キョンシーの少女は何の夢を見る?

キョンシー! それは死者となった人間が、夜中に動きまわるという中国に伝わる妖怪の一種! 30年ぐらい前には映画にもなって、死後硬直の影響で、両腕をピンと伸ばして直立してピョンピョン跳ね回る姿が当時の少年少女に絶大なインパクトを与えた! 知らない人はお父さんお母さんに聞いてみよう! さて、本作はそんなキョンシーにサイバーパンクなSF要素を組み合わせた異色の一作である。

物語の始まりとなるのは九龍城のごとく荒れ果てた団地。すっかりスラムと化したこの場所を訪れるのは、黒い雨合羽を着た猫背の女と額にお札を張った棺を担いだ殭屍(キョンシー)の少女。この冒頭のビジュアルが凄くカッコよくて、作品全体の世界観を見事に表現しているのだ。

そうして一度物語に引き込まれてしまうと、その後は活劇あり、ハッキングあり、殭屍のメカニズムのSF的解説あり、謎の新興宗教あり、物語論あり、歪な師弟愛ありと、伊藤計劃風カタストロフィーありと数々のアイデアを怒涛の勢いで叩きつけてくる。しかもその気になれば十分長編にもできそうなのに、この内容をギュッと4話に凝縮しているからたまらない。

分量は短いのでさっと読めてしまうのだが、読み終わってしまうとこの世界の物語をもっと読んでみたくなること請け合いだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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