第10話 密売と私

初心者講習へ向かうモヒカンリーダー・アイアンの行く手を塞ぐように、ボロ布を纏って覆面をしたロングヘアの女が突然現れた。

路地裏から出てきた怪しい女をアイアンは観察する。ボロ布から浮浪者かと思ったが髪はサラサラと光を反射していて、よく見ると不自然だ。

すわワケありであろうか?と思った時、腕を掴まれた。


「おにーサン、こっちくるヨ。」

「え、俺?なに、ちょっ…」


アイアンはそのまま路地裏へと引きずり込まれてしまった。

アイアンはモヒカンである。この街でリーダーとして無軌道行動の教範を示すため、大抵の無軌道は行った。

しかし男女関係に置いては人一倍純情であった。


(え、嘘、嫌だ、もしかして、こうやって俺の純情が?)


そう思いながらもアイアンの心の何処かでは無茶苦茶にされたい。

自分の中にある既成概念を打ち破られる初体験がしたい。

そんな気持ちを抑えきれず、興奮していた。


アイアンはつばを飲み込んだ。ごくり、と大きな音がして女に聞かれたかと思い焦る。

だが女は気にする風でもなく、平然と覆面の上からでも分かるへりくだった笑顔でこう言った。


「密造。毒薬、アルヨ。ヤスイ。」


その時、アイアンの胸は別の何かに高鳴った。



「よし、売れた!」

私は一人、路地裏で覆面を外して喜んだ。

目ぼしい標的がモヒカンリーダーの人しか居なかったからビビったが、やはり売れた。


そう、モヒカンは無軌道に弱い。密造とか密輸とかに弱いのだ。


ルンルン気分で広場へ向かう。そこでは丁度モヒカンリーダー氏が初心者講習の最中だ。


「よし、ではナイフ舐めの見本を見せる!」

「「「ヒャッハー!」」」


みんな昨日のうちにモヒカンに転職できたようだ。


「ナイフは小型の刃物だ!有効な攻撃は限られる!」

「故に相手の大きな動脈や喉や鳩尾等の急所を狙う、もしくは毒などを使用するのが一般的だ!」

「「「ヒャッハー!」」」


ヒャッハーはイエッサーみたいな使うもんじゃないだろ。無軌道であれよ。


「なのでこうやって毒薬を塗り込む!」


あっ私の毒薬が出てきた!ナイフにたっぷりと塗っている!

しかし効果を試していないのであまり期待しないで欲しい。

所詮素人が乾かして磨り潰しただけのトリカブト汁なのだ。


「そして舐める!」

「「「ヒャッハー!?」」」

何で!?


「一流のモヒカンは毒程度ではむきどほをあひゃひほ・・・」

「「「ヒャッハー!!!!」」」


うわ、めっちゃ効いてるな。なかなか良い毒薬が出来ていたらしい。

私はステータスを開いてメモのレシピ欄のドリカブト毒薬に○をつけた。


モヒカンリーダー氏は、そのまま毒をつけてはナイフを舐めることを繰り返して、光の粒になって消えた。

死ぬとああいう処理になるんだなぁ。


今日はこれからどうしよう。

広場の端でそんな事を考える私を、モヒカンリーダーが空の向こうから見守っている気がした…。

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