適材適所です

 現実世界で不遇を託っていた人が異世界転移して逆転する物語はよく見るのですが、この「使命により見守る事となりました。」の主人公・楠木亮に感じる事は、そういった軽薄さがありませんでした。まだ本気を出していないだけだったという風な軽薄な理由で活躍、一発逆転という展開ではないと思います。

 冒頭や作中に少し描写されている現実世界の仕事は、ブラックだったのだと思わされますが、それが耐え難い苦痛だったと描写されている訳ではない点に、私は惹かれました。

 苦痛でなかった理由は一人称で書かれている亮の人柄によるもので、彼が善き社会人であり、善き隣人であり、恐らくは善き父親になれる人格を備えていたからこそ、ブラックのはずの職場が、「限り無くブラックに近い」と感じさせるのだ、と。

 転移したい世界での活躍も、冒険者に必要なものは本来、腕力など二の次、三の次で、平和なインテジェンスを持っている事にこそある、と感じます。だからこそ人を引きつけるという、最も大切な力を持てるのだ、と。

 そう考えると、題名の「使命」という二文字、亮だからこそできる、亮でなければできない事なのだと思わされました。

 笑える、考えさせられる、人が中心にある冒険が描かれてた物語です。