VSタケノコ将軍ノコ!

「はぁ、元の世界に帰りたい。」

 私は今、大勢のタケノコ達に囲まれ、彼らの上司であるタケノコ将軍と1対1で武器を手に向かい合っていた。私は杖で向こうは槍。はっきり言って敵うわけがない。あっちはバリバリの武人に対してこちらは普通の大学生だ。一応私は「伝説の赤茄子魔導師」らしいのだが、魔法なんてまだ一度も使ったことがない。

「赤茄子魔導師!準備はいいノコ?」

 将軍が槍を構えて聞いてくる。

「頑張るノコ―!」「やっちまえノコ―!」「応援しているノコ!」

 将軍の問いに合わせて周りのタケノコ達が声援を飛ばす。

「タケノコ将軍なんかぶっ飛ばすノコ―!」「赤茄子魔導師様ファイトノコ―!」「赤茄子様頑張れー!」「ト・マ・ト、フ―――ノコ!」

 まぁ、応援されているのは私なのだが。

「ええいお前らうるさいノコ!!」

「「「「「「「「ブーーーーーーー!!」」」」」」」

 将軍は四面楚歌ね…。

 タケノコと将軍が言い争っているのを尻目にふと思ったのだけど、よくよく考えたらこれって私死んじゃうわよね。あの槍で突き刺されて終わりだわ…。どうにかして助かる方法を考えないと!

「ええええええい!今すぐ勝負を始めるノコ!」

 将軍がタケノコ達との言い争いに負け、遂にブチ切れる。

 やばいやばい。そ、そうだ降参しよう。流石に降参した相手を痛めつけることはしないはずだ。

「あ、あの私こうs…」

「行くノコ!」

「きゃあっ!?」

 私が降参と言おうとした瞬間に将軍が突撃してきた。なんとか回避したけど危なかった!

「コラーー!赤茄子魔導師様に何するノコ!」「急に始めるなんて卑怯ノコ!」

 タケノコ達も文句を叫ぶ。

「うるさいノコ!ワシがやるって言ったら始まるに決まっているノコ!」

 横暴だ…。タケノコ達もブーイングする!

「さぁ、どんどん行くノコ!」

「わっきゃっはっ」

 将軍の突きを間一髪で避け続ける私。まずいまずいまずい!

「赤茄子魔導師様!魔法を使うノコ!」「赤茄子魔法ノコ!」

 タケノコ達がそういうのだが、使い方はトマト達に聞いただけだし、そもそもそんな余裕などない!

「ふっふっは!」

「うわっとっはっ!」

 避けるだけで精一杯だ。

「はぁ、はぁ、避けるだけノコか?」

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 流石に疲れたのだろう。挑発しつつも動きを止め息を整える将軍。

 私も息を整える。高校まで運動部にいたのが幸いだった。文化部とかだったらここまで避けられなかったかも。

将軍は動きを止めているし、魔法を使うのなら今だろう。息を整えつつ魔法の使い方を思い出す。確かトマトを食べてトマパワーを貯めれば頭に使える魔法が思い浮かぶだっけ。

そんなんで本当に魔法が使えるの?と思いつつもやるしかないので、腰につけた旅立つ前に渡されていたトマト袋に手を突っ込む。

手に触れたトマトを掴み引っ張り出す。手の中には可愛らしいミニトマトがあった。それを口の中に放り込む。かみつぶすと口の中に甘酸っぱさが広がる。慌てていたためへたごと口に入れたため、硬いものが口内に残っているがなんとか飲み込む。

すると、体の中に今まで感じたことのないエネルギーが溜まるのを感じた。これがトマパワー?それと同時に頭の中に魔法の呪文が思い浮かぶ。

「『トマット』」

 思い浮かんだ呪文を唱える。

「わぁ。」

 目の前に赤い光が集まり、ミニトマトの形の赤い光の玉ができた。バチバチと音が鳴っている。見た目以上に危険そうだ。

「ノコ?赤茄子魔法ノコか!」

 将軍が赤い玉を見て身構える。

「綺麗ノコ~。」「初めてみたノコ!」「赤茄子魔法ノコ!!」

 タケノコ達も初めて見たらしくはしゃいでいる。

「っ!」

 私は光の玉にまっすぐ飛んで行けと念じる。それに応えて光の玉がまっすぐにタケノコ将軍へと飛んでいく。

「うおっノコ!」

 が、タケノコ将軍は避けてしまった。そこらへんは流石は武人だ。

 避けられた玉は勢いを落とし、地面にぶつかった。

ドカンッ!!

「うおっ!」「きゃあっ!」「ノコ――!?!?」「うわーーノコーー!」

 玉は見た目からは想像できない爆発をした。激しい音が響き渡り、皆が驚きの声を上げた。ぶつかった地面を見ると少し地面が剥げていただけであった。爆発がすごいだけで威力はあまりないのかもしれない。

「驚いたノコ。でも当たらなければ痛くもかゆくもないノコ!」

 驚きから回復した将軍がどや顔で言う。

 腹立つが、確かにそうだ。当たらなければ意味がない。もっとすごい魔法を!

 そう思い再び袋に手を突っ込みトマトを取り出す。

「これは…。」

 今度取り出したトマトは、大きさ的には普通だが、なんというか神聖さを感じる。張りがありツヤツヤで美味しそうだ。

「はむっ…!?!?!」

 お、美味しい!酸っぱさがほとんどなく、爽やかな甘みが口中に広がった。今まで食べたどのトマトより美味しい!思わず夢中でバクバクと食べてしまった。

 体の中に先ほどまでとは比べ物にならないくらいのエネルギーが溜まる。

「トマ…」

「また赤茄子魔法ノコね?また避けてやるノコ!」

 私は頭に浮かんだ呪文を紡ぎだす。先ほどと違って目の前に直径1メートルぐらいの赤い光で輝く魔法陣が浮かび上がる。魔法陣の中にはたくさんのトマトが描かれていた。それが時間と共に輝きを増す。

「な、なにかまずい気がするノコ。」「ここから離れるノコ!」

 私と将軍の延長線上にいたタケノコ達がその場から離れ始めた。

「ノコ!」

 将軍もまずいと感じ取ったのか、槍を構えてこちらに走り出す。どうやら発動前に攻撃しようと考えたのだろう。

 がしかし、こちらの方が早かった。魔法陣は激しい光で溢れ、音もバチバチとうるさくなる。発動の準備ができたようだ。

 私は杖を魔法陣に向けて呪文を唱える。

「トマ………………………………………………………トロンッ!」

 唱えた瞬間、魔法陣から赤い光の光線が解き放たれた。辺りは光線の眩い光に包まれ、将軍は先ほどの光の玉の数倍の速さで向かってくる光線に反応できずに飲み込まれた。

「ノコオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!」

 将軍の断末魔が響き渡る。

「眩しいノコ!」「ノコーーー!」「何にも見えないノコ!」

 タケノコ達もあまりの眩しさに悲鳴をあげる。

 光線は将軍を飲み込んだ後も直進をつづけ、森の木々をも飲み込んでいった。

ドゴンッ!!

 はるか遠くでにぶい爆発音がして、光が飛散する。

「んんっ」

 私は目をあけ様子を確認すると、光線の放たれた道筋は地面がえぐれ、木々は穴が空いていたり、倒れていたりしていた。

「あっ…。」

 そして、タケノコ将軍は跡形もなく消滅していた。

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