肌に張り付くほど粘っこい、乾燥して仕舞えばどうしても不快で剥がしてしまいたくなる、炭酸が抜けて冷蔵庫のことなど忘れてしまったラムネの瓶をそっと、深く蓋をするような作品だったと思う。
甘い幻想がいつまでも新鮮であるとは限らない。時が経てば経つほどに劣化し、腐敗していくその理想郷をいつまでも開けっ放しでいられるはずがない。
夏の高い青空と、頭皮にまとわりついてくる汗と、躰を焦がす太陽。じめっぽくて一息に脱ぎ去りたくなるけども、それすらも恋しくなる夏の湿度。その一つ一つに真摯に向き合って、苦悩して苦悩して、書き上げているこの世界観だからこそ、この物語は成立すると言ってもいいと私は思う。
私の住むところではもう夏の匂いがする。だからというわけではないが、私はこの作品が腐るほど好きだ。
本作は、姉と弟、むせ返るような熱気と匂い、道端の干からびた死骸、そして二度と戻れない夏、そう言ったもので構成された小説である。
作中で描かれる"おれ"と"ねえさん"が祖母の田舎で過ごした夏は、灼けつくようで、ベタつくようで、それでいてオアシスじみた幽かな清涼感を感じさせる。まるで夏のイデアをそのまま姉弟のやり取りに投影したかのようだ。
ヒロインである"ねえさん"は活発で、悪戯好きで、少しばかり横暴で……そして、ドキリとするほどに蠱惑的だ。ねえさんの溌剌とした活発さは我々の心に潤いをもたらし、だからこそ、その呼気にわずか含まれる破滅的な香りが、どうしようもなく際立って感じられて堪らない。
イデアとしての夏が好きな人、満開のひまわり畑に白いワンピースを描く人、そして何より姉弟が好きな人はまず読んで間違いがない、暴力的な生と首筋をなぞるような終焉を内包した傑作と言って差し支えないだろう。
読み終えたとき、きっと、あの夏が終わる。