プロペラ戦闘機登場前夜
レシプロエンジン、そして飛行機の誕生
プロペラ戦闘機……今日、戦闘機といえばジェット戦闘機が主流ですか、ライト兄弟によるライトフライヤー1号の初飛行から二度の世界大戦、第一次大戦から第二次大戦集結の頃まで、プロペラをつけた戦闘機が活躍するわけです。
まず、覚えていただくことですが、飛行機の動力はエンジンです。
人類が最初に動力で飛んだ、あるいは飛ぼうとした形跡を調べると火薬を使ったロケット推進だったといわれています。神話まで含めると人力で羽ばたこうとした、というのもあります。安定して飛行機が飛ぶための動力は、エンジンの誕生を待たねばなりませんでした。
人類は、その大半を馬や牛などを労力や移動手段にしてきました。
あるいは、水車や風車によって脱穀の自動化を行っていたのです。
これが大きく変わるのが、世界史でも習う産業革命です。
ここで、蒸気機関を産業に利用することになったのです。
蒸気機関について軽く説明しましょう。
まずボイラーという缶の中で蒸気を発生させます。この蒸気は缶の中で膨らんで、その力を上下運動させるピストンや回転式の翼であるタービンをぐるぐる回します。
この回る動力や上下運動を、シリンダーやクランクなどを組み合わせ、いろんなことをさせることにしました
最初は、綿織物の自動化に使われました。
そのうち、これを移動手段に用いました。蒸気船や蒸気機関車です。石炭を燃やして蒸気を発生させ、車輪や外輪、スクリューを回させて進ませました。
このように、燃料を燃やして蒸気を発生させ、その力で回したり上下させたりするエンジンを、外燃機関といいます。後で内燃機関という言葉が出てきますので、その前提としての言葉だと思ってください。
で、タービンを回すのをタービンエンジン、ピストンを上下運動させてそれで軸をぐるぐる回すのをピストンエンジン、あるいはレシプロエンジンといいます。
前にも説明しましたので、大丈夫ですね。
ほとんどの自動車とプロペラ戦闘機は、このレシプロエンジンで動きます。
このレシプロエンジンも、ピストンの配置の形状によって直列エンジン、星型エンジンなどに分けられ、さらにエンジンを冷やす方法が空気の空冷、冷却液などの液体で冷やす液冷に分かれます。水で冷やす方法のものは水冷と呼んだりもします。
初期の飛行機は、星型ロータリーエンジンです。
ここでいうロータリーエンジンは、自動車のロータリーエンジンとはちょっと違いますので、レシプロエンジンの一種です。
さて、産業革命から時代が進むと、燃料は石炭から重油、さらには重油が精製されてガソリンができ、燃焼の効率も進歩しました。
それまで燃料で熱を発生させ、水を蒸気に変換して運動させる外燃機関で動力を得ていたわけですが、見てわかるとおりに動力を発生させるための行程が多く、設備も大きくなるわけです。石炭と水積むだけで重たいし、かさ張ります。
船や列車の動力にはいいのですが、小型化するのには不向きでした。
特に飛行機とか、小型のエンジンでないと重くて飛べなかったのです。
そこでガソリンをピストンの中で燃やして爆発させる方法が考え出されました。
燃料をピストンの中で爆発させ、そのピストンがシャコシャコ動いて軸を回す、これは自動車のエンジンもプロペラ機のエンジンも仕組みは代わりません。
エンジンという機関の中で燃やすので、これを内燃機関といいます。
レシプロ方式の内燃機関エンジンは、コンパクトで出力も出るので、個人用の自動車やオートバイ、そしてプロペラを回して飛ぶにはもってこいでした。
一応、電気や蒸気を動力として飛ぼうとした者たちもいましたが、結局は計画で終わっています。
空を飛べるということは、軍事的にも有利です。
一八九〇年のフランスとプロイセンが戦争した普仏戦争から、気球が偵察で活躍し、さらもっと自由に空を往来できる飛行船の軍事利用が考えられていました。
そうなると飛行に注目が集まるのは、当然と言えます。
とは言っても、飛行機の活躍で期待されたのは戦闘能力ではなく偵察でした。
空から地上を見れば、敵軍の位置や配置、やってくる方向も丸見えです。
敵軍の位置がわかるということは、見えない場所から大砲を撃ち込めば、こちらが被害を受ける前に当たるわけです。
当時の戦争での花形は砲兵、つまり大砲です。大砲の命中率を上げるために、着弾観測というものが重視されました。撃った弾がどこに落ちるかを観測し、徐々に修正を加えて正確にしていくわけです。これを空から行えば見通しはいいし、命中精度も向上すると考えたわけです。
戦闘を伴わない偵察というのは、地味に見えますが実際には重要な任務です。
ともかく、戦場での飛行機の活躍は、こうした偵察を期待されたのです。
戦闘機の誕生は、もうちょっと先です。
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