第8話  『たたかいのじゅんび』


 登場人物

ともえ(ヒト)

イエイヌ


ゴリラ


イリエワニ

メガネカイマン

ヒョウ

クロヒョウ

チーター

プロングホーン

G・ロードランナー


ジャーマンシェパード(長いのでシェパード。相棒)

ラブラドールリトリバー(長いのでラブラドール。頼れる部下)


チンパンジー(無能上司)

ドーベルマン(皮肉屋)

ヤギ(無能兵)

ボクサー(有能兵)

カッコウ(輸送役)


レフトシーサー

ライトシーサー

カメレオン


アムールトラ


 ●


場面:寂れた図書館


イエイヌとともえが、部屋の中に突き飛ばされる。

ともえ:「いたいっ」

イエイヌ:「何するんですか!」

ロードランナー:「ふん。隊長の言った通りのことをしろ。それ以外にお前らのすべきことはない」

ロードランナーはドアを閉める。

二人はドアを呆然と見つめる。

イエイヌ:「くそ」

イエイヌは床を拳で叩く。

ともえ:「ここは……」

ともえが暗くなっている所を見渡すと、本が大量にあるのが見える。

イエイヌ:「あいつらが言ってた通りの、『としょかん』って所だと思います」

ともえ:「確かに本がいっぱいあって、あたしはそれは嬉しいのだけど。でも、これは」

イエイヌ:「……あのトラを消す為ですものね」

ともえ:「……うん」


ともえ:「本気で、アムールトラちゃんを消す気だったんだ、ゴリラちゃん達は」



 ●


(OP 祝兄貴作成の『足跡』)(※変更点:カルガモとロバのシーン→両膝をつき、神に見捨てられたかのように、空へ両手を伸ばすゴリラ。パンダとレッサーパンダ→ボロボロの旗を支えている、死んだ目をしたロードランナー)


 ●


場面:ジャングル


イエイヌがぶつぶつ言いながら、歩いている。


イエイヌ:「ぜったいやめといた方がいいですよ。いくらともえさんの頼みとはいえ、ろくなことにならないですよ。あいつらに関わるのすら嫌なのに、ましてアムールトラと仲良くしようなんて絶対に」

ともえ:「もう、イエイヌちゃん。何度その話するの。いい加減怒るよ」

イエイヌが強く振り返る。

イエイヌ:「でも、ともえさん。絶対にまずいんですって。多くのフレンズ達が何度『じゃんぐる』の連中に泣かされたことか」

ともえ:「食糧を取っていくんだっけ?でも、アムールトラちゃんから守る為なんでしょ?」

イエイヌ:「そんなの一回も見た事ないって話ですよ!あいつらはそう言ってフレンズから貴重な食糧を奪い取る、ろくでなしなんです!」

イエイヌ:「でも、会ってみたら印象変わるかも知れないよ。実際、アシカちゃん達も辛かっただけじゃない」

イエイヌ:「そうかも知れませんが、でも」

ともえ:「大丈夫。ちゃんと様子を探ってから打ち明けるから。いきなりアムールトラちゃんを助けたいとか、そんなこと言わないよ」

イエイヌ:「そんなの当然ですよ。でもですね」

食い下がるイエイヌを、ともえが手で止める。

ともえ:「それに、消す気がないなら好都合じゃない。たぶん面子ってやつがあるから、それを保てるようにすればいいだけだと思うし」

イエイヌ:「めんつ?」

ともえ:「アムールトラを消すと言って食糧を集めていたのだから、それをやめることは言えないってことだよ。いくら怪我したくないから戦わないつもりでも。でも、何とか安全に捕まえる方法をあたし達が与えられたら、フレンズちゃんは喜んでそれをすると思う」

イエイヌ:「なるほど。確かにそうなったら、アムールトラと会話をできる機会があるかも知れませんね」

ともえ:「そうでしょ」

イエイヌがはっと気づく。

イエイヌ:「でも、危ないことには変わりはないじゃないですか!あのトラに近づくんですから!」

ともえ:「大丈夫だよ」

イエイヌ:「そんな適当な!」

ともえ:「はいはい。そこ危ないよ」

イエイヌの足が蔦に引っかかり、転びそうになる。

イエイヌ:「もう。『じゃんぐる』って厄介ですね!」

ともえは笑う。


その様子を遠くから見てる視点がある(※顔の上半分は影が入り、見えない)。


フレンズ(イリエワニ)が水の中へと静かに潜る。

別のフレンズ(メガネカイマン)は、手元の本に目を落とし、ずれた眼鏡をクイっと上げる。

背中を向けて横になってるフレンズ(ヒョウ)の横で、別のフレンズ(クロヒョウ)が片膝立てて座りながら刀を抱えている。

林の開けた場所に、三匹のフレンズ(チーター・プロングホーン・ロードランナー)がそれぞれの立ち姿でいる。その場所の切り株には、腕を組んだフレンズ(ゴリラ)が座っている。

チーターがゴリラに何かを言う。


ゴリラは、ゆっくり目を開く。


 ●


場所:林の開けた場所。ゴリラ達がいる。


ヒョウとクロヒョウに、ともえ達が連れてこられる。

ヒョウ:「ほれ、お客さんやで!」

ヒョウが突き飛ばすように、その場所に二人を押す。

イエイヌが不満そうに後ろを見るが、ともえは真っすぐゴリラの方を見ている。

ゴリラ:「それで? 何の用だ」

ともえが一歩、前に出る。

ともえ:「あたし達は、アムールトラちゃんに追われて逃げてきたの。あなた達は、アムールトラちゃんを消す為に戦ってると聞いて、助けてもらおうと思ったの」

プロングホーン:「そうなのか!それは助けないとな!」

ともえとイエイヌは驚いて、そちらに目を向ける。

チーターはプロングホーンに呆れた顔を向ける。

チーター「そんなわけないでしょ。あなたは何を言ってるの。今更私達に、そんな頼り方する子達なんて、いるわけないじゃない。あなたは馬鹿なの?」

ロードランナー:「お前!プロングホーン様に向かって馬鹿とはなんだ!」

チーター:「馬鹿だから馬鹿と言ったのよ」

ロードランナー:「なに?痛い目に遭いたいようだな。表に出ろよ!」

ゴリラ:「――黙れ」

切り株に座り、目を閉じていたゴリラがゆっくりと目を開く。

他のフレンズはビビって、黙り込む。

誰もがゴリラから目を避ける中、怯えながらもイエイヌはゴリラを睨み、ともえは真っすぐにゴリラを見ている。

ゴリラもともえ達をじっと見返す。

ともえ達は、それでも目を逸らさない。

ゴリラは目を逸らす代わりに、目を閉じる。

ゴリラ:「こいつらを『としょかん』に閉じ込めろ。そこでアムールトラを消す作戦を考えさせる。世話と監視役はロードランナーがやれ」

ともえとイエイヌは驚いた顔をし、ロードランナーは嫌そうな顔をする。

ロードランナー:「えぇー。プロングホーン様から離れるんですかぁ。俺はプロングホーン様と離れたくないですよー。プロングホーン様もそうですよね?」

ロードランナーがちらりとプロングホーンを見る。

プロングホーン:「すごいな!隊長から直々の命令だぞ!お前ならできるぞ!」

ロードランナーは喜ぶ。

ロードランナー:「任せて下さい!立派に果たせてみせます」

プロングホーン:「頑張れよ」

チーターが呆れた顔をロードランナーに向けてから、ともえ達の方を見る。

チーター:「隊長がそう言うなら私はいいのだけど。でも、こんな弱そうなやつらに、何ができるわけ?」

ゴリラはともえ達を見て、ふっと笑う。

ゴリラ:「できるさ。こいつは全ての動物を支配し、このパークでさえ僅かな手間で作った、ヒトだからな」

チーター:「あの伝説の? 実在してたの?」

はっと気づいたイエイヌが、会話に割って入る。

イエイヌ:「ちょっと、ちょっと待って下さい。私達にも言いたいことが」

ゴリラが冷たく、イエイヌを見返す。

ゴリラ:「いったい、何が不満なんだ?」

イエイヌ:「だって」

ゴリラ:「お前達は、アムールトラから逃げて倒して欲しいと言った。我々はそれに応え、アムールトラを消そうとする。食糧が不足してただで保護することはできないから、お前達にも手伝いをさせる。我々はお前達が望む通りのことをしているだけだ」

ゴリラは、口の端をあげる。

その笑みに、イエイヌは驚く。

イエイヌ:「――まさか、気づいて……」

ゴリラ:「話は終わりだ。連れていけ」

プロングホーン:「わかったぞ!ゴリラの隊長!」

ロードランナー:「わかりました。隊長」

二匹が戸惑うともえ達を、外に引っ張り出そうとする。

連れていかれる前に、ともえが後ろを振り向き、目を閉じたゴリラに何か言おうとするが、口を閉じて、連れていかれる。


ともえの様子に、ゴリラは片目だけを開く。


 ●


場所:図書館の中


イエイヌが机を、そっと指で撫でる。そこに大量にホコリがついていて、嫌な顔をする。

イエイヌが、後ろでマフラーをいじって考えているともえへと、振り返る。

イエイヌ:「で、これからどうするんですか?ともえさん」

ともえ:「うーん。ゴリラちゃん達の望む通り、アムールトラちゃんを消す作戦を作って、その中にあたしが話すタイミングを紛れこませるしかないよ。それと、正気に戻す方法も考えたいかな」

イエイヌが渋い顔をする。

イエイヌ:「そんなの、あるんですかね」

ともえ:「なくても、進むしかないよ。だからひとまず」

ともえは入口へと走り、扉を叩く。

ともえ:「ロードランナーちゃん!いるー!」

ロードランナーががちゃりと、扉を開く。

ロードランナー:「いきなりなんだ。逃げる気か?」

ともえは、微笑む。

ともえ:「お仲間のフレンズちゃん達を呼んできてくれない?アムールトラちゃんと戦う為に話を聞きたいから」

ロードランナーは嫌そうな顔をしてから、何かに気づいた顔をし、こちらを睨む。

ロードランナー:「そう言って、俺がいないその隙に逃げるつもりじゃないだろうな」

ともえは笑って、首を横に振る。

ともえ:「それは無理だよ。だってロードランナーちゃんってすごいから、あっという間に追いつかれちゃうよ」

ロードランナーは笑顔になる。

ロードランナー:「そうか。それなら仕方ないな。すごく嫌だが特別にあいつらを呼んできてやる」

ともえ:「お願い」

ロードランナー:「おう。わかった。任せとけ」

楽しそうに去っていくロードランナーを、イエイヌは真顔で見送る。

イエイヌ:「意外と、ちょろい?」

ともえ:「そんなこと言っちゃダメだよ、イエイヌちゃん」


 ●


場面:図書館の椅子にフレンズが座っている。同じ時間同じ場所にいないが、彼らの解答が質問の後で交互に流れる(※『』はともえが発した言葉だが、画面には黒字に白地で声なしで出る。一度表示されたら、フレンズが変わるたびに一瞬だけその質問が映り込む)



『アムールトラちゃんと戦ったことはある?』

イリエワニ:「ないですね。隊長を除く全員がそうでしょう。ただ本番を想定した訓練はしてもらってますので、問題ないかと思います」


『アムールトラちゃんと戦ったことはある?』

メガネカイマン:「そうですね!やはり奇襲が狙い目ですかね。普段はぼんやりとあちこちをうろうろして動きも鈍いですから、そこを一気に襲ってダメージを最初に与えられるかが大事です。そこからすぐに紫色の瞳になりますから、そうすると攻撃も動きも変わります。だから、そこはあえて逃げてやり過ごして、そして大人しくなったら攻撃をまた与える。そうすればいつか倒れるというのが定石ですね。まぁ今まで誰も達成したことないのですが、私達には逃げるに最速のチーターもいますし、不可能ではないと思ってます。絶対にやっつけられますよ」

『戦ったことないのに、自信満々だね』

メガネカイマン:「戦ったことなどなくても、データはたくさんあるんです。素晴らしいデータがあれば、現実に体験しなくても良い結果は出せるんです」

『それは誰にもらったデータなの?』

メガネカイマン:「それは勿論、隊長からです!」


『アムールトラちゃんと戦ったことはある?』

ヒョウ:「ないな。だから戦ってみたいんや」

クロヒョウ:「私もそうだよ」


『アムールトラちゃんをどう思う?』

イリエワニ:「どうもこうも敵以外に何かあるんですか?」


『アムールトラちゃんをどう思う?』

メガネカイマン:「興味深い対象ではあるので研究したいのですが、危険ですので無理でしょうね」


『アムールトラちゃんをどう思う?』

ヒョウ:「うちが、もっと高みに登る為の相手やな」

クロヒョウ:「カッコイイ!お姉ちゃん」


『他の仲間のフレンズについてどう思う?』

イリエワニ:「ヒョウの姉妹は鬱陶しいですね。感情的で馬鹿っぽくて、戦いのことしか考えてない」

『他の仲間のフレンズについてどう思う?』

メガネカイマン:「イリエワニさんは、頭が良いので議論してて楽しいです。ヒョウの姉妹は少しでも難しいこと言うと、馬鹿にしてんのかと攻撃してくるので嫌いです」


『他の仲間のフレンズについてどう思う?』

ヒョウ:「あいつら、うちらのこと見下しときとんのやな。うちらより弱い癖に」

クロヒョウ:「ほんと、そう!ムカつくよね、お姉ちゃん!」


『隊長についてはどう思う?』

イリエワニ:「うるさい存在ですが、世話にはなってます。それだけです」


『隊長についてはどう思う?』

メガネカイマン:「私の知らない知識が豊富なので、尊敬してます。もうちょっと聞きたいことがたくさんあるんですが、いろいろ忙しいということで、あまり相手にしてもらえないのが不満ですね」


『隊長についてはどう思う?』

ヒョウ:「まぁ、隊長はん強いからな。だから従っとるだけや。でもいつか、うちが隊長になったる」


『隊長についてはどう思う?』

クロヒョウ:「うーん。お姉ちゃんの相手になれるくらい強いのが、羨ましいかな」


『他のフレンズが消えたことをどう思う?』

イリエワニ:「それ、関係あるんですか? もう質問がないなら、帰らせていただきますよ」

『勿論関係あるよ。だから答えて、お願い』

イリエワニ:「仕方ありませんね。そうですね。上手くやれなかった為に消えた、馬鹿な連中って所ですか」


『他のフレンズが消えたことをどう思う?』

メガネカイマン:「消えたって言っても、数ある中の一部じゃないですか。少し消えたくらいが、全体の為にはいいと思います」

『数えた方が早いくらいの数しか、フレンズちゃんはいないのだけど?』

メガネカイマン:「そ、そうなんですか。でも、やっぱり食糧のことを考えると、それもありかなと思うんですよ」


『他のフレンズが消えたことをどう思う?』

ヒョウ:「弱い奴が悪いんや」

クロヒョウ:「そうそう。負けるのが悪いよね」


『どうして戦っているの?』

イリエワニ:「あいつはフレンズ全体の敵で、排除すべき存在だからですよ」


『どうして戦っているの?』

メガネカイマン:「あのトラが戦う為に生まれてきた悲しい存在だからですね。私達の手で終わらせてあげるべきなんです」


『どうして戦っているの?』

ヒョウ:「そりゃ強いからな。強いやつとやりあうの、最高にアガるやん」

クロヒョウ:「さすが、お姉ちゃん!私、お姉ちゃんにずっとついていくよ!」



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場面:図書館。


プロングホーン:「じゃあ、作戦頼むぞ!私も頑張るからな!」

プロングホーンが扉を閉める。

イエイヌがひきつった顔で頭を下げている。

イエイヌがともえがいる机へと歩いて戻ると、ともえはじっとノートを見ている。

イエイヌ:「結局、どうだったんですか?」

ともえ:「むぅ」

イエイヌ:「みんな大した情報を持ってないですね。トラの話も全部ゴリラに聞いた話ばかりで、自分の経験の話がありません。どうやら戦ったことがないという噂は、本当だったようですね」

ともえ:「でも、訓練してるのは確かだし、強いんだと思う。持ってる力も見せてもらったけど、すごかったし。だから、アムールトラちゃんと戦うことはできると思うよ」

イエイヌ:「そうだとしても。うーん」

ともえがふーと溜息をついて、読んでたノートを机の上に置く。


ともえ:「やっぱり、ゴリラちゃんに直接訊くしかないね」


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場面。別の日の図書館。


ロードランナーが扉を開けて、入ってくる。


ロードランナー:「いいぞ。隊長がお前に会っていいと言っている。場所は前に教えた切り株が二つある場所だ」

ともえとイエイヌは見つめ合って頷く。

ロードランナー:「ただし、ヒトのお前とサシだそうだ。そこのいぬ野郎は、俺達がもてなしてやれと言われてるから別だ」

イエイヌが強く耳を立てる。

イエイヌ:「ともえさんに何をするつもりなんですか!」

ロードランナーが不思議そうな顔をする。

ロードランナー:「話をするだけだろ。一体何に怒ってるんだ?」

ともえはイエイヌの肩に手を置く。

イエイヌ:「ともえさん」

ともえ:「大丈夫だよ、イエイヌちゃん。あたし達は作戦に必要とされてるんだもん。計画が決まるまで何もしてこないよ。それに」

ともえはイエイヌの耳に顔を近づける。

ともえ:「これは消すのではなく、話を聞く方針にしてもらうチャンスだから」

イエイヌはともえの顔を見つめる。

ともえは、マフラーをイエイヌに見せつけて、強く頷く。

ロードランナー:「話は済んだか?とっとと行くぞ」

イエイヌの手が引っ張られ、扉の外へと連れていこうとする。イエイヌは連れていかれながら、ともえに手を振る。

イエイヌ:「こっちは心配しないで下さいね!何かしてこようとしたら、噛みついてやりますから!」

ともえ:「無茶しないでね!」

入口の扉が閉まる。

ともえが図書館に一人、残される。

ともえ:「さてと、あたしも行かないと」


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場面:雪がつもるジャングルの一角。少し開けていてそこに切り株が二つある。


ともえが、その場所に来ると、ゴリラが気怠げに顔をあげる。

ゴリラ:「来たか」


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場面:ともえの質問が終わった所


ともえ:「んー。こんなところかな」

ともえはメモにしてた紙の束を、鞄にしまう。

座っているゴリラは、ともえの様子を顎に手を置き、じっと観察してる。

ともえはその視線に少したじろぐが、それでもゴリラを見返そうとする。

ゴリラはその体勢を崩さない。

ゴリラ:「なるほど。良い目をしてる。たとえ負けていても、それでも屈しないものの目だな、それは」

ともえ:「あたしは、ちゃんと作戦を立ててるよ」

ゴリラ:「そうだな。確かに良い質問だった。ちゃんと細かく聞いていて、私でも気づかないような視点を持っていて、頼んだ甲斐はあったのだろうなと思う。お前を侮ってるあいつらを、納得させられる材料もあった」

ともえは、じっとゴリラを見ている。

ゴリラ:「だけどな。まだ私に言いたいことがあるのだろう?」

ともえはマフラーに目を落とし、三度小さく頷いて、顔をあげる。

ともえ:「ゴリラちゃんがアムールトラちゃんを消そうと思っている理由は、ただ襲ってくるからじゃありませんよね」

ゴリラ:「そうだな。お前もお前で、あのトラからの庇護目的で来たわけではないようにな」

二人は距離を置いて視線を交し合う。

ともえ:「じゃあ、皆に訊いたことをゴリラちゃんにも訊くよ。ゴリラちゃんの戦う理由って何?」

ゴリラは一度、目を閉じた後、また開いて、ひじを膝の上に置いて手を組む。

その様子をともえは緊張して見ている。


ゴリラ:「答える代わりに、とある昔話をしてやろう。アムールトラは出てこないが、お前の求めてる答えは見つかる話だ」


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場面:雪が降る、広い雪原 (過去編)


金色の眼をしたゴリラが、フレンズに殴りかかる。

そのフレンズも金色の眼をしていて、攻撃を避け、別の金色の眼をした相手がゴリラの腹を殴る。

足をついたゴリラの後ろから跳んできた、また別の金眼の相手が、ゴリラの頭を叩きわろうとする所を、ゴリラは転がって避ける。

息を切らして、立ち上がるゴリラの前に、金色の眼をした複数のフレンズが真顔で歩いてくる。

ゴリラがぜいぜいと息を切らしながら、ちらりと後ろを見ると、身体に少し茶色がかったフレンズが走り去っていくのが見える。

切らした息をのみ、ゴリラが叫びをあげ、相手へと殴りかかる。



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場面:どこかの三階建ての建物。ジャスティス支部


ゴリラ:「……私が隊長ですか?」

リョコウバト:「何か不満があるのですか?」

ゴリラ:「いいえ、そんなことは……ただ」

リョコウバト:「ただ? 何かあるのですか? 嫌なら嫌とはっきり言ったらどうですか?」

ゴリラが俯き、そして顔をあげる。

ハクトウワシ:「まぁまぁ、そこまで追い詰めることはないじゃない。きっとジャスティスできる機会が急に来て、驚いてるだけよ」

窓の方を見ていたハクトウワシが振り返る。

ハクトウワシ:「ね、そうでしょ?」

ハクトウワシがウインクをする。

ゴリラ:「は、はい! 私みたいなのが、こんな大抜擢されるなんてと、驚いているだけです」

笑みを浮かべて、ハクトウワシが机の向こうから歩いてきて、ゴリラの前で止まる。

ハクトウワシ:「そんなふうに言っちゃだめよ。あなたは同じジャスティスを志す、私達の仲間。あなたは自分に誇りを持たないとダメだわ」

ゴリラ:「は、はい! 失礼しました!」

ゴリラが敬礼をする。

ハクトウワシ:「そ、わかったならよろしい。じゃあリョコウバト説明してあげて。私はこれから別のジャスティスが待ってるから、行かなくてはいけないの」

リョコウバト:「わかりました。いってらっしゃいませ。特別大隊長」

ハクトウワシ:「じゃあ、行ってくるわ」

ハクトウワシが歩いて、扉の方に向かう。

リョコウバトは書類を持ち出し、ゴリラは話を待っている。

ハクトウワシ:「ねぇ、ゴリラ?」

ゴリラがハクトウワシへと目を向ける。

ハクトウワシは悲しそうな眼をしている。

ハクトウワシ:「あなたの、ジャスティスって何?」

直立したゴリラの口が動いて、応える。


ハクトウワシは、疲れた笑みを浮かべる。



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場面:鳥配達で、島に向かう途中。


十羽の鳥のフレンズが海上を飛び、七匹のフレンズと木箱を大きな布で運んでいる。


ドーベルマン:「じゃあ、これから隊長が行くことになる島の説明をさせてもらうぜ」

ゴリラの便の直前で、同じく運ばれているドーベルマンが身体を後ろ向きにさせている。

ドーベルマン:「今、この島はかつての争いからましな状態にある」

島の図が出る。

ドーベルマン:「最初は平和な島だったんだが、一時期、強力な連中が支配することになった」

ドーベルマン:「でも取るものも多くない島だったから、自分達で支配はせず、左半分に住んでいた少数のフレンズ集団に支配を任せ、食糧を定期的に寄こせばいいと丸投げした」

ドーベルマン:「要求する食糧も結構多かったが、左の奴らはそれ以上を寄こせと右に要求した。まぁ、強いバックがいたから調子に乗ったんだな。そんで好き放題し、右半分の連中は後ろの連中が怖かったから、ただ従った」

島の図で、左半分の青が、右半分の赤を覆っていく。

ドーベルマン:「だけど、そいつらはうちの精鋭に負けた」

ドーベルマン:「そんで、今までの恨みもあって、右に住んでた連中は怒り、左にいた連中を攻撃しまくった。はは、まぁ当然の報いだぁな」

島の図で、右半分の赤が、左半分の青を覆っていく。

ドーベルマン:「左側は明らかに劣勢になって、他の島に逃げたりもしていたんだが、耐えてた連中が強力なリーダーの下で集まり、やり返すようになった」

島の図で、左半分が青、右半分が赤に戻る

ドーベルマン:「で、互いにどうにもならなくなったから、和解をすることになった。どうやら様々なことを決める統一的な集まりを作ることで協力関係になる気らしい。そして、その仲介の為に、ジャスティスに声がかかったというわけだ」

ドーベルマン:「で、隊長様。何か質問は?」

挑発するような言い方で、ドーベルマンはゴリラに問う。

ゴリラ:「左半分とか右半分とか言ってるが、別に種族で統一したり、フードとか羽とかの特徴で分かれてはいないんだろう?どうして目の前のフレンズが、左や右の出身だとわかる」

ドーベルマン:「それは簡単なことですよ、隊長。左の奴らが普通のフレンズよりちょっと茶色がかってるんです」

ゴリラ:「それはどうしてだ?」

ドーベルマン:「茶色いジャパリメイトを長い間食べてるからと、そういう話ですね。少量だと特に何もないので、我々が食べることになっても問題はありません。ちなみに、身体が少し茶色がかっても、外見以外に影響は全くないんですがね。ふふ」

笑うドーベルマンに、ゴリラが疑問の顔をする。

ドーベルマン:「いや、何。まぁそんなことがなくても、簡単にわかるでしょうよ。だって、ここはそんな大きな島じゃないですから。多少長く暮らしていれば、どいつもこいつも顔見知りで、どっちに住んでるかなんてすぐにわかるもんですよ」

ゴリラ:「ふん。詳しいな」

ドーベルマンが嫌な笑みを浮かべる。

ドーベルマン:「はは。当たり前ですよ。自分は今はアメリカバイソン様の家来ですが、昔は支配してた連中の残党でしたからね。だから、あいつらにどういう態度でいるべきかはよく理解していますよ。だから邪魔はしないで下さい。私はあなたの下でなく、バイソン様の下についてるだけなんですから」


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場面:島の右側の砂浜に到着。


多くのフレンズが叫んだり、走り回っていて騒がしい。

ゴリラ:「どうしたんだ?」

シェパード:「何かあったようですね」

ラブラドール:「ちょっと聞いてきます」

ラブラドールが走っていく。

ラブラドールが戻ってくる。

ラブラドール:「……まずい状況みたいです」

シェパード:「何があったんですか」

ラブラドール:「近くの島で、昔ここの左半分に住んでた一団が、そこのフレンズを倒して、支配を得たそうです」

ドーベルマン:「なるほどな。そういうことか」

ゴリラが目を向けると、ドーベルマンが笑いながら話す。

ドーベルマン:「まぁ、簡単な話ですよ、隊長様。ここの右半分の連中は左半分の連中を怖れているわけです。そこに関わる奴らが、他の島で支配を得たって聞けば、次は自分達の番だとか、そいつらと協力して次はこの島を攻撃してくるとか、そんなことを思って怯えてんですよ、こいつらは」

ゴリラ:「なるほどな。つまり今回の派遣は」

シェパード:「そうですね。初めから波乱になりそうです」


ゴリラが空を見上げた先で、黒い羽根のフレンズが叫んでいる。



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場面:平屋の石の長い建物。両陣営の為の会議所。


ライトシーサー:「で、いったい今回のことはどういうことなんだ!おまえたちが仕掛けたことなんだろ!」

レフトシーサー:「違います!彼らはうちらと完全に切れてるんです。彼らのしたことと、こっちのことは無関係なんです!」

ライトシーサー:「そんな話のどこが信じられるというのだ、この卑怯者が!話し合いで勝てないからといって、力を振るうのか!」

レフトシーサー:「それはこっちのセリフですよ!無関係なことを持ち出して、自分達の席を多く確保しようとしてることは、わかってるんですからね!」

石のテーブルの前で、彼らが言い合いしている。


それらを見て、ゴリラとシェパードとラブラドールはうんざりした顔してる。



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場面:小さな建物。ジャスティス派遣団の事務所。


ラブラドール:「どうやら、いつもあんな感じらしいですね。何かと理由付けては集まりでの席を寄こせと互いに言ってて、まとまらないそうです」

シェパード:「なるほど。だからうちらが呼ばれたわけですか」

ゴリラ:「なんで、そんなに席を争っているかわかるか?」

ラブラドール:「そうですね。左右の穏健なフレンズに聞いたところ、この島の運営は多数決ですることになったそうです」

シェパード:「特に普通のやつで、効率も良いやり方ですが、そこに問題があるのですか?」

ラブラドール:「はい。実は罰する役割が、左側で決まりそうなんです。戦いを止める時の約束でそう決めたので」

ラブラドール:「そうするとですね。多数決で勝った場合、以前酷い支配を敷いた右代表が処罰で消される可能性が高いんです」

シェパード:「なるほど」

ゴリラ:「左側に、その意思はあるのか?」

ラブラドール:「妄想だとまだ良かったのですが、結構その気は強いようですね。だから余計に右側が妥協できないんですよ」

ゴリラ:「難しいな。案件としても、自分達の能力としても」

シェパード:「そうですね。自分達の部隊って、そういう交渉が上手いフレンズや、大きな決定権限のある大隊長がいませんからね。これでどうやってうまくやれと」

ラブラドール:「まったくですね。食糧も全然足りませんしね。これじゃあ予定していた和解の食事会が大変です。あーあ、あいつと調達の話するのは嫌なんですけどねー」

ゴリラ:「何とかするしかないだろう。上も食糧の必要性は理解しているし、大隊長を後で送ってくれると約束もしている。それを信じて、やるべきことをやるしかあるまい」

ラブラドール:「ふー。力づくのアプローチでどこまでやれますかね。こちらのパワー不足は否めないのに」

ゴリラが腕を組んで、目を閉じている。

後ろに箱いっぱいの食糧がある。


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場面:どこかの森


何度も何度も振り下ろされる爪。倒れてるフレンズからサンドスターが舞う。

それを周りで複数のフレンズが見ている。

今度の爪が振り下ろされると、フレンズが消え、サンドスターになる。

俯瞰する視点となり、近くでも同じようにサンドスターが散乱している。

フレンズの一人が、懐からジャパリメイトの袋を出し、半分かじり、サンドスターの地点へと捨てる。

そのジャパリメイトは、茶色である。


そのフレンズが、にやりと笑う。



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場面:小さな建物。ジャスティス派遣団の事務所。


箱いっぱいの食糧がなくなっている。

ゴリラが腕を組んで、目を閉じている。

ラブラドール:「食糧が無駄になりましたね」

シェパード:「あぁ。そうですね」

ラブラドール:「大量の食糧でこちらの強力な力を平和的に示して、圧力で和解の雰囲気を作るジャスティスのいつもの手ですが、完全に空振りですね」

シェパード:「まさか和解の食事会の晩に、右のフレンズが消される事件が起きるとは。くそったれなことに現場に茶色のジャパリメイトが落ちてて、左の連中がやったと、右側の怒りが高まってます。しかし、どうしてここまで早くあちこちに知られているんでしょう?」

ラブラドール:「カラスがあちこちに、言いまくってるそうです」


最初に浜に上陸した時に、空で叫んでいた黒い羽根のフレンズの姿が浮かぶ。

ゴリラ:「あいつか」


シェパード:「でも、いくらなんでも早くないですか。そいつが犯人と組んでる可能性はないのでしょうか」

ラブラドール:「そうかも知れませんし、そうでないかも知れません。ただどちらにしろ、面白い冗談が得意な情報屋のカラスは、左右の人気者ですからね。そいつを掴まえれば、双方から攻撃されて、ここでの仲介がだめになるかも知れません」

シェパード:「なるほど」

ラブラドール:「何かの陰謀が動いてるのかも知れません。和解でなく双方を争いにしようとする連中が」

シェパード:「相手に恨みを持っている連中は、双方に多いですからね。そんな連中がいても、おかしくはないでしょう」

シェパード:「しかし、何か手をうたないといけないことは確かですね。どうしますか?隊長」

ゴリラが閉じていた目を開く。


 ●


場面:囲いのある村に、フレンズが並んで入っている。


ヤギ:「新しいやつが来たです」

ラブラドール:「あなたはニホンイタチだな。では、中に入れ」

不満そうに、そのフレンズが入っていく。

ラブラドール:「次のフレンズ、来てくれ」

その様子を、遠くからシェパードとゴリラが見てる。

ゴリラ:「進捗はどうだ?」

シェパード:「まぁ、順調ですね。明日までには完了するかと」

ゴリラ:「そうか」

シェパード:「まぁ、上手い手だとは思いますよ。問題ある連中は閉じ込めればいいとして、一つの場所に集めて管理しやすくしたり、争いを起こすのなら遠くにいればいいと、左右の境に立ち入り禁止区域を作って見張らせるというのも、良いとは思いますよ」

ゴリラ:「何か不満のある言い方だな。交流しないと仲良くはならないとでも言うのか?」

シェパード:「いや、そんなことはないですよ。合わないフレンズとは、離れた方がましなことは理解してます。私も実際、調達のあいつとは永遠に離れたいものですから」

ゴリラが苦笑する。

シェパード:「しかし、こんな集めすぎると、あの場所でより激しい戦いが起きる可能性もありますよ。だってあそこには会議する場所もあるじゃないですか」

ゴリラ:「どちらもでかい問題なんだ。一度に管理するには、そうするしかあるまい。ただでさえ人数が少ないんだから」

シェパード:「わかってます。わかってますけども」

ゴリラは無言でいる。

シェパードはその場を去ろうとする。

ゴリラ:「どこへ行く?」

シェパード:「事件が起きた場所へ。犯人を見つける必要がありますから」

ゴリラ:「そうだな。カッコウを連れていけ」

シェパード:「ありがとうございます」


 ●


場面:事件の森


シェパードが、あちこちの臭いを嗅いだり、掘り返して、じっくり見たりする。

シェパードが立ち上がる。

シェパード:「何とか見つけませんと。派遣団が無能とされるのも、左の味方扱いされるのもまずいですから」

シェパードが、とりかかろうとすると、鋭く森の奥に目を向ける。

シェパード:「誰ですか! 出てきなさい!」


木の色から、フレンズの姿が浮かび上がってくる。

警戒して、シェパードは構える。


カメレオン:「そう警戒しないで下さい。私はあなたの味方なのですから」

カメレオン:「その事件の、真相を知りたくはないですか?」


 ●


場面:派遣団の事務所。ゴリラとシェパードとラブラドール。


ゴリラが座っている前で、シェパードが話している。

ゴリラ:「なるほどな。そういうことか」

シェパード:「はい。そいつが言うには、あの事件は右代表側の幹部が命令したことだと。気に食わない左側の和解を壊す為に」

ゴリラ:「確かに陰謀はあったわけだ。しかし証拠はない」

シェパード:「そうです。だから、いくら詰め寄っても、とぼけられるだけでしょう」

ラブラドール:「そいつに証言してもらうのはどうですか?」

ゴリラ:「そんなやつ知らないと言われるか、事前に消されるかのどちらかだな」

ラブラドール:「その通りですね」

シェパード:「それともう一つ、気になることを言ってました」

ゴリラ:「なんだ」

シェパード:「金色の雫を、右側は運んできてるそうです」

ゴリラは目を見開き、苦痛そうに顔を歪める。

ゴリラ:「くそ。あれをか」

ラブラドール:「それって何ですか?」

シェパード:「フレンズの攻撃力を一時的に高める水のことです。それを使えば三日間、野生解放が使えます」

ラブラドール:「それって、まずいじゃないですか!」

シェパード:「そうですね。これを使われれば、一気に形勢が逆転され、一方的に左側が襲われる事態となります」

シェパード:「幸い事前に気づけましたし、そいつが保管場所を教えてくれもしました。あとはそこを襲撃するだけです。彼らが自分達の企みは無駄だとわかれば、和解の話し合いに戻せるでしょう」

シェパードがちらりとゴリラの方を見る。ゴリラが横に首を振る。

ゴリラ:「攻撃する権限が今回は与えられてない。自衛の為ならともかく、積極的に使うなとされている。まぁ仮にやれたとしても、この隊の数で敵を倒すことは不可能だ」

ラブラドールは追い詰まった顔をする。

ラブラドール:「そんな状態で、どうやってこの島のフレンズを助けるんですか?」

ゴリラが椅子から立ち上がる。


ゴリラ:「だから一度、本部に戻って、現状を伝えるつもりだ」



 ●


場面:どこかの三階建ての建物。ジャスティス支部


リョコウバト:「その作戦は、許可できません」

ゴリラ:「どうしてですか!これを止めなければ、島での争いが始まってしまうんですよ!我々の派遣の目的は、正義を成すことじゃなかったんですか!」

リョコウバト:「あなたの言い分は理解しています。報告書を受けて、幹部にも伝えてあります。その上での彼らの決定です」

ゴリラ:「決定? は。お偉方は下々の一大事を、いつだって軽く見たがるものなんですかね」

リョコウバトは睨みつけるが、ゴリラは口笛を吹きながら目を逸らしている。

リョコウバトは溜息をつき、組んだ手の中を少しの間じっと見る。

リョコウバト:「この島が遠くにあることは知ってますね」

ゴリラ:「そりゃ、その道を辿ってきたんですからね。どこかの誰かのようにふんぞり返って寝てばかりいるなら、気づかないかも知れませんが」

リョコウバトはちらりとゴリラを見るが、目線を戻す。

リョコウバト:「そして、ここは食糧が少ないことも知ってますね」

ゴリラ:「小さい島の割には、フレンズの数が多いですからね。ずっと食糧不足ですよ」

リョコウバトがじっと、ゴリラを見つめる。

ゴリラ:「……まさか」

リョコウバト:「上は、その島には価値がないと思っています」

ゴリラは言葉を失う。

ゴリラ:「だから、食糧をろくに送ってこなかったと?あんな小さい部隊で戦場に行かせたと?だったらどうして派遣団なんか作ろうとしたんですか!」

リョコウバト:「見捨てたとあったら、ジャスティスの評判に関わるからです」

ゴリラが苦々しそうな顔をする。

ゴリラ:「失敗しても、評判に関わるんじゃないんですか」

リョコウバトは無言で返す。

ゴリラ:「はっ。見捨てるよりは失敗の方がましってやつですかね。送られた隊長の責任にできますからね!」

ゴリラは、机をドンと叩く。

メリメリと手に力が入り、机に手形ができる。

リョコウバトは黙ってその様子を見下ろしてから、立ち上がり背を向ける。

リョコウバト:「こちらでも、できるだけの支援はします。大隊長も後で送ることを約束はします」

ゴリラ:「は、見捨てられた島に、どれだけご立派な方が来るんですかね!」

ゴリラは勢いよく振り返り、足音を立ててドアに向かう。

ゴリラは扉を開けた時のまま、振り返る。

ゴリラ:「ハクトウワシさんは元気でしょうか」

リョコウバトが少し目を見開く。

ゴリラが反応遅さに疑問を覚える。

リョコウバト:「えぇ。元気ですよ。どこかできっとジャスティスをしているでしょう」

ゴリラ:「そうですか」

ゴリラは扉を閉め、そこに寄りかかる。

ゴリラ:「どこかに振るわれる正義なら、自分の所に来たっていいだろうに」

ゴリラは苛立たし気に、扉を一度叩く。

目を瞑り、溜息をついて、ゴリラは起き上がる。


ゴリラは肩を怒らせながら、歩いていく。

その様子を窓から、リョコウバトが見ている。


 ●


場面:派遣団の事務所


街でフレンズ達が大声で叫びながら建物を壊したり、食糧をたくさん食べながら歩き回っている。その目は金色をしている。

茶色いフレンズ達は、物陰に隠れて怯えている。


ゴリラが、息を切らせながら、事務所に入る。


ゴリラ:「いったい、これはどうなってる!」

ドーベルマンとラブラドールが深刻そうに話していて、両者がゴリラの方を向く。

ラブラドール:「隊長」

ゴリラ:「あちこちで右の連中が叫び回ってる!途中で止めもしたが、争いも起きてるようだ!私がいない間に、何が起きた!」

ラブラドールが何か言おうとする前に、ドーベルマンが手で制する。

ゴリラがドーベルマンを見る。

ドーベルマン:「簡単なことですよ、隊長」

ドーベルマンがほほ笑みながら、やってくる。

ドーベルマン:「別の島が元左側のフレンズによって、支配されたことは覚えてますよね」

ゴリラ:「あぁ」

ドーベルマン:「負けた側のフレンズの一部が、この島の右に流れてきてるんですよ。それで食糧不足に」

ゴリラ:「食糧が不足してるのはわかる。しかし、それでいきなりここまで争いが大きくなるものなのか?」

ドーベルマン:「はは」

ゴリラ:「何がおかしい」

ドーベルマン:「勝った側のフレンズから食糧援助が来てるんですよ。左側のみに」

ゴリラ:「なに?」

ドーベルマン:「左右が等しく飢えているならまだ余裕はあったでしょう。しかし、片方だけたくさん食べて、もう片方が飢えている状況ならどうでしょう?片方は奪いに来るんじゃないんですかね、羨ましくて仕方がなくて」

ドーベルマンがにやけ面で、ゴリラに報告する。

ゴリラがドーベルマンを睨みつける。

ラブラドールが両方をちらちら見てから、割って入る。

ラブラドール:「実際に、見張りの境を越えて左側に食糧を奪いに来る事件が増えてるんです」

ゴリラがラブラドールの方を見る。

ゴリラ:「その余波が、この中心でも起きてるというわけか」

ラブラドール:「はい」

ラブラドールがほっとした顔で続ける。ドーベルマンはラブラドールを不快そうに見るが、すぐににやけ面に戻し、ゴリラの顔をじっと見る。

ドーベルマン:「で、責任をどうするつもりですか?」

ゴリラ:「責任?責任とはなんだ」

ドーベルマン:「彼らをここにまとめたあなたの責任ですよ。おかげで混乱が起きて、話し合いの解決もさらに遠くなってる」

ラブラドール:「な。ほとんどがこの島の奴らが原因じゃないですか!隊長は、それを少しでも食い止めてるんです。ありがたりこそすれ、責めるなんてお門違いですよ」

ドーベルマン:「でも、実際に事件は広がってるわけです。誰かが責任を取る必要があることは確かでしょうに」

二匹が掴みかからんばかりの距離に詰め寄る。その時


チンパンジー:「こんな汚い所で、何をつまらない話をしてるのだね」

全員が入り繰りに目を向ける。

チンパンジー:「ふん。出迎えもなしか。これだから、島に来るような連中は品がない」

ゴリラ:「失礼ですが、あなたは?」


チンパンジー:「私か?私はチンパンジーという、最も偉大な存在だ。私が来たのならば、この島は平和だ。お前たちはただ私に従っていれば、それでいい」


 ●


場面:派遣団の事務所


シェパードとラブラドールがぐったり、椅子に座ってる。ゴリラも、椅子に寄りかかっている。


シェパード:「大隊長が来てくれれば、少しは楽になると思ったんですけどね」

ラブラドール:「まさか、あんな無能が来るとは」

シェパードはラブラドールをたしなめず、苦笑を浮かべる。


シェパード:「気持ちはわかりますよ。ろくに働きませんし、すぐ帰りますし」

皆が対応に追われてる中で、チンパンジーは悠々と帰る。


ラブラドール:「その割には食糧をたくさん持ってくし、ちょっとした移動に、うちでは貴重な飛べるフレンズを好きに借りてくし」

食糧入った箱を、チンパンジーはカッコウに持たせている。


シェパード:「そして肝心の、代表達との交渉では、何の策も対応もできませんし」

代表達の集まる会議で、チンパンジーは悠々としゃべる。

両方から責め立てられて、チンパンジーは驚く。

後をゴリラに任せて、チンパンジーは去ろうとする。


ラブラドール:「ジャスティスには、もうろくなフレンズがいないのかも知れませんね」

シェパード:「さすがに、それは言いすぎですよ」

二匹が同時に溜息を吐く。


ゴリラは机に座り、手を組んでいる。

リョコウバトが、「上は、その島には価値がないと思っている」と言ったことを思い出している。


ゴリラ:「……お前らに価値がなくたって、そこにフレンズがいるだろうが」

シェパード:「ん。何か言いましたか?隊長」

ゴリラが立ちあがる。

ゴリラ:「情報をもっと集めるぞ。何とか左右の穏健派連中を探して、彼らと協力して過激派を議論の場に戻すんだ」

ラブラドール:「はい!」

ゴリラ:「それと、事件が起きそうな場所も調べろ。左右の境界と、この中心の情報も集めろ」

ラブラドール:「わかりました」

ゴリラ:「それと金色の雫の倉庫を襲撃する計画も立てておいてくれ。私は計画を何とかやれる状況まで持ってくつもりだ」


シェパードが立ち上がる。


シェパード:「まぁ、嘆いてる暇なんてないですからね」



 ●


場面:派遣団の事務所。シェパードが一人で椅子に座っている。


シェパードは肩をトントンと叩いている。

シェパード:「嘆く暇はありませんが、少しは嘆きませんと精神がやられますね」


 ●


事務所にひっきりなしに、フレンズが出たり入ったりする。ラブラドールはその情報を紙に書きつける。

紙束をシェパードが読んで、ゴリラに報告する。

頷いた後で、ゴリラは返答し、それを聞いて地図にシェパードは文字を書きつける。


 ●


シェパードが書類を偉そうなフレンズに見せて、相手は書類を眺めた後、色のついたペンを丁寧に取り出し、線を引いて投げるように返す。

ぎっしり埋まった物資リストの、二つしか丸を付けておらず、シェパードとそいつは言い合いになる。


 ●


シェパードは会議に出席していて、代表者と幹部達が言い合うのを苦い顔しながら、メモに×の印を入れる。


 ●


シェパード:「畜生。どっかに物があるなら意地でも持って来るんですが、ないものはどこにも出せません」

シェパード:「せめて隊長には、戦略を考える時間を与えたいんですが、くそったれな調達の手続きや交渉とか、部隊の喧嘩仲裁とか、上が何もしないことに苦情を出すとか、つまらないことばかりさせて、時間が取れないんです」

シェパード:「もっとやれるフレンズがいれば。もっと食糧や物資があれば」

シェパード:「くそっ。こんなキツイペースをいつまで続けられるわけないでしょうに。こっちが先にサンドスターになってしまいます」


シェパードが椅子から起き上がる。


シェパード:「それでも、やらなきゃいけないんですよ。式典も近いですしね」


シェパードは目の前の書類を一枚取る。

そこには『しきてん』と書かれて、下に文字が並んでいる。


シェパード:「本当に、この日までに集まりの名簿はできあがるんですかね」



 ●


場面:式典会場。


ライトシーサーが悠々と去っていく。

レフトシーサーや左側の幹部が、怒って駆け寄ろうとするが、その先を右側の連中が塞いでいる。

他の場所では右側の連中が、ドーベルマンを煽って挑発している。ボクサーが後ろから怒りに駆られたドーベルマンを羽交い締めにしている。

他の場所では右側の連中が、左側の1人を攻撃しているのを、ラブラドールが止めようとして、殴られている。


ゴリラはその惨状を遠くから見ている。

ゴリラ:「やはりダメだったか」

ゴリラ:「右側が勝手に作った名簿を大々的に発表して終わりか。それは当然左側も無効だと叫び、争うこととなる。これで島中に和解は不可能だと知れ渡ったわけだ」

ゴリラ:「さて、これからどうするべきか。何か意見はあるか?」

ゴリラが横を見ると、シェパードが考えている。

シェパード:「さすがに、何か怪しくないですか」

ゴリラ:「どういうことだ?」

シェパード:「戻ってから、話します。さすがに今はこれを何とかしませんと」

ゴリラ:「わかった」


シェパードとゴリラが、会場へと向かっていく。



 ●


場面:派遣団の事務所


ゴリラ:「で、怪しいとはなんだ」

シェパード:「さすがに事態がうまくいかなさすぎるという話です」

ゴリラ:「派遣団には人材も物もいないのだから、当たり前だ。私への批判なら受けいれるつもりだが?」

シェパード:「そんなことはありません。隊長は精一杯やってますよ。今の状況でこれ以上できるフレンズはないと思ってます。ただ」

シェパードは地図をじっと見る。

そこには、赤く×をした場所に二重線が引いてあるのが、多数ある。

シェパード:「金色の雫を含める倉庫が、その場所をこちらが見つけた途端に、すぐに移動してるってのは聞きましたよね」

ゴリラ:「あぁ」

シェパード:「それは、こちらの情報が筒抜けなのかも知れません」

ゴリラ:「こちらに裏切者がいると?」

シェパードは無言でいる。

ゴリラ:「まぁ、疑いたくはないが一応頭には入れておこう。こんな状況だ、そうなるのも不思議なことでもあるまい」


 ●


場面:派遣団の事務所


シェパードが事務所の中に入ると、ゴリラが呆然と立っている。

シェパード:「何かあったんですか?」

ゴリラは答えない。

シェパードがゴリラを揺さぶる。

シェパード:「隊長!!隊長!!」

ゴリラ:「あぁ、済まない」

シェパードが手を離すと、ゴリラがよろけるので、すぐに手を出して相手を支える。

シェパード:「どうしたんですか?隊長。何かあったんですか?」

ゴリラ:「それを見て、疲れがぐっと来てな」

足元に握り潰した、手紙がある。

シェパードが、それを拾って、広げ、読みだす。

シェパードは驚く。

シェパード:「これは、……正気ですか。倉庫の襲撃作戦を絶対に禁止するどころか、我々が集めた情報を相手に差し出せなんて」

ゴリラ:「悪いのは、その金色の雫を集めた過激な連中で、右側の連中ではないと、そういうことだ」

シェパード:「明らかに繋がってるのにですか?!どんな報告を受けたら、そんな狂った考えになるんですか!?」

ゴリラ:「はぁ。これは派遣団に内通者がいると、本気で考えた方が良いかも知れないな」

シェパード:「嘘の情報を上に流したり、こちらの情報を左右に流してたりしてるのかも知れませんね」

シェパードが、ちらりと書類の山を見て、うんざりした顔をする。

シェパード:「やることがいっぱいあっても、何一つ進んでいる気がしないのは、何故なんでしょうね」

ゴリラも無言で頷く。


 ●


場面:街のあちこち。


茶色側のフレンズに対し、街のあちころでフレンズが殴りかかったり、脅したりしている。

森に囲まれた場所でも、茶色側が追われている。

街を歩いていたラブラドールとヤギが、叩かれて頭を抱えている茶色のフレンズを見て、駆け付ける。

叩いていたフレンズは逃げ、茶色のフレンズが残る。

ラブラドールが手を差し出すと、フンとその手を取らずに去る。

ラブラドールが悲しそうな顔をする。


 ●


場面:街。


ゴリラとラブラドールとボクサーが歩いている。


ラブラドール:「あの式典の失敗以降、もう集まりを作るのは不可能と誰もが思ってます。元々左側有利な停戦協定への不満が右側には溜まっていて、それがあちこちで小競り合いや襲撃が起きている根本原因となっています」

ラブラドール:「派遣団は左側寄りだというカラスの宣伝は、私達が右側を抑えるのを困難にしており、逆に右側を抑えられない為、左側は派遣団を無能だと思っています。どちらからも信頼がない以上、両者の仲裁なんてできない状況です」

ゴリラ:「それを払拭することは、あまりに困難だな」

ラブラドール:「えぇ。いっそのこと力でどちらも従えるという方法もあるにはありますが」

ゴリラ:「人材が足りないな」

ラブラドール:「えぇ、そうですね。物資も勿論足りません」

ラブラドールがボクサーに、とある家を指し示す。

ボクサーは敬礼をして、その家の前に走る。

ゴリラはそれを見送り、溜息をする。

ゴリラ:「これで部隊は使いつくしたか。もう倉庫の襲撃は不可能だな」

ラブラドール:「えぇ。穏健派の重要幹部の警護には必要ですから。実際に何匹か襲撃されてますしね」

ゴリラ:「それでも全然足りないがな。必要な幹部の半分にも派遣できてないし、仮に派遣できたとして、一匹で守るには十分ではない」

ラブラドール:「本当に、やらないよりかはましレベルですね……。着きました」

ゴリラとラブラドールは大き目の家の前に着く。


 ●


レフトシーサー:「我々は左を守らなければならない。その為に作られた存在は、彼らが傷つけられているのに、ただ見ていることはできない。派遣団が彼らを何とかしないのであれば、この場所から出て、守りに行く他にない」


 ●


夜の事務所に響く破壊や叫びが、遠くに聞こえる。その中でゴリラは紙に記入している。


 ●


シェパード:「あの報告の結果、金色の雫は右側の住民に全部配られることになりました。最早、倉庫の襲撃には意味がありません」


 ●


夜の事務所に響く破壊や叫びが、遠くだが多く聞こえる。その中でゴリラは紙に記入している。


 ●


チンパンジー:「知らん。それはお前の仕事だ。何とかしろ。それが命令だ。聞けないならお前は処刑だ」

チンパンジーが、鳥便に乗って海へと去っていく。


 ●


事務所に響く破壊や叫びが、近くに聞こえる。その中でゴリラは紙に記入している。


 ●


手紙に『まだ、そちらに送る食糧や物資は多いように思われる。何とか減らす方法はないものか?』と書かれている。


 ●


事務所に響く破壊や叫びが、近くで多く聞こえる。その中でゴリラは紙に記入している。


 ●


シェパード:「おそらく、何かのきっかけで、全面的な戦いになるでしょう。ただ、右側には金色の雫がありますから、おそらく戦いは……」


 ●


カラス:「ニュース!!ニュース!!あの左側のうじ虫共がとうとうやりやがった!右の代表が消えた!!絶対にあいつらによって消されたんだ!だから!」


 ●


事務所に響く破壊や叫びが、不気味に静まり返っている。その中でゴリラは窓の外を見る。


 ●


フレンズ達が、液体を飲む。そしてその瞳が金色に輝く。


 ●


場面:ともえとゴリラがいる現在。


ともえ:「それで、どうなったんですか?」

ゴリラ:「右側が左側を一方的に消し尽した。それで全て終わりだ」

ともえは息を呑む。

ゴリラ:「以前にどんな良好な関係があろうが、どんな敵対関係があろうが、全く関係なく左側は右側によって消し尽された。小さい島でほとんどが顔見知りだったに関わらずな」

ともえ:「知り合い同士で殺しあったんですか?」

ゴリラ:「珍しくもないさ。――本当にな」

ゴリラ:「そして、消される彼らを救おうと私達は戦ったんだが、さすがに負けてな。そして瀕死の所を部下のカッコウに助け出され、くそチンパンジーを除き、部隊で私だけがその島を出ることになった」

ともえ:「良い部下がいたんですね」

ゴリラ:「そいつは、幹部達に私を差し出す為にしたそうだがな。『責任はこいつにあります。私は悪くありません』と」

ともえは黙り込む。

ゴリラ:「それで、この話で一番面白い所があるんだが、聞くか?」

ともえは無言でいる。

ゴリラ:「私は、ろくに食糧を出す気がなかった、くそったれな幹部連中のせいで、処刑が決まろうとしていたんだがな。だが、その時、別の場所でまた同じような事件が起きてな。その報告を受けた幹部連中から、私はこう言われたんだ」

ゴリラ:「『次は、頑張ってくれたまえ』とな」

ゴリラはくくっと笑う。

ゴリラ:「あぁ、本当にこいつらは責任を取る気がないんだなと、よくわかったよ。幹部の連中は全員消えろと、これから何回も送られる羽目となる派遣先で良く思ったものだ」

ともえ:「でも、幹部の中には、ハクトウワシちゃんとか、良いフレンズだって」

ゴリラ:「あの方は自分が派遣されてる間に、私の知らない場所で消えてしまったそうだ。原因は過労らしい」

ともえは無言になる。

ゴリラ:「どんなに良いフレンズがいようとも、仕組みの中では限界がある。そいつの救う気持ちが強い程に頑張って、そうして倒れてしまう。そして生き残るのはいつだって、責任を取りたくないセコいやつらだけだ」

ともえ:「でも、食糧がないなら、そんなふうになるしかないのかも知れない。あたしは、ずっとそうせざるを得なかったフレンズを見てきているから」

ゴリラ:「いろんなフレンズを見てるのか?」

ともえ:「そうやって、いろんなフレンズちゃんを知ることが、あたしにとって大事なことだと思えるから」

ゴリラは皮肉気に笑う。

ゴリラ:「なら喜べ。これは今までとは違うケースだ」

ともえ:「えっ」

ゴリラ:「簡単な話さ。食糧は本当は十分にあったのさ」

ともえ:「え、でも食糧が全然足りなかったって」

ゴリラ:「博士もそう言ったらしいしな。食糧が足りず限界がくるとかなんとかな」

ともえ:「そうだよ!」

ゴリラ:「でもな。具体的に何年分何匹分あるとまでは言わなかったよな」

ともえ:「それはそうですけど」

ゴリラ:「これは後に探偵から聞いた話だが、少なくとも全フレンズが今日まで生き残るに十分な数はあったらしい。数百年以上ものパークの歴史からすれば、ほんの僅かな食糧なのは確かだがな。博士ももう少し詳しく話して欲しかったものだ」

ともえ:「そんなにあるの!でもそれならどうしてこんな」

ゴリラ:「派遣団の幹部みたいなやつと、そのせいで飢えた連中がたくさんいたからだろうな」

ともえ:「それは」

ゴリラ:「たくさんあるのに他に渡さず、全部自分のものにしようとする連中と、飢えた記憶があるせいで、得たら必要以上に食べつくしてしまう連中さ」

ともえは言葉を失う。

ゴリラ:「幹部の連中は知ってたんだ。かなりの数の食糧があること自体は。でも、それを黙って自分のものにした上で、派遣団を維持する為に必要だからと他のフレンズからも奪っていたんだ。ろくでもない連中さ。裏切ってたのは部下の誰かではなく、上の連中だったわけだ。知らなかったのは私みたいな下っ端と化物みたいな善意の持ち主のハクトウワシだけさ。体よく利用されたのさ、あの方は」

青ざめた顔をするともえに、ゴリラはふっと笑う。

ゴリラ:「だがな。それでどうなったか見て見ろ」

ゴリラは遠くにある島の方を指差す。

ゴリラ:「今やジャパリパークには二つの島しかない。これがその答えだ」

ゴリラ:「貯めてた連中は、そいつら同士で争ったり、飢えた連中に襲われた。互いに相手を消し尽し食糧を食べつくして、今はいない」

ゴリラ:「だが、あのリョコウバトはそれをしなかった。あいつもある程度食糧が貯まった時点で、部下の連中と一緒に派遣団を辞めた事は同じだが、あいつはその食糧を管理しつくし本当に等しく配りきった。だから今日まで生き延びた。あいつは嫌いだが、それは本当にすごいことだ」

ともえ:「でも、この島は?どうして生き残ったの?」

ゴリラ:「これは皮肉だがな。この島はあのアムールトラが主に拠点にしてた島なんだ」

ゴリラ:「正義の為とは言う癖に、本気でアムールトラとはやり合う気のなかった派遣団は、たまに食糧をここからこっそり取るくらいで、基本的にはここを見捨てた。だから多くが手つかずのまま、生き残った」

ゴリラ:「一番脅威に晒された島が、最後の方まで生き残るとは面白いだろ?」

ともえ:「アムールトラちゃんは他の島にも行ってたの?」

ゴリラ:「そうだ。現場でかち合って何回もやりあったことがある」

ともえ:「でも、大体この島に戻ってくるってこと?」

ゴリラ:「そうだ」

ともえ:「どうしてアムールトラちゃんはこの島に戻ってくるの?」

ゴリラ:「それはわからない。噂ではこの島で生まれたらしいから、帰巣本能かなんかだろう」

ともえはマフラーをいじって、考えている。

ゴリラ:「これで話は終わりだ。つまらない話をしたな」

ともえがはっと、顔をあげる。

ともえ:「一つだけ、一つだけ聞いていい?」

ゴリラ:「なんだ」

ともえ:「あなたの正義の理由ってなんですか?」

ゴリラは黙り込む。

ともえ:「ハクトウワシちゃんに聞かれた所を、あなたは濁してたよね。その時のあなたは何を答えたの?」

ゴリラは真顔で、ともえを見つめる。

ゴリラ:「フレンズを助けたい。あのサーバルとかばんの物語のように」

ともえ:「それは!?」

ともえは目を輝かせる。

それを遮るようにゴリラは掌を見せる。

ゴリラ:「だが、私は敗北した。今はあのアムールトラを倒したいだけの復讐者に過ぎない」

ともえ:「それは、他のフレンズを助けたいということと同じじゃないの!」

ゴリラ:「違う。本当に助けたいなら、もっとフレンズが多い時に戦っていた。私はただ勝てるタイミングを探す為に、見捨てていた」

ともえ:「でも、最終的に勝たなきゃいけないなら、待つことだってあり得るかも知れないよ。そんな優しさがあるなら、あたしの」

ゴリラは木を思い切り叩く。大きな音が響く。

ゴリラ:「だから、なんだ。もしかして、お前はあのアムールトラを救う気でいるのか」

木に割れ目が入り、自重で折れだす。ゴリラは立っている。

ゴリラ:「そんなことは無駄だ。そんな余計なことを、この計画に持ち込むというのなら、私はお前を」

自重で木がゴリラの上へと倒れてくる。

ゴリラは目を閉じ、拳を後ろに引いて構える。

木がさらに倒れてくる。

ゴリラが目を開き、その拳が振り抜かれる。

折れてた木が吹き飛び、ともえの後ろまで吹き飛ぶ。

落ちた音に反射的に縮まり、尻餅をついたともえを見下ろし、ゴリラは森の奥へと去っていく。


ともえは、うちひしがれたようにそのままでいる。


 ●


場面:イエイヌ側


火を囲み、木のコップを持ちながら、イエイヌはヒョウ達のはしゃぐ様子に楽しそうに笑っている。


 ●


(ED 祝詞兄貴のやつ)


 ●


場面:ジャングルのどこか。


ゴリラが紙束に目を落としている。

ゴリラ:「……来たか」

ゴリラが立ち上がり、林の向こうを強く睨む。

かなり遠くの場所に、アムールがふらふらと、こちらに向かって歩いてきているのが見える。


ゴリラ:「私の八つ当たりに付き合ってもらうぞ、アムール」


紙束が風に舞う。

ゴリラの後ろで、目を光らせた複数のフレンズのシルエットがある。














…………………………………………………………………………


――そう。これは私が覗いた異世界のけものフレンズ。


今回からアムールトラとジャパリパークの謎を解く話になり、その考察にネット界隈では盛り上がっていました。

ただ、この話が実話を元にしていて、それが何かまでを言い当てるまでの人は一人くらいしかいませんでした。


――この八話の時、たつき監督はどうだったかって?


治療部屋で、ずっと繋がれたままだったそうです。

あまり目覚めることはなく、たまに起きた時も少し目を開いては落ちてしまうを繰り返す状態だった。



――そう、後で語っています。


…………………………………………………………………………




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