愛の比喩としてのブラックホール。

 ブラックホールと老年の愛をむすびつけた秀作である。
 魁偉なる恒星が核融合反応を終焉し、のこりかすだけになると、物質が中心部に稠密してゆき、巨大なる重力源となる。この恒星の質量があまりにもおおきいと、最終的に、恒星の重力はシュヴァルツシルト解に逢着し、中心部に重力の特異点としてのシュヴァルツシルト半径が誕生する。これが、我々のよくイメージする、なんでものみこむ暗黒のブラックホールのすがたである。なるほど、本作を讀んでみて、個人的に、愛とはブラックホールのようなものだ、とおもった。最初は熾烈にもえており、やがて、永遠に相手をひきよせつづける特異点となるのだ。
 本作は、愚生の陳腐な比喩よりも深遠で、死者のたましいのゆきさきとして、ブラックホールを想定している。ペンローズの量子脳理論によれば、たましいにも質量があるので、さもありなん、たましいが重力の特異点にみちびかれるという発想もあながち荒唐無稽ではない。あるいは、物故した檀那そのものがブラックホールとなって、主人公がやってくるのをまちのぞんでいるのだろうか。
 著者の年齢がわからず、本当に御年輩のかたなのか、わかいかたが老人の文軆で本作を書いたのかは闡明されないが、ブラックホールと老年のおもいでと永遠の愛という巴型のイメージは新鮮で面白かった。
 まだ、一作しか発表されていないようですが、もっと、著者のひととなりを垣間見たいとおもわされました。