がする。


  ●


場面:ヒョウとゴリラ達。狭い道。


舞ってた雪とサンドスターが晴れてくる。

ヒョウとクロヒョウとゴリラがぜいぜいと息を吐いている。

ヒョウ:「ようやく、消えたな」

クロヒョウ:「これで、大勝利だね。お姉ちゃん」

ヒョウ:「そやな。もうくたびれたわ」


眉を寄せたゴリラが、肩で息をしている。


  ●


場面:イリエワニとイエイヌ。


イエイヌとイリエワニが走っていて、二匹が急に立ち止まる。

そこには眼鏡が落ちていて、少しずつサンドスターになっていく。二匹が苦痛な表情を浮かべる。


  ●


ヒョウがクロヒョウを抱きしめて、頭を撫でている。

ゴリラが肩で息をしている。

ゴリラが眉を寄せた顔から、何かに気づいた顔になる。


ゴリラ:「どうして、攻撃されてない奴まで消えたんだ?」

 

  ●


場面:装置側


ロードランナー:「プロングホーン様!やりましたよ!」

ロードランナーが喜んでプロングホーンに駆けてくる。

そこからプロングホーンを見る、ロードランナーの視点になる。

プロングホーンが嬉しそうな顔から、驚愕、そして焦った顔になり、駆け出す。

ロードランナーは思い切り壁へと突き飛ばされ、床にへたり込む。

ロードランナーが苦痛で目を一瞬閉じ、そこから目を開いた先では、アムールトラの腕がプロングホーンの胸を貫いていた。ロードランナーは目を見開く。

プロングホーンがロードランナーを見て、声なく口を動かす。「逃げろ」と読み取れる内容を。

プロングホーンの姿が、一気にサンドスターになる。

サンドスターが舞う中で、ロードランナーは身体を震わせている。


アムールトラがこちらを、じろりと見る。


  ●


ともえが何かに気づいて立ち上がり、木の穴から外を出て、建物の方を見る。

ロードランナーが建物から慌てて出てきて、走り出す。

すぐに建物が爆発したかのように破壊した、アムールトラの爆風で、ロードランナーは吹き飛ぶ。そこに瓦礫もぶつかって、吹き飛ばされたロードランナーは雪の地面に倒れ、動かなくなる。

ともえが驚愕の表情をする。


アムールトラが吠えて、天へと巨大な紫色の柱が走る。


  ●


ヒョウ:「なんや! あれは!?」

クロヒョウがゴリラの顔を見る。

ゴリラの表情が険しくなる。


  ●


ぼうっと、ただ地面を見ているイリエワニ。同じくぼうっと見ていたイエイヌ。

イエイヌが気配に気づいて、空を見上げる。空には紫色の光の柱がある。イエイヌの呆けた表情が、危機感を感じた顔になる。

イエイヌ:「ともえさん!」


イエイヌが走り出す。


  ●


アムールトラのボロボロだった洋服が少しずつ綺麗になっていく。おぼつかない歩みがしっかりしたものになり、何もなかった表情も凛々しくなる。全身に紫のオーラも出て、紫色の瞳がさらに濃くなる。

ともえは腰をぬかして後ずさっている。アムールトラはそんなともえに向かって歩いてくる。

段々と近くなり、アムールトラはともえに顔を向ける。

ともえがやられると思い、目をつぶったら、アムールトラは何もせず横を通り抜ける。

驚いているともえが、アムールトラの顔を見たら、アムールトラの口元が笑みを浮かべていることに気づく。

ともえ:「……アムールトラ、ちゃん?」



ヒョウ:「アムールトラァ!!」

(※スローモーション開始)

金色の雫を呑み、金色の瞳で殴りかかってきたヒョウを拳の一撃で吹き飛ばす。

その後ろから跳んできた、刃で切ろうとするクロヒョウも拳の一撃で吹き飛ばされる。

アムールトラが歩く目の前には、ゴリラがいる。

そのゴリラもアムールトラは拳で吹き飛ばそうとするが、ゴリラには受け止められる。

(※スローモーション終了)

ゴリラ「そんなに上手くいかせるわけにはいかないな。これでも隊長なものでね!」

ゴリラの腕と足が二回りでかくなり、それでアムールトラと拮抗する。


  ●


ともえが、その戦いを呆然と見ている。

そんな隣に、スッとイエイヌがやってくる。

イエイヌ(小声で):「……大丈夫ですか、ともえさん」

驚いて声を出そうとする、ともえの口をイエイヌは手でふさぐ。

イエイヌの顔を見て、すぐに冷静さが戻ったともえを見て、イエイヌは手をどかす。

イエイヌ「じゃあ乗って下さい」


  ●


木の穴から荷物を取り出して、逃げようとするともえに、力づくでアムールトラを抑えているゴリラは気づく。

イエイヌに背負われたともえは振り返り、ゴリラに対して、申し訳なさそうに頭を下げる。

イエイヌが全力で駆ける。

そんな逃げていくイエイヌとともえに向かって、ゴリラは叫ぶ。

ゴリラ:「辿れ!」

イエイヌは意味がわからない顔をしているが、ともえがその声を聞いて、ハッと気づいた顔をして目を閉じる。

イエイヌ「どういう意味だったんですかね、最後の言葉は」

ともえから返事が戻らない。

イエイヌ「ともえさん?どうしましたか?」

ともえは、はっと何かに気づいた顔になる。

ともえ:「イエイヌちゃん! 戻って!」

イエイヌ:「どうしてですか!彼らを助けろと!」

ともえ:「そうだよ!」

イエイヌ:「無理ですよ!あんなやつ倒す方法はありません!」

ともえ:「いや、あるの!最後の作戦が、ゴリラちゃんからあたしには与えられてたの!」

イエイヌ:「それがどんなものでも、あいつをなんとかできるわけ――」


ともえ:「できる!だから――戻って!」


  ●


ゴリラが力比べで、アムールトラの両手と組み合ってる。ゴリラがだんだんと押されている。

その場所の向こうで、急いで戻ってきたイエイヌとともえが木の穴に入るのを、ゴリラが見る。

ゴリラがふっと笑い、金色の目を閉じる。

次に目を開くと、今度は青い瞳になる。

ゴリラの力が増し、アムールトラを押し返して、羽交い締めの体勢へとなる。

アムールトラは全く動けなくなる。


ゴリラ「さぁ、時間稼ぎに付き合ってもらおうか。あいつらが、――博士に会うまでのな」



 ●


(ED 祝詞兄貴のやつ)


 ●


場面:どこかの地下。


三日前。


黒い影の目の前で崩れる探偵。

オオセンザンコウ「……馬鹿な。そんなものが、そんなものが我々とパークが存在する理由だったのか」

オオアルマジロが、探偵を痛ましそうな目で見つめる。頷いたオオアルマジロは何かを決意したように歩き、探偵の肩に優しく手を置く。

そんなオオアルマジロを探偵は振り払い、オオアルマジロは床に倒れる。

探偵はオオアルマジロに馬乗りになり、その爪を何度も振るう。

攻撃されるたび、地面にサンドスターの輝きが血のように舞う。

オオアルマジロ「……センちゃん」

オオアルマジロは、目を見開いたまま全てサンドスターになる。

それを目にした探偵は、立ち上がり、狂ったように笑い続ける。


その様子を、『博士』であるワシミミズクはじっと見ている。














…………………………………………………………………………


――そう。これは私が覗いた異世界のけものフレンズ。



この回が放映された時の反応をまとめると、アムールトラとのバトルがわりとガチってことで盛り上がり、また『博士』がミミちゃん助手だったり、あんな理性の固まりの『探偵』がおかしくなる、フレンズとジャパリパークの謎って何だ?の考察でも盛り上がるという、二度おいしい回というものでした。



――この九話の時、たつき監督はどうだったかって?


……そうですね。

こちらの戦いが始まるのと時を同じくして、たつき監督の戦いも始まりました。

症状が悪化し、投薬の量や繋ぐ機器が増え、目覚めないまま、表情がずっと苦しそうだったそうです。


そして、ここから完全に面会謝絶になり、ほとんどの人が生きてる彼の姿を見ないままお別れになったと。



――そう、後で語っています。


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