冒険の準備トマ!

「説明はこれで以上トマ!」

 自己紹介が終わった後、トマトマが私に魔法の使い方と何故私がこの世界に来ることになったのかを説明してくれた。が、

「よくわからないです。」

 全然理解できなかった。魔法も来た理由も。

「今ので分からなかったトマ!?難しいトマね。トマトマ、最初から説明するトマ!」

「いや、最初っからはいいです。魔法は後でいいので、私がここに来ることになった理由をお願いします。タケノコとかそういうの。」

 魔法は諦めたっていうか聞かなかったことにした。だってよくあるファンタジーの魔法と全然違ったし。

「わかったトマ。もっと簡単に説明するトマ。トマト様がこの世界に伝説のトマト魔導師様として来た理由は『大タケノコ殿』を成敗して欲しいからトマ!」

「大タケノコ殿?」

「そうトマ!この世界の東を治めるノコ族の長『大タケノコ殿』トマ!奴は最近悪いことをいっぱいしているトマ!このままではトマノコパワーのバランスが乱れるからお仕置きして欲しいトマ!」

「はぁ、」

 なるほど東のタケノコが暴れていると。そんでもってトマノコパワーのバランスが乱れると。…そもそもトマノコパワーってなに。聞いたら長くなりそうな気がするから聞かないけど。

「ぜひとも伝説のトマト魔導師の力を発揮して欲しいトマ!」

 トマトマが目をキラキラとさせて言ってくる。まぁだけど。

「いやです。断ります。」

「なぜトマ!?世界の危機トマよ!!…ははん、分かったトマ。流石トマト様トマ!これトマね?」

「?」

 トマトマがツルの手で輪っかを作り、分かっているという顔で言ってくる。その顔は少しイラってくるわね。

「安心するトマ!無事に『大タケノコ殿』をこらしめたら、素晴らしい褒美を渡すトマ!」

 はぁ、その手はお金を意味していたのね。私が拒否する理由はそこではない。そもそもこの世界のお金をもらったところで元の世界では使えないし。

「私はバイトに行かなければいけないのです!もう大遅刻ですよ!」

 せっかくのバイトだったのに、変な世界に連れてこられ遅刻確定。店主さんは心配してくれているだろうなぁ。しかし、遅れた理由をなんて言おう。トマトに誘拐されましたとか言えるわけないし。

「それは大丈夫トマ!トマト様の世界とこの世界の時間の流れが違うトマ!こちらの1日があちらの1秒トマ!」

 なら安心だ。とはならない。

「そもそも私、冒険とかそんな危険なことしたくないです。」

「トマト魔法があるトマから平気トマよ!」

「魔法、使えないです。」

「使えるトマよ!?説明ちゃんと聞いていたトマ!?」

 あんたこそ私が全然分からないって言ったの聞いていた?

「トマト様は伝説のトマト魔導師様トマ!すんごく強いトマ!」

「はぁ、」

「もっと信じるトマ!そうだトマ!トマト様にあれを持ってくるトマ!」

 そうトマトマがそばで仕えているトマトに命令する。

 しばらくしてそのトマトが透明なプレートを持ってきて、私に手渡した。

「これは?」

「アーティファクトトマ!それがあれば自分の強さが分かるトマ!」

 プレートを見ると、文字が浮かび上がってきた。色々と書いてあるが、

「読めない。」

「トママ!読めないトマか!?」

 全くもって読めない。

「トマト様。貸してくだされトマ!」

 宰相のトマッピオンが声をかけてきたのでプレートを渡す。

「言語を切り変えて…できたトマ!」

「あっ読める。」

「トマッピオンよくやったトマ!」

「おほめ頂き光栄トマ。」

 再度渡されたプレートを見ると日本語になっていた。

 プレートには装備の名前やその効果などが書かれていた。防御力や攻撃力とかも書かれおり、その項目の下には数値が書かれていた。

「どうトマ?強いのが分かったトマか?」

 トマトマがドヤ顔で聞いてくる。ホント、イラってくるわね。

 確かに読めるようにはなったが、

「分かんない。」

「トママ!なんでトマ!書かれている数字をよく見るトマ!」

 だって、この数値が高いかどうかなんて初めて見た私にはわからないし。だけどそれを言ったら、長々と説明されそうだ。しょーがない。

「わーほんとだーわたしつよーい。」

 ザ・棒読み

「トマトマ!ようやくわかったトマね!伊達に伝説じゃないトマよ!」

 このトマト、ちょろいわね。

 しかし、改めてプレートを見ると名前の所が「トマト」になっていることに気が付いた。これもか!私は「赤茄子」なのに。

 そう思ったせいか、名前の所が赤く光り、名前が「トマト」から「赤茄子」に変わった。へぇ、結構融通が利くんだなぁと感心しているとあることに気が付いた。

「あれ?」

「どうしたトマ?」

 装備の名前も『伝説のトマト魔導師の○○』から『伝説の赤茄子魔導師の○○』に変わっていた。…もしかしてこのプレート『赤茄子』と書いて『トマト』と呼ばせようとしているんじゃないでしょうね。

「ねぇ、王様は日本語読める?」

「すまんトマ。私には読めないトマ~。」

 しょんぼりするトマトマ。

「私が読めますトマ!」

 トマッピオンが手を挙げた。

「じゃあ、これなんて書いてありますか読めますか?」

「トマトマ~。『でんせつのとまとまどうしのとんがりぼう』と書いておりますトマ!」

 やっぱり…。

「私の名前のところは?」

「『とまと』とかいておりますトマ。」

 予想が的中した。このプレート、「赤茄子」の読みを「トマト」に変えてしまったようだ。広義で言えば間違ってはないのだが、むかついたのでへし折っていいかなこれ。

「問題でもあったトマか?」

「…いえ別に。」

「?…そのプレートは貸しておくトマ!なにかと役に立つと思うトマ。冒険が無事に終わったら返して欲しいトマ。」

 別にいらないのだけど、そもそも冒険行かないし。

「あっ赤茄子(トマト)様。伝え忘れてたことがあったトマ!」

「!?」

 なんか今、赤茄子とかいてトマトと呼ばれた気がする。

「実は『伝説の赤茄子(トマト)魔導師の装備』はそれだけじゃないトマ。今、赤茄子(トマト)様が装備しているのはこの城の宝物庫に大事にしまっていたものトマ。不思議な力で召喚時に装備されたんだと思うトマ。その装備だけで十分強いトマが、他の『伝説の赤茄子(トマト)魔導師の装備』を見つければもっと強くなれると思うトマ!」

 まただ。なんだか赤茄子とかいてトマトと言われている気がする。もしかしてこのプレートのせい?



ト マ ト ク エ ス ト(^^^“)



「よし、扉の準備をしつつ、最後にあれを赤茄子(トマト)様に渡すトマ!」

「「「「「はっ!」」」」」

「こちらをどうぞお持ちください。」

 私がプレートとにらめっこしているうちに話が進み、トマッピオンに布袋を渡された。

「これは?」

「『大地の娘女神のトマト袋』トマ。その袋には無限大にトマトが入るトマ。」

「トマト以外は?」

「入りませんトマ。」

「…。」

 無限大に入るのは凄いがトマトだけって…。

「中には1000個ほどトマトをいれておりますトマ!袋に入れておけば腐らないので安心してくだされトマ!」

 いやいや、トマト1000個もいらない。

「よしトマ。扉の準備ができたトマ!トマッピオン袋は渡したトマ?」

「トマ!渡しましたトマ!」

「うむトマ。赤茄子様。こちらの扉はトマ族の領地とノコ族の領地の境界にある森に繋がっているトマ。」

 臣下トマト達が運んできた扉が開かれた。開いた扉の先には緑豊かな木々が見えた。

「では、伝説の赤茄子魔導師よ!扉をくぐり世界に平和をもたらしたまへトマ!」

「「「「「平和をもたらしたまへトマ!!!」」」」」

 王が言い、家臣が追従する。いや、ちょっとまて。

「私行くって言ってないけど!?」

「なんでトマ!?危険に関しては、プレートや袋もあるし大丈夫トマよ?」

「いやそこじゃないし!」

「報酬もあるトマ!」

「それも違う!」

 このトマト、全然わかってない。私は冒険よりも元の世界に帰ってバイトがしたいのだ!

「お願いトマ!言って欲しいトマ!」

「嫌です。」

「お願いトマ!」

「嫌!」

「お願いトマ!赤茄子様!魔導師様!」

「いや、いや、いや」

「一生のお願いトマ!」

「いや。」

「どうしてもトマか?」

「どうしても!」

「…わかったトマ。しょうがないトマ。」

 ようやくあきらめたか。

 そう思い気を抜いたのがいけなかった。


ダダダダダッ

「えいっトマ!」

だいんっ

「きゃあ!?」


 トマトマが急に私に走り出し、体当たりしてきたのだ。気を抜いていたため避けれず、直撃を食らった。

「いたっ。」

 私は吹き飛ばされ、扉の向こうに転げ行った。

「健闘を祈っているトマ!」

「頑張れ赤茄子様!」

「赤茄子様ならできます!」

 閉まりつつある扉の向こう側でトマト達が声援を私に贈る。

「あっちょっと!!!」

 体勢を整えたがもう遅かった。扉は完全に閉まり、光となって消えた。

「う、うそ~。」

 私はそう声を出すのがやっとだった。

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