第9話 色付きの風と私

ログインすると、此方ではもう深夜だ。

草は程よく乾いてきている。これなら朝には乾くだろう。

だが、乾かしてどうなるのだろう。雰囲気で吊って陰干しをしてみたが、ここからどうするのだろう。

恐らくだが磨り潰したり、水とか油と混ぜたり、煮たり焼いたり湯煎したり?


なんだか料理みたいだ…クッキーにするか。いやトリカブトだぞ?

ヨモギはクッキーにしても良い。だが小麦を買う金もない。


人の役に立つ…そう、ニーズに合った薬品を作る。モノを売るには需要と供給を掴むのが何より大事なのだ。

まずしっかりと薬品を作る。草の汁でも何でも良いから効果のある物をビンに詰めて売るのだ。

そのために!


「イヤーッ!」

私は小雨の降り始めた深夜のススキノを色付きの風となって走る!

暗闇の路地を抜け廃墟の街が私の後ろで風景に変わっていく。


「はっ!?」

開けた広場では普通にモヒカン達が屯していたので適当に会釈しながらやり過ごす。

「草食ってた人だ」とか聞こえたが私は知らない。別の人じゃないですかね?


「イヤーッ!」

広場を抜けたらまた走る。

恥ずかしくなったからとかではない。私は今ニンジャだからだ。

しかしこの雨は僥倖だ、ニンジャに涙は許されぬのだから!


そして辿り着いたのは錬金術師ギルド(跡地)である。

昔は薬や知識を求める人達で溢れていたであろう建物も、今や立派な廃墟。

どこに出したって恥ずかしくない廃墟だ。よっ廃墟名人。


私は足元の瓦礫を避けながら廃墟の中を散策する。

っていうか何で瓦礫落ちてるの?地震あったの?核戦争?

山賊さんの話では過疎化っぽかったけど…謎は尽きない。いや尽きるわPVPの余波だな。


そうなると目ぼしい物品なんかはあまり残っていないだろう。

一階はホールで何もない。そそくさと二階の部屋へお邪魔します。お、フラスコあんじゃーん。すばやく回収。

君たちもここで朽ち果てるよりお姉さんと一緒に行きたいよね?ウン!イキタイ!よし。


その後、廃墟を探索し終えての収穫は【調合セット(古)】と【植物図鑑】だ。

植物図鑑に至っては結構ガッチリ残っていたので嬉しい。


「お、使えそうだ」

私は道端の空き瓶を拾いながら帰路につく。

これに詰めて売ろう。洗えばいいだろう。どうせ買うのはモヒカンなんだし。


今夜の収穫は悪くなかったが、肝心の調合に関する知識は得られそうにもない。

やはりそのへんは残していないのか、口伝か、ツールでなんかしてるかだろう。


私はアジトへ戻ると、草を磨り潰し始めた。

【調合セット(古)】は古いが使える。磨り潰して、水、水?

油はないしなぁ…。これだと濃度が足りない気がする。あ、根っこが濃いとか書いてあったな。


私は朝まで試行錯誤をして薬を作り続けた。

出来上がったのは酒瓶いっぱいに草の汁がトリカブト1本にタンポポ+ヨモギ1本。

トリカブトは用途が分かるが、タンポポとヨモギは何に使えば良いんだろうか。

トリカブトの毒性の強さもイマイチ信用できない。


「うーん。売れないかなぁ。」


いや、こういう時は付加価値をつければいい。

現役女子高生(卒業済み)の手作り毒薬!みたいな。なんか色々ボヤけてるな…。


私は丁度上がってきた朝焼けを眺めながら、怪しい毒薬の捌き方を考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る