第3話 カフェの私
「お姉ちゃん…何この街…」
私はゲーム内チャットで呼びつけた姉(HN.モチコ)に愚痴る。
まさかこんな世紀末な街でタフボーイさせられるなんて聞いていない。
「えー、いいとこじゃん。」
そんな事を言う姉、モチコの服装は胸部の二つの膨らみをと股間を隠す金属片が体にくっついているだけの完全なるビキニアーマーだ。
身長の割に豊満な肉体を惜しげもなく白日のもとにさらしている。
この街に馴染んでいるとは言えるが、国によってはモザイクもあり得る露出度だ。
これでアバターが現実準拠なのだから恐ろしい。
そりゃ、この服が着たいなら、ここはいい街だ。
「痴女め」
「…脱がなきゃやってられんのよ」
「ま、とりあえず喫茶店はろうか。」
喫茶店!素晴らしい!ススキノの事を誤解していた!
おしゃれな空間で文庫本を読みながら店主がコーヒーを淹れる間の一時…。
ススキノも分かってるじゃないか、そういう所をもっと見せて欲しい。
姉は一つの建物に入った。私は心を完全に閉ざして、ボロボロなスイングドアのバーに姉に続いて入った。
壁には賞金首のポスター、卑猥な落書き、焦げ跡、切り傷、弾痕。
ここがカフェであるなら、この世にある全ての建物はカフェを名乗れるだろう。
「ヒャッハー!コーヒーだぁ!」
「カフェイン満タンだぁ!頼むぜマスター!!」
「テメェ!表出ろ!白黒つけてやるぜぇ!」
「…オゥ」
中では案の定トゲ肩パットを付けたモヒカン達が屯して騒いでおり、私の落胆の声はかき消された。
モヒカン達の異様なアガり方を見るに出てくるのはカフェイン含有のコーヒーではなく、それよりハイになる成分が多量に含まれた脱法コーヒーだろう。
「アメリカン二つ」
「はいよ」
姉は慣れた様子でバーテンにコーヒーを頼む。
アメリカンというのはアメリカンセレブ御用達の特定の白い粉を入れろということに違いない。
私は社会人としてのストレスから性に乱れ人生を踏み外した姉を悲しい目で見ていた。
「何その目は」
「お姉ちゃん…薬物は違法だよ」
「カフェインは合法だよ。そもそもVRだし。」
「だって、あれコーヒーのテンションじゃないでしょ。」
「モヒカンはシラフであれだよ。」
「せめて薬の効果であってほしかった。」
期待せずに口に運んだコーヒーは残念ながらとても美味しいアメリカンだった。
「んでさ」
姉は両腕で谷間を強調するような姿勢になって身を乗り出した。
「どういう感じのでいくの?」
「え?あー。」
どういう感じとは恐らくはそういうことだ。
私としては心の何処かに満更でもない気持ちはあるが、まだ捨てられない。
「やっぱり、あんまり肌は見せたくないかな…?」
「服じゃなくて」
「じゃなくて?」
「プレイスタイル。オーケー?」
姉はセクシーなビキニアーマーを見せつけるように胸を張る
プレイのスタイルとは姉は昼間の喫茶店からとんでもないことを
「変な受け取り方してない?」
「ギリセーフ」
「えっとね、生産職をしようと」
「はぁ?」
姉はかぶせ気味に素っ頓狂な声を上げた。
「生産職って、えっ、ススキノだよここ!」
「え、なに?」
姉が大きな声を上げたせいでモヒカン達がジロジロみてくる。
さっきから姉の下腹部などしか見てなかったのに私の方をジロジロみている。
やめろ、私はへそも尻も出てないぞ。
その中の一人が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、生産職志望かい?」
「えっ、はい、えっ?」
「オヤジ、彼女にコーヒーを…」
「俺も」「俺もだ」
「えっ、なに。」
私の前にコーヒーとモンブランが運ばれてくる。
モンブランもあるのかここは。
「なに。」
「強く生きろよ、嬢ちゃん。」
「頑張れ」「応援してるぞ」「負けんなよ」
哀れんだ目でモヒカン達が語りかけてくる。
「説明して」
「世の中ままならんこともあるけどよ…」
「説明して」
「強く生きてりゃ良いことがるってもんだよ…だからさ」
「え、これ説明ないの?」
「ちゃんと聞きな、モヒカンリーダーのありがたい話だよ」
「リーダーなのこれ」
「俺たちも日々PVPに明け暮れる荒くれだけどよ…」
「えっマジで説明ないの」
「その時拾ってくれたのがよ、今のフリップ…」
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