静かな純愛

『海の向こう側』読了。
ある島に来た海の向こうを見つめる青年に恋する少女とのやりとりのお話。
静かで特別何かが起こるというのではないのに、美しい風景であったり、純粋な思いあったりと、細やかな文章で魅了されました。

丹羽さんの作品すべてで言えるのですが、色使いが素敵。『そこでは、空と海の境が見えた。空には朱や紫の光で染まった雲が流れており、海もまた光を弾いて橙に輝いている』という一文で、作者が描こうとしている世界を一瞬にしてまざまざと見せつけるだけでなく、その中に私を引き込んでしまう。そのパワーのある一文が書けるのがすごいと思います。

真夏の青い空と穏やかな空気と光に包まれた島に対して、(おそらく)植民地支配している帝国の闇が、対象的に作品の最後に陰影を与えてくれます。それが作品に深みを与え、読後感を満たしてくれるように思いました。

美しい世界をありがとうございました。

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