もしかしたらあなたや私の明日を変える物語

小説を書いている人なら誰もが大きく共感するのではないだろうか。
新人作家・広川を潰してしまった章の抱える良心の呵責に、私は、希望を感じた。

世の中に、たとえ少ない割合であっても、こんな風に考えて、そして行動する人がいるならば、世の中という場所を信じようと強く思える。
もしかしたらそれは、作中同様世知辛い世の中では青臭い考えと笑われるのかもしれない。もちろんビジネスは大切だし、そのために切り捨てざるを得ないことは、まま、ある。だけど、本当にそうだろうか。そうであってよいのだろうか。
読み進めながら、姿を消した広川を探し続ける章の姿に、己のあり方を何度も問うた。

作品の魅力は熱き編集者の姿に留まらない。本や出版をめぐる様々な仕事が作者ならではの鮮やかさでいきいきと描き出される。それに紹介される本のどれも魅力的なこと。書店や図書館に走りたくなる。

作品と現実をゆるやかにつなげてくれるこれらの本は、この空の下に、沈黙しながら研鑽を積む広川や、その広川を探す章がいるのだと思わせてもくれる。
いるのだ、きっと。
幾人もの広川や、章が。
そういう世界を、私は生きたい。
そして、彼らのようにありたい。
自分の明日の歩みを変える物語だ。

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