丁寧な筆致でしっかりと書き込まれた情景や、人々の息吹が感じられるような街の描写に引き込まれました。本当にこの国が存在しているかのようです。
中世の絵巻物を思わせる雰囲気が全体に流れていて、そこで紡ぎ出される物語は、まるで重厚で緻密なタピストリーの世界が、鮮やかな色を持って生き生きと動き出すような感覚です。
「時を刻む」という概念とは。この人間にとっての大きなテーマを中心に、時空を超えた出会いやひとつの国の存亡の危機など、色んな要素が盛り込まれていて、まさに王道のファンタジー。
文学とエンターテイメントが融合した、どの世代でも楽しめる物語です。
シレア国の王女、アウロラ。
彼女は民と積極的に交わり、そして城の人々を心配させるお転婆な姫。
ある時、時を告げ続けて来たこの国でたった一つの時計が針を止めて……
同じ頃、もう一人の少女がシレアに迷い込む。
彼女の訪れは、偶然か。必然か。
国の人々に愛される少女と、迷い人の少女。
彼女らが紡ぐのは、新たな時を紡ぐための支度か。終わりへのカウントダウンか。
それを知る者は、時を刻む時計以外にないのだろう。
わたしとしては、シードゥスというキャラクターが好きです。彼の不器用な優しさが……
あなたもきっと、好きなキャラクターが生まれるのではないでしょうか?
是非、ハイファンタジー好きにかかわらず、読んでみて下さい(*^^*)
ある日止まってしまった時計、迷い込んだ少女。
王女アウロラ、少女ウェスペル、同じ顔。同じだけと違う二人。
その邂逅の答えはラストシーンにて。
この作品の最大の特徴は描写のきれいさです。色を感じるほどに鮮やかで、濃い。いや細かいともいうべきか。数行どころではなく、十行くらい積み重なっている箇所があります。
話の展開もていねいです。ある程度の段階を踏んで情報が開示されます。
街の様子が事細かに描かれていたのも印象的です。国の状況、地理に関しても。世界観が細かく設定されているのでしょう。地に足のついた物語だと感じました。
二転三転する後半のストーリーも、見どころの一つです。起承転結の転が鮮やかでした。アレはビビる。
そして最大の盛り上がりの後の余韻には、ため息が出ました。
人の手を借りずに動く、鐘楼の時計。古より伝わるこの時計台は、シレア国の時を刻む唯一無二の存在でした。止まることのない、由緒正しい時計の描写は圧巻です。ロマンがあります。そんな時計台が止まるという事件が起きてしまうから大変です。兄王子の不在の中、王女アウロラが奔走します。
シレア国の命運を握るのはアウロラだけではなく、異世界から迷い込んでしまった少女ウェスペル。時空を越えた二人の少女の出会いが、意味するものとは。
ハイ・ファンタジーならではの読みごたえをお楽しみください。城下町の光景や空の描写は、ウェスペルとともにシレア国へ迷い込んだ感覚になります。あまりの美しさに、ほうっと溜息をこぼしてしまうでしょう。
兄編の「天空の標」と合わせて読まれることをおすすめします。
その国にただ一つの時計が止まってしまった。時を同じくして、その国の姫様と瓜二つの顔を持つ女の子が迷い込んできた──。
ここから始まるこの物語は、作者さまの巧みな世界の描写と、生き生きとしたキャラクタたちによって「本格ファンタジー」として深い味わいを持つ物語になっています。
これからどうなるのかというハラハラ感、この二人はどうなっちゃうのというドキドキ感、「時間」の謎はいかにというワクワク感。どれをとっても素晴らしい仕上がりです。
読書を始めたころの懐かしい気持ち、これが胸に込み上げてくる。読書は楽しい! と再認識させてくれるような素晴らしい読書体験を、ぜひ味わって頂きたい! オススメの一作です!