第6話 8/1 二杯目 黒田丸夫商店
「とらたん。そろそろ夜ご飯に行かない?今日はビュッフェなんでしょ。食べ過ぎなきゃね。」華音は虎之助に言う。
「久しぶりのビュッフェだろ?芸能生活だと体重の管理などがうるさそうだな。」
「とらたん。なんか口調が変わったけど気のせい?」
「お前に合う男にならないとな。いつまでも老人ぶっていられねぇよ。」
「わぁ。とらたんかっこいい。」
エレベーターに乗り,8階にあるビュッフェ会場に向かう。
すると見慣れた顔の男がいた。
「青山じゃねぇか。どうしたんだ?」虎之助は声をかける。
「隠岐先生ではありませんか。実は今日から1週間,このホテル風雲閣に泊まってびわの市の政策について考えるのでございます。勿論本庁に出勤しますが。」
「観光客の目線になって考えるということか。良い心がけだと思うぞ。」
青山はびわの市の市長を務める男であり,隠岐の後任者である。
「それより失礼ながら,隠岐先生は先日亡くなられたはずではありませんか。」
「何を言っておる。フェイクニュースじゃそれは。ガハハハッ。」笑って見せたが通用しないようだ。
「確かに告別式にも参列させていただいた気がしますが。」
「やめぇや。俺を疑ってどうする。さぁ,酒でも飲もうじゃないか。えっ?」虎之助は元気さで丸め込もうとした。なんでここまで死んだことになっているのだろうか。
「青山市長。副島華音です。」華音は挨拶をする。
「知っています。びわの市の観光大使を務めていた方ですね。」
「はい。そうですよ。」
びわの市長に就任したのは35歳の時である。彼は若者代表としてのみならず,片耳難聴者であることを公言して「住みやすい世の中」の実現を掲げていた。それから3年が経過していたのである。
「では失礼するぞ。青山殿。」
「先生もゆっくりなさって下さい。」
「あぁ,そうするよ。」
「今日のメインは中華のようだな。辛いように思えるけど,大丈夫かな。」
「私は辛いの得意なので大丈夫よ。」
「それなら良かった。」
そうして,麻婆豆腐や回鍋肉などの定番中華料理を皿に盛りながら,ご飯や麺類を食べ進めていった。
「それでは本日の大イベント,タピオカアーティストの黒田丸夫氏によるアーティスティックタピオカを披露します!」アナウンスが鳴り響いた。
「黒田丸夫?誰だか知っているか。」
「最近流行りのタピオカの魔術師ですよ。」
黒田丸夫がステージに現れた。
「日本ノ皆サン。コンバンワ。黒田丸夫です。今日はテーバンですが,ウロンミルクティのタピオカで行きたいと思います。ではどなたか一名ご協力頂けませんか。この箱の中に入って頂きたい。」
次の瞬間には華音が手を挙げていた。
「おい,本当に大丈夫か?ワシはあんたがおらんとどないすればええんや。」
「心配しすぎよ。とらたん。」
「そこのお嬢さん。早かったわね。さぁ,入りなさい。今夜も素晴らしいイリュージョンをあなたに!3,2,1,GO!」
彼女が怪しげなボックスに入った後悲鳴が聞こえるとタピオカがいっぱい落ちてきた。
「アァ。あの男,華音をタピオカに変えちまったのかよ。飲むしかねぇな。俺の大事な形見。」
一通りタピオカの放出が終わった後,ウロンミルクティとタピオカを合わせて飲んだ。
「アイツがタヒなないように,タピろうと思ったのにタピオカになってタヒんでしまうなんて。」
公衆の面前で泣くわけにもいかず,気持ちを落ち着かせながらタピオカミルクティーを飲む。ヤング世代を牽引してきた華音をこんなところで失うなんて。
「どうしてだよ。俺の大事な華音が。」そのモチモチとした一粒一粒に彼女が成し得た栄光の数々が詰まっているような気がした。
「許せねぇ。黒田ァ!俺の大事な華音を殺しやがって。」血圧が上がる。年寄りには悪いことだ。
ステージを見ると黒田丸夫と例の箱は消えていた。
「隠岐先生,青山摩紘の私設秘書,田宮雄也です。いくらなんでも人をタピオカに変える技術はありません。今,市長が追ってます。共に参りましょう。」
「済まんかったのぉ。ワシも今夜はバーニングじゃ。」
二人は副島華音の行方を追う。
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