プロペラ戦闘機の進化
科学の進歩は日進月歩であり、総力戦となった二〇世紀の戦争では、科学力かなりモノを言います。
戦争は科学を発展させるとはよくいいますが、第一次世界大戦でも、さまざまな新兵器、新発明、新戦術が生まれました。
軽機関銃、塹壕、鉄条網、戦車、戦車、毒ガス、ガスマスク、そして飛行機もです。実はティッシュペーパーも脱脂綿の代用品として使われ、ガスマスクの防毒用に使われました。これが戦争後に大量に余ったので民間で売られて普及したのです。
さて、戦争はプロペラ戦闘機も発展させました。
同調装置を発明すれば、機体の性能がそれなりでも敵に恐怖を与えられるように、さまざな工夫、改良、試行錯誤が実戦の中で繰り返され、発展していきます。
航空機のエンジンも、初飛行時は一二馬力だったものが一〇〇馬力を超えるようになりました。
ただ、エンジンというものは馬力が出ればいいというものでもありません。馬力の出るエンジンはでかいし、今度はトルクと言ってねじる力の強さや、回転数などもあります。そして振動が大きいと、機体の制御にも影響します。逆に、機体が丈夫ならエンジンの振動が気にならない、あるいは素材の相性、翼の位置などで相殺されるということもあります。
こういうエンジンと機体の相性をマッチングなどと呼び、プロペラ戦闘機の開発に大きく関わってきます。
エンジンをどこに配置するのか、あるいはエンジンで押すのか牽くのか? 推進式(プッシャー式)と牽引式(トラクター式)とあります。こういうことを、戦争をしながら試行錯誤していきました。
大抵において、素晴らしい思いつきというのは想像もしなかった欠点が同時に見つかることが多いのですが、戦争中なので欠点をみんな潰せる余裕もなく、投入しているうちになんとかなったり、使い方を変えると欠点がカバーできたりしました。
さて、連合国側はフォッカーの懲罰を終わらせ、さらに新しい戦闘機を投入していきます。新兵器はどんどん実戦に送られます。
フランス軍は、ニューポール17を投入します。
ニューポール11の発展型で、当初は同じように上翼にルイス機銃を装備していましたが、アルカン型エンジン同調装置を開発して機体前面に配置、プロペラ回転圏内から射撃できるようになりました。機銃もイギリス航空隊が使っていたヴィッカーズ機銃になります。
エンジン出力は、一三〇馬力まで出るようになります。
この機体は、第一次大戦の連合国軍側戦闘機の中でも、高い戦果と複葉機として洗練されたデザインから、人気が高いようです。
そしてレシプロ水冷エンジンを搭載したスパッド.VII。
エンジン出力は一八〇馬力、最高時速二〇〇キロを超える高速戦闘機です。
ちなみに、フランスの外人部隊に入隊した日本人エース
イギリスも新鋭機を投入します。
まずはソッピース11/2ストラッター。この機体は単座型と複座型があり、どちらもプロペラ同調装置を備えた機銃をプロペラ前面に装備していますが、複座型は後座に回転式の機銃を装備します。イギリス軍初の同調装置付き戦闘機です。
爆撃機として設計されたので、くるくる動く運動性には物足りなさがありましたが、安定した飛行性能がありました。
油断して後ろに回った近づいたドイツ軍機は後方の機銃を食らうことになります。
そしてソッピースパップ。前述のストラッターより一回り小さいので「子犬」という意味の愛称です。
運動性と速度に優れ、パイロットからも評価の高いプロペラ戦闘機です。当時の戦闘機としては高高度の四五〇〇メートル上空でもスピードを失わず旋回できました。
ドイツ軍も負けじと新鋭機のハーベルシュタットD2などを投入しますが、連合軍の新鋭機に押されがちでした。しかし、これを食い止める名機が登場します。
それがアルバトロスD.Ⅲです。
メルセデス製レシプロ水冷エンジンを搭載したパワフルな機体ですが、最大の特徴はその武装です。機体前面に7.9mm機銃を二丁搭載し、この火力によって連合国の優位を一気に押し返しました。
第一次世界大戦の撃墜王で知られるマンフレート・フォン・リヒトホーフェンは、この機体に搭乗し、途中から赤のパーソナルカラーで塗装するようになりました。
第一次世界大戦は、ヴェルダンの戦いの死傷者数を上回る両軍合わせて一〇〇万人以上の死傷者を出したソンムの戦いに差し掛かります。まだまだ犠牲者が足りないのか、戦争は終わる気配を見せません。連合軍は、多大な犠牲を出し、一一キロ前進させました。一キロあたりに何人死んだか考えると、命ってなんだろうと思えます。
そして、ドイツ軍のヒンデンブルク線という強固な防衛ラインに食い止められ、戦線は膠着しました。
こんな状態で一九一七年にフランス軍の最高司令官がロベール・ニヴェル将軍に交代すると、四八時間以内に勝利をもたらすと豪語し、ニヴェル攻勢という猛撃が行われます。これは大損害を出して失敗するのですが、空の戦いでもイギリス航空隊がアルバトロスD.Ⅲによって大損害を出してしまいました。
四月中に航空機三六五機を投入しましたが、うち二四五機を喪失し、搭乗員の死者行方不明は二一一名。この四月のことを、“血の四月”といいます。
とまあ、戦史とプロペラ戦闘機の歴史について書きましたが、ここではプロペラ戦闘機の発達とちょっとした解説を入れつつ、まとめようと思います。
この当時の機体は、胴体と骨組みは木製で、翼は布張りでした。
この翼の枚数によって、一枚が単葉機、二枚が複葉機、三枚が三様機、それ以上が多葉機と呼びます。
翼の枚数が多いと空気の抵抗によって、安定性が増します。しかし、空気の抵抗があるということは速度を出す時に邪魔になるということでもあります。
それと、まだ木と布だったので、翼の強度に不安があるということにもないます。一枚より二枚のほうが支える重さが分散するということでもあります。
単葉機はフォッカーアインデッカーがその名のとおりです。
第一次大戦の飛行機といったら多くの人が複葉機を思い浮かべるのではないでしょうか? 実際、紹介した戦闘機も複葉機が多いです。
また、三葉機は大戦後半にかけて登場するようになります。ソッピーストライプレーン、フォッカーDr.Ⅰなど、後半で解説する予定です。
翼四枚の四葉機のプロペラ戦闘機も数機種かありますが、試作機や実験的なものにとどまり、あまり活躍はしていません。
さらに、単葉機のうち、翼を付ける位置についてもいろいろあります。
胴体の半ばの高さににつけるのを中翼機、高い位置につけるのを高翼機、低い位置につけるのを低翼機といいます。この時代にはあまり関係はありませんが、第一次世界大戦時には、パラソル翼機という機体の上に支柱を付けて翼を配置する場合もありました。
また、初期の飛行機は木と布でできた主翼を、ワイヤーなどで引っ張ってねじり、翼の形を変形させて横回転の操作(ロールと言います)をしていました。これを、ひねり翼、ねじり翼、たわみ翼などといいます。
ライト兄弟の実用機がこれでした。で、飛行機開発で有名なグレン・カーチスとこの特許を巡って争います。
想像するとわかるかと思いますが、翼の形を引っ張って変えるひねり翼とか、結構乱暴ですし、強度のある翼にできません。
フォッカーアインデッカーがこのひねり翼だったわけですが、ニューポール11が飛ぶ頃になると時代遅れのものになっていきます。
ニューポール11は、一葉半という下翼が小さい補助翼となっており、この翼を動かしてロールします。
プロペラの配置位置にも、前に置いて機体を引っ張る牽引式と後ろに置いて押し出す推進式があります。これの配置でも、性能が変わってきます。この時代だと、一長一短がありますが、プロペラ戦闘機は牽引式が多くなっていきます。
牽引式は、プロペラが発生させる気流が翼に当たるので滑走距離が短くなる、またエンジンを冷やすための風を送れる、などの利点がありますが、同調装置の発明までは機銃が置けないというデメリットがありました。回転するプロペラ自体が大きな空気抵抗となるという欠点もあります。
推進式はそのデメリットを解消し、前面に機銃を集中できる、プロペラの空気抵抗がないとなりますが、逆に牽引式で得られるメリットが受けられないということでもあります。何を目的とし、利点にするかで配置が変わってきます。
また、機体の構造も骨組みを通すものからモノコック構造、セミモノコック構造という丈夫さと軽さを両立しようという設計が生まれます。これは、簡単に言うと骨組みだけじゃなく、カブトムシなどの甲虫みたいに外骨格で支えるような構造です。自動車や列車などでも採用されています。
アルバトロスD.Ⅲがセミモノコック構造です。
そして機体の素材ですが、木と布から金属も使われるようになります。
戦闘機ではないですが、全金属製のユンカースJ.Ⅰなども後半には登場します。装甲偵察機というカテゴリーにされていました。
海や湖でも、水上機が投入されます。水上機というのはフロートという浮きを足につけ、水面から飛び立つ飛行機です。
戦艦が砲撃する際の着弾観測、偵察、爆撃や雷撃も行うようになります。これを撃墜するために、水上戦闘機というカテゴリーも生まれ、プロペラ戦闘機は活躍の場を広げていくようになります。
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