息がつまる

心臓が掴まれる、または握りつぶされる
そんな表現が一番お似合いなような、そう出ないような小説。どうしてもそれだけじゃ不十分なような気がするから、やはり平凡に「息がつまる」と表現する方がかえって単純かつ明瞭なものかもしれない。
ここで誤解して欲しくないのが、決して息がつまるというものが不快なものではないということだ。息がつまるというにもどことなくニュアンスが違うような気もするが、まっさらな海の中で息も叶わぬままに沈んで行くような、そんな感覚。苦しいような、ゆったりと堕ちて行く感覚が心地いいような。
それを可能にしているのが、圧倒的な分量に込められた限りなく純粋に近い、実物大の、見当違いにもほどがあるかもしれないが、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」の冒頭部分に似たような、末恐ろしいほどの美麗な、高画質、高密度な風景と相反するように、ドロドロに煮詰まった負の感情なのだろう。
体の中に溜まった膿を吐き出すような独白。独白は独白のままではただの愚痴話になる。何か、そこから掬い上げなければいけない大切なものを昇華して、それを文章にしていかなければいけない。
それがこの作品の筆者にとってのこの結末であり、痛烈な叫びだったのだろう。
私たちは生き、逝きなければならない。

是非ともこの作品は読んでいただきたい。きっとあなたも心臓を掴まれる。

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