カクカクしてるけど、シカジカできない…

 新進気鋭の冒険者が事故によって消息を絶ち、その冒険者を探すヒロインの前に現れたのは、変わり果てた主人公…と書けば、シリアスでダークな雰囲気になってしまいますが、本作に、そんな深刻な空気はなく、明るい陽の光がよく似合う物語です。

 スケルトンという設定が秀逸で、すでに声帯がないからしゃべれず、言葉によるコミュニケーションは不可能。

 肉体も存在しないが故に、走る事すらスムーズには行かず、文字を書こうとすれば古代文字に見られてしまい、筆談もままならない。

 そもそもモンスターとなった主人公は、その姿もそうだけれど、下級という事もあって、ゆっくりと話ができる雰囲気にもならない…と、改めて箇条書きにしていくと、他の意味で絶望的なってしまうのですが、それでも諦めない主人公の行動が、本当にバイタリティに溢れています。

 しかしどちらかといえば「足下注意」といった方が良い方向へ全力疾走するのだから、これは本人は悲劇と思っているかも知れないけれど、紛れもない喜劇という、定番の喜劇です。

 主人公が事故に遭った遺跡が主な舞台になりますが、RPGの遺跡をイメージしつつ読んでいたのに、私の頭の中で展開されたのは、草原のただ中にあり、崩れた天井から差す陽の光が温かく、苔むした石作りの涼しい空間でした。

 それでもストーリーの根底には、シリアスな謎や秘密がある事が示唆されており、単なるドタバタ劇とはいえない雰囲気があり、先の展開が気になります。

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