主人公は子供だが、実際には七割くらいは大人の話

どこかでよく聞く話をうまく組み合わせてまとめていると思う。今時の子はリフトカットなんかするんだろうかと思ったりもするが、思い出してみるとおじさんがあの年頃の頃は世紀末の空気もあり、リストバンドにフリフリのやつをつけている人には結構な確率でリストカットをしている人がいた。つまり今でもいるにはいるんだろう。

社会の中で脱落していく人に、現代の人の目は異常に冷たい。以前はかまってちゃんなんて言葉も流行ったもんだが、今となってはかまってちゃんをかまってあげる人自体がほぼいなくなってしまっている。その人たちは多分、ある程度ライ麦畑で捕まえることに成功していたのだろう。今の話がこんなに突然急転直下になるのは、つまりキャッチャー・イン・ザ・ライが世の中からほとんど消えてしまったからなのだと思う。

主人公は今時なのでもちろんキャッチャーではない。それでも最後の瞬間に見捨てることはしなかった。線引きが遅きに失している感はすごいが、だがこれは現実だと思う。だからこそこの話をよくある話、の組み合わせだと感じるだろう。世界の片隅で起こっていることを、僕らは自分から意識してパージし、切り離して生きている今の時代。このような奇跡はまさにこれからどんどん起こりにくくなっていくのだろう。何せ話がここまでいかないとこちらに現実味がないのだから。それくらい、お互いのことをよくみない時代でもあるのだ。

見捨てた方が見捨てられた方から見捨てられるのは当たり前のことだが、見捨てる方はそのことを大抵知らない。

そうした現実としっかり向き合って書いている、軽いガワを被った大変重たい作品である。君が望む永遠、とかを思い出す。時代が一周したのだろうね。

キャラの属性について、その現実に触れたいと思う人に、強くお勧めする。ビッチとかメンヘラとか間男とかヤリチンとか、こう言う笑いに一旦昇華した属性を掘り下げる作品、あるようで実はない。書く方も疲れるからね。

力作です。

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