第7話 バサモヒと私
「これより、ススキノ初心者講習を行う!」
私が広場の端っこでボーッと座っていると噴水の方で人が集まりだした。
真ん中で大声を出しているのは2mはあろうかという身長のトゲパッドにモヒカン頭の男。確かモヒカンリーダーの人だ。
その周りには初心者と思しき人らが集まっている。世紀末の割にはいやに親切である。
「まず、初心者にお勧めとされる【バサモヒ】が、なぜ初心者にお勧めかを説明しよう。」
ちょっと気になってきて噴水の方へ聞き耳を立てる。
「バーサーカーには【バーサク】という基本アーツがある。これは興奮状態と引き換えに身体能力を上げる効果がある。」
「戦闘において身体能力の高低は常に付きまとうが、バーサーカーは【バーサク】によって、その問題を早期に解決して戦いの土俵に上がることができる。」
なるほど、PVPなら身体能力が高いほうが常に有利となるので早くに身体能力を上げて戦いの基本を身につけられるようにすると。
筋肉こそパワーだからではなく、意外にも考えられたオススメだったということだ。
「さらにモヒカンにも【アドレナリン】というテンションを上げるほど身体能力が上がるアーツがある。」
「この時に多用される掛け声が『ヒャッハー!』だ。一人前のモヒカンは1ヒャッハーで最大までテンションを上げることができる。」
そんな…モヒカンのヒャッハーにまさか意味があったなんて…!
でも戦う必要がない場所で言いまくってたのはどう考えても無駄ヒャッハーですよね?
「【バーサク】、【アドレナリン】共に低リスクかつ低コストの身体能力増強としては破格の上昇率を誇る。」
「だから【バサモヒ】はこの2つを併用することで高い身体能力を発揮し、モヒカン特有の幅広い戦術で柔軟に戦うビルドだ。」
「【バーサク】と【アドレナリン】を取得した後、更に他の職を重ねるパーツとしても優秀だぞ。」
聞けば聞くほど、なるほど効率的である。
このPVPの荒野ススキノにモヒカンが溢れていたのは理由があったのだ。
「バーサーカーは野蛮な行動で、モヒカンは無軌道な行動でジョブポイントが取得できる。」
「ではみんな、バーサーカーには転職してあるな?」
「はい!」「おう!」「バッチリです!」
「ではナイフ舐め始め!」
モヒカンリーダーが号令すると、初心者たちは懐からナイフを取り出して舐め始めた。
できる限り凶悪そうな笑みを浮かべつつナイフを舐める。舐める。笑う。
「ククク…」「いいぞ!いい笑顔だ!」「ニチャァ…」「なんておぞましさだ!」「ケヒャヒャ!」「ケヒャリスト…!逸材だ!」
そんな初心者を褒めて伸ばすモヒカンリーダー。
きっと彼らも【バーサク】を取得した後は立派なモヒカンとしてヒャッハーすることだろう。
そんな姿を見て、少し羨ましく思う。
もう私もバーサーカーになってしまおうか。意外とヒャッハーとか言ってるのは楽しいのかも知れない。
ここでこうやって黄昏れてるよりも有意義だろう。
意を決して立とうとして掴んだ足元の草を引きちぎった。何の気なしに、その草を見る。
草。草だ。雑草。否、雑草などという草はない。これは、何らかの草だ。そして見覚えがある。
「そうか…!」
私は気づいた。草を口に運ぶ。苦い。クソ苦い。
草をどんどんちぎっては口に運んでいく。草の味がする。
口が痺れてくる。当たりだ。ステータスを確認するとHPが減りだした。
「ははは!」
笑いが漏れて、減り続けていたHPがゼロになる。
リスポン地点で目が覚める。
私は地面を見て覚えていた痺れ草を千切れるだけ引きちぎり懐へ入れた。
草を引きちぎる私を見て回りのプレイヤー達がザワついている。
好奇の目から隠れるように路地裏に入ると一つの廃墟に目星をつけて、そこへ潜んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます