航空母艦の研究と開発
えー、便乗企画として始めました『かんプロ』ですが、やはり便乗だけあってこまめな更新はいろいろ厳しいものがありました。
お待たせしまったようです。
さて、第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期では、未曾有の総力戦となった戦いでは、人命や資材というもの大量に失いましたが、その一方で戦いの教訓というものも得られました。
この戦いの教訓というのを戦訓と言います。
まず、空の戦訓としてプロペラ戦闘機はとても役に立つ、便利で強い。ないと一方的に爆撃で殴られるということがわかりました。
陸の戦訓としては、歩兵がこもった塹壕は正面突破できないし、防御が有利なので膠着するということです。これまでの野戦から塹壕戦へと変わります。歩兵のお仕事は、塹壕掘りが八割になったと言います。
この膠着した戦いの中で、狙撃手が活躍するようになりました。特にガリポリの戦いは第二次大戦のスターリングラードと並ぶ狙撃手の天国とか言われたりもします。
海の戦訓もあります。イギリス艦隊とドイツ艦隊が制海権を懸けてユトランド沖で激突するユトランド沖海戦が起こりました。戦力が大きかったイギリス艦隊はドイツ軍以上に損害を出し、ドイツ軍は大きな損害を与えても制海権は確保できませんでしたが、どっちも勝利を主張しました。
このちょっと前、イギリスがドレッドノート級というこれまでの戦艦を一気に旧世代に追いやってから、艦のあり方が模索されました。
簡単に言うと、戦艦というものは大きな大砲と厚い装甲を持っている船ですが、こうすると当然足が遅くなるわけです。
鈍重な重騎士を身軽な剣士が翻弄するという戦い方もあるように、装甲を薄くして足の早い巡洋戦艦というものも建造されました。特に、ドレッドノート級を推進したイギリス海軍の功労者であるフィッシャー大将が巡洋戦艦の拡充を推進しました。ドレッドノート級は攻撃力もさることながら当時は速力も出る高速戦艦と認識されていたのです。
しかし、実際にユトランド沖で戦ってみたところ巡洋戦艦は装甲が不足しており、多くの損害を出したわけです。
イギリス海軍は、速度は装甲のように船を砲撃から守るものだということで、巡洋戦艦が多く参戦していました。
で、やってみたところ、防御重視のドイツ艦が、これまで考えられていた射程の向こうから砲弾を撃ってきたわけです。
第一次世界大戦では、砲の射程も威力も発展しました。
遠いところから砲撃するにはどうするかというと、報を発射する際に大きな角度をつけて山なりに撃ち出されます。
これまで、戦艦の砲は水平方向に撃たれていたんですが、このユトランド沖海戦では砲弾が上からも振ってくるようになりました。
そのため、装甲が薄い巡洋戦艦が速力を活かして避けまくって勝つというのは、机上の空論であったことが実際にやってみてわかったわけです。
強力な砲をたくさん備え、装甲も分厚く速力もある、こういう戦艦が理想なのだとわかったのですが、そんなスーパーロボットみたいな兵器は現実には作れません。
それに戦争が一対一やポケモンバトルのように進行するのであればマジンガーZが一機あれば戦えますが、一機しかないと投入のタイミングがとても難しくなります。実際、マジンガーZがジェットスクランダーが登場する前は、機械獣が出現すると走って移動しなきゃならなかったし、空から攻められて苦戦しました。
わざわざ移動のためにジェットスクランダーを開発するくらいなら、マジンガーZほど強くなくてもいいので、それなりに戦える兵器を安く作って配置したほうが国を守るという目的は果たせわけです。
戦艦は、強いけど使い勝手が悪い兵器なのではないか? という認識もこの頃に出始めてきます。
さて、第一次世界大戦は海の上でも水上機というプロペラ戦闘機の活躍があったのはこれまで説明してきたと思います。
プロペラ戦闘機の戦いは、スピードは強い武器になりますが、シュナイダーカップのようにスピードだけ出せればいいというものでもありません。
そうなると、フロートが邪魔になるわけです。
海の上で水上機を運用するために、水上機母艦も登場したわけですが、クレーンで水上機を海面に降ろしてから発進させ、帰還の際に着水した機体をクレーンでまた回収というのは、戦争の中では時間がかかりすぎてしまいます。
そんなとこ狙われたら、敵のいい的です。
なので、滑走台を設置して直接空に向かって発信できるようにしました。当時は、こういう水上機を積んで発進させる軍艦を「航空母艦」と言ったのです。
では、その「空母」がどのように発展していったのかを見ていきましょう。
一九一〇年一〇月、アメリカがチェスター級軽巡洋艦バーミンガムに飛行甲板を設置、そこからユージン・バートン・イーリーがカーチスモデルDを飛ばし、世界初の艦船からの発艦に成功します。続いて二ヶ月後の一九一一年一月、イーリーは同艦から発艦したカーチスモデルDは、装甲巡洋艦ペンシルバニアの後部に設置された木製の飛行甲板への着艦に成功します。
ペンシルバニアは全長四〇メートル、幅一〇メートルの飛行甲板が特設されており、着艦は張り巡らせたワイヤーにフックを引っ掛ける方法が取られました。
現在も、艦上戦闘機はアレイスティングワイヤーを引っ掛けて着艦します。
イーリーはアクロバット飛行士で、この離着艦の実験には賞金がかかっていたと言われます。そんな彼の着艦はまさに神業と言ってよく、安全なものとはいえません。
実際、イーリーはこの年の着艦実験で帰らぬ人となってしまいます。
一九一二年、フランスが機雷敷設艦のラ・フードルを改修し、世界初の「空母」の運用を行います。ただし、ここでいう空母は当時の言葉ですので、現代では世界初の水上機母艦になります。
この艦は、元々は魚雷で攻撃する水雷艇という小さな船を載せるための船でした。水雷艇というのは魚雷だけ積んで敵の軍艦を攻撃する小型艇なのですが、小さいので外洋を航行することができません。そこで、大きな船に積んで必要となったら海に降ろして使うという運用をします。ところが、戦争が進むにつれて魚雷も大きくなり、水雷艇もそれに伴って大きくなり、ラ・フードルに積めなくなってしまいます。
そこで今度は機雷を敷設するための艦に仕様が変更されました。水上機を搭載して任務を行なう、片手間ではない運用を目的としています。
魚雷艇を出ししれするクレーンがついていますから、滑走台から発射した水上機をこれで引っ張り上げて収 納することができたので、都合がよかったのです。
実戦で多少運用したに留まったわけですが、それでも航空母艦の第一歩が踏み出されたわけです。
イギリスも、貨物船として発注した貨物船を水上機母艦に改装し、アークロイヤルとして就役させます。
できあがった艦を改修したわけはなく、途中で仕様変更して完成した艦なので、イギリス初の航空母艦ということもできます。
この間は、五機の水上機と二機の航空機を運ぶことができました。艦上から水上機を発艦させることはできませんでしたが、航空機は発艦できました。ただし、着艦はできず最寄りの地上の基地に着陸します。
日本も、水上機母艦の運用を開始しています。列強の中でも後発であった日本は、プロペラ戦闘機にも高い注目を持っていたのです。
というか、先も説明したように戦艦は超兵器化して建造するコストがかかるので大量に量産できず、イギリスやフランスなどの戦艦建造競争に、どうも追いつけなさそうという事情もありました。
第一次世界大戦で、水上機母艦若宮丸を投入し、青島攻略戦で爆撃を行いました。
この若宮丸ですが、元々はレシントンという運送船で、日露戦争中に戦時規制品を積んでウラジオストクに向かっていたものを鹵獲したものです。
しばらく日本郵政に貸し出されていたんですが、水上機の運用のために軍籍を与えられ、実戦に参加しました。
水上機なら着水して回収できますが、プロペラ戦闘機は艦上から発艦できたとしても、まだ着艦できないわけです。
これもまた使い勝手が悪く、なんとか着艦を成功させて回収できると運用の幅が広がります。陸に帰らないといけないので、沿岸から離れることができないというのは、大きな制限となります。
そこで、プロペラ戦闘機を離着艦可能な甲板を備えた艦船を用意する必要がありました。
第一次世界大戦中、イギリス海軍は、ハッシュ・ハッシュ・クルーザーという秘密兵器を用意していました。さっき登場したフィッシャー大将が独断専横で開発を進めていたとかいう噂もあります。
「ハッシュ・ハッシュ」とは「しーっ!」という秘密にしてねというジェスチャーのあれです。艦名をフューリアスといいます。
戦艦大和の砲と同規模の四五.7ンチ砲を単装で二基装備し、薄い装甲で軽快に巡航して威力のある大砲を叩き込むという大型巡洋艦です。しかし、ユトランド沖海戦の戦訓から、そういう装甲が紙みたいな巨砲艦は役に立たなくなるわけです。
ただ、大型巡洋艦なので飛行甲板を備えるにはちょうどよかったので、前部の砲塔を外して改装しました。
その結果、四五.七センチ砲と飛行甲板を備えた艦船となり、このフューリアスこそが、水上機母艦を除いた世界初の空母となります。
ただ、建造の過程からいろいろゴタゴタがあるのはもちろんのこと、もともと砲撃を行なう艦船だったので環境と煙突が船の真ん中にあります。
発艦はいいとして、操縦士たちはど真ん中に塔がある飛行甲板に向かって着艦を試みなければなりませんでした。
案の定、使い物にならず発艦専門となりました。
これを踏まえて、イギリスはイタリアに発注していた客船を改装、アーガスとして竣工します。
これはもう、飛行甲板の上には障害物がない空母です。前から後ろまで飛行甲板が通っているので全通甲板と言います。
甲板の上には艦橋も煙突もありません。前後に機体運搬用のエレベーターも備え、収容機数も二〇機と中々でです。
艦橋は、飛行甲板前部の下に吊り下げるような形で設置されています。また、煙突と無くす方法として、艦に巡らせた煙路を吐き出すという焼き鳥屋さんや焼肉屋さんみたいな方法で艦後方から排煙するという方法を取りました。これだと熱せられた煙が艦内を駆け巡るわけで、とても蒸し暑く、居住性は最悪だったようです。
着艦のためのワイヤーは縦索式と言って、甲板に平行に張ったワイヤーに、飛行機の車輪に設置した櫛状のフックでこすり、摩擦で止まろうというものでした。
素直に横に張って引っ掛ければいいだろうと思うのですが、イギリス海軍はどうも横張りのワイヤーで止めることに懐疑的だったようです。しかし、縦索式は効果が弱いうえに横滑りの事故が多く、使用中止が命じられるほどでした。
この辺、作りかけの船を後から空母に改装したから発生した問題も多かったわけで、最初から空母として設計すれば開発は成功するのではないか? そんなわけで、イギリスは最初から飛行甲板を持つことを前提に設計された空母ハーミーズの建造がを開始します。
いわば、生まれも育ちも空母な世界初の生粋の空母が誕生が待たれたわけです。
しかし、世界初の座は日本海軍の鳳翔が手にします。
着工はハーミーズのほうが早かったのですが、第一次世界大戦が終わると勝ったイギリスも復興が大変なこととそんなに無理して空母を造る理由もなくなったので、二年後に着工した鳳翔に抜かれてしまうわけです。
この頃、日英同盟によって日本はイギリスの空母開発の様子を知っていました。列強の後発であった日本は、追いつけ追い越せということで新兵器となる空母に目をつけていたのです。
このように、第一次大戦末期から戦間期にかけて空母の研究と建造が行われます。
一方で、運用が難しいと兵器となったとしても、やはり海戦の主役は依然として強力な砲を搭載して分厚い装甲を持った超兵器である戦艦でした。
そして、相手が戦艦建造するなら、負けるものかとさらに強い戦艦を作ろうとするわけです。
軍拡競争の始まりです。アメリカのダニエルズ・プラン、日本の八八艦隊計画などの戦艦建造計画が知られています。
しかし、建造計画をいざ始めてると超兵器である戦艦の建造費は国家予算をどんどん逼迫するようになり、お互いここらで一休みしないかと、一九二二年にワシントン海軍軍縮会議が開かれました。
戦艦の総トン数と新造艦に制限を設けたのです。F1でもマシンの開発費がかかりすぎたり、一強のチームにたのチームが勝てなくなりそうだと、レギュレーションが制定されるのとよく似ています。新造の戦艦は三万五〇〇〇トンまで、主砲は十六インチまでとか、そういう規定がありました。これ以上の戦艦は作っているならキャンセルして廃棄する取り決めです。
新興の列強であった日本は、対米七割を主張したり戦艦陸奥は完成だから新造艦じゃないとか、イケイケな交渉して有利に進めつつも、それはそれで軍事費が圧迫していったのではないかという評価もあります。
ともかく、加熱する建艦競争に落ち着きが出てきたので、軍縮条約の間をネーバルホリデー(海軍休日)などと言います。
さて、この軍縮条約は戦艦と巡洋艦がおもな制限の対象だったのですが、当時まだ誕生したばかりだった空母については補助戦力と考えられていました。
空母の規模は二万七〇〇〇トンとされ、主砲は八インチ以下(約二〇センチ)、ただし二隻だけ三万三〇〇〇トンを越えてもよいという割当になりました。
空母に砲の規定があるというのは今から見ると変に見えますが、当時は空母も砲撃の機会があるものと思われていたし、例えば「四〇センチ砲を積んでいるけどこれは戦艦じゃなくて空母だから」とかいう逃げ道を塞ぐためです。
ともかく、この条約によって条約に適合した形の条約型巡洋艦、八八艦隊計画で巡洋戦艦であった赤城や加賀を完成前に空母に改装するなどの影響がありました。
そして、空母に搭載するプロペラ戦闘機をいかに運用していくのかという課題が浮かび上がります。
今回は、あまりプロペラ戦闘機の話はなかったわけですが、空母もまたプロペラ戦闘機を語っていくうえで欠かせない存在ですので解説いたしました。
かんたんプロペラ戦闘機の歴史 超入門 解田明 @tokemin
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