第6話 『ひとりのきょうかい(前編)』


 登場人物

ともえ(ヒト)

イエイヌ


カリフォルニアアシカ

バンドウイルカ(長いのでアシカとイルカに)


リョコウバト

キジバト

カワラバト

アフリカジュズカケバト(長いのでジュズカケ)

シラコバト

 他多数の鳩


オオセンザンコウ

オオアルマジロ

(※長いので、オオの部分は基本省略)


アムールトラ



(作者コメント:私は漫喫でないと書けないのだけど、コロナもあって漫喫に書きに行けないし、時間かかりました。すみません。漫喫行けないので次も時間かかると思います。後編は七月までに何とかしたいです)

(それと今ヒトであるともえと敵対してるセンザンコウが、コロナ発生源疑惑で人類の敵になってるとか妙な縁を感じました)




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場面:どこかの西洋城のような場所の屋上


ヒト型のシルエット(キジバト)が空中に浮いている。

その視点から、遠くにある城の屋上が見える。

急激にその視点が落下し、滑空して斜めに落ちていく中、屋上にキラリとしたものが見える。

それを確認すると、影は捻るように体を横に滑らせる。

元いた位置を衝撃波が走り、キジバトの落とした羽が八つ裂きにされる。


アシカはこちらに向かう鳥のフレンズをスコープに写し、手元にある繋がれた狙撃銃を、左右に調整しながら何度も撃つ。

キジバトは丸を描き、下に落ち、横に捻るを繰り返し、中々当たらない。

アシカは舌打ちをしてから手元の銃を床に捨て、マシンガンに切り替える。

線を描くようにして迫る空気弾の道が、更なるスピードで横に傾く鳥へと迫る。そしてその頭の羽に掠り、相手は下に落ちていく。

アシカ:「くそ、もう使わされたか」

手元にあるマシンガンを捨て、再び狙撃銃を今度は台の上に載せて、後ろへと円を描くように強引に持っていく。

車輪のロックを踏んで固定した後、スコープを覗くようにして、次の二羽のフレンズに向け、引き金を引く。


星明りの中、頭の羽で宙に浮いてるリョコウバトが高い所からその様子を見てる。

二羽のフレンズは、片方が避けるが、もう片方が当たったのか、落ちてしまう。

それを見たもう片方が、より早いスピードで真っすぐ向かうが、それも落とされてしまう。

キジバト:「まったく、あいつは本当に怒りやすい」

宙に立つリョコウバトの後ろに、キジバトが並ぶ。

リョコウバト:「仲間思いなのはいいことですが、指示に従えないというのは困りものですね」

キジバト:「ええ」

リョコウバトは冷たい目で振り向く。

リョコウバト:「それはあなたもですよ、キジバト。先にあなたが出て厄介なマシンガンを早く使わせる作戦は、今度の最重要作戦で使う予定だったはず。どうして先に出たのですか」

キジバト:「それは」

リョコウバト:「強いあなたが先に出て銃を消耗させれば、出力が下がり、後に飛ぶ連中から怪我人が出ないと考えたのでしょうが、それが最終的な勝利を台無しにするとは考えなかったのですか?」

キジバトは無言でいる。

リョコウバト:「まぁいいでしょう。代わりにさっきほぼ全員に物量を指示しました。これで彼らの底がわかるはずです」

キジバトは目を見開く。

キジバト:「彼らの中には怪我人がいるんですよ!」

リョコウバトは冷たい目で見返す。

リョコウバト:「それが何か。我々に無駄飯を食わせる余裕はないんですよ。わかったら観測を続けなさい、キジバト」

キジバト:「(怒りを溜めながら)はい」

キジバトは歯を食いしばり、一礼して飛んで行く。


大量に飛んでくる鳥型フレンズ目掛け、肩に太い線を背負ったアシカが大型二丁拳銃で狙う。

アシカ「あああああぁ」

衝撃波に当たり、城の外へと吹き飛び、落ちていくフレンズ達。

アシカ「出てけ!ここから出てけ!絶対に来るな!」

銃を撃ち終わり、アシカが膝をつく。肩からズレた太線と銃が床に音を立てる。

アシカ:「はぁはぁはぁ」

アシカの後ろ。塀の向こうからやってきた鳥のフレンズが塀に乗っかる瞬間、アシカは懐から小さな拳銃を出して撃ち、相手は落ちていく。

アシカは、はぁはぁと息切れをしている。

遠くからはばたく音がして、アシカはよろよろと立ち上がる。

多くの鳥のフレンズが飛び去る所を、後ろから睨みつける。

今撃った小さな銃を、先頭にいるリョコウバトにふらふらと、標準を合わせる。

標準が合い、引き金を引く。

カチリとだけ音が鳴って、そのまま鳥たちは飛んで行く。

アシカは後ろへと振り返る。

床に散らばったあらゆる銃と太い線。その先は金属製の大きな箱へと続いている。

アシカは、大きく顔を歪める。




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(OP 祝兄貴作成の『足跡』)(※変更点:カルガモとロバのシーン→木のタイル誰もいない部屋でうちひしがれるアシカ。パンダとレッサーパンダ→椅子に座り、手を組み頭を俯かせるイエイヌ)


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場面:どこかの雪降る林の中


センザンコウが、鱗から紙を取り出す。

紙を強く眺めて鱗へと戻す。目の前の切り株の雪を落とし、懐から地図と赤ペンを取り出す。

叩きつけるように地図を切り株に広げた後で、あちこちに目を走らせながら、様々な箇所に赤ペンで丸を付ける。

センザンコウがペンを置き、ふぅと溜息をつく。

アルマジロ:「センちゃん。もしかしてそれが目的地の入口候補?ちょっと多すぎない?」

センザンコウ:「えぇ。どうやらこのやり方では、これ以上絞り切ることができないようです」

アルマジロ:「えっ。じゃあ全部当たるの?結構かかるよ」

センザンコウ:「何を言ってるんですか。今までの道のりを思えば、どれかが確実に答えであるだけ、ましでしょう」

うへぇとアルマジロがうんざりした顔を後ろでしている。

センザンコウ:「しかし探偵として、総当たりはスマートではないのも確か」

センザンコウは上を向く。

センザンコウ:「……あれを使うか」

アルマジロ:「えっ何々。何かあるの?それ使おうよ。それあればすぐに答えが出るんでしょ」

センザンコウはポケットから懐中時計を取り出し、表示を眺め、しまう。

センザンコウ:「いえ、あれは今すぐ使えるものではありません。ちょっと条件が厳しいですから、おそらく後ひと月くらいしないと使えないでしょう」

アルマジロ:「えぇ!それ、意味ないじゃん。そんだけあれば赤ペンのとこ、大抵周れるじゃん」

センザンコウ:「そうですね。あまり意味はないでしょう。しかし私の最後の戦いの前に、決着を付けなければならない相手がいますから。そっちの意味では大事ですよ」

アルマジロ:「それって、もしかして!」

センザンコウ:「えぇ」

センザンコウは地図を見下ろす。

センザンコウ:「彼らは今、ここに向かってるはずです」


地図には西洋の城のような絵に、『カイユウカン』と書いてある。



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場面:城のような建物の、正面玄関


ともえ:「すみませーん。すみませーん」

イエイヌ:「やっぱり声掛けても出ませんよ。今までが特別だったんです。他に行きましょう」

ともえ:「んー。でももうちょっと待ちたいかなぁ、あたしは。だって困ってるフレンズちゃんがいるはずだもん」

イエイヌは溜息を吐く。

ともえ:「ごめんくださーい。誰かいませんかー」

イエイヌは呼びかけるともえの後姿を見ていると、背の二倍はある木の扉の下だけが、模様になっていることに気づく。

イエイヌ:「ふーん。変わった扉ですね」

ともえ:「何か言った?イエイヌちゃん」

イエイヌ:「なんでもないですよ。他に行こうと言っただけです」

ともえは頬を膨らませる。

ともえ:「嫌だよ!開けてもらえるまで、あたしは絶対ここを離れないんだから!」


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場面:雪が降っている城の扉の前


薄汚れて、ぼろぼろなイエイヌが必死に扉を叩いている。

イエイヌ:「開けて下さい!開けて下さい!せめて何か食べ物を!少しでも、ともえさんに分けて下さい!」

イエイヌは自分の手元を見る。

そこには身体に雪が被さった、凍えたともえがいる。

ともえの目は閉じていて、息も荒い。

イエイヌ:「くそ。私がもっと早く連れ出していれば」

イエイヌは扉を睨み、また叩き出す。


雪がまた強くなる。

敷かれた布の上で、ともえは荒い息をしている。イエイヌは扉にすがりつくようにしている。

イエイヌの呼吸は荒く、手や体や服は泥に汚れ、叩いていた拳を扉へと押し付けている。

俯き、地面の雪を見ていたイエイヌは扉の模様が変なことに気づく。その模様は深さも幅もバラバラで、凹んだ後もある。

イエイヌは自身の爪がある手をじっと見る。扉の跡を見る。また手を見る。

イエイヌ:「(呆然したように)ここは……これだけされても、扉を開けてこなかったんですか」

イエイヌはともえの方を見る。

そこは雪が積もって、息が絶え絶えになっているともえがいる。

イエイヌ:「うわぁぁぁあああぁ」

イエイヌは扉を叩きまくる。凹み、爪で傷がつき、土汚れが扉にかかっても、それでもびくともしない扉がある。

イエイヌは目を金色に光らせて、さらに叩くペースを上げる。


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雪からかばうように、ともえに倒れ掛かっているイエイヌがいる。

その耳が、誰かの声を聴いて動く。イエイヌの眼が片方だけ開く。

???「また、誰か倒れたか」

???「どうします?助けましょうか?」

???「いや、こちらにももう食糧はない。かわいそうだが、諦めるしかない」

???「くそ、あの連中め!あいつらが食糧を独占しなければ、こんなことには!」

???「それも今度で終わらせる。あとひと月の辛抱だ」

???「はい。次の新月の日には、必ず」

イエイヌの眼が閉じられる。


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場面:辺り一面真っ黒な中に、ともえが一人寝転がっている。夢の中


???:「起きて!起きて!」

ともえ:「なに?あたしは眠いんだから寝かせてよ」

???:「だから、起きて!今寝たら、あなたは死んじゃうの」

ともえ:「え、あたし死んじゃうの?」

ともえが起きあがる。

そこには、頭にヒレをつけたフレンズがいた。

ともえ:「あれ?カンザシフウチョウちゃんや、カタカケフウチョウちゃんじゃない?」

???:「違うわ。でも、ここは全てと繋がってるから、本当はどのフレンズも来られる場所なのよ。みんなはそのやり方がわからないだけ」

ともえ:「? よくわからないよ。それにあなたは誰?」

???:「わたし?わたしは、バンドウイルカ」

ともえ:「バンドウイルカちゃん?それがどうしてここに?」

イルカ:「えぇ。私はあなたに依頼があるの」

ともえ:「依頼?」

イルカ:「そう。私からの依頼。困ったフレンズを助けて欲しいというお願いなの」

ともえは、顔を輝かせる。

ともえ:「それは、誰?」

イルカ:「カリフォルニアアシカちゃん。あの子は今、このお城の中で一人ぼっちで暮らしてるの。あなた達には、あの子を助けて欲しいの」

ともえ:「わかった!あたし頑張るよ!」

ともえは何かに気づいて、落ち込む。

イルカ:「どうかしたの?」

ともえの身体が消えかかっている。

ともえ:「あたし達は今、寒くてお腹が減って消えそうなの。それにこの建物に入る方法もわからないし、どうやってその子を助けたらいいかわからない」

ともえが膝を抱え、さらに消えそうになる。

イルカがしゃがみ、ともえと目線を合わせる。

イルカ:「大丈夫。私が入り方を教えてあげる。それに目覚めたら二人とも動けるようになるから大丈夫」

ともえ:「どうやって?」

イルカ:「この場所と全てのフレンズは繋がってるの。だから、私があなた達に力を分けることもできるの」

イルカは消えかかった、ともえの身体を抱きしめる。

すると二人の身体が輝き始める。

イルカ:「だから起きて。私の友達をどうか助けてあげて」


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場面:雪降る城の前。


ともえは目を開く。

目の前には雪が降り続けている。



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場面:暗い部屋。


アシカは立ったまま、木で封じられた窓を見ている。

アシカは窓の近くに目を向ける。

虹色に輝く球体を入れた箱が、机の上に置いてある。

それを見たアシカが顔を歪める。

ドアが開く音がしたので、驚いて振り返る。

イエイヌと肩を支えられたともえが、そこに立っている。

アシカ:「どうして。どうやってあなた達はここに入ったの!」

イエイヌ:「あなたの友達のバンドウイルカさんに呼ばれたんですよ、カリフォルニアアシカさん」

ともえは疲れながらも、笑みを浮かべる


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建物の外では雪が降っている。

三人が部屋の中にいる。

アシカ:「嘘」

ともえ:「嘘じゃないよ」

アシカ:「嘘です」

イエイヌ:「現にここに入っているんですけど」

アシカ:「それはここへの入り口を見つけただけです。元々知っていたのかも知れない」

イエイヌは鼻で笑う。

イエイヌ:「そんなのがわかってたら、入口の前で消えかけたりしませんよ」

アシカはイエイヌを睨みつける。

ともえはアシカをじっと見ている。

ともえ:「もしかして、それが嘘だと言える根拠があるの?」

アシカは舌打ちをする。

アシカ:「そんなのはありません。あったとしても教えるつもりはありません。出てって下さい」

ともえはイエイヌと顔を見合わせる。

イエイヌは何か思い出した顔をして、ともえに頷く。ともえも頷き返す。

アシカ:「なんなんですか?」

イエイヌは不敵に笑う。

イエイヌ:「本当に追い出してもいいんですか?私達は大事な情報を持っていますのに」

アシカ:「大事な情報?」

ともえ:「ここを襲う計画があるということだよ」

イエイヌ:「あっ、ともえさん。せっかく交渉に使おうと思ったのに」

ともえ:「えっ。あ、ごめんね。でも、こういうのはあたし、早く言った方が良いと思うから」

イエイヌ:「もう」

アシカは真顔で二人を見てる。

アシカ:「それだけですか?それなら知ってますので、帰って下さい」

ともえ:「えっ」

イエイヌ:「いや、まだ情報はありますよ。それが今度の新月らしいってことです。さっき話してるのを聞きました」

ともえ:「イエイヌちゃんだって言ってるじゃない」

イエイヌ:「あっ」

その様子をアシカが冷たく見つめる。

アシカ:「そうですか」

アシカは閉じられた窓の横に立つ。その向こうにある空を見るような視線をする。

アシカ:「それが私の、命の期限ってことですね」

イエイヌ:「えっ、戦わないんですか?」

アシカ:「武器がもう使えないんです。私一人では彼らに対抗できる力を持っていませんから、これで終わりです」

ともえ:「なら、仲直りすればいいと思う。持っている食糧をあげて」

アシカ:「それも無理です」

イエイヌ:「この期に及んで食糧を渡したくないんですか?」

アシカ:「いえ、そうではありません。私は相当恨まれています。多くの鳥たちを消してますから、彼らは私を許してくれはしないでしょう」

イエイヌ:「なら、逃げるというのは?」

アシカ:「この島のどこに逃げ場所があるというんですか?鳥たちの目を逃れられる場所は、どこにもないですよ」

イエイヌは腕を組んで、唸ってる。

イエイヌが隣を見ると、ともえが目を瞑ってマフラーを弄っている。

イエイヌ:「ともえさん?」

ともえは目を開くと、バッグの中に手を入れて、中から『身の回り百科辞典』を取り出す。

机の上に置き、パラパラめくる。二匹がともえに近づく。

ともえがとあるページで止め、指を差す。

ともえ:「これ!これをやろうよ!」

アシカとイエイヌが顔を近づける。

ともえ:「アシカショーだよ!フレンズちゃん達に許してもらえるように、おもてなしをするの!これ、やろうよ!」


そこには、浮き輪を頭から被ったアシカの絵が描いてあった。


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場面:城の近くにある、所々崩れて瓦礫が転がってるショーのステージ


ともえ:「カリフォルニアアシカちゃん!おはよう!」

アシカはともえのまぶしい笑顔から目を逸らす。

ともえ:「おはよう!」

アシカはそちらを見ない。

ともえ:「まぁいいかな。じゃあ、ショーの練習をやるよ!」

アシカ:「ちょっと待って」

アシカ:「やれと言われても、私なんかが、そんなことできるわけないじゃない。私はずっと銃を撃つことしかできなかった。フレンズを消すことしかできなかった。そんなやつが、皆を笑わせることなんてできるわけないじゃない」

俯くアシカをともえは見ている。

ともえは後ろの方へと振り向く。

ともえ:「イエイヌちゃん!」

遠くから大きなボールが、アシカに向かって飛んでくる。

ともえ:「アシカちゃん!」

アシカが顔を上げるとボールが飛んできている。

ともえ:「受け止めて!」

アシカは移動して頭でそれを受け止めると、そのボールが後ろへと飛んでいった。

アシカは落ち込む。

ともえ:「すごい!すごい!」

アシカは驚いて顔を上げる。

ともえ:「見た!イエイヌちゃん!今上手く身体を動かして、頭に当てることができだよ!いきなりで、あれできる!」

速足で近くに来ていたイエイヌが答える。

イエイヌ:「私には無理ですね。私のフリスビーだって、昔何カ月もやってようやくですからね。最初は走ることさえままならなかったんですよ」

ともえ:「そうだね。たぶん本能なのかな。ボールの勢いを殺そうとした動きも入っていたし、これならすぐに覚えられそうだよ」

二人がアシカに嬉しそうな顔を向ける。

ともえ:「うん?どうしたの?」

アシカ:「(照れたように)……なんでも、ないです」


アシカは顔を逸らした。


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場面:回想


アシカがボールを頭に載せて、バランスを取っている。イエイヌが拍手をしている。ともえが腕組みしている。

ともえが本を大量に読んでいる。頭をがしがししながら、ノートにアシカのパフォーマンスの絵が描いてある。紅茶を入れたイエイヌがそこに入っていき、ともえは笑顔になる。そんな様子をアシカが覗いて見てる。

ノートを見ながらともえはアシカに指示を出す。それに合わせてボールを載せてポーズを取るがボールを落とす。アシカは落ち込む。ボールを拾うアシカにともえが尋ねる。アシカが答えたらノートの絵を消す。そのことにアシカは驚く。ともえは別の絵を描く(頭にボールを乗せながら身体を両手のみで支え、脚を斜めに伸ばすポーズ)。それをアシカがきっちり決める。ともえが褒めて、アシカは嬉しそうにしている。

暖かい食事をイエイヌが差し出す。ともえが受け取る一方で、アシカはそれを持って他の場所へ行こうとする。声をかけようとするイエイヌをともえは笑って止める。アシカが暗い部屋の壁に寄りかかり、そのスープをすする。目を閉じて満足そうな息を吐く。アシカが机に目を向ける。そこには虹色に輝く球が入った箱がある。


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場面:海岸


木船からリュックを背負ったイエイヌが降りて、近くにオールを置く。

イエイヌ:「隣の島に来るのは、これが初めてですね」

雪が積もる森の向こうに、雪山が見えている。

イエイヌ:「さて、話し合いはどうなるでしょうか」

イエイヌは乗ってきた木船へと振り返る。

それをイエイヌはじっと見ている。


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場面:城の部屋


ともえのいる部屋で、イエイヌが床にどしりと座る。

椅子に座っていたともえが来て、隣にちょこんと座る。

イエイヌ:「あー、ダメでした」

ともえ:「やっぱりそう?鳥のフレンズちゃん達、来てくれなそう?」

イエイヌ:「まったくこちらの話を聞いてくれません。何かの罠だと思われました」

ともえ:「うーん。無理もないかな。今まで戦ってたんだし。襲われなかっただけ、まだましかも」

イエイヌ:「ですよね」

ともえ:「うん。それでもね」

ともえは立ち上がる。

ともえ:「私はやるよ。バンドウイルカちゃんに頼まれたんだからね」

机に戻り、ノートと大量の資料に向かい合うともえを見て、イエイヌは笑う。

イエイヌ:「そうですね。私も合間を縫って、また彼らと話してきますよ」


扉の向こうにアシカがいて、そこから歩き去る。


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場面:外は雪降る洞窟の中


薄汚れ老いたシラコバトが、枯草の上で寝ている。

キジバトがその前で正座をしている。

キジバト:「シラコバト様。私はどうすればいいのでしょう」

キジバト:「我々はあなたが求めた理想に、かつての穏やかな日々のように、分け合うことを皆に要求してきました」

キジバト:「それで助かった命も、戦って失った命もそこにはありました。そこに後悔はありません。それ自体は問題ではないのです」

キジバト:「あのアシカ達が今、向こうから分け合いたいと言ってきてるのです」

キジバト:「勿論罠かも知れません。それならそれでいいでしょう。私は命をかけて戦うだけのことですから、悩むことはありません」

キジバト:「だけどそれがもし本当だったら?本当に分け合う気なのだとしたら?私はそれを素直に勝利と喜べるでしょうか?」

キジバト:「私は」

キジバトは手を強く握る。

キジバト:「相手を消さなければ、気が済まないと思っているんです」

キジバト:「死んでいった仲間を思えば、消えていく瞬間に、手を握り看取ってきた日々を思えば、彼らを許せません」

キジバト:「しかしそれは、あなたの理想から程遠いものです。あなたの理想は、フレンズ同士消し合い奪い合う日々に疲れたあなたが、ようやく見つけた素晴らしい教えだと思ってもいるのです」

キジバト:「それを、この私が、チームジャスティスの副リーダーである私が、壊してしまうのはおかしいのではないでしょうか?私はここを去るべきではないでしょうか?」

キジバトは頭を下げる。

キジバト:「教えてください師匠。私は一体どうするべきなのでしょうか」

シラコバトはゆっくりと目を開き、キジバトを見る。

シラコバトは一つ頷く。

シラコバト:「あなたの、好きなようにしなさい」

キジバト:「(困惑したように)師匠?それはいったいどういう?」

キジバトが顔をあげた時、目の前の枯草ではサンドスターが煌めいていた。

キジバト:「……師匠」


入口脇に、リョコウバトが立っている。



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場面:食事の部屋へと向かう通路。


疲れたアシカが、壁に手をつけながら、よろよろと歩く。

扉を開く。

ともえ・イエイヌ:「「お誕生日おめでとう!」」

アシカは目を瞬かせる。

目の前には笑顔の二人と、ジャパリメイトのバリエーション料理が乗っかったテーブルがある。

アシカは無言で突っ立ったままでいる。

その様子にともえは不安になる。

ともえ:「あれっ。この時期に大量にフレンズちゃんが生まれたとイエイヌちゃん言ってたから、てっきりアシカちゃんもそうなのかなと思ったけど、違った?」

イエイヌ:「だから言ったんですよ。確かにたくさん生まれましたけど、それ以降に生まれたフレンズだっていないわけではないんですから。きっとアシカさんはそっちなんですよ」

ともえ:「でも、イエイヌちゃんだって今に間違いないと言ってたじゃない」

イエイヌ:「それはともえさんが――」

アシカ:「ちょっと待って下さい」

二人がアシカの方に向く。

アシカ:「えぇと、誕生日ってなんですか?」

二人があぁそっちかという顔になる。

ともえ:「誕生日ってのはね。フレンズちゃん達がこの世界に生まれた日のことだよ」

アシカ:「……そうなんだ」

ともえは明るく頷く。

アシカは顔を下に向ける。

アシカ:「で、それでどうして生まれてきたことがめでたいの?生きることって嫌なことばかりじゃない」

ともえとイエイヌは顔を合わせる。

イエイヌ:「でも、悪いことばかりじゃ」

アシカ:「それはね!あなた達はそうなのでしょ!でも私はそうじゃないの!私はずっとずっと辛かったの!私のことを何も知らない癖に、どうして生まれておめでたいと言えるの!」

アシカは扉から出ていく。

ともえとイエイヌは追いかける。

廊下と階段と廊下を抜けて、アシカの部屋に到着する。

ともえが扉を開けると、部屋の隅でアシカは膝を抱えている。

ともえ:「アシカちゃん!」

アシカは暗い目をしたまま、こちらを見ようとしない。

ともえ:「あたしは、アシカちゃんに何があったかは知らない。でも」

アシカは暗い目をしている。

ともえ:「アシカちゃんが辛い思いをしたというのなら、あたしはそれを知りたいと思う」

アシカは暗い目をしている。

ともえ:「だから話して」

アシカは暗い目をしたまま、こちらを見る。

ともえは真剣な瞳で、目を合わせる。

アシカは暗い目をしたまま、こちらを見る。

ともえは真剣な瞳で、目を合わせる。

アシカは下に目を逸らし、ポケットを探る。

アシカは箱を取り出して、開ける。

虹色に輝く球が、二人の前に見せられる。

ともえ:「それは、何?」

アシカ:「イルカさんが残してくれた特別なサンドスターです。能力を極めると、その機能をサンドスターに移すことができると言っていました」

イエイヌは、ともえを手で止める。

イエイヌ:「で、それでともえさんに何をしようというのですか?」

アシカは疲れたように笑う。

すると球の虹色の輝きが増していく。

ともえ:「これは、何!」

イエイヌ:「一体何をするんですか!」

アシカ:「大丈夫です。危害はありません。これはイルカさんの強く伝えるという力を形にしたものなんです。だからこれを使えば、自分の話したいことを相手に伝えられるそうです」

アシカは疲れた笑みを続ける。

アシカ:「あなたは私のことを知りたいんですよね。だったら見てきてください、私の全てを。そして私を知ったら」

虹の輝きが全てを覆っていく。


アシカ:「私のことを、見捨てて下さいね」



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場面:木の上。雪が降る


リョコウバトが木のてっぺんに立っている。

リョコウバトが懐からトランシーバーのような機械を出す。

リョコウバト:「何の用ですか、探偵の方々」

センザンコウ:「固い挨拶ですね。もうちょっと仲良くしていただけないでしょうか」

リョコウバト:「あなたが私達にしでかしたことを、私が忘れるとでも?」

センザンコウ:「その割には、まだこの機械を持ってるじゃないですか?本当は私と仲良くしたいのでは?」

リョコウバト:「あなたが死にたくなった時に、呼んでいただけるようにですよ」

センザンコウ:「ははは。あなたは面白いなぁ」

リョコウバト:「用がないのでしたら、失礼します。私達にも用事がありますので」

センザンコウ:「あぁ。アシカのもてなしに呼ばれてる件ですね」

リョコウバト:「……どこで、それをお聞きに?」

センザンコウ:「私は探偵ですよ?それくらいは予測がつきますとも」

リョコウバト:「ふん。話がわかっているのならば結構です。私達はこれで」

センザンコウ:「――行けばいいと思いますよ」

リョコウバト:「……これは、あなた方の差金ですか?」

センザンコウ:「いいえ。しかし、私達の戦いでもあります」

リョコウバトは無言でいる。

センザンコウ:「ご心配なく。彼らは食糧を本気で渡すつもりです。そこでごめんなさいのショーをするのも本当です。だから行くべきだと思いますよ。どうせ、食糧はほとんどないんでしょう?」

リョコウバトは舌打ちをする。

リョコウバト:「……罠を仕掛けるのはあなたの方ですか?」

センザンコウ:「えぇ。しかしあなた達は眼中にはありません。私の相手はヒトの子供です」

リョコウバト:「ふん」


場面:パークのどこか


センザンコウ:「ありゃ。切られちゃいましたか。嫌われましたねぇ」

センザンコウ:「ですが、あなた方が眼中にないのは、本当に本当ですよ」

センザンコウは口を歪めて笑った。



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場面:カリフォルニアアシカの回想。


枯れた林の中、雪が降っている。

イルカ:「ね。大丈夫。歩ける?」

手を繋がれたアシカは、俯きながらも無言で頷く。

イルカは儚い笑みを浮かべる。

イルカ:「じゃ、行こっか。あともうちょっとだからね」

前を向き、歩き始めたイルカの後頭部から、サンドスターの欠片が液体のように零れるのが見える。

アシカはそれを見たくなくて、足元の雪原を見ながら歩く。


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その洞窟には、たくさんのフレンズがいる。


入口は雪でふさがれていて、みんな膝を抱えて座っている。

その入り口部分の僅かが崩れて、ジャパリメイトの袋が三個放り込まれる。そこに皆がのろのろと群がる。入口はまた雪でふさがれる。

それを口にできなかったフレンズは、俯いて、消えていく。

消えた所にあるサンドスターも、他の皆がのろのろと口に入れていく。

床に何もなくなった頃、また皆は膝を抱える。

フレンズが一匹減り、また減り、また減り、減っていく。

それに伴い、アシカは痩せて、目はぎらぎらと光っていく。


入口の雪が大きく崩れて、そこから二匹の影が姿を現す。


ハクトウワシ:「まさか、私達のチームでこんなことが起きているなんてね」

ハクトウワシ:「はぁ。こんなことばっかりで、どうして正義を名乗れる――ん、あなたどうしたの?」

もう片方の影がよろよろと、アシカへと近づく。

その影はアシカの手前で膝を崩して、手をつく。

イルカ:「もういや。こんなのなの。どうしてこんなことばかりなの」

イルカは涙をこぼす。

イルカ:「たくさん食糧を見つけたのに、どうして私は誰も救えないの」

ハクトウワシ:「バンドウイルカ」

イルカ:「来ないで!」

アシカはびくりと反応する。

見上げたイルカが痛ましそうな顔をする。

イルカ:「違うわ。あなたに言ったわけじゃないの。私があなたにそんなこと言うわけないじゃない」

ハクトウワシが一歩、雪を踏みしめる。

イルカ:「だから、来ないで!」

イルカは目の前にいるアシカを抱きしめる。

イルカ:「もう大丈夫だからね。あなたには私が、ご飯をいっぱい食べさせてあげるからね」

ハクトウワシは目を見開く。

ハクトウワシ:「それは困る!私達は他のフレンズに食糧を届けなくてはならない。それが私達の最後の正義なんだ!もし君がそれを認めないというのなら、私は君と対立しなくてはいけなくなる。どうか考え直し――」

イルカ:「うるさいわ!」

イルカはもっと強く、アシカを抱きしめる。

イルカ:「私はもう、あなた達とは行けない。誰も守れないならせめて、この子だけでも守る」

イルカが身体を放し、アシカの顔に手を添え、目線を合わせようとした時、アシカの目は閉じて、身体は力を失った。


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アシカが目を覚ますと、巨大な岩の下の、縦横深く掘られた土の中にいる。

外は雪が降っている。

アシカが視線を変えると、隣の床でイルカが寝ている。

イルカの横には、幾つものジャパリメイトの袋がある。

その中の一本が、丸々残っている。

それをアシカが見ると、アシカの手はイルカの、その首の方へと向かう。

イルカが目を覚ます。イルカは笑みを浮かべる。

イルカ:「おはよう。よく眠れた?」

アシカはその手を地へと下ろし、顔を横に逸らす。

イルカ:「良かった。ちゃんと飲み込めてたんだ」

イルカが口を手で拭うと、端から小さく固まったジャパリメイトの欠片が落ちる。

アシカは土に落ちた、その欠片を眺めている。


 ●


アシカとイルカは林の中を駆けている。イルカはジャパリメイトの袋をたくさん抱えている。

ジュズカケが追いかけてくる。

ジュズカケ:「ははは。早くその食糧を寄こせ。お前らは良い点数稼ぎになるんだからな」

イルカとアシカは走っている。

目の前にある木を何度も避け、根を飛び越え、走っていく。

アシカ:「あっ」

雪に足を取られて、アシカが転ぶ。

その音に、イルカが振り返る。

イルカ:「アシカちゃん!?」

ジュズカケの足が、アシカの頭の上に置かれている。

ジュズカケ:「おい。こいつを助けたいのなら。わかるよな?」

アシカが必死な顔で、イルカを見る。

イルカは首を横に振る。

イルカは二匹へと近づき、抱えていた大量のジャパリメイトの袋を地面に投げ出す。

イルカ:「ほら。好きなだけ持っていきなさい。だから、アシカちゃんを早く放して」

ジュズカケは鼻を鳴らす。

ジュズカケ:「おい! とっとと来い!」

上から、カワラバトがやってくる。

カワラバト:「え~と。到着しました~」

ジュズカケ:「んなもん。見ればわかるだろ! とっととそこの食糧を持っていくんだ!」

カワラバトはちらりと、アシカとイルカを見る。

カワラバト:「でも~」

ジュズカケ:「うるさい!早くしろ!」

カワラバトはうなだれる。

カワラバト:「ごめんなさいね~」

カワラバトは足元にある、ジャパリメイトの袋を拾い始める。

それを見てから、ジュズカケはアシカの背中を蹴飛ばす。アシカはうめく。

イルカ:「アシカちゃん!?」

イルカはジュズカケを睨む。

ジュズカケ:「おお!なんだ?その目は」

ジュズカケはイルカへと近づき、頬を叩く。イルカは倒れる。

ジュズカケは倒れたイルカに近づき、イルカの懐の中に手を入れる。

イルカ:「あっ、やめ」

ジュズカケは懐からジャパリメイトの袋を二つ取り出し、イルカを睨みつける。

ジュズカケ:「全部出せと言ったよな?」

ジュズカケはイルカの首元を掴んで持ち上げ、頬を叩く。

倒れるイルカを笑いながら、カワラバトを見る。

ジュズカケ:「おい!遅ぇぞ」

カワラバト:「ごめんなさい~」

カワラバトは最後の一つを拾う。

カワラバト:「終わりました~」

ジュズカケ:「ふん」

二羽が去ろうとする前に、ジュズカケはアシカの背をただ蹴る。

アシカがうめく。

二羽がそこを飛び立つ。


アシカとイルカが残される。

アシカはうめきながら、立ち上がり、イルカに近づく。

イルカは叩かれて倒れた姿勢のまま、うなだれている。

イルカ:「ごめんねごめんね。ごめんね、アシカちゃん」

アシカは自身の手を強く握りしめる。


 ●


イルカとアシカは逃げるようにして、林を走っている。

急に道の先がなくなり、斜面を二人が転がっていく。

転がった先に、高い壁の西洋城がある。


イルカとアシカがとある部屋の中に入る。


床と壁と天井、空間全てに大量のサンドスターが舞う中、深く帽子を被ったセンザンコウが、部屋の中央の椅子に座っている。

部屋の惨状を見て、二匹は怯える。

センザンコウが振り返る。

二匹はがたがた震えだす。

センザンコウは真顔で立ち上がり、じろじろと嘗め回すように二匹を見る。

二匹はさらに震える。

アシカが何か言おうとする前に。

センザンコウ:「……ふん。君なら使えるかも知れないな」

センザンコウはさらに二匹に近づく。イルカはアシカを守るように抱きしめる。

そんな二人を見て、センザンコウは口の端を吊り上げる。

センザンコウ:「この場所を、君達にあげようじゃないか」


 ●


場所:城の中。廊下や部屋。二人は追いかけっこをしてる。


イルカ:「あはは。あはは」

アシカ:「もう。なんで私がこんなことを」

イルカ:「だって、ようやくのんびりできるんだもん。この日々を楽しまないと損だよ」

イルカは可憐にほほ笑む。

アシカは照れたようにそっぽを向く。

そんな反応を見て、イルカはまた笑う。


突然、イルカが上の方を見上げる。


イルカ:「あぁ。来たわ」

アシカが無表情になる。

イルカ:「じゃあ。行きましょう」


 ●


場面:城の屋上。大きな金属タンクに繋がれた複数の銃


イルカが金属タンクの扉から入ろうとしている。

イルカ:「じゃあ、行こう」

アシカ:「うん」

アシカが猟銃を取る。

構えた先に、大量の鳥が現れる。

アシカは恨みのこもった顔で、狙いを定める。

アシカ:「もうあなた達の好き勝手にはさせない。イルカさんは、絶対に私が守る」


銃声が、四発響く。


 ●


林の中に、城周りの雪原に、鳥のフレンズ達が大量に倒れている。


やつれたイルカが金属タンクの中に入ろうとするのを、アシカが止めようとしている。

イルカ:「何をしてるの!早くしないと、またあいつらが来ちゃうのよ!」

アシカ:「でも、これ以上これを使ったら!イルカさんが!イルカさんが!」

イルカ:「でも、使わなきゃ今すぐ消えてしまうのよ。アシカちゃんはそれでいいの?」

アシカは首を横に振る。

イルカ:「ダメ。やらなきゃダメなの。もっと続けるの。この楽しい日々をもっと続けたいの」

アシカ:「でも、いつまで戦わなきゃいけないの?数えきれないくらい月が沈んで、数えきれないくらい戦いがあったんだよ。いつになったら、この戦いは終わるの?」

イルカがアシカの目を見る。

イルカ:「永遠に終わらないわ。この暮らしを守るには、ずっと戦い続けなきゃいけないの」

アシカは俯く。

アシカ:「私には、撃てないよ」

イルカ:「撃って!そうじゃないと消えちゃうの!」

アシカ:「でも撃ったら、イルカさんが」

イルカ:「大丈夫。だって」

イルカが発する言葉の口の動きが、ノイズで消える。


銃声が、四発響く。


 ●


金属の箱の隣で、サンドスターに消えていく鳥のフレンズを後ろに、アシカは両手をつき、うなだれていた。


アシカ:「(呟くように)……イルカさん」


金属の扉は、もう開かれなかった。


 ●


三日月の夜に、アシカは銃を構えて撃つ。

早朝に、アシカは銃を構えて撃つ。

強く雪が降る中に、アシカは銃を構えて撃つ。


また夜に、雪が降っている。

座って銃を抱いたまま、ポケットから、ジャパリメイトの袋を出し、口で封をちぎる。貪るように飲み込むように食べて、袋を捨てる。袋はその辺りに大量に放られている。

アシカは空を見る。雪が降っている。灰色と白の雲に覆われている。

広い屋上に、アシカの姿はあまりに小さい。


 ●


アシカは城の中を歩いている。

目を向ける先に、こちらに笑顔を向けているイルカの面影が残っている。

部屋へと進むごとに、その笑顔が陰り、やつれて、無理した顔へとなっていく。

アシカの歩は早まり、走るようになって、自分の部屋の中へと走るように飛び込み、ドアを叩きつけるように閉める。

アシカはドアに寄りかかり、ずり落ちるように尻をつく。

アシカ:「どうして、私は気づけなかったんだろう」

辛そうな笑顔をするイルカがいくつも目に浮かぶ。そしてそれを見た瞬間、顔を横に反らしていた自分を思い出す。

アシカ:「そうか。私は」

アシカは顔を手で覆う。

アシカ:「何も、見たくなかったんだ」


 ●


???「(遠くから)ください!食糧を。どうか、食糧を」

玄関の扉を叩く音がして、ドアに寄りかかり、顔を腕に埋めていたアシカはびくりと目を覚ます。

???「(遠くから)助けて。私を。そうだ。食べられない子がたくさんいるんです」

玄関の扉を叩く音がして、アシカは腕に、もっと顔を埋める。

???「(遠くから)本当です!信じてください!あなたの、助けが必要なんです!」

玄関の扉を叩く音がして、埋めた顔を苛立ったように揺さぶる

???「(遠くから)聞こえてるんですよね!それでもフレンズなんですか!自分達だけ助かってそれでいいと思ってるんですか!」

玄関の扉の音がもっと高くなる。


アシカは洞窟に閉じ込められ、飢えていた時を思い出す。

アシカは林の中、ジュズカケに追われていた時を思い出す。

アシカは大量の鳥のフレンズが、城へと飛んでくる姿を思い出す。

アシカは雪の中、ごめんねと何度も謝るイルカの姿を思い出す。


アシカは、立ち上がる。


こみ上げそうな笑いを抑えながら、急ぐように、二つ隣の部屋に入り、力を込めて、外への扉を開ける。そこのベランダにアシカは勢いよく出る。

アシカ:「あははは。死ね死ね!今更なんだよ!私を苦しめたお前たちが、今更なんなんだよ!お前たちはくれたのかよ。私達に食糧の一つも恵んでくれたのかよ!だから私がお前たちにあげなくても、それは当然のことだろ!私は助かる。最後まで生き残ってやる。それでいいと思ってるんだよ!私は!だから食糧ないお前らは死ねよ。死ね死ね死ね!」

相手のうなりは高くなり、扉の音がもっと激しくなる。

アシカはそれを聞いて、ただただ哄笑する。


雪が降っている。


ベランダの床に倒れていたアシカが、音がしないことに気づいて、這いながら元の部屋に戻る。

横になったまま頭を抱え、暗い部屋のあちこちへと目を血走らせ、部屋の石畳の、欠けた一点で意味もなく視線が止まる。

アシカ:「……カハハ」

アシカ:「ざまぁみろ。ざまぁみろ。ざまぁみろ。ざまぁみろ」


 ●


暗い部屋の中央で、アシカが大の字になっている。

アシカが部屋の上の、隅に目をやる。

その隅からゆっくりと視線を動かし、線を辿っていく。

辿り着いたら、また同じように線を戻っていく。

視線を適当にどこかにやることを繰り返す。滅茶苦茶に首を動かしてみる。疲れて、木で閉じられた窓の方に目をやる。

見たくなくて、ごろりと反対に転がる。

アシカの身体が、中身のあるジャパリメイトの袋を潰す。

気怠い動作でそれを取り、開き、粉々になったものをのろのろと取って、口に入れる。むせる。

なくなったら、目をつむり、小さく唸る。

いつの間にか、玄関の扉を叩く音がしていたことに気づき、びくりと反応する。

高まるノックの音の中で、身体を動かせず、アシカはただ痙攣をしている。


アシカ:「(かすれた声で)……助けて、イルカさん」



 ●


ともえ:「――はっ」

ともえは目を覚ます。

目の前には、膝を抱えたアシカがこちらを見てる。

イエイヌは俯いて表情が見えない。

ともえは、アシカの瞳に呑まれそうになる。

ともえは、何か言わなければと、口を開く。

ともえは、口の渇きを感じ、飲み込む。

また口を開く。

ともえ:「えーと。あのね」

ともえ:「アシカちゃんが体験したのは、とても大変だったと思うの」

ともえ:「辛くて、苦しくて、いっぱい傷ついて、傷つけてしまったと思うの」

ともえ:「でもね。それでもね」

ともえ:「あなたのしたことが罪だったとしても、あたしは――」

イエイヌが強く反応し、立ち上がる。

ともえは驚いて、イエイヌの姿を見つめる。

イエイヌは見たことのない怖い顔で、ともえを見下ろす。


イエイヌ:「ともえさん……ちょっと黙っててくれませんか」



 ●


(ED 祝詞兄貴のやつ)



 ●


場面:青く暗い海の中。岩や海藻や魚が泳いでいる。


何もない。

小さな点が、近づいてくる。

だんだんと大きくなっていくそれは。

泳いでいる、アムールトラである。






(後編に続く)

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