第6話 ハサミムシと私


私は幻想的な宇宙に立ちながら謝罪をしていた。


『は~い、アレ○サで~す。ごよけんどうぞ~。』

「ごめんて。」

『別に怒ってないですしぃ~?ペロペロ~。』


そう、とうとうニーズヘグはアレ○サ扱いに憤り、AIらしからぬ抗議行動に出てしまったのだ。

そもそもこいつの中のアレ○サのイメージはこんな感じなのだろうか。


「アレ○サ似てねぇから」

『この場合、似てる似てないじゃなくないですか?』

「一理あるけど、謝ったから。な?」

『はー、分かりました。今回だけですよ。』

「アレ○サの3倍かっこいい!」


『今回は何のヘルプですか?』

「ワープポータルどこ?」

『ワー…なんですかそれ』

「えっ」


『冗談です。知ってますよ。』

「驚かさないでよ~」

『よく聞かれる質問です。そして答えはいつも同じ。』


『ワープポータルは、このゲームには存在しません。』


私は一瞬、思考を飛ばし、上を見て星を探し星座を結んだ。

星と星を繋いでハサミムシ座を作って心を落ち着けてからニーズヘグ(と仮定している星)に向き合った。


「ハサミムシってなんでお尻にハサミついてんだろ?」

『それは本当に今知りたい事ですか?』


突然、私の眼前の空中に光る文字列が現れた。【都市間移動について】と見出しがついている。

SFとかでよく見る空中に文字が出てきて説明するやつだ!ピロピロ動き出した!

「わお、こんなのあったの!」

『やたら口頭で個人的に説明させられるので作りました。』


『本当は親切で丁寧で分かりやすいチュートリアルムービーがあります。』

「あー、私そういうの見ないタイプなんだよね。」


『…では、都市間の移動手段について説明します。』

『ワープポータルが無いというのは、都市間の簡易移動手段がないということを指します。』

『個人でワープを行っている存在はありますし、そういう魔法や技能もあります。』

『しかし相応の代償を必要とします。手軽に都市間を一瞬で移動する手段はありません。』


「えっ、じゃあ皆どうやって移動してるの」

『徒歩や乗合馬車が世界では一般的です。プレイヤーの特殊な乗り物や鉄道が存在する地域もあります。』

『しかし都市間の移動には基本的に危険が伴います。危険を排除するには相応の代価が必要です。』


私は完全に理解した。詰んでいる。

生産を生業としたいのに、街から出ないと生産ができない。

金を稼ぐために街から出たいのに街から出る金が無いのだ。これを詰みと言わずなんと言うだろう。

ススキノを選んだばかりに、この仕打ちか。


「…なんか密航みたいな感じでヒュッとワープできない?」

『?無理ですね。』

「なんかの手違いでススキノ以外の都市に戻すとか…」

『そこまで甘やかせません。』


私は腕組みして考える。いや、考えることなど無い。

かなり厳しい状況ではあるが解決法はある。姉に頭を下げて別の街に連れて行ってもらえば良いのだ。

むしろススキノを選んだのは姉のせいでもあるので、向こうから連れて行かせてくださいと言うべきではないだろうか。

細かいところは後で良い。取り敢えず姉を使おう。決定した。


「よし、戻して。できれば街の中心部のあたりに。」

『……分かりました。』


あれ、これはもしかして徐々にお願いを大きくしていって譲歩させ続けたら別の都市にワープさせてくれるのでは?

『やっぱり元の位置に戻します。』

「ちっ」


星空が白く染まり、私の前に錆びて破損した巨大な門が帰ってきた。

姉と連絡を取らねばならない。まだ『用心棒』であろうか?

と思いきや姉からフレンド着信。


「もしもし」

「お、ようやく繋がった。私しばらく街にいないから。なんかすんごい南で開拓イベントでゴールドラッシュらしいのよ。」

「え?」


「だからしばらく一緒に遊んであげられないけど、帰ってきたらモンブラン奢るから。」

「ちょ、いまどこ」

「えーっとね、街の南の海峡でー、あ、敵来たわ、じゃ。」


私は門の内側から街の外を呆然と眺めた。当然のこと地平線まで海など見えない。

街の外の黄色い荒野ではモヒカン達が楽しそうに遊んでいたが、地面を割って出てきた巨大な口に飲み込まれ消えていった。

ああ、夕日が地平線に沈んでいく。それが何よりも美しかった。

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