出来ることなら私は、この物語を読みたくはありませんでした。

でも、読み終えることが出来てとても幸せだと感じています。

言葉一つ一つが色衝いていて、短い中に鏤められたいくつもの詩篇が繋がっていくような、心地よいひと時でした。

病のために死に惹かれていく、生を厭っていくグリュテの緩やかな推移と、
その進行に絡めて紡がれていくセルフィオとの淡い旅程は落陽から夜明けに至る白む空とその下で照り返す海原を眺めているようで、風に揺れて波立つ水面のように心が躍り、弾み、そして浮き沈みを繰り返しました。

散ることを知っても咲かない花の無いように。
そうですね、終わりが来るとわかっていても、読み進めずにはいられませんでした。

こんなに美しい物語があると、今では知ることが出来て幸せです。

ありがとうございました。

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