第10話 『ぱーくのしんじつ』



 登場人物

ともえ(ヒト)

イエイヌ


ワシミミズク(長いので台詞はミミズク表記)

アフリカオオコノハズク(長いので台詞はアフリカ表記)


かばんちゃん(ヒト)

サーバルキャット




 ●


場面:薄暗い、コンクリート舗装の洞窟。


イエイヌがともえを背負って走ってるが、息が荒く金色の瞳が途切れ途切れになってる。

ともえが身体を右に傾けると、イエイヌは右に曲がる。

イエイヌが暗い廊下を走る。ともえが真剣な顔して目をつぶっている。

イエイヌの走る背中にいるともえが、ゆっくり目を開く。

ともえ:「到着したよ、イエイヌちゃん」

イエイヌが速度を落とし、崩れるように床に倒れる。ともえは、急いでそこから退く。

ともえ:「大丈夫!?イエイヌちゃん!?」

ともえが、イエイヌの身体を仰向けの体勢にする。

イエイヌは大の字になり、ともえを辛そうに見ながらも、何度も頷く。

ともえは、ほっとする。


今の洞窟の全景が出る。

イエイヌの息は落ち着いていて、身体を起こしている。ともえは隣で体育座りをしてる。

イエイヌ:「ふぅ」

イエイヌ:「で、ともえさん。そろそろ目的地について話してもらえませんか。必死で走ってきた理由を」

ともえは、どこかを見てて話を聞いてない。イエイヌはともえを心配そうに見ている。ともえが口を開く。

ともえ:「ごめんね。後を辿るのに必死だったから、無理をさせちゃって」

イエイヌ:「いや、それはいいんですよ。でも辿るって何をしてたんです?ともえさんが地図に書いてたことと、何か関係があるんですか?」

ともえ:「そうだね。じゃあ、そこから話すよ」

ともえ:「ゴリラちゃんはアムールトラちゃんを倒せない可能性を考えてたの。だって、誰も数の形態を倒したことがないんだもの。その後に、別の形態がある可能性だって十分あるじゃない?」

イエイヌ:「まぁ、そうですね。実際にあったわけですし」

ともえ:「だよね。で、ゴリラちゃんはその時の為に別の作戦が必要だと思ってたらしいの。それが私にだけ言われてた作戦」

イエイヌは舌打ちをする。

イエイヌ:「勝手なことを。そんなの、いつ話したんですか」

ともえ:「ごめんね。戦いの直前かな。だからイエイヌちゃんに説明している時間がなかったの。別に危険というわけでもなかったし、考える必要のあることがいっぱいあって、うまくね言えなかったの。だから、ごめんね」

ともえは申し訳なさそうに、イエイヌを見る。イエイヌは溜息を吐く。

イエイヌ:「まぁ、それはいいんですけどね」

イエイヌ:「で、その作戦ってなんなんですか?」

ともえは、真剣な顔になる。

ともえ:「サンドスターはどこからやってくると思う?」

イエイヌ:「うん?それは、そこら辺に落ちてたり、ジャパリメイトに入ってたり、フレンズが初めから持ってるのでは?そういうものだと、博士が言ってましたよ」

ともえ:「それはあくまで、今その場所にあるってだけ。本当は別の所から来てるの」

イエイヌ:「別の所?」

ともえ:「サンドスターはどこからか送られてくるんだよ。フレンズが要求する力を持つなら、その場所から強い力を引き出すことも可能。金色の瞳より強い、青色の瞳はその一端なの。でもアムールトラちゃんはそれより、もっと強い力を引き出しているの。だから、アムールトラちゃんは強いの」

イエイヌ:「なるほど。それが紫の力ってことですね」

ともえ:「そう。だから、アムールトラちゃんを倒せなかった場合、その力の供給元を閉める必要があるって、ゴリラちゃんは考えたわけ」

イエイヌ:「なるほど。理屈はわかりました。でも疑問が一つあります」

ともえ:「なに?」

イエイヌ:「どうして初めからそこに行かなかったんです?そうすればあんな大変な戦いをする必要もなかったのに」

ともえ:「場所がわからなかったの。地下のどこかってことはわかってるけど、それがどこかまではわからない。地下は無数に張り巡らされた迷宮になってるらしいし」

イエイヌ:「え?ここ、そんな場所だったんですか?確かに横道はたくさんありましたが。でも、それならどうして、ともえさんは的確に指示を出せたんですか?」

ともえ:「簡単なことだよ。道がわからないなら、道を教えてもらえばいいだけ。言い換えるなら、大きな力を引き出すような状況になれば、その場所から力の場所まで線が引かれる。あとはその力を感じることができれば、道がわかるってこと」

イエイヌ:「あっ、なるほど。つまり、アムールトラが次の形態になる時に強い力が出て道がわかるようになるから、戦わなければいけなかったってわけですか。――ん?」

イエイヌはともえを見る。

イエイヌ:「ともえさん。ともえさんは、どうしてその力を感じることができたんですか?フレンズである私にも、わからないのに」

ともえ:「理由はよくわからない。でもあたしは感じることができるらしいの。で、その流れがわかれば、二つの線が交わる場所を辿ればいい。そうすれば力を流している中心部がわかる。そういう計画だったの」

イエイヌ:「うーん。・・・なるほど」

ともえ:「アムールトラの遭遇率はそんなに高くないのに、お前が頻繁に会ってるのは、その力が関係して、呼び寄せているのかも知れないとも、ゴリラちゃんと最初に話した時に言われたんだ」

イエイヌ:「あぁ、そうなんですね。確かに私も長年遠くに見たくらいしかないアムールトラに、最近頻繁に会ってましたね。それって、そういうことだったんですか」

イエイヌは目をつぶって腕を組んで、うなっている。ともえは無言でうつむいて、マフラーをいじる。

イエイヌ:「あぁでも、それならなんで、数の形態の時に移動を開始しなかったんですか?二回覚醒すれば、場所がわかるって意味なんですよね、さっきの話は」

ともえ:「それはね。この計画が最初の時点で破綻してしまったから」

イエイヌ:「え、どういうことですか?」

ともえ:「最初の力のモードの時は流れが弱かったから、上手く辿れなかったの。だからそこでおしまいだった。次の数の形態の時に一つの線がわかっても、もう一つの線がなければ、場所がどこかなんて特定できなかったの」

イエイヌ:「なるほど。だから、どこか元気がなかったんですね」

ともえ:「そうだね。あたしは、戦う皆の為に何もしてあげられないと思っていたから」

イエイヌ:「・・・・」

ともえ:「それと、力が弱くなれば、アムールトラちゃんも正気に戻って、友達になれるかも知れないって思ったのが、ダメになったこともあるかな」

イエイヌは目をつぶり、腕を組んだまま何度もうなずいている。

そのイエイヌをともえはちらりと見て、マフラーをいじりながら

下を向く。

ともえ:「・・・ごめんね。イエイヌちゃん」

イエイヌ:「え?どうしたんですか、急に」

ともえ:「あたしは何もできないのに、いつも巻き込んでばかりで」

イエイヌ:「いや、大変だとは思ってますが、結局私が好きで選んでる道ですから」

ともえ:「でも、あたしはそれに頼りっきりだった。おまけにあたしは、アムールトラちゃんを呼び寄せて、イエイヌちゃんを危険な目に遭わせている」

イエイヌ:「そんなの、ゴリラが勝手に言ってるだけで、事実とは!」

ともえ:「違う!あたしにはわかるの!」

ともえ:「あたしのせいで! あたしがフレンズちゃん達を助けたいとか! かばんちゃんとサーバルみたいな旅をしたいとか、そんな夢みたいなことを言ったせいで! イエイヌちゃんは何度も傷ついて・・・、ボロボロになって・・・」

ともえは、抱えた膝に顔を埋める。左手はマフラーを握りしめている。

イエイヌは悲痛な顔で、ともえを見る。

イエイヌは手を伸ばし、何か話しかけようとして止まり、悩む顔で横を向き、下を向き、上を向き、何か思いついて明るい顔に変わる。

イエイヌ:「大丈夫ですよ!こう見えて私、傷つくのが好きなんですよ!」

変な空気が流れる。

イエイヌ:「あ、すみません。今のなしで」

イエイヌはコホン、と咳ばらいをする。

イエイヌ:「あぁー。なんかうまく言えないんですけどね。何が一番迷惑って、ともえさんのそういう所ですよ」

ともえがびくっと反応する。

イエイヌ:「あ!いいや、非難してるわけではないんです!いや、非難してるのかな?うん。非難してるんですよ!私は。そういう、全部抱え込もうとすることに!」

イエイヌはびしりと、ともえに指を向ける。

イエイヌ:「別に私は、ともえさんに無理矢理連れてこられたわけではないんです!私はともえさんに生きる理由をもらいましたが、別に私はいつだって、ともえさんを見捨てて他に行くことだってできたんですからね!」

イエイヌ:「たくさん嫌な目に遭ったし、たくさん痛いこともありましたが、それでもここにいるのは、それでもともえさんと一緒にいたいと、そう思ってるからですよ!」

イエイヌ:「何もできてない?馬鹿なことを言わないで下さい。私はずっと見てましたよ。ともえさんが何かをしようとしてる所を!ともえさんがフレンズのことを一生懸命考えていたことを!それが、ともえさんが何かをできる人である、確かな証拠じゃないですか!」

イエイヌ:「私が傷つくのが嫌?そんなの気にしなくて平気なんですよ!それに身体が多少ボロボロになっても平気ですよ!だって、私達はフレンズなんですよ!サンドスターに触れれば、すぐ直ってしまいますから!だから」

イエイヌが、ともえの肩に手を力強く置く。ともえは埋めていた顔をあげ、イエイヌの顔を見る。

イエイヌ:「全部引き受けて、傷ついてしまわないで下さいね。この寒空の下でも二人でずっと歩んでいくんですよね?だって私達は、かばんちゃんとサーバルなんですから」

ともえの驚いていた顔が、決意した顔に変わる。

ともえ:「うん!」


 ●


ともえが立ち上がる。

ともえ:「ごめんね。そろそろあたしのやるべきことをやらないとね。ゴリラちゃん達うまく逃げられたといいんだけどなぁ」

イエイヌ:「ところでアムールトラへのサンドスターの供給って続いてるんですか?」

ともえ:「ううん、終わった。気配が今は消えちゃってる。でもそれが、アムールトラちゃんの姿が固定したのか、戦いが終わったのかまではわからないの」

イエイヌは真剣な顔をする。

イエイヌ:「なるほど。どちらにしろ、急がなければいけませんね」

ともえ:「そうだね」

イエイヌ:「それで、ここに何をしに来たんですか」

ともえ:「サンドスターの供給元を閉じるんだよ。あたし達がその力の元を閉じれば、アムールトラちゃんが弱体化する。それでゴリラちゃんは倒すつもりだけど、あたしは正気に戻して友達になるつもりでいる。辛い目にあったフレンズちゃんには救われて欲しいもんね」

イエイヌ:「・・・ともえさん」

イエイヌがともえの顔を見ると、ともえは暗闇の奥の方に、視線を向けている。イエイヌがそちらを向くと、そこには金属の扉がある。

イエイヌ:「あそこが……」

金属の扉は、少しだけ開いている。

ともえ:「そう。そこがサンドスターを供給する基地。そしてたぶん」


ともえ:「――博士がいる場所」


 ●


ともえとイエイヌが金属の扉を開けて部屋に入る。中は暗く、何も見えない。

おそるおそる中に入り、少しずつ歩く。

二人の後ろに突然、腹に黄色と青色を持つ、二匹のフレンズが立つ。

すると、ともえとイエイヌが床に崩れ落ちる。


カンザシフウチョウとカタカケフウチョウがニヤリと笑う。

その姿がアフリカオオコノハズクと、ワシミミズクの姿に一瞬だけ変わって、地面に写った一つの影が消える。


 ●


場面:過去の話。


20XX年

五月某日

日本国難民管理官事務所内

とある少女の記録


映像がついてジジジジと、向かい合って机と椅子に座る二人の人間が写る。

管理官「君の名前は?」

鞄「鞄。張鞄(チャン・カバン)です」

管理官「出身は?親の名前は?」

鞄「何も。何も覚えていないんです」

管理官「どうして船に乗っていた?」

鞄「気づけば、ここにいたんです」

管理官「どうして中国語だけでなく、日本語も話せる?」

鞄「それも、わかりません」

管理官「じゃあ、何か覚えていることは?」

鞄「自分の名前以外、何も」

管理官「そうか。わかった。今日はここまでにしておこう。何かわかったら、教えてくれ」


管理官のメモが画面に表示される。

『彼女はC国崩壊後に増えた孤児の誘拐か、生活できなくなった親が子供をブローカーに売ったものだろう。

おそらく、日本人の父親がC国人相手に孕ませた現地の子であり、戸籍が見つからなかったのは、一人っ子政策の影響で二人以上の子が持てなかったからである。

記憶がないのは、後腐れがないように記憶を忘れる薬を打たれているか、何かショックなことがあって蓋をしたからか(記憶がないふりの可能性もある。まぁどれにしろ、ろくなものじゃあないだろうから、掘り起こすべきでないだろう)

これらのことは、彼女をこの国に連れてきたブローカーを逮捕すればわかるのだろうが、最近は手口が巧妙化しており、まだ見つかっていない。

幼くて身元が不明で、日本語能力も十分な以上、人道的観点から

送還よりはこの国の孤児院に入れることを望む』


  ◆  ◆  ◆


同年某日

とある県の事務所内。複数の影が話している。


「で、どうして彼女があそこにいる。彼女達は始末したわけじゃなかったのか」

「いえ、始末はしてません。ですが彼女達は脱出方法のないまま放置されたので、あの島にまだいるはずです。十分に食糧はありますが、あれらの寿命は短いのでそう長く生きられないでしょう。彼女以外脱出した形跡が見当たりませんし、大丈夫かと」

「何が大丈夫だ。出てるじゃないか」

「だから、何で始末しなかったと聞いているんだ」

「既に証拠は全て抑えたと宣告された以上、証拠隠滅がてら彼女達を殺すのは弾と時間の無駄だと判断したようです。それよりも自分達が脱出して逃げるのに使いたいと。――まぁ証拠が揃っているとかは、ハッタリだったようですけどね」

「くそ、これだから傭兵って連中は」

「彼女の日本の国籍が見つかることはないのか?」

「そちらは既に完全に消滅させていますから、永久に見つかることはないでしょう。親族もいない身でしたから、そちらからも見つかることはありません」

「あいつらが、そいつを見つけるということは?」

「何の特徴もない現地の子と見られてるようですから、見つけることは困難でしょう。他のと違って、次の改造前でしたから、特徴的な外見はありませんしね。しかし、精密検査をしたら、我々の改造の痕跡は見つかってしまうでしょう。そうすればおしまいです」

「やはり、殺すしかないか」

「それはダメです。現状、我々の動きは見張られているのです。その動きそのものが我々を捕まえる根拠となりうるでしょう。それに今動ける裏の連中はどこにもいません」

「なら表の連中にやらせればいいじゃないか」

「そいつらは殺しなんかしません。せいぜい少し書類をいじらせるくらいしか」

「……ふむ。なら、書類をいじってもらうことにしようか」

「どうするんですか?あんまり大きい違反は、怪しまれてしまいますよ」

「なに。現状彼らの一部がやってることに乗っかればいいだけだ。つまり、国内に入れて違法な現場に斡旋することさ」

「なるほど。つまり危険な現場に入れて、事故死か事件をそいつらに勝手に起こしてもらえばいいということですか」

「そういうことだ。無理に長時間働かせて病気でも良い。それなら我々と関係ない政治家が、勝手に揉み消してくれる案件だ」

「ははは。そりゃいい。手を汚す必要がないわけだ」

「では、情報をリークして少しだけブローカーを取り締まらせますか。成績低下の始末を怖れた連中が、管理官をせっついて、後腐れのない子を寄こすように動くでしょうし」

「その中にあいつも含まれるってことですか」

「なるほど。それなら我々の動きがバレることはないだろう。直接ではないから意図はわかりにくいだろうしな」

「では。そのように」

複数の影が消える。


照明に隠された極小のカメラが、そのやり取りを映している。


  ◆  ◆  ◆


張鞄の日記を抜粋(鞄が読んでいる)


ボクを養子にしたいと、張景念という穏健派側のC国系大富豪の人が言ってきた(同じ苗字なのが有難い。彼らはボクがこの名に愛着があることを知ってたのだろう)。

在日C人の穏健派である龍和会と、積極派の青龍会は競争の中で互いに人材を求めていて、こんな違法な現場でも、優秀を示せば、拾ってくれるという話は本当だったようだ。

どこから調べたのか、その人はボクがどこにいたかも知っていたし、それに彼らは、自分達の組織が他と協力してあいつらを完全に潰したとも言っていた。

調べられた限りでは、その話は真実と判断して良いだろう。

この現場で協力してくれた人々のことを思えば、多少思うところがないわけでもない。

だけど彼らは応援してくれたし、ボクも彼らを引き上げると決意をした。

その為にもボクは行こうと思う。


――勿論、あの目的を叶える為にもだ。


  ◆  ◆  ◆


 ネットのインタビュー記事の抜粋


留学から帰り、在日C人の穏健派に入ってみるみる頭角を現し、多くの事業を成功。そして積極派を完全に潰した張鞄氏。

彼女に今の日本経済の衰退を見て、何をすれば良いのかを語ってもらった。


(中略)


鞄「国民のお金の周りが悪くなることが経済の衰退です。ですから、その流れを止めるものをなくす必要があるでしょう」

「それは何ですか?」

鞄「国債発行を増加させ、消費税を廃止することです」

「確かに政府の歳出を増やし、歳入を減らせば国民の中に金が留まることになるでしょう。しかしそれで成り立つのですか。借金が増えて財政破綻することはないのですか?」

鞄「えぇ、なりません。日銀が発行した紙幣を銀行に貸す形で持たせていたこと。これを、国民の負担となる借金と呼んでいただけです。そんな状態なのでお金を返しても、内部の日銀の所に戻るだけです。だから返さなくても破綻はしません」

「なるほど。そうだったんですね」

鞄「結局は成長に合わせて貨幣を増やすだけなのですから、緩やかなインフレになります」

「なるほど。次に消費税を廃止する理由をお願いできますか」

鞄「はい。デフレだとお金の価値が高く使わなくなり、資産を持つものが有利となる。そして貧乏な方の負担の方が大きい消費税ですから、格差は広がるばかり。この国民が苦しむ現状を、我々日本人と共に生きると決めた穏健派が許すはずがありません。これを決めてくる組織と戦うつもりでいます」

「ほぅ財務省とですか。もしかしてそれが最近、あなた方のお金が政治家に流れている理由ですか」

鞄「そうですね。外国人献金も解禁になった今、新しい政党も視野に入れています」

「おお!大きな話が出てきました。これは大ニュースです」

鞄「我々がC人であるということで、これで国を乗っ取るつもりではないかと恐れる人はいます。それでも、私達は行動で示していきたいと思います。さまよう私達を受け入れてくれた、この国を、素晴らしいものにする為に」


  ◆  ◆  ◆


20××年、張鞄財団総帥室。子供のように小さい姿の鞄の前で、プロジェクターをつけた大人が説明してる。

「では、報告をさせていただきます」

鞄「どうぞ」

「これが、総帥が要求する形を叶える、構築型投影結晶となっております

「この結晶は窒素酸素などの空気、土や石などの鉱物由来の様々なものを材料にしてできており、その地域での全体量やスピードを設定するだけで、全自動でその量までの結晶を作ることになる優れ物です

「エネルギーは太陽光をはじめ、運動エネルギー摩擦エネルギーなど様々なものを利用できます

「一つ一つの結晶はナノ単位レベルですが、結晶内にある受信部分に、外部の送信部より目的とする姿を受け取ると、近くの結晶が集まり、一つの実体を作ることができます。

「また、その実体の運動方法も入力することで、その通りの動きもすることができ、投入エネルギー次第ではその骨格や肉体ができる以上の動きも可能となっています。

「なおこれは無機物にも、環境作りにも使うことができ、結晶の密度と角度の調整次第で気温も湿度も自由自在で、同じ気候下にあるはずの島ですら、違った植生をすることが可能となっています

鞄「なるほど。素晴らしい。要求通りですね。それでもう一つの方はどうなっていますか」

「複数脳媒介型出力装置のことですね。

「これは、人の脳を読み取った上で、その記憶が安定するように補助することができます。これにより、その人の過去の記憶や妄想を映像にすることができます。先程の結晶と、第8世代型である生体通信装置を用いて繋ぐことにより、その人が描く姿をこの現実に実体化することが可能となってます

「ですが、脳を媒介にしている以上・・・・

鞄「それ以上は結構です。退出なさい」

「わかりました」


鞄は部屋で一人、座っている。

鞄「……ようやく、ここまで来たよ。サーバルちゃん」

鞄は笑みを浮かべる


  ◆  ◆  ◆


場面:回想。太平洋のとある島の研究所


赤い警報が回る。金属音を鳴らし、走り回る足音。息遣い。どこかに隠れている子供。

はぁはぁはぁ。「大丈夫」

はぁはぁはぁ。「きっと逃げられるよ」

はぁはぁはぁ。「かばんちゃんは足は遅いけど」

はぁはぁはぁ。「頭が良くて狩りごっこが得意だったじゃない」はぁはぁはぁ。「だからもし無事に生きてたら」

はぁはぁはぁ。「―――――」(何かを言った、口の動き)

「サーバルちゃん!」銃声。

青い警報に変わる。

『職員は子供を追わず全員脱出して下さい職員は子供を追わず全員脱出して下さい職員は子供を追わず全員脱出して下さい』



  ◆  ◆  ◆


場面:ジャパリパークの港


「行くのですか?鞄」

二つの影が、鞄に話しかける。

鞄「はい。決めたことですから」

「我々もついていきたいところですが、改造されたこの姿ではどこにも行けないのです。幸い食糧はたくさんあるのです。だから我々はこの島で最後を終えたいと思っています」

鞄「・・・・」

「向こうでも元気でやるのです。もし帰ってくることができるなら、いつでも待っているのです」

鞄「・・・・大丈夫です。博士。では、さようなら」

「さようならです、鞄」

小さなモーターボートで海へ行くのを見送る博士。

助手が出てくる。

「今更、ヒトの世界に行ってどうするのでしょうか?かばんは」

「どうもしないでしょうね。ただ、ここにいるのが辛いだけなのでしょう」

「まぁ、嫌でも――死んだサーバルを思い出しますからね」


島から遠く離れた船上で、鞄は振り返る。


鞄「絶対帰ってくるからね――サーバルちゃん」


  ◆  ◆  ◆


場面:某ニュース報道より


「いやぁ。張鞄財団より、衝撃の事実が発表されましたね」

「えぇ。まさか万能のエネルギー物質に加えて、それを使う生物が存在するとは」

「しかも、それを動物が受けることにより、ヒトの少女化してしまうとは驚きの事実ですよね」

「あ、今再び情報が入りました」

「財団は、その物質をサンドスター、そのヒト化した動物をアニマルガールと命名し、彼らが住む一帯の地域を買い上げ、複合型動物園とすることを今、決定しました」

「その時期は未定ですが、先行して研究施設ができて、その後で一般に開放される動物園になる模様です」

「それで、このパークの名前ですが、張鞄氏が好きだった日本と、野生の動物公園によく付く名前であるサファリ。この二つを絡めてジャパリパークとすることが決定したそうです」

「そうですか。そんな凄い場所の名前に、自分の国の名をつけてもらって、ちょっと誇らしいですよね」

「しかしそうすると、つくづく残念でならないのが、張氏の行方不明ですよね」

「病気で長くないと診察されたのが原因かと報道されていますが、彼女は、どこに行ってしまったのでしょうか?」


「それでは、続いてのニュースです」


  ◆  ◆  ◆


場所:枯れた火山の地下深く。


リュックを背負った鞄が金属の扉を開ける。深く続いてる階段は所々緑色に光っていて、降りれるようになっている。

鞄がしゃがみ、その緑色の部分を触り、手に付いた鉱物をじっと観察する。

鞄「・・・なるほど。鉱物を光を逃がさない形に加工した上で、階段に含ませたんですね。この環境で、よくそこまでできたものです」

鞄は立ち上がる。

鞄「でも、それくらいできる相手でないと、来た甲斐がないですからね」


鞄はリュックを背負いなおし、階段を深くへと降りていく。



  ◆  ◆  ◆



場所:奥深くの場所


食べ物が散乱した暗い部屋で、椅子に片膝を抱えて座るアフリカ

オオコノハズクがいる。

アフリカ:「ようやく、来ましたか」

鞄「えぇ。久しぶりですね博士」

アフリカ:「ふん。お帰りとでも言っておきましょうか。かばん。そして」

アフリカオオコノハズクは膝を下ろし、投げやりに椅子の上で両手を前に広げる。

アフリカ:「ようこそ、もはや私以外誰もいない、ジャパリパークへ」

皮肉気なアフリカオオコノハズクに、鞄は何を考えてるかわからない顔をする。


  ◆  ◆  ◆


二つの椅子の周囲だけ、明かりが点く。ただアフリカオオコノハズクの方はまだ暗くて、全体がよく見えない。

鞄は少し離れた所に置いてあった椅子に座る。

そして、少し距離を置いて、鞄と博士が対峙する。


鞄:「いろいろ考えてきたのに、いざしゃべるとなるとどこから話したらいいかわかりませんね」

アフリカ:「ふん。だったら、親切な博士がお前に疑問してやるのです。かばんはそれに答えていくだけでいいのです。博士も考えてきたことが多少あるので、答え合わせをするのです」

鞄「わかりました。ボクはここの全ての答えを持ち合わせていますから、それに答えることはできると思います。ではどうぞ博士」

アフリカオオコノハズクは、鼻で笑う。

アフリカ:「じゃあまずは、この島のことです。人間の進化の可能性を求めて改造された我々は、どうして人間によって放棄されたのですか?」


  ◆  ◆  ◆



鞄:「進化の可能性?まさかそれを信じていたのですか?博士は」

アフリカ:「いいえ、信じてません。それにここを出ていった人が人間の金持ちにどう扱われるかも予想がついています。現場は進化と改造に魅入られたイカれた研究者。管理側は金と権力に魅入られた連中ってとこでしょう?」

鞄:「そうですね。それであってますね」

アフリカ:「だから私は聞いてるのです。どんな権力構造の変化があって、我々が放置されるに至ったのかと」

鞄:「そうですね。まぁ簡単な話ですよ」

鞄:「とある場所に、この時代に関わらず、非人道的で独裁的な国家があった。そこの腐敗した連中が行う研究と金儲けの一つとして、この島があっただけです」

鞄:「人類の進化が目的というよりは、自分達が長く生き残る為の医療とバイオテクノロジーの発達。それと被虐心満たす為の性的玩具として、少女を改造してました」

鞄:「で、その国なんですが、大国でしたけど、内部にも外部にも敵を作りすぎた結果、滅びました。そして、この場所が放置された、それだけのことです」

アフリカ:「他国の連中が、ここを利用か保護をしようとしなかったのは何故なんですか?」

鞄:「まぁ自分達の国の重要人物にも、それに関わっていたのが多すぎただけですよ。下手に関わってここの存在を明かすより、見て見ぬふりをする方が、皆に良かったってだけです」

アフリカ:「ふん。まぁ、そんなことだろうと思ったのです」

鞄はアフリカオオコノハズクを見る。

鞄:「で、本題はなんでしょうか?」

アフリカ:「――こいつは、なんなのですか?」


アフリカオオコノハズクが、指を差した方には機械に繋がれた何も入ってない円筒ガラスがある。


  ◆  ◆  ◆


アフリカ:「こんな送るにも手間がかかりそうなもの。周りで見張ってる連中がいるにも関わらず、どうして送ったのですか?」

鞄:「機械を送ることは簡単ですよ。そんなものは金を積めばできますから。ボクはここの改造で世界一の頭脳を得ました。そして10年で世界一の企業を作りました。その金さえあれば、かなりのことができます。海流を計算して、この場所にこの時間にこれくらいのものを流せば、島に届くことを知り、実際に放流させました。その間だけ監視の目をずらさせることも、金さえあれば可能です。上手くパーツにばらして、何回もやれば、他の国の監視にバレずに無事に届きます。まぁ監視をしてたところで、拾ったものの意味を理解はできなかったでしょうがね」

アフリカ:「なるほど。確かに彼らには、我々がゴミを拾ってるようにしか見えなかったでしょう。ここにある設計図も一緒に届かない限り」

アフリカオオコノハズクがちらりと見た先の机には、設計図が置いてある。

アフリカオオコノハズクが鞄に向き直る。

アフリカ:「しかしさすがに人物がこの島に入るのは無理なのではないですか?こればかりは分解するわけにはいかないでしょう。鞄はどうやってここに来たのですか?」

鞄:「そうですね、確かに無理です。だから表から堂々と入りました。監視する全国家に自分の遺産分のほとんどを分けることで、ここを行きだけ通すことを許してくれました」

アフリカ:「遺産?行きだけ?お前はずっとここで暮らすつもりなのですか?」

鞄:「――いや、自分はここで死ぬつもりなんです」


アフリカ:「もしかして――サーバルが既に死んでるからですか?」


  ◆  ◆  ◆


鞄:「・・・・」

アフリカ:「サーバルの死は、お前に責任はないのです。殺したのは、ここにいた連中。そしてそいつらは裁きを受けた。それで話は終わりなのですよ」

鞄「・・・わかってます」

博士が立ち上がる。

アフリカ:「なら、後追いでもする気ですか?その為にお前は帰ってきたのですか?」

鞄:「違います」

アフリカ:「なら、何故!?」

鞄:「ボクは――」


鞄:「サーバルちゃんを復活させる為に、帰ってきたんです」


アフリカオオコノハズクは、呆けた顔をした後、怒りを堪えた顔になる。

アフリカ:「お前は、何を言ってるんですか?」

鞄:「・・・・」

アフリカ:「死んだ生物は決して蘇らない!それが生物の絶対の掟なのですよ!だから、人は死後の世界で共になることを願う為に、神という存在にすがるんです!だから、だから博士は!だから、私は――」

鞄:「――それが、できるんです」

アフリカ:「そんなわけ」

鞄:「できます。ボクが提案してできなかったことは、ありますか?博士」

アフリカオオコノハズクは鞄をにらみつける。鞄はそれを真顔で見つめ返す。

アフリカオオコノハズクは、疲れたように座る。

アフリカ:「いいでしょう。お前からどんな話が聞けるか楽しみなのです。とっとと馬鹿な話をするのです」

鞄:「わかりました」


  ◆  ◆  ◆


鞄「デジタルネイチャーという考え方を、知ってますか?」

アフリカ:「ここにあった本には、そういう概念はなかったのです。ただ読み方はわかります。電子的な自然という意味ですね」

鞄:「そうです。落合陽一が提唱した概念で、コンピューターが小型化し、ユビキタスとして自分の周囲に偏在化して自由に使える果てにあるもので、将来的には砂のように小さなコンピューターが無数に積み重なり、動きを変えながら、自然の形を成していくだろうという考え方です」

アフリカ:「なるほど。意味は理解できました。で、それが、どうしたのですか?」

鞄:「自然ですよ。自然ということは、それは生物を作り上げることも可能ということです」

アフリカ:「!?」

鞄:「ボクはその物質を全世界の研究機関を使い、秘密裡に作り上げました。その物質は通信とマザーコンピューターとデータを元に、全てを作り上げることができます。鉛筆などの物から家は勿論、雪や砂漠などの環境すら作り上げることができます。その万物を作れる物質を、ボクはサンドスターと名付けました」

鞄は、ポケットから輝く砂の入った小瓶を取り出す。

アフリカ:「それが、サンドスターなのですか?」

鞄:「見てて下さい」

かばんは机の上にその小瓶を置くと、鞄を開き、中から少し大きめのスイッチがついた箱を取り出した。

そして相手が見ている前でスイッチを入れると、まず小瓶の中の砂が結晶化し、次にそれが積み上がり、やがて小さなアルパカが作られた。

アフリカ:「!?」

鞄:「まだ、驚くのは早いです」

アフリカ:「――どういう」

かばんが手で制止すると、そのアルパカが動き出した。

アフリカ:「!?」

その小さなアルパカを見ていると、ガラスの壁にぶつかり、こけた。首を傾げると、今気づいたように上を見上げて、こちらにびっくりして、目をつむった。

そして、

アルパカ:「あの~。今私どうなってんだ~」

アフリカ:「――しゃべってるのです」

鞄:「そうです。これがサンドスターの力です」

アフリカ:「どうなってるんですか?かばん、これは?」

鞄:「はい。解析した遺伝子構造と、ボクが衛星でパークを撮影した姿をデータに、サンドスターがその物質の表面にアルパカさんの姿を映したんです」

アフリカ:「ホログラムみたいなものですか?」

鞄:「どちらかと言えばゲームのポリゴンやフィギュアの方がわかりやすいかも知れません。中身は灰色の固まりのようなものなのに、表面では存在を写すことができていると。これは中身となる存在がなくても問題ないですし、中身の上を覆っても自動で生命維持してくれます」

アフリカ:「例えば人間に近い姿をさせた上で、中にでかい象すら入れられるということですか」

鞄:「そうです。相手は自分がその姿だったことすら忘れます。サンドスターが解除されても、中身は自動でそのサイズに戻ることもできます。中身は実際の生物でも、その生物の一部でも構いません。コンピューターが自動で解析して、人の姿を作ってくれます」

アフリカ:「なるほど。便利ですね。ところでこれはエネルギーはどうなってるんですか?」

鞄:「それは、これを見ていただけたらわかります」

そう言うと、かばんはポケットからさっきより大きめのビンを取り出した。中にはサンドスターが入ってる。

その蓋を開け、ポケットの小さい袋から取り出した枯草や土や石の混ざったものや、床に転がっていた食べかすと箱を、瓶の中に入れた。

すると、

アフリカ:「枯草や土石が、サンドスターに変化してる?」

鞄:「そうです。サンドスターは周りのものを、サンドスターに変化させることができるのです。変化させる中で、そこに含まれていたエネルギーも、別のものに変えてしまうのです。まぁ主なエネルギーは太陽光なんですけどね」

アフリカ:「なるほど。特別なものはいらないというわけですか」

鞄:「そうですね。この枯草や土は、この島に来る前の港で適当に拾ったものですしね」

アフリカ:「そして、食べかすと箱を目の前で変えられて、それが特別な枯草や土だと、私は言い張ることもできない」

鞄:「えぇ、そうです」

アフリカ:「で、これも別の生物に変化させるんですか?」

鞄:「いえ、これはこうします」

そう言うと前のビンを開け、怖がるアルパカを取り出し、大きい方のビンに入れた。

すると、そのサンドスターをアルパカは吸い取り、前より少し大きな姿になった。

アフリカ:「サンドスターでできた生物は、サンドスターを取り込むことができるんですか」

鞄:「えぇ、そうやって姿を保つんです。大きさは本当は自在に変化できるんですが、マザーコンピューターに登録するものは、身長体重を、人に近いサイズで固定したいと思ってます」

アフリカ:「ふむ」

鞄:「口からは何かの食事、自然との接触からはサンドスターの両方を受け取ることにより、彼女らは姿を保つことができるんです。サンドスターは器に貯まりやすい性質を持つので、こういった瓶や生物や建物に流れます。流れやすさは、地形>建物>物>生物なので、大体新しくできたフレンズが獲得できるようになってます。この場所の上にある枯れた火山にサンドスター発生装置を入れ、外に溢れるようにし、時々起こる噴火を合図に、新しいフレンズをランダムに発生させたいと思ってます。でも完全にランダムでは無くて、その種に関したものが近くに落ちてた方が、発生はしやすいです」

アフリカ:「なるほど」

鞄:「ボクの鞄の中には、サンドスターを発生させる装置と、サンドスターを管理して新しいアニマルガールや過ごしやすい地形を発生させる装置と、ラッキービーストや生産機械の制御装置が入っています。ここにある機械とサンドスターを使えば、できる――」

アフリカ:「待つのです」

アフリカオオコノハズクが立ち上がる。

アフリカ:「ちょっとそのアルパカを見せてもらってもいいですか?」

鞄:「どうぞ」

アフリカオオコノハズクは瓶を見下ろす。

アフリカ:「こんにちわです、アルパカ」

アルパカ:「こんにちわー」

アフリカ:「お前は――紅茶は好きですか?」

アルパカ:「――こうちゃ?わからないなー。私それ知らないよー」

アフリカ:「――っ」


アフリカオオコノハズクの、表情が見えない。

アフリカ:「かばん」

鞄:「はい」

アフリカ:「こいつは、あのアルパカの記憶を引き継いでいるわけではないのです」

鞄:「えぇ、そうです」

アフリカ:「記憶は、アルパカの脳とか周りの人の記憶を使えば、引き継ぐことのできるものなのですか」

鞄:「それは、できません。姿形や嗜好や言葉遣いくらいは引き継げますが、記憶は別物です」

アフリカ:「なら、どうして――」

鞄:「・・・」

アフリカ:「どうして、サーバルを復活できるなどと言ったのですか!」

鞄:「・・・」

アフリカ:「これがもし、記憶を繋ぐことができるものならば!」

鞄:「・・・」


アフリカ:「私は、そこの水槽で死んでる、あの子を復活させることができると思ったんですよ!」


アフリカオオコノハズクが指差す先には、水槽に浮かぶ本物のアフリカオオコノハズクの姿があった。


  

  ◆  ◆  ◆


はぁはぁはぁ、と興奮した息を、博士であるワシミミズクがする。

かばんは後ろの円筒ガラスの機械を眺める。

それは水槽で、中には繋がれたフレンズが一体ずつ入っている。

30体くらいで、その一番前に自分がかつて見た、アフリカオオコノハズクの設定を持たされた人間の女がいた。

かつてのように若々しくないが、それは確かに昔見た助手と同じ姿だった。

そして、かばんは目の前にいる助手と似た姿に整形してあるが、身長は全く違うワシミミズクの博士へと視線を戻した。

アフリカオオコノハズクの化粧が崩れて、ワシミミズクの茶色の部分が出ているのが見える。かばんは切なそうな顔をする。

鞄:「そんなふうになるまで、助手をかわいがってたんですね、博士は」

ワシミミズクは怒りの顔をかばんに向ける。

ミミズク:「話を逸らすのはやめなさい。私のことはいいのです、かばん。いいからとっとと答えるのです。どんな手を使ってでも、生前の記憶を持った人物を作ることはできないんですか?」

鞄:「申し訳ありませんが、それはできないんです」

ミミズク:「どこまでなら、できるんですか!」

鞄:「さっきも言いましたが、設定できるのは外見とか声とか性格とか口調くらいで、具体的に何をしていたかまでの記憶を埋め込むことはできませんでした。その設定も時々不完全を起こしますので、他の方のものと混ざってしまう可能性を秘めています。だから次に形を再現した時は、性格や声や口調すら変わってることがあるかも知れません」

ミミズク:「新しく得た記憶を、次の個体に引き継ぐことすらできないんですか?」

鞄:「一応記録はしてますが一方通行です。その時の個体が消えた時は一緒に記録も消せないとパンクしてしまうので、同時に消えることになってます。何かしら奇跡が起きたとしても、何故か昔に見たことがあるようなとか、何故か涙が出てくるとか、そういうことにしかならないでしょう」

ミミズク:「ならなぜ、お前はこの機械をここに寄越したんです?これは一体何の為にあるんですか!?」

ミミズク:「記憶も記録もできないなら、我々に何の意味が残るというんですか!会いたい相手が別物だったら、その違うものをどうして愛せばいいんですか!」

鞄:「簡単なことです。それは――」


鞄:「ボク達も記憶を失えば、前の人物との違いなんて気にする必要なくなるじゃないですか?」


ミミズク:「それでは、再び会えることなんて――」

鞄:「会えますよ」

ミミズク:「何を証拠に」

鞄:「会えます。絶対に」

ミミズク;「根拠のないものなら」

鞄:「根拠なら多少はあります。前の『パーク』では、元々性格や力が合うもの同士だから、ずっと一緒にいる存在になりました。今度も狭い環境にいるので、また同じ形にくっつくことはあるでしょう」

ミミズク:「でも、性格が変わるとも、お前は言いました」

鞄:「なら、設定というものがあります。性格や声の他に、何となく、近くにいた人の記憶も関係性に反映されますから。博士達は、より多くのフレンズと関わっていたわけですから、二人が一緒であることを、覚えてるフレンズは多く、また同じ関係を作れるはずです」

ミミズク:「それでも万が一会えない場合があるでしょう!特に!最近より早く死んでしまって覚えてる連中が少ない、お前とサーバルの関係なんて――」

鞄:「会えます」

立ち上がって少し歩き、背中越しにかばんは答える。


ミミズク:「だから、どうして――」

鞄:「だって――」とそう言い、かばんは振り返る。

サーバルが死ぬ前の、口の動きが回想される。

鞄:「また遊ぼうねと約束したんですから――」


鞄:「ボク達は何度だって巡り会う。――だって、そうでしょう?」


ワシミミズクの前で、かばんの目から涙が零れ落ちた。


  ◆  ◆  ◆


長い沈黙の後。ワシミミズクは口を開いた。

ミミズク:「お前の言い分はわかったのです。まだ全部了承したわけではないですが、ひとまずお前の主張を受け入れるのです。お前にお前の決意があるように、博士にも覚悟があるのです。だからまずは、お話するのです」

鞄:「・・・。そうですね。それがいいと思います。博士も元の姿に戻っていいんですよ」

ミミズク:「放っておくのです。今の私は何だかんだでこの方が心地が良いし、頭も働くのです」

鞄:「わかりました」

ミミズク:「では、始めるのです」


  ◆  ◆  ◆ 


ワシミミズクが椅子に深く寄りかかる。

ミミズク:「ふぅ。とりあえず議論は出尽くしたのです。これでこの場所をアニマルガール達がいるパークにする計画も、人間を追い出す計画も、その後で平和に皆が暮らす計画も整ったのです。まぁ、ほとんどお前が計画した通りでしたが」

鞄:「それでも、現場をよく知ってる、博士には敵いませんよ」

ミミズク:「ふん。でもまぁ、これでもう、話すことはないのですね」

鞄:「えぇ。後は作業するだけです」

ミミズクが眠そうにしている。

ミミズク:「・・・少し、疲れたので休みます。かばん」

鞄:「えぇ、どうぞ」

ミミズクが身体を横たえると、すぐにまぶたがうつらうつらしている。

ミミズク:「あぁ、そうだ」

ミミズクが夢うつつのまま、呟く

ミミズク:「・・・今度は、あの子を博士と慕うのも・・・楽しいのかも・・・知れないのです・・・子供っぽいこの口調も・・・あの子の方が似合うし・・・交換して・・・ふふふ・・・楽しみなのです」

ミミズクが寝落ちる。

鞄:「いい夢を博士。――お互いに」


  ◆  ◆  ◆



そうして、かばんと博士は作業を続けた。

多くの時間が経った。

この島が発見され、様々な人がやってきて、設備が持ち込まることになった。

その頃には、なるべく見つからないようにという狙いもあったが、ほとんど身体も動かなくなっていた為、二人は外に出ることはなくなっていた。

一切の世話をラッキービーストに任せながら、彼らはベッドに横たわり、天井にある無数のディスプレイを眺めていた。

そこにある人々とアニマルガールの営みは、何の疑うこともなく互いを信頼し愛するようなものばかりで、自分達がした計画を間違いじゃないかと思うような時もあったが、その端で起きる悪い人々による盗難や、他国の襲撃、無知なアニマルガールへの性的行為や、さらわれた彼女らへの悲惨な実験などもたまに知り、やはり自分達は正しかったと思い直した。

最早やることは、かばんに何もなかった。

目の前のディスプレイに浮かぶ営みを眺め、そしていつの間にか眠ってしまい、そこでサーバルと楽しく遊んでいる夢を見る。

隣の博士もまた同じように、助手との日々を過ごしている。

そして、そろそろ限界だろうとかばんが想った頃、邪魔しては悪いと思ったが、博士にお別れの挨拶をすることにした。

しかし、返事はなかった。

その気配が全くないことに気づき、死んだ後遺体は、円筒ガラスに機械で自動で入れられることを少し思い出し、すぐに忘れた。

かばんは目を閉じ、また、遥かに起こる未来の旅の、夢を見ることにした。


そして、それが最後の夢となった。


  ● 


そこはサバンナだった。


枯れた葉の草原、僅かな緑の低木、土の匂い。

本当は一度も行ったことはなかったが、そこは確かに本物のサバンナだった。

かばんは、直前まで何かを探していたかのように思ったけど、それが何かは思い出せなかった。

不安を抱えて、途方をくれたように、とぼとぼ歩く。

風のささやき、葉のずれる音、遠くで響く獣の声。

どれも今のかばんにとっては、心を不安にさせるものだった。

すると、何かが駆ける音がやってくる。

その音にまずは気づき、次にそれが自分の方に近づいてくると気付き、最後に本能的に逃げなくてはと気づき、走り出す。

しかし、その相手にとっては、もう遅すぎた。

捕まらないように、あちこちに走り出すけど、その距離は続々と縮まってきた。

興奮する相手の声は聞こえない。怯える自分の息だけが、強くなっていく。

そしてざっと、上へと延びる音がした後、その相手は自分を押し倒した。

食べられてしまうとそう本能が思い、逃れられないと目をつむる。

しかしその時がいつまで経っても来ないから、怯えながらも、そっと目を開けていく。

すると、その顔がぼんやりから一つずつ目を結ぶ。

知らない相手だった。

頭に大きな耳がついて、蝶ネクタイをして、髪の毛に黒いMの文字が入った女の子だった。

その相手はずっと、自分のことを見ながら笑顔だった。

だけどボクはその女の子を見て、何故だか涙が止まらなかった。

彼女がそっとボクに手を差し出す。

そしてボクはその手を掴み、立ち上がる。

その温かくも優しい手に、ボクはまた涙ぐんでしまう。

すると彼女は困ったようにして、あちこち服を探ると、懐から饅頭を出し、半分にして差し出す。

何度も断るボクの前に、それでも何度も差し出し、ボクは根負けして大人しく食べてしまう。

その味がどこか懐かしく、優しくて、また泣いてしまうボクの頭を、そっと彼女が撫でてくれる。

その優しさに耐えきれなくて、ボクは食べかけの饅頭を落とし、彼女に抱き着いた。

泣いて叫ぶボクの頭を撫でながら、そっとだけど確かにある確実な力でボクを抱きしめてくれた。

だからボクは安心して、泣き叫んで、今までどんなに辛かったのかを、何の脈絡もなく話した。

その間、ずっと彼女はボクを抱きしめてくれていた。

どれくらいの時間が経っただろう。

突然、彼女が立ち出した。

置いて行かれると思ったボクは、彼女の袖を必死に掴んだ。

一瞬、困った笑みを浮かべた後、ボクの目線に目を落として手を外すことを納得させる何かを話した。

ボクは涙ぐみながらも、手を離した。

自分の全てが失われたかのような瞬間は、その手をすぐに握り直す彼女の手で再び元に戻った。

彼女は前の方に、指を差した。

そこに何があるかはボクにはわからなかったけど、向こうは確かに光で輝いていた。

だからボクは返事をするように、その手を強く握り返した。

そして一緒に、ボクらは走り出した。

光へ。

決して消えない光へ。

キミという永遠と共に。

ボクは終わらない旅を始めたのだった。



「ぼく達ずっと、どこまでもどこまでも駆けていこうよ、サーバルちゃん」

「うん、ずっといっしょだよ。かばんちゃん」


 ●


場面:映像終了。博士の部屋にともえ達は戻っている。


ともえが目覚める。目には涙が流れた後がある。

視線の先で、イエイヌが起き上がっていて、頭を何度も振っている。

ともえ:「・・・イエイヌ、ちゃん?」

イエイヌがともえの方を見る。

イエイヌ:「あ、無事に起きたんですね、ともえさん」

ともえが身体を起こして立ち上がる。

ともえ:「ここは、どこ?」

イエイヌ:「おそらく私達が入った部屋の中かと。あぁもう!なんか頭の中がぐらぐらします!」

イエイヌが目をつぶって頭を何度も振る。

こつんと部屋の奥で音がする。

イエイヌ:「誰ですか!」

イエイヌが警戒して構えるが、コツコツという音と共に、尻尾が徐々に大きく動いていって、驚愕した顔になってく。

暗闇の中から、ワシミミズクが姿を現す。

ミミズク:「久しぶりですね、イエイヌ」

イエイヌ:「博士!!」

しっぽをぶんぶん振って、イエイヌはワシミミズクに抱き着こうとするが、イエイヌは、博士の姿をすり抜ける。イエイヌは不思議そうな顔をする。

ミミズク:「すみません、イエイヌ。これはホログラフなんですよ」

イエイヌ:「ほろぐらふ?」

ミミズク:「実体のない、ただの映像って意味ですよ」

イエイヌ:「そうなん、ですか」

イエイヌが不思議そうに、その映像をあちこちからじっと見ている。

イエイヌがともえの方を見ると、ともえが驚いた顔で部屋の隅を見ている。イエイヌがそちらに顔を向ける。

そこには、壁に寄りかかり消えかかっている、探偵のオオセンザンコウがいる。

イエイヌと、我に帰ったともえが急いで駆け寄るが、どうしたらいいかわからず戸惑っている。

探偵のオオセンザンコウは二人を見ると、ふっと消える。

イエイヌが博士に振り返る。

イエイヌ:「えっ、どうしてあの探偵が消えたんですか!博士は何か知ってるんですか!」

ミミズク:「あぁ、それですか。それはさっきの映像を見たからですよ」

イエイヌ:「さっきの?あれは夢じゃなかったんですか?」

ミミズク:「現実の記録を編集したものですよ。それをあなた方に送り込んだんです。データ量が多いから、それを見てる間は昏睡状態になるのが難点ですがね」

ともえ:「さっきの映像は、本当に起きたことなんですか?」

ミミズク:「真実ですよ。それを見れば納得してもらえるかと」

ともえ達は、ワシミミズクが促した方を見る。

そこには中に水が入った円筒ガラスが二つだけあり、奥は見えないが、手前には映像に出てた張鞄の姿が浮かんでいる。

ともえ:「まさか、今そこに浮かんでいるのが、その行方不明になった張鞄さんですか?」

ミミズク:「そうです。彼女は複数脳媒介型出力装置を使い、このパークを構築しました。それには私の前身で、島に残された博士も関わっていると聞きます」

ともえ:「しかし、その人は一体どうしてこんなことを」

ミミズク:「それは、彼女が最後にサーバルとした約束を果たす為です」

過去の映像での、サーバルの口の動きが見える。

イエイヌ:「『また遊ぼうね』ってやつですか」

ともえは、はっと気づく。

ともえ:「それってもしかして――」

ミミズク:「そうです。それが実現して語り継がれるようになったもの、それがかばんちゃんとサーバルの伝説です」

ともえ:「まさか」

ミミズク:「そうです。だからもう、彼女の夢は叶ったんです。そしてこのパークが存在する理由はなくなったんですよ」

ともえ:「!!」

探偵が消えた場所をちらりと博士が見る。

ミミズク:「あの探偵は、自分達が存在する理由を求めていました。こんな不思議な存在である、アニマルガールが作られた理由を。そこに自分が生まれてきた理由があると信じて。だから、パークの歴史を知るはずの私を探し、そして私は映像を見せてあげました」

ミミズク:「そして、もう目的なんか存在しないとわかってしまって、あのようなことになりました」

ミミズク:「そう、ここにいる誰も、生きる理由なんてない。フレンズがこの場所で、ずっと生きてきた意味もないんですよ」

ミミズク:「――全部、無価値だったんです」

イエイヌが衝撃を受けた顔で、博士を見ている。博士は無機質な顔でいる。

ともえ:「そんなことない!」

イエイヌがともえの方を見る。ともえは震えながらも、強い瞳でワシミミズクを見ている。

ともえ:「そんなことはないよ!」

ともえ:「あたしは知ってる!フレンズちゃん達、それぞれに生きる理由があったことを!」

丘の上から遠くを見つめて、切なそうな顔をするロバの場面が出る。

ともえ:「歪んでたけど、相手の為だけに生きていた親子のフレンズがいた!」

石の上に寝ころび、雪が積もり、消えるのを待つレッサーパンダの場面が出る。

ともえ:「大切な相手に試練を与えたけど、本当は皆が笑える世界を望んでいたフレンズがいた!」

燃え盛る部屋の中へ、手を繋いで消えるハブとオオミミギツネの場面が出る。

ともえ:「本当はずっとに一緒に生きたかったけど、間違った選択をした相手を消すしかなかったフレンズがいた!」

高く跳んだカリフォルニアアシカが、くす玉を叩いて、観客に紙吹雪を舞わせる場面が出る。

ともえ:「ただ死にたくなくて分け合うことを拒んで、でも最後は分け合う大切さを知ったフレンズがいた!」

雪降る雪原の中、金色の瞳のフレンズ達に囲まれ、膝を折ってるゴリラの場面が出る。

ともえ:「ぼろぼろと悪くなっていく状況を、それでも何とかしようとあがいたフレンズがいたの!」

ともえ:「このパークはとても辛い場所で、この雪のように哀しみは終わらない場所だけど!」

ともえ:「でも、それでも誰かと繋がることはできるの!」

ともえが横を見ると、イエイヌが頷く。ともえも頷き、ワシミミズクの方に顔を向ける。

ともえ:「確かに意味はもうないのかも知れない!」

ともえ:「でも、生きる理由なんて他の誰かに決められるものでも与えられるものでもない!自分で、決めるものなんだよ!」

ともえがイエイヌの手に飛びついて、持ち上げる。

ともえ:「そして、今この手の中にあるものは、ずっとあたしにとっての、生きる意味だから!」

ともえとイエイヌが真剣な顔でワシミミズクのことを見つめる。

ワシミミズクはふっと笑う。

ミミズク:「失礼しました。ともえさんには無粋な話でしたね。

親しい誰かの影響がすごいことも、あの子の口調が移ってしまった私はよく知ってますしね。確かに生きる意味や価値など他人が決めるものではありませんね」

そう語るワシミミズクを、ともえ達は真剣な目で見てる。ミミズクはそこから目を逸らし、背中を向く。

ミミズク:「そうそう、サンドスターの供給元を断ちに来たんですよね。アムールトラを救う為に」

ともえ:「そう。ゴリラちゃん達も待ってるから」

ミミズク:「場所はこちらです」

顔に影がかかったワシミミズクに案内され、二人はその後をついていく。

二人は円筒のガラスの前に立たされる。

そのガラスの中には、肉塊が浮かんでいる

ともえ:「これは?」

ミミズク:「実態を保てなくなったヒトです。アフリカオオコノハズクのふりをしたワシミミズクで、私のオリジナルです」

ともえ:「これが・・なの?」

ミミズク:「まぁ、あまりに長い時間使用してきましたしね」

ミミズクは含み笑いをする。

ミミズク:「サンドスターの操作を長時間保たせるには、応用が効かない機械でなく生体が必要だったんですよ。鞄とこいつはその脳を使って、生体コンピューターを構築した。こいつの担当がサンドスターの供給。だから、こいつを消せば、アムールトラに力は供給されなくなる」

ともえ:「でも、消すなんて」

イエイヌ:「そうですよ。博士を消すことなんてできません!」

ミミズク:「いや、私はあくまで、このオリジナルから作り出されたものの一つにすぎません。私と、これは無関係なんですよ。だから殺しても何の問題もありません」

イエイヌ:「そうなんですか?」

ミミズク:「それに、さっきの鞄を思い出して下さい。何が違いますか?」

ともえ:「実体を保てて、ない?」

ミミズク:「そう。これはもう、死にかけなんですよ。あと一カ月持つかすら怪しい状況です」

ミミズク:「実際、その兆候は見られました。段々パークの管理ができなくなって、ほぼずっと雪を降らせていたのも、そのせいです」

ともえ:「え?じゃあ、もしこの人を消したら雪も止むの?このずっと続いてた雪が?」

ミミズク:「えぇ。元々この辺りは赤道に近いですからね。システムの名残がしばらく続きますが、そのうち降らなくなるでしょう」

イエイヌ:「それはすごいですね!この忌々しい雪とおさらばできるなんて!」

イエイヌは喜ぶが、ともえは暗い顔をする。

ともえ:「でも、やっぱりフレンズちゃんを消すなんて」

ミミズク:「いや、これはお願いしたいことなんです。助けると思ってお願いします」

ともえ:「どうして消すことが助けになるの?」

ミミズク:「実は私とあれはリンクしてまして。その痛みがこっちにも流れているんです」

ともえ:「痛みが?」

ミミズク:「えぇそうです。だから辛くて辛くて仕方がないんです。お二人にはその苦痛から解放して欲しいんです。お願いします」

ミミズクは頭を下げる。ともえとイエイヌは顔を見合わせた後、頷く。

ともえ:「わかりました。引き受けます」

ミミズクが顔をあげる。

ミミズク:「じゃあ、二人でこいつにとどめを刺して下さい。その方がそいつの為でもありますから」

イエイヌ:「わかりました!」

ミミズク:「じゃあ、どうぞ。もう脆くなってますから、イエイヌの野生解放の一撃で、終わります」

ともえがイエイヌをちらりと見る。イエイヌは自信満々に頷いて前に出る。

イエイヌが、中に肉塊がある円筒ガラスの前で構える。

その様子をともえとワシミミズクが見ている。

ともえ:「ねぇ、ワシミミズクちゃん」

イエイヌの身体が金色を帯びていく。

ミミズク:「なんですか?」

ともえ:「あなたの本当の願いは、これを破壊するってことでいいの?」

ミミズク:「いいえ。私の願いは既に叶ってますから」

どこか遠くを見るように円筒ガラスを見るワシミミズクを、ともえは見ている。

ともえ:「・・・そっか」

ともえは、円筒ガラスを壊すイエイヌの方を見る。

イエイヌの輝く爪が走り、円筒ガラスが真っ二つに割れる。中の肉塊も半分になる。

ワシミミズクの身体が薄く消え始める。

イエイヌ:「・・・博士」

ミミズク:「お別れですね、イエイヌ」

イエイヌ:「・・・はい」

ミミズク:「悲しむことはありませんよ。元々消えかけだったのですから」

イエイヌがうつむいている。ワシミミズクは目をつむる。

ワシミミズクの身体がさらに薄くなっていく。その様子を二人は切なそうに見ている。

ワシミミズクの身体が薄くなり、下からゆっくりと消える。足、太もも、腰、胸と消えていく。

そして顔に入り始めた時に、ワシミミズクはともえの方を見る。

ワシミミズク:「そういえば、一つ言い忘れてました」

ともえはワシミミズクを見る。ワシミミズクは口まで消えている。

ミミズク:「確かに、私は願いは叶ったと言いました」

ワシミミズクは鼻まで消えている。

ミミズク:「――でも、願いが一つとは言ってないんですよ」

ともえ:「えっ、それはどういう」

ワシミミズク:「――さぁ、彼女の夢が覚める時間ですよ」

ワシミミズクの目から上までが消え、姿が消失する。

部屋に二人だけが取り残される。

ともえとイエイヌは見つめ合う。

ともえ:「どういう意味なんだろう、イエイヌちゃん」

イエイヌ:「・・・わかりません」

二人の間に沈黙が残る。

イエイヌ:「あっでも、これでもうアムールトラの力はなくなったはずです!これで今度こそ、倒せますね!」

ともえ:「・・・そう、だね」

イエイヌ:「あっ!」

ともえ:「どうしたの?イエイヌちゃん」

イエイヌ:「博士に出口訊くの忘れてました!」

ともえ:「あっ」

イエイヌ:「どうしましょう!これじゃあ、外に出れません。ともえさんは行きの道を覚えてますか?」

ともえ:「・・・うーん」

イエイヌ:「どうしましょう!」

イエイヌが頭を抱えていると、床に緑の光が一つ灯る。

二人がそれに目を向けると、その緑色の光が、ドアの外へと続いていく。

ともえが驚いていると、イエイヌが気づく。

イエイヌ:「わかった!出口ですよ!きっと、博士が私達の為に用意していたんです!博士はよく、こういう不思議なことをしていろんなことを教えてくれてましたから、きっとそうですよ!」

ともえ:「・・・そう、なんだ」

ともえは何かを考えている。

イエイヌ:「どうしました?」

ともえ:「いや、ちょっとね。ワシミミズクちゃんの最後の言葉が気になって」

イエイヌ:「願いとか夢がどうのこうのって話ですか?それも博士にはあるあるですよ。願いが一つしかないとは言ってないが、願いがもう一つあるとも言ってないみたいな。そんな意地悪な言い方をするんですよ博士は。私もそれによく引っ掛かりましたから、今回もきっとそうですよ」

ともえ:「そう、なのかな?」

イエイヌ:「そうですよ!それより、早く出ましょう!早くゴリラ達の無事を確認しないと」

ともえ:「そう、だね」

イエイヌはともえを背負い、緑色の道を走り出す。


 ●



(ED 祝詞兄貴のやつ)


 ●


ともえを背負ったイエイヌが、階段を登っている。階段の先には外からの光が漏れている。

イエイヌは外に出れて嬉しそうだが、ともえはどこか心配気な顔をしている。

階段を駆け上がり、外の光が迫り、その眩しさを抜けて、外に出る。


そして、どこか小高い丘に二人は出て、彼らは目の前の光景を見て、呆然とする。


海の向こうに見える、アードウルフが渡って、キジバト達が帰った隣の島が、サンドスターを散らし、消えかかっているからである。











…………………………………………………………………………


――そう。これは私が覗いた異世界のけものフレンズ。


ここでジャパリパークの秘話が明かされ、一期のかばんとサーバルの旅が、実はかつての約束を叶えたものだと知った人々は、号泣したそうです。

それと探偵が呆気なく退場して、残念がってる人もいました。



――この十話の時、たつき監督はどうだったかって?


・・・・・。


この話がちょうど放映される日――集中治療室に入ったそうです。



…………………………………………………………………………


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