それでも、本にしたいと願った――あきらめなかった彼らの逆転劇の行方は

大手出版社の編集者だった章は、挫折を味わった。
否、挫折を味わわせてしまった、と表現すべきか。
ある若い書き手に作品と時間と誇りを浪費させた。
章自身が見出した感性と才能を否定してしまった。

章は大手出版社を退職し、北海道で暮らし始める。
祖父母が遺したミュゲ書房を継ぎ、書店主として、
また個人出版の編集者として、本と関わっていく。
ミュゲ書房を愛する仲間が章を励まし盛り立てる。

私もウェブ上で小説を公開する書き手であるから、
広川蒼汰に自分を重ね、共感し、同調して読んだ。
よくある話なんだろう。そのくらいわかっている。
だから、その現実へのアンサーが本作なのだろう。

言質を取った。
瘡はさっさと切り捨てた。
仲間がいてくれた。
時をかけてでもあきらめなかった。

小説書きとして、小説を書くことで、闘っている。
危ういくらいの覚悟とプライドがにじみ出る作品。
本を創って読み手へ届ける、という仕事の世界に
誠意と情熱と信頼性とリスペクトがあってほしい。

その他のおすすめレビュー

馳月基矢さんの他のおすすめレビュー354