第12話 ゆるふわと私
夢を見た。
それは幼少期の夢で、他愛もない記憶を気まぐれに再生したような、しかし感触がある夢だった。
私が砂場で、野原で、庭で見たことのない物を見つけて、きっとそれは素晴らしいものだと思って父親か母親のところへ持っていく。
父親や母親はそれを見て「汚いから捨てなさい」と優しく言う。
私はそれを捨てる。すると親は「綺麗になったね」と笑う。私も笑う。
そのうちに私は綺麗なものと汚いものが分かるようになって物を拾うことはなくなった。
私は綺麗になった。
そして世界から素晴らしいはずの物は消えてなくなった。
目を開けると天井。明るい。知らない部屋。新居だ。寝返りをうとうとしたがexzncdw筐体がガッチリと体を包み込んでいる。
やはり当初の予想通り筐体の寝心地は良かった。が、寝返りが打てないので体中バキバキだ。バキバキ。
薄っすらと夢を思い出す。ーーー嫌な夢だった。多分。
起き抜けにシリアルを食べながら、ぼんやりと栗鼠の事を考える。
げっ歯類とは言え奴も野生動物。可愛い外見を持ちながら本質はススキノ・スタイルの戦士なのだ。
栗鼠を恨むことは出来まい。強いて言えばハイキング気分で山へ入った私のミスと言える。
現実世界でもそうなのだ。山にはイノシシもクマも居る。
そりゃあゲームだからペットに出来たりとかのシステムはあるかも知れないが、基本は街が壁と門に囲まれているような世界だ。
何の覚悟もなくハイキングに行くような奴はげっ歯類に殺されて当然と言えるだろう。
私は可愛い動物と優しい仲間たちに囲まれたゆるふわライフを志してきた。
いや、今も志している。十分に。これは挫折ではない。覚悟が決まったのだ。ゆるふわライフへの覚悟が。
バイザーを着けると【デスペナルティ 00:03:14】の文字。後3分か。
昨日は顔を真赤にして即げっ歯類リベンジをしようとしてデスペナ8時間の事実を知った。
ニーズヘグへの質問が減ったので後回しだ。今はげっ歯類に集中しよう。
ふー、と息を吐く。【00:01:41】
デスペナ8時間は流石に長い。これからはできる限り死なないようにしないと。でも一回目は特にそんなこともなかったな…。
恐らくは最初の一回目はセーフとか、そういうのだろうか。
そうなるとモヒカンリーダーはあのボケのために8時間を…?
【ようこそexzncdw onlineへ】
ログインすると、いつもの広場。
寂れた街の荒廃した広場だ。壊れた噴水にドラム缶、ゴミに落書き取り囲む廃墟。
街は寂れているが相変わらず暴徒は盛況。モヒカン達が屯している。
「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」
そこらじゅうで【アドレナリン】の奇声が上がっているが今日はそれほど不快ではない。
私は自分の心境の変化を感じ取った。そう、彼らも世紀末という野生を生きる一匹の栗鼠…。
つまり私がいつか黙らせて『ゆるふわモヒカン』へ更生させる対象に過ぎない。
今のうちに精々叫んでおくが良い。
私はモヒカンを温かい目で見送ると、広場の草花からトリカブトを選んで採取していく。
先んじてまずはあのげっ歯類に万物の霊長の何たるかを知らしめ無くてはならない。
「ふふふふ…」
やるべきことは多い。
毒だけではない、他にも様々な薬品が必要だ。
前は錬金術ギルド跡地しか探索しなかったが、今度は他のギルド跡地も探索すべきだろう。
「イヤーッ!」
その夜また私は色付きの風となり、ススキノを駆け、会釈とかした。
exzncdw Onilne d5d2b8d7b9de @yumekurage0120
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。exzncdw Onilneの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます