自己紹介は大事トマ!

「伝説のトマト魔導師様…こちらを…装備してくだされ…トマ。」

 先ほど熱く語ったトマトがよれよれになりながらも指輪を私に渡してきた

「これは?」

「そちらは『隠蔽の指輪』ですトマ。伝説のトマト魔導師様の装備が発する神聖な輝きを抑える効果がありますトマ。そのままでは私たちの正気が持たぬゆえトマ。」

「わ、わかったわ。」  

 自分たちの正気が持たないってどういうことよ…。とりあえずこれをつければいいのね。輪の大きさ的に中指ぐらいかしら。

「つけたわ。」

「ふぅ。」

 着けたとたんに、ばたんとよれよれトマトが目の前で倒れた。

「えっ?」

 混乱して辺りを見ると、倒れるまではいかないまでも、地面に膝をついたり、息を荒くしているトマト達が大勢いた。なにこれ恐怖なんですけど……。

「トマトマ。伝説のトマト魔導師の装備の輝きのプレッシャーがなくなったトマから、皆緊張がとけたトマ。」

 私が目を白黒させていると、王冠トマトが説明をしてくれた。この装備ってそんな強大なプレッシャーを放っているのか。着ているためか私は全くもってプレッシャーとやらを感じない。ていうかこれ早く脱ぎたいのだけど私がもともと着ていた服ってどこにあるのかしら。


              

ト マ ト ク エ ス ト(^^^”)



「そういえばトマ。自己紹介がまだだったトマね。」

 ぶっ倒れていたトマトが目覚め、他のトマト達も回復した後に王冠トマトが忘れていたとばかりに言ってきた。

「私はこのグレートトマトマキングダムのキングトマトマ109世トマ!!」

 やはり王様であった王冠トマトが胸を張って(るように見えた)名前を名乗った。トマトマしつこいし、109世ってどんだけ続いているのこの王国。

「先ほど『伝説のトマト魔導師の装備』の説明をしたこの者は宰相のトマッピオン377世トマ!私はじぃと呼んでいるトマ!」

「伝説のトマト魔導師様さきほどは御見苦しいところをお見せしてしまい誠に申し訳けございませんトマ。宰相のトマッピオン377世ですトマ。」

 先ほどとは打って変わり落ち着いて挨拶をするトマッピオン。ってか、377世って王様よりか代が続いているし!…頭痛くなってきた。

「伝説のトマト魔導師様のお名前もどうか教えて欲しいトマ!」

「えっ私の名前。」

 キングトマトマが名前を聞いてくる…。

 こんなトマトばかりのところで自分のあの名前など言いたくない!言った瞬間に自分もこいつらみたいな化けトマトになりそうで怖い!

「どうしたトマ?名前を教えて欲しいトマ!」

 キングトマトマが催促してくる。うるさい!そんなマンガキャラみたいなキラキラした目でこっちを見るな!

「あっわかったトマ!異世界の人は私たちとは違った名前と聞くトマ!安心するトマ。この城にいる者に伝説のトマト魔導師様の名前を笑う者はいないトマ!仮にいたら私が城から追い出すトマ!」

「マイキングの言うとおりトマ。そんな奴がいたら私が伝説のトマト魔導師様について実の繊維まで叩き込んでやるトマ!」

 キングトマトマとトマッピオンがそんなことを言ってくる。普通なら有り難い配慮何だろうけど、どちらかというと私の名前はそちら側だ。ますます言いづらくなってしまった。

「もう安心トマ!さぁ、他の皆も今か今かと待ち望んでいるトマ!」

 うるさい!キングトマトマ…ええい、こいつはもうトマトマでいい。こいつに言われて周りで控えているトマト達も目を輝かせ始めているし、はぁ…。

 いやまてよと、ふと思いついた。私の名前は赤茄子だ。みた感じここはヨーロッパとかの文化の気がする。キングとかも英語だし。ならば私の名前がトマトと同じ意味とは気が付かないんじゃないのだろうか。よし、きっと大丈夫。

「私の名前は『赤茄子(あかなす)』よ。」

「……。」

 予想通り知らないのだろう。だけど、この間はなに?

「おお、おお、おお!」

 トマトマがいきなり大声で感嘆の声をあげる。思わず驚く私。

「まさか名前が『トマト』とは!まさしく伝説のトマト魔導師様トマ!」

「はっ!?」

 まさか意味を知っていたの!?

「おおトマト様、私感激いたしましたトマ!」

「さすが伝説のトマト魔導師様トマ!」

「すごいトマ!かっこよいトマ!」

「トマト様!トマト様!」

 周りのトマト達も騒ぎ始めた。それよりも

「いや、確かにトマトという意味ですけど!私の名前は『赤茄子』です!トマトじゃなくて赤茄子と呼んでください。」

 これは譲れない。別に元の世界でトマトと呼ばれることは慣れているが、この世界でトマトな奴らにトマトと呼ばれ続けたら私がおかしくなりそうだ。きっとそのうち語尾に『トマ』をつけ始めてしまうに違いない!

「トマトマ、だから『トマト』というのじゃろう?」

「赤茄子です!」

「トマトじゃろうトマ?」

「あかなす!」

「とまと!」

 こ、こいつ…!

「さっきからどうしたトマ?あっもしかしてイントネーションが違うトマ?」

 イントネーションどころじゃない!

 ここで私はふとある疑惑が思い浮かんだ。

「あのキングトマトマ様。今から私がいうことをそっくりそのまんま返してくれますか?」

「わかったトマ。あと、トマト様は伝説のトマト魔導師様トマ。私のことは様はいらないし、トマトマと呼んでくれて構わないトマ!」

「じゃあ、トマトマさんよろしくお願いしますね。」

 トマトマがうなづく。

「あ、か、な、す」

「と、ま、と」

「…。」

 ガクッと私は頭を垂れた。思った通り彼らは赤茄子をトマトに変換しているのではなくて、初めから赤茄子がトマトと聞こえるみたい…。ていうかこっちは4音言ったのになんで3音に聞こえるの!?

「どうしたトマ!?やっぱりイントネーションが悪いトマ?しっかり発音できるように頑張るトマから許して欲しいトマ!」

「このトマッピオンもしっかりと言えるよう頑張りますぞトマ!」

「僕も頑張るトマ!」

「待っててくださいトマ!」

 トマト達が見当はずれなことを言って励ましてくれる。

「…大丈夫です。もうトマトで。はぁ」

 私はこの世界でトマトになってしまった。

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