肉体もメンタルもすり切り寸前な風俗嬢たちの殺人群像劇!

ある夏の夜に風俗店で一人のボーイが殺された。容疑者は事件の直後に店から姿を消した風俗嬢4人と1人のボーイ。彼女たちの中で本当にボーイを殺したのか、そしてなぜ他の4人は真犯人をかばって失踪したのか。

本作で重要なのは誰が殺したのか、どうやって殺したのかといった部分ではない。何より注目すべきは事件に至るまでの主人公たちの心理である。

本作は群像劇形式になっておりスポットが当たる登場人物が順番に代わっていく。それぞれ性格が全然違うのに、揃って心に薄暗いものを抱え、しかもそれを隠すのが皆上手い。おかげで互いのことを思っているはずなのに思いは平気ですれ違い、真実はますます混迷の渦へ。

また、バックヤードでの何気ない会話、店に来る嫌な客、空間の匂いや汚れなどの細かい部分など、作品を構成する細かい部分の一つ一つにリアリティーがあり、作者の観察力と描写力の高さを感じられる。おかげでだいぶ生々しい内容になっているのだが、そこにスピード感のある文体が組み合わされることで、読み終わった時にはどこか爽やかささえ感じられるのだからものすごい作品だ。


(「夏の物語」4選/文=柿崎 憲)

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