海が広いように世界は広く、きみが美しいように世界も美しい。

この小説を新幹線の車内で一気に読んだ。
品川から読みはじめて、他の方の短編を読んで(よかった)、タバコを吸いにいって、トイレに入ったりしながら、読んだ。
まもなく目的地到着だ。

移動のスピードと物語のスピードがばっちり噛み合って、それはとても有意義で最高の読書体験だった。

よい小説ってなんだろう?
面白い小説とは?
そんなことを思いながら読んだ気がする。
この作品は「よい」「面白い」。
作者の全身全霊がこめられている。別に全身全霊こめなくても面白い小説はいくらだってあるでしょ、ということをいう人を僕は信用しない。ぜひ読ませていただきたい。でも「面白い」って個人の嗜好かもしれないからなー、だいたいの小説の寸評ってそこでこじれちゃうんだな。

人生とはなんぞや、なんて書くとでかい話っぽいけどシンプルに、
「生きているわたしは世界をどう見ているか」
だ。もっと難しい? いや、小説を書けば、それにちょっとだけ触れることができる。小説を読めば、価値観を揺さぶってくれる。だってみんな微妙に違うはずなんだもん。違うわたしたちが違う人の考えに触れたとき、世界を問い直すんだ。

この人の小説は舐めてない。読者も世界も自分も。あるいはこの人が舐めくさったときは徹底的に真剣に舐めてかかるだろう。
自分を飾らない。飾ることが一番読者に対して不誠実だとよくわかっているんだ。
そういう人でなくては、そういう作品でなくては最後海にたどり着けない。

作家はきっと、美しい海へ読者を運ぶために、小説を書くのだ。

全部が綺麗事にしか見えない、使い古したメガネをかけている者に、新調の機会を与える小説です。

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