タヒぬなよ。僕とタピる旅に出よう。
恋住花乃
第1話 絶望で見つけた希望。
「何だかもう疲れたなぁ。」気晴らしにドライブで海岸沿いまで来たけど,真逆で死にたくなってきてしまった。
中学卒業後,高校に通いながら地元のアイドルグループに所属して芸能活動を始めた。清楚系女子として最近ブームが到来していた。
一方でこのままでいいのか。事務所の問題や対人関係でもう辛くなっていた。本来の自分は,テレビで見るような姿じゃない。そのままの自分とテレビの自分のギャップに悩んでいたのである。
「はぁ,もうダメだな。私,どうにかなりそう。」華音は海に身を投げようとした。その時である。白い腕に掴まれたのだった。
「何をしている!あっ,あなたは副島さんじゃないか。」ホワイトスーツを身にまとう老人,隠岐虎之助である。
「市長?どうしたんですか。市長は死んだはずではありませんか。」
隠岐虎之助は,ここ「びわの市」で市長を務めていた男である。
確かに6/14に亡くなり,葬式に参列したはずである。6/17に告別式が行われたのであった。
「いや,お前の見たのは予知夢というやつじゃ。わしはまだ死んどらん。しかし,あと余命1ヶ月ということらしい。最後の動画を撮ろうと思ってな。ところで今身を投げようとしてたな。」
「市長。今の私はもうあの頃の,観光大使の時とは違うんです。一体どうすればいいのか。私には分かりません。仕事の電話はかかってくるし,事務所の圧力は強いし,その度に調子を悪くしてしまって。電話が怖くなっているんです。」
華音の事務所のバックにはいわゆる暴力団がついているらしい。逃げないように監視されているということが大体分かった。
「なるほどな。悪い事務所や。タケノコゲートとか言ったな。その事務所は。」
「はい。タケノコゲートで間違いありません。」
「次電話かかってきたら,ワシに貸してくれ。ワシが副島さんをお守りする。」
「でもそんなことしたらタダじゃすみませんよ。」
「気にするな。最後の漢気を見せるだけじゃ。それより,久しぶりに会ったからのぉ。タピオカドリンクとかどうじゃ?まぁ,タピるってやつじゃな。」
「タピオカかぁ。私,しばらく飲んでないなぁ。市長おごってくれるんですか。」
「勿論じゃ。でも,ワシはYouTuberだ。編集や出演も頼むよ。お前を困らせる輩はワシが何とかする。1ヶ月にもなる長旅の予定じゃ。一度自宅に寄ろう。」
その時だった。一本の電話がかかってきたのである。
「もしもし,副島さん。いい加減出社して下さい。さもなければどうなるか分かってますよね?」
聞き覚えのある声だ。頭に血が上る。
「こちらは代理人だ。副島さんは自殺した。お前らに追い詰められてな。あんな女性を死に追いやるなんてよっぽど酷い会社やな。」
「あなたは誰ですか?」
「会社だったらそっちから名乗る方が先やろが!俺は分かっている。お前は鷹島遼一だってことをな。」
「そんなに怒っている人物で副島に近づく男。お前はびわの市長,隠岐虎之助だな。」
「左様だ。」
「良いだろう。お前を追い詰めてやる。まさか,24年ぶりに関わるとはな。」
「相変わらず反省してねぇのか。腐った男だ。お前のせいでどれほど傷ついたと思ってんだ!追い詰めんのは俺だ!覚悟しろ。」思わず声を荒げてしまった。鷹島には嫌な思い出しかなかった。
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