心を掘り出して

 かつて夏目漱石は『夢十夜』で運慶の仕事ぶりを『土の中から石を掘り出すようなものだ』と表現した。
 本作での主人公は、フクロウを通じてなにを掘り出したかったのだろう。かつての自分の想いなのか、次にくるかもしれない出会いか。はたまたけじめとしての過去か。同席する女性のさっぱりした様子や、一緒に飲んだ茶の湯気までもが精密に浮かんでくる。
 私の心の中にも、削りくずで床の埋まった工房が掘り出された。

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