第5話 山賊と私
ススキノに絶望した私が『用心棒』を後にして、やってきたのはススキノジョブクリスタル管理協同組合だ。
国から派遣されたNPCの人たちがジョブシステムを管理するための建物であるが、一言で言えば、荒れている。
昔は綺麗な建物であったのだろうが、広間には瓦礫が転がり、シャンデリアは落ち、壁は落書きだらけだ。
往時は真っ白であったろう立派な柱は欠けて黄色く変色していた。痛ましい。
「おう、お嬢ちゃん新顔だね。」
私に声をかけてきた髭面の男も一人ぼっちでテーブルに直座りだ。マジか。
「えっとここ、ジョブクリスタルの、そういうところですよね」
「はっはっは!そうだな!公務員にゃとても見えんだろうが、そうとも。」
この有様でまだ国から予算が出ているというのか。信じられない話だ。
「不良公務員さんに悪いんですけどジョブ一覧あります?就く気は無いんですけど。」
「ディスに冷やかしとはお嬢ちゃんも随分なススキノスタイルだね。」
そう言いながらも書面を見せてくれる。
外見はもはや山賊Aだが中身はまだ公務員なのだ。
「うわ、酷い。クリスタルから脳まで中身は全部世紀末かよ。」
「お嬢ちゃんさては可愛らしいのは外面だけだね?」
ジョブの種類はバーサーカーを筆頭に(筆頭なのは初心者にお勧めだかららしい。)
モヒカン(職業だったのか)暴走族、ヒューマンガス等の世紀末系。
武道家、剣闘士、剣士、武術家等の対人系。
神官、火術士、水術士等の魔術系。
魔術系はちょっといいかもと思ったが、生産に関わるものは一つとしてなかった。
私は案の定のススキノスタイルに予測どおりとは言え落胆する。
「はー、もういいわ、山賊に職業紹介してもらうのは無理があったわ。」
「おじさんは山賊じゃないよ?公務員だよ?本気出しちゃうよ?」
山賊Aは書面をパラパラとめくるとふー、とため息をつく。
目を閉じて、開く。次の瞬間には山賊から公務員の顔になった。髭面だが頼りがいがありそうな顔だ。
「…ご希望は」
「生産職ある?」
「ぐへへ、お嬢ちゃん一人で山賊のアジトに何の用だい?」
「公務員としてのプライドが一瞬で折れた。」
山賊Aは悲しそうな髭面になると、斧を置いて語りだした。
「聞いてくれるかい?この街はもう街ではない。インフラの根幹となるべき生産職は何一つ残っていないんだ。」
「…その話長くなる?」
「お嬢ちゃん集中力ゼロだね。」
「どうせ悲哀たっぷりに時代の激変に巻き込まれるNPCの話が聞けるんだろうけど、こっちからしたらゲームだし。」
「清々しい。」
「山賊なら略奪される側に感情移入できないの分かるでしょ。」
「公務員だけどね。」
「あー、街出るかぁ?」
「職員としては止めるべきだけど、個人的感情としては出ていってほしいかな」
「おーおー、嫌われたもんよなぁ、どうなってんだ?」
「心当たりあるでしょ!」
「あーん?ほんとに出てくぞぉ?いいのかぁ?」
「すっと出てけよ!」
「クソな街だから出ていくのは出ていくけど、どうせなら引き止められたい!」
「純粋に性格が悪いな!」
「それが市民様への態度かぁ?公務員ん~~?」
「ええい、帰れ!バーサーカーに強制就職させるぞ!」
とうとう職権を乱用し始めた横暴国家権力!
だが私はバーサーカーだけは死んでも嫌なので退散することにした。
「ちっ、覚えてろよ!」
私は街をひた走り、目抜き通り(廃墟だ)を抜け、その足で街から出ようとして、少し考えて内外の境界の門の前で立ち止まった。
「カモン!!アレ○サ!!」
全天の星空が私を見下ろした。
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